SAIC社ターナ氏特別レクチャーと討論の報告




1.日時:2002年10月11日(金)10:40-12:10

2.場所:泉の森ホール(大阪、泉佐野市)

3.発表者等
   座 長:池田泰久(東工大)
   講演者:S. Turner(SAIC)
   コメンテータ:諸葛宗男(東芝)

4.特別レクチャーと討論の概要

 米国SAIC社ターナ氏より「燃料サイクルの経済性−日米の差異を考える」と題した特別レクチャーが行われた後、それに対する東芝諸葛氏のコメントを交えて燃料サイクルの経済性について活発な討論がなされ、関係者が経済性を考える良い機会の場となった。
 ターナ氏の講演では、日本と欧米の違いという観点から、世界の燃料サイクル施設の経済性評価例や日本の六ヶ所再処理工場の建設費の分析、確率論的経済性評価手法等が紹介され、今後のコストダウンに向けた提言が述べられた。このなかで同氏は、日本の一般的な工場建築費は欧米諸国の約4〜6倍とのKPMG社の評価を引用し、このような日本の高コスト構造が六ヶ所再処理工場の高い建設費の大きな要因となっていると指摘した。その上で、

   ・コストダウンのためには日本は風土改革(culture change)が必要
   ・開発段階の科学者を含め関係者全員が"経済性第一"で考えることが重要
   ・六ヶ所再処理工場の建設費は初号機(First-of-a-kind)としては妥当
   ・米国の解体核用MOX工場の建設費はFirst-of-a-kindのため
     六ヶ所再処理工場よりも割高
   ・日本は六ヶ所再処理工場の経験で多くの教訓を学びつつある
   ・これを活かせば燃料サイクルの経済性改善は可能

と述べられ、具体的に次の7項目が提言された。

   (1)六ヶ所の教訓を活用すること
   (2)競争原理を導入すること
   (3)着工前に安全規制や技術基準を整備しておくこと
   (4)一律に原子力仕様を用いず確率論的手法を用いた
     Risk Informed Approach法によりグレード分けをすること
   (5)企画段階の経済性予測の精度を上げ、客観性を持たせること
   (6)工程遅延時には思い切って体制を縮小して再スタートすること
   (7)民間の契約への政府補償の付保を検討すること

 この講演に対し、東芝諸葛氏からコメンテータとして次のことが述べられた。

・日本の工場建築費が欧米の約4〜6倍にもなっていることは日本ではあまり知られておらず、これが本当であれば、今後、議論すべき問題である。
・不確定要素について確率論を取り入れた経済性評価は合理的で有効な方法と考えられ、この手法を実機建設段階の契約にも適用し不確定要素の確定結果に応じて契約額を最終確定させれば、過大なコンティンジェンシーによる発注者の経費増や、リスクの過小評価による受注者の損失を防ぐことができ、双方にメリットがある。
・コストダウンのためには規制側も"経済性第一"の考えを持つことが大切であるが、それは難しいのではないか。米国では、どのようにしているか?

 これらコメントに対し、ターナ氏より、日本の高コスト構造は原子力産業界の問題というよりも国全体の問題との認識を示した上で、だからこそ風土改革が重要との考えが繰り返し述べられた。確率論的評価に関しては、米国では既に契約前の交渉段階において確率論的評価を用いて、発注者と受注者の双方でリスクの分担を議論することが行われており、これによりコストダウンが図られているとの説明があった。
 規制側の問題に関しては、確かに規制側は安全性について保守的とならざるを得ない面があり、"経済性第一"は難しいが、米国では長年に渡る議論の結果、やっと最近になって規制側も経済性を考えるようになってきたところであるとのこと。また、民間に対する国の保証(government indemnification)に関しては、米国では、大きな原子力災害による損失は国が保証することになっており、ましてや不景気時のバッファーの役割も果たす原子力軍事産業がない日本では、民間企業への国の資金協力の必要性はより大きいとの意見がターナ氏より述べられた。
 更に、会場からは、"経済性第一"の考え方に対し、安全性が犠牲になってはならない、経済性と安全性のどちらを優先するかは、良く注意して進める必要があるとの指摘があった。"工程遅延時には思い切って体制を縮小すべき"とのターナ氏提言に対しては、六ヶ所再処理工場のプロジェクト関係者から、六ヶ所再処理工場の場合、確かに工程遅延中の技術者の維持に約5000億円の経費増を招いたと評価しているが、現実には、このようなときの体制縮小は不可能との指摘があった。また、JMOXプロジェクト関係者からは、現状の工場建築費が高い点も踏まえて、今後のコストダウンに取り組んでいきたいとの発言があった。

以上