日本原子力学会「保健物理・環境科学部会」
設立趣意書


(平成12年2月25日設立発起人会)

 今、原子力に対して「安全」が強く求められている。原子力研究・技術開発は黎明期より目覚しい発展を遂げ、近年では従前からの意味合いの原子力分野にとどまることなく、核融合あるいは加速器・ビーム科学をはじめとして包含する領域の裾野を拡大した形での発展が目指されているところである。その発展に伴う新しい研究開発分野に対して安全性が追求されるのはもちろんであるが、旧来からの技術に対しても安定という意味から安全がより求められている。この安全を求める気持ちは、一般公衆や関連する周辺分野の人々からだけではなく、原子力に携わる我々自身の内からも強く求められているものと考えられる。

 安全確保には、原子炉安全、燃料安全といった個々の技術において工学的安全を保証するのみならず、保健物理的な視点が必要不可欠である。保健物理が対象とするのは、「人間」、「放射線」、「被ばく」、「環境」、「影響」といったキーワードで表わされる分野であり、これまで本学会においても「保健物理と環境科学」として@線量測定・評価、A放射線影響・リスク、B放射線管理、C環境放射能、D環境安全評価、E放射線防護の理念と基準について、精力的に活動が行なわれてきた。

 歴史的に見ると、保健物理は、放射線作業者の被ばく管理を中心的な課題として立ち上げられた。原子力利用の発展とともに対象分野が広がり、対象とする人は放射線作業者のみから一般公衆を含むようになり、自然放射線ならびに放射性廃棄物を考慮する場合には環境放射線(能)という視点が重要視され、空間的、及び時間的な広がりを持った考察が要求されるようになっている。一方で、放射線生物・影響に関する知見の蓄積に伴い、放射線リスクをどのように評価するかといった視点も重要となっている。

 このように、原子力が含む内容が深く広くなった現在、その推進の一翼を担う保健物理も対象範囲が拡大し、対症療法的な個々の対処法・管理手法ではもはや済まなくなっており、全体を安全の視点から見通した基本的理念を構築すべき時代に至っている。本部会では、これまでの本学会における保健物理関連の個々の活動を一つの力としてまとめ、保健物理・放射線防護の基本理念の構築を推進することを目的とする。本部会では保健物理・放射線防護の対象を特に限定せず広く考えるものとするが、従前からの本学会における活動内容と公衆との直接の接点となるという重要性を鑑み、特に「環境科学」等を出発として議論を始めていくものとする。

 本部会のメンバーは日本原子力学会員により構成されるが、研究領域が学際的で広範に及ぶことから、外部との交流・情報交換を積極的に行う必要がある。外部に開かれたシンポジウム等の開催を行うとともに、日本放射線影響学会や日本保健物理学会、日本放射化学会などの関連学協会との連携を推進するためのコアとしての機能を本部会は持つ。



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