開会挨拶
天野 治(東京電力、部会幹事)





((開会の挨拶))
本日は第二回セミナーにご出席いただきましてありがとうございます。開会の挨拶といたしまして、セミナーの意義、目的、構成について説明させていただくとともに、最近感じていることについても、若干触れさせて頂きます。これらは原子力学会、秋の大会での議論や「再処理・リサイクル部会」の皆様お飛び運営委員の方々などとの議論・意見交換の一部に基づきつつ、私的な考えをまとめたものであります。


(セミナーの意義)
原子力学会として「学会」を変えようという動きもありますが、まず「部会」から変わっていこうという事で「部会の皆様」も自分で積極的に考え、発言、行動する権利とその責任を持つ。このセミナーはそのような皆様の活動理念なり具体的アクションのベクトル合わせの一つの場であります。学会あるいは部会は、自分の組織を代表するというのではなく、日本のため、大多数のため、あるいは世界の共存という視点から、議論を深めるべきと思います。
講演およびポスターも体系的に示せるようにプログラムを組んでおります。セミナーは今回で2回目ですが、3回目以降も更にそれに近づけるように努力したいと思います。是非、その為にはセミナー参加人数というのも一つの力ですから、今後も皆様の参加を得て、本音で議論して正しい認識、見識を深めて「再処理・リサイクル」を長期的視点から有るべき方向に導こうとしようではありませんか。

(歴史に学ぶ)
9月15日に当部会とYGNと「エネルギー問題に発言する会」と合同で「シニアと若手が世代を超えて率直に議論、将来のエネルギーへのパーセプション21」を企画実施しました。その中で、池亀顧問と澤井顧問が太平洋戦争の悲惨な体験に言及されました。

太平洋戦争で日本は何故負ける戦をしたのか。「朝までテレビ」の中で感銘に残ったのが以下の内容です。
例えば満州国を作った。これが仮に日本の大きな国益だったとしましょう。日本の国益なら政治家と軍人と官僚がそれぞれのアイデアをよく出し合い、当時の情勢を分析して最前の結論を出すべきですね。そして国家の行動として満州国を建国する。それなら当然、欧米や関係国に根回しをしなければなりません。そうしていれば戦争の途中で仲介、和解工作などが入り、戦争の長期化などの問題がなかったかも知れない、良いか悪いかは別として。しかし実際に起こったことは、その議論が一切なかった。そこで焦って軍人が非合法な行動を起こした。これが前例となって日中戦争になる。太平洋戦争は非合法な行動ではないですけれども、しかしその時にはもうどうしようもなかったというのが、実状だったと思います。
という事はやはり戦略を練るシステムがないんですか。システムがないという言い方もできるかもしれませんが。
いいや、システムがなくても当事者はプロなんだから国民の利益を考えて外交官は全力を尽くして外交政策についての情報入手・分析をする。政治家は全力を尽くして国際関係について送り返す。軍人は全力を尽くして、この戦争に勝算があるのか、ないのかについてきちんとブリーフィングをする。自分の立場にこだわらずに国家としての行動を決定する。そういう議論ができるという事が戦前であれ戦後であれ基本ですよね。所が戦前にはなかった。

以上のように、学会も同じだと思います。学会も組織を越えて、それぞれが日本あるいは世界という事を考えて議論し、分析し、評価する。この元気が無い日本の新たな活力のために、活動を開始する必要があると思います。

(国際的視点から)
エネルギー問題はそもそも国際的にかつロングタームで考える必要がある。この観点から、丁度良い企画「エネルギー安全保障と環境保全:原子力の役割」が財団法人日本国際フォーラム主催、読売新聞社後援で2002年7月8日(月)東京・経団連会館で開催された。村田 良平(元中米大使)から「人類にとって原子力問題、あるいは環境問題は余りにも重要な問題であって、少数の専門家だけに任せてはおけない問題である。」と挨拶されました。

われわれも、専門家としてこのような認識に立って、身内の議論にとどまらず、広く発信すること、および海外の根底にある動向を常に意識する必要があります。その企画の概要を上記国際フォーラムにお断りして、要点を抜粋させていただきました。

(米国の情勢)
  ハワード・ベーカー(駐日米国大使)の基調講演からの抜粋
米国における発電は向こう20年間で、45%の電力需要増が見こまれており、すなわち1300から1900の新規発電所を建設することを意味する。毎週一つの発電所と送電網につながる送電線の建設が必要。同じような課題は、世界の工業国、および途上国の多くについても当てはまるのではないかと思います。原子力は比較的クリーンで、かつ実証されたエネルギー源でもあるということで潜在的に大きな役割を果たし得ると考えております。

米国最後の新規原子力発電所の発注は1973年、その後1979年のスリーマイル島の原発事故と14年と長期の新規発電所平均ライセンス期間が災いした。最近の規制緩和による稼動率90%(従前は70%)と、これまでの安全運転実績を残すことが出来た。

