ポスター(民間の部)講評
杤山 修(東北大学)





 長期予測シミュレーションについては次の3件のポスター発表があった。

 (1)世界のエネルギー需要トレンドと炭酸ガス排出規制下での見通し:STREAM(日立)
 (2)燃料サイクル全体を詳細にシミュレーション:Super STAR(東電)
 (3)マクロモデルを用いたFBR導入の検討(エネ総研、新型炉開発)

 1ではマクロ経済モデルSTREAMを開発し、2.の燃料サイクル評価コードSuperSTARとを組み合わせて、3.ではGRAPEと呼ばれる超長期のエネルギーシステム最適化マクロモデルを用いて、21世紀の地球温暖化抑制とFBR導入を考慮した原子力発電の持続安定供給に関する長期分析を行っている。いずれも、長期エネルギーの見通しについて、21世紀半ばにはエネルギー資源の枯渇と炭酸ガス濃度上昇の問題が顕在化するため、FBRによるエネルギーの供給が重要となるという、我々が普段直感的に感じていることが定量的に示されており、コードや解析の有用性が示されている。もちろんこうしたコードや解析は、長期のエネルギー政策における意思決定に重要なものであるが、同時に、社会に良い将来のエネルギー選択をしてもらうために、これらのツールや解析を社会に提供することも大事であると思う。その際には、シミュレーションの前提がどのようなものであるか、どのような考え方で将来を予測しようとしているか、その結果がどうなるかといった、コードや解析に関する概念的理解が重要となろう。また、学生などがこのツールを用いて自由に思考実験できるように配慮することも意味があると思う。これらの研究の発展の一方向としてこうした、社会へのよりよい情報発信についても考慮していただければと思う。


 今後の再処理技術他については多くの発表があったが、民間の研究機関からの発表としては、次のようなものがあった。

 (1)ハイブリッド再処理、FLUOREX − 軽水炉、高速炉対応(日立)
 (2)超簡易型電解還元法−高速炉対応(電中研)
 (3)超臨界直接抽出法−Super-DIREX(三菱重工)
 (4)酸化物燃料乾式再処理技術の開発(東芝)

 いずれも内容の濃い発表で、どの話も、有望で実際に導入できたらと思わせる説得性がある。一方、実際に現行のPUREX法に代わってあるいは加えて、これらの方法が導入されるためには何が必要かを考えてみると、溶融塩法や、半乾式法などが提唱されかなり実用に近いところまで進められながら、消えていった過去が思い出される。湿式法は、水溶液化学という錬金術以来の過去の膨大な遺産とビーカー等の中で簡単に扱えるという取り扱いの容易さがあり、加えてこれまで改良を重ねてきた蓄積と既に多くの投資を行っているという既成事実がある。原子力の技術は巨大で、簡単に試行錯誤を行えないという重大な弱みがある。そこでこうした魅力的な技術が実際に採用されるためには、どういう情報を提供すればよいかということを戦略としてぜひ考えていただきたい。すなわち、これらの方法により、工程は実際にどう変わるかを具体的に提示していただきたい。たとえば、FLUOREX法は、フッ化物揮発法によりウランを除去することにより、溶媒抽出工程は現行の10分の1になるという魅力的な方法であるが、それではせん断や脱被覆などの前処理工程はどう変わるのか、ウランの精製工程で不純物はどのように除かれ、この工程での水分の除去はどのように行われ、粉体はどのように移送され、不純物フラクションはどのような形で廃棄物として湿式フラクションとあわされるのか等、原理から見ると問題にならないが実際にはどうなるかといった点である。これは超臨界抽出や乾式法についてもまったく同様で、具体的に容器の材質はどうなるか、物質の移送はどうなるか、溶融塩での湿分除去はどうなるか、超臨界における圧力や温度の制御はどうなるか等、研究開発を行っている方々が一番良く承知しておられる工学上の問題点を示していただき、これをどのように克服していくかを示していただければ、これらの方法の工学としての説得力は大きくなり、実用化への道が開けてくるのではないかと思う。