緊急討論会「東電問題に対して何ができるか」



緊急討論会「東電問題に対して何ができるか」

 

後援:関東甲越支部

日時:平成14年11月21日

場所:学習院大学目白キャンパス

座長:部会長 宮沢龍雄

 

本稿は原子力学会誌2003年2月号に「報告」として掲載されたものである。

 

(概要)2002年11月21日、社会・環境部会は、関東・甲越支部の後援を得て、表記討論会を開催した。本討論会は、社会の信頼を損ねたいわゆる東電問題に対する学会としての行動の一環として社会・環境部会が企画した討論会である。テーマを「原子力界の信頼回復に向けて学会として取り組むべき課題はなにか?」と設定して、社会・環境部会メンバーを始めとする学会員同士で意見交換、討論を行い、今後の活動に反映することを目的としたものである。

当日は、48名の参加者のもと、3件の基調講演と活発な討論を行って、有益な意見を伺う事が出来た。ここではその内容について紹介する。

 

1.基調講演

  最初に、京都大学名誉教授で原子力学会倫理委員長も務められている西原英晃氏から、学会の倫理規定を定めた際の論議も踏まえて技術倫理のあり方についての講演を頂いた。

特に強調をされたのは、倫理規程の前文に原子力企業や専門家の倫理的な行動を求めていたにも関わらず、今回の問題が起こってしまったことへのご意見と再発防止への提言であった。

制定されている倫理規程の前文の意味として、「法令規則を順守する」とあえて書いた背景には、倫理は明文化されている法令を補完すると言う意味合いがあり、「自分の言葉に書き直して専門活動の道しるべとする」という個人々々、あるいは企業、組織が取るべき行動が「行動の手引き」の最初に書いてあるが、実際は守られなかったことが残念であったとのご感想をまず述べられた。

ついで、今回東電から提出された再発防止のための対応策について学会倫理委員会の見解を纏めて倫理委員会から公表したが、そこでの考え方について次のように考えているとの紹介があった。

(1)個人の責任追及とは別に、担当していた個人個人の考えや行動がどのようなものであったかをきちんとした整理・分析をしておかないと再発防止にはならい。

(2)東電の持っていた、企業行動基準を定めた規定はすばらしいものがあるが、結局は機能しなかったことを考えておく必要がある。

(3)実効的なコンプライアンスプログラムを策定し、実施すべきである。プログラムには外部評価や実効性のある指針作りまで含めるべきである。これには、学会が協力する用意がある。

などであった。

  2番目の基調講演として、東京電力褐エ子力計画部の田中治邦氏から、今回の事件に関する社内からみた、経緯、原因と背景の分析、今後の対応についての学会への要望を含めた概略説明があった。

まず、今回の行為は、社員個人の私利私欲から発したものではなく、原子力発電の置かれた環境の特徴を映し出したもので、発電所員には不明確な内容で世界からも遅れた規制を遵守しなければならない矛盾、定検をのばさず予定通りの時期に発電再開したいという公益的な使命感、事故・故障の報道により発電所の評判を落としたくない、などの重圧がかかっていたことが背後にあったことを述べられた。今後の信頼回復への道のりは簡単なものでは無いが、規制当局の指示に従った機器や設備上の対応方針の決定と現場作業の早期着手、再発防止のための対策を社内体制の見直しや社外からの第3者チェックにより行うことを中心に進められるが、その時には、東電が今までとは変わった姿を目に見える形で示すことも重要であることを具体的な例を示して説明された。

特に、今回の問題を整理してゆく過程で、社会への信頼回復のために東電の内部での努力に加えて、田中氏の個人的意見としながら、原子力学会での活動に織り込んで欲しい項目として次の6点を提示された。その内容は@民間規定の策定をはじめとする規制基準の合理的な改善への貢献、A原子力平和利用や放射線影響に関する社会への啓蒙活動、Bプルトニウム利用の安全性の広報活動、C若年層(特に中高生)を中心としたエネルギー教育Dマスメディアとのコミュニケーション、E原子力関連企業や研究機関などのコンプライアンスプログラムへの側面支援、であった。

3番目に、(社)経営倫理実践研究センターの島村昌孝氏から、御自身の監査活動から得られた教訓を中心に企業統治の取り組みについてと外部から見た原子力界の印象などのお話を伺った。島村氏は、医療機器関係の会社の経営や多くの企業の監査役を歴任した経験より、例え法体系が不完全でも、経営者としての職業意識があれば、かなり高度な企業活動は可能で、特に監査には「モニタリング型」と「ガバナンス型」があり、商法改正により今後は「ガバナンス型」を積極的にとりいれていくことが遵法経営の必須条件であることを強調された。このためには、企業統治の展開に関する情報公開を、企業の論理と社会の論理は矛盾する場合があっても積極的に行うことが、企業の存続に最も重要な要素であることの説明があった。

 