4つの課題
 1. テロ問題
 2. パブリックアクセプタンス(PA)問題
 3. 経済の採算性の問題
 4. 廃棄物の安全で効果的な処理の問題

1. については、安全当局、電力会社、軍や法の執行機関と連携し、テロリストに直接対応して、彼らが行動をとれないようにする。攻撃の手段を与えないようにする。
2. もっとも重要な問題で、リスクと便益を受け入れる予測困難で外的な出来事に大きく影響を受ける。安全性ともたらす利益について一般市民を教育啓蒙する事が重要。
3. 新規建設の資本コストが米国の企業として受け入れられるほど低いか。
4. ユッカマウンテンが動き出した。

(欧州の情勢)
  テレンス・ウイン(欧州議会予算委員会委員長)2002年7月8日 Tokyo International Forum on " Energy Security and Environment:The Role of Nuclear Power"の基調講演からの抜粋
予算委員会は15カ国のEU加盟国と欧州委員会と交渉し、EUの1000億ユーロ(約10兆円)の予算を決定する組織。
電力需要は世界中で上昇し、今後も上昇する。このような時代にこそ、現実を直視し、「万事OK、大丈夫」というデズニーランドの世界に住んでいるのではないことを人々に気付かせる強力かつ正直な政治家が必要である。政治家は将来のエネルギーニーズに対し、時代を先導し、世論に影響を行使し、声高にメッセージを伝えるべきである。
原子力発電所の閉鎖、デコミにも、戦略的決定が必要。
「原子力はヨーロッパの競争力維持のためにも、環境のためにも、必要不可欠なエネルギー源」「より多くの透明性、より多くの情報、そしてより多くの議論が必要」「電力会社がもっと十分な情報を提供すべき」デ・パラシオ副委員長のスピーチを紹介
「廃棄物管理の問題は技術の問題ではなく、政治の問題」
「テロ攻撃の危険性に対しては、業界が安全性を実証すべき」

(英国の動向)
「原子力が役割を果たすようなエネルギー政策にイギリス政府がコミットしているということは、研究と技術の前進、新型炉の建設、新規雇用の創出と経済を促進する力となるということを意味する」

(フランス)
「フィンランドが新設の決定をするということを受けて、フランス政府は新しい炉の建設に着手する意向があるようです」
「緑の党が実験炉「スーパーフェニックス」を閉鎖させたが、MOXプラント「メロックス」の容量増強を阻止できなかった。また、政権の座から退いた。」

(ドイツ)
「緑の党の得票率が落ちており、政権復帰は可能性が低い、原子力発電は過去最高の稼動実績を示しており、さらに記録を塗り替えるだろう。」
「使用済み燃料と高レベル廃棄物の深地層処分の建設についての政治的コンセンサスを得るには、相当長くかかりそうである。」

(ベルギー)
「40年に達したら原子力発電を終了する。しかし、緑の党が政権を離脱したら、社会党はその考えを変える。」

(スウェーデン)
「原子力は発電電力の44%を占め、環境を考えると、原子力の代替は困難、明年中に第二基目の閉鎖問題を見直す」

(フィンランド)
リッポネン首相「原子力は一つのオプションとして持っていなくてはならない」「フィンランドはソ連のテクノロジーを使った原子炉を運転しているが、世界中で最も安全なものである。」

(EUへの東欧諸国の2004加盟とソ連設計の原子炉の閉鎖)
閉鎖の条件としてEUから「十分な資金援助」であるが、「十分な」の定義が不明。リトアニアの例でイグナリア1、2号機を閉鎖すると、閉鎖コスト 30億ユーロ、それに代替エネルギー源のコスト、関連社会的なコストが必要。
原子力業界、そして政治家に対してのメッセージは、自信を持って誤った情報に対して戦うということです。全世界で438基の原子炉が操業中、そしてさらに36基の炉が現在建設中ということですので、この懐疑心を表明している人たちに対して、彼らがわかる言葉でチャレンジしなければならない。

海外の動向は以上の通り、環境問題、資源問題から欧米の政治家は原子力はさらに重要な役割を果たすだろうと考えております。「再処理・リサイクル」には直接言及していませんでしたが、ウランも有限な資源であり、その点から「再処理・リサイクル」は原子力発電所と切り離せません。

(今回のセミナーのテーマと構成)
1. 再処理とMOXリサイクル事業の最新情勢
2. 国民に説明できる今後50年のエネルギーと大学のあるべき姿を考える。
1. について「再処理・リサイクル」の最新情勢を講演とパネルで紹介いただきます。
2. については、ポスター発表および展示の中の「長期予測シュミレーション」でいくつかの日本および世界のあるべき姿あるいは予想を示します。一方、新たな技術開発の動向についても、各組織、機関から最新の研究開発結果をご提示していただきます。また、米国、フランス、英国の燃料サイクル研究開発のインフラとしてどのようなところがあるか。各国の最近の活動状況について紹介いただきます。
一方、何故日本の再処理費用が高いのか、どうすれば経済性を高めることが出来るのかを米国のエンジニアリング会社に分析を依頼し、その結果を示していただきます。
大学の更なる活性化のためにも、京大、東大、東工大、名大などの学生に現在のそれぞれの大学の活動状況と将来のあるべき姿についてもポスター発表いただく予定です。一方、パネル討論として、「原子力開発における産学官連携とは(大学の役割を含めて)−国民への安全、安心、安定なエネルギー供給を目指して−」を予定しております。
参加者の皆様の奮起とベクトル合わせ、および政治家を含めた方々への発信が出来ますこと期待いたします。