燃料サイクル・プロセスとTRU基礎化学

日本原子力研究所物質科学研究部
小川 徹

近年、核燃料リサイクルの社会的意義付けが変化してきている。従来からの資源論的な視点に加えて、経済活動に伴う廃棄物全般の長期管理や、核物質に関わる長期安全保障の側面が大きく取り上げられるようになってきた。後二者の視点が比重を増してきた結果として、Puに加えて、使用済み燃料中のPu以外の超ウラン元素(Np, Am, Cm)の燃料サイクル内での取り扱いが新たな技術課題として意識されるようになった。また、一方で、燃料サイクルの経済性向上という、より差し迫った課題との整合性をとることも重要である。

しかし、U, Puに比べて、これらいわゆるマイナー・アクチノイドの取り扱い経験は著しく乏しい。基礎実験、解析評価、工学的試験といった各層における取り組みの強化とならんで、これら各層の間を媒介するものとして、データベースの充実が求められる。次世代の燃料サイクル・プロセス開発においては、燃料の炉内性能保証、再処理、再加工までを一貫して設計するアプローチが必要となると考えられる。ここでは、超ウラン元素を含む燃料サイクル・プロセスにおける基礎データの使い方の例として、原研で進めている窒化物燃料サイクルの研究と、溶融塩を用いた乾式再処理プロセス研究を取り上げて解説する。

窒化物燃料では、既存の再処理・群分離プロセスから供給される酸化物を高純度の窒化物に転換するプロセスが必要である。このためには炭素熱還元法を用いるが、得られる窒化物中の酸素、炭素不純物量を最小にする条件を把握することが要件となる。アクチノイド系列における酸化物、炭化物、窒化物の熱力学的性質の傾向の把握から、プロセス開発の指針を得ることができる。

溶融塩電解を中心に置いた乾式再処理システムは、酸化物、窒化物、合金といった各種の燃料を基本的に共通な技術のうえで取り扱える可能性を有している。各種の溶融塩電解プロセスの技術課題を共通の基盤のうえで取り扱うためのデータベースとシミュレーション技術の利用について議論する。

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