2.意見交換

  基調講演を受け、「原子力に対する信頼回復のために学会、もしくは学会員は何をすべきか」をテーマに、社会・環境部会の活動への提言等,参加者同士の意見交換を行った。主な意見を紹介する。

・原子力関係者が解決すべき問題点として、原子力関係者と行政当局や社会との間にコミュニケーションが十分でないこととメディアとの関係を改善してゆくことを挙げたい。現在の原子力報道は,トラブル情報を取り上げたときに危険という意識を植え付けるものになっている。これが,社員にプレッシャーを与えている面もある。行政に関しても,技術論で話ができる関係となっていない面もある。これらが,原子力発電所の所員を内向きにする要因の一つである環境を作り出している。社会に受容される活動として何が必要かを学会として考えるべきである。メディアを通じての発電所でのトラブル報道については医療のインフォームドコンセントのような報道のあり方が必要であると考えられるため、マスメディアとのコミュニケーションをどの様にとっていったらいいのかの整理をすることも学会が検討して欲しい。

・物を使えば経年劣化するのは当たり前であるのに,新品同様でなくてはいけないというのは理解しがたい。学会は関連するバックデータをとって、どこまでは安全だと論ずるべきである。現在のシステムでは真の経済性は実現出来ない。

・企業は設備利用率を上げることを第一の目標としている。今回の件はJCO事故と同様に,経済性を重視し、安全性を疎かにしていたのではないか。学会の倫理規定を学会員が自律的に遵守しているのかどうか疑問である。

・技術者は倫理意識が低いと一般に言われるが,中でも我々原子力関係の技術者の倫理意識が非常に低い状態にあると感じている。

・規制が不合理であれば,声を上げてより良い物に改めていくよう、企業自身が国に訴えていかなければならない。例として、定期点検の周期変更(米国24ヶ月に対して,日本では未だに13ヶ月)など、民間や学会が一丸となって変えていかなければならない。

・社内の内部告発は良いことだが,社外への内部告発が問題である。これは,上層幹部との信頼関係が重要であり,スムースなコミュニケーションをして、問題が外部に出る前に社内で処理できることが重要である。

・マスメディアと良い関係を作るためには,マスメディアが不理解だと言うだけではなく,社会の目線でコミュニケーションを取らなくてはならない。

・規制の問題は,維持基準だけの問題ではなく,耐震基準等の他の基準についても目を向けていかなければならない。

・原子力学会では、田中氏の提案については何らかの形でアプローチをしている。維持基準についての活動は機械学会と協力して基準作りに取り組んでいるし、倫理に関しては西原委員長のお話の通りである。教育については原子力界に向けた教育という面では特別委員会で取り組んでいる。また社会・環境部会の活動でも、メディアとのコミュニケーションをするための枠組み作り、プルトニウムの活用についての社会受容に関する取り組み、企業内や社会とのコミュニケーションのあり方、教育に関する取り組みなどがある。

 

3.まとめ

 今回の討論会の目的は、社会の信頼感回復のための活動についてのものであり、具体的な行動については、田中氏が講演で掲げた「原子力学会に期待する6項目」に集約されていたと思われる。これらの内容については、原子力学会は従来からの枠組みの中で既に取り組んではいるが、今回の議論から明らかになったことは、総論的な取り組みではなく、個別の細部にわたり掘り下げた活動が必要であるということである。倫理の問題に関していえば、倫理規程を策定しても、今回の不適切な行動は規程に沿った行動が取られていなかった事に対して、倫理委員会の提言のように、不適切な事例に関わった担当者の思考や行動の分析を基に、さらには今後どのような仕組みを作ることが実効的な活動であるかの提言をするといった、各論に踏み込んだ活動も必要な行動であるのではないかと思われた。

また、社会・環境部会の活動でも、コミュニケーションに関するコアグループを設置して活動を始めていて、その活動の中での、マスコミとの交流については、先行をして活動中の各種団体とは目的を異にした計画を早急に確立して、具体的な活動に入ることは喫緊の課題であると思われる。さらに、多岐にわたるコミュニケーションのあり方についての啓蒙や提言などを纏めることも重要な役割と位置づけた活動を活性化する必要性も再認識した。教育面では、原子力界内部を対象にした枠組みの確立は、原子力教育研究専門委員会のメインテーマであるが、そこでの取り組みの少ない初等中等教育への支援や社会教育への支援などは、社会・環境部会の取り組みであると再認識した活動が必要である。また、プルトニウムの使用についての社会受容についても、現在の社会情勢をふまえた取り組みを如何にすべきかの再検討の議論も必要であろう。

今回の討論会では、議論がかみ合わなかった点もあったが、少なくとも、ここで紹介をしたように、現在の学会活動をより細部にわたった総合的な幅広い取り組みへと発展させることで、「信頼回復」に繋がることだけは再認識されたことは大きな成果である。今後もこのような議論をさらに重ね、会員間での情報の共有と、課題の解決に向けた諸活動のフォローと今後の課題などを話し合う必要があることも付記しておく。

 

以上



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