第1回研究会

講演3
  講演タイトル:PWR一次系における冷却材中溶存水素濃度の最適化
―調和のとれたSCC環境改善を目指して―
日本原子力発電(株)発電管理室設備・化学管理Gr 永田暢秋 氏

講演概要:PWR一次系の設備保全における課題の一つである,ニッケル基合金のPWSCC対策について,安価で広範囲に効果が期待できる環境改善技術として検討を進めている原子炉水中溶存水素濃度の最適化について紹介。


PWRプラントでは溶存水素濃度の管理が保安規定に定められており,通常の管理幅は25〜35cc/kgとBWRプラントの40〜80倍もの高濃度である。保安規定に定める値は過去の低温条件における臨界水素実験に基づき設定されているものである。PWSCCは高温・高応力部ほど発生ポテンシャルが高く,またき裂発生の抑制が対策としての重要度が高い。PWSCCの発生・進展を抑制するだけでなく,ステンレス鋼腐食抑制の維持や燃料性能維持,線量率低減も両立させる対策として,溶存水素濃度の最適化が環境改善対策として有効な手段であり,平成18年度に策定された水化学ロードマップにも重要課題と位置付けられている。

PWSCC発生進展と溶存水素濃度に関する文献データを調査したところ,溶存水素濃度が低いほどPWSCC発生が抑制できること,き裂進展率は約10cc/kgにピークが存在することが分かる。一方でPWSCC発生・進展メカニズムの解明は十分ではない。また燃料被覆管と溶存水素濃度に関する文献からは燃料表面付着物量やその組成比が溶存水素濃度に依存することが分かったが,文献データ自体が不足している。ラジオリシスと溶存酸素濃度に関しては,解析モデルを用いた臨界水素濃度評価結果によると数cc/kgでラジオリシス抑制効果が認められることから,保安規定下限値以下における解析の妥当性や制度の検証が望まれる。これらの課題を解決するために,産官学がそれぞれの立場から研究・評価を行い,調和のとれたSCC環境緩和を達成することが望まれる。

講演の最後に,材料,水化学・放射線化学,燃料分野の国内外専門家が参加するPWR一次系溶存水素濃度の最適範囲に関するワークショップの開催が案内された。平成19年7月18−19日に東北大学で開催される予定。

会場からはき裂発生とECPの関係やECP解析の温度依存性について質問があり,ステンレス鋼のSCC発生レベルより低いレベルでの管理をねらうことやECP解析は温度毎に計算できるとの回答であった。また微小な溶存水素濃度の違いにより燃料付着物に大きな影響が現れることについての質問があり,ニッケル付着量が寄与していると推定していること,また保安規定下限値付近での実機データ取得は短期間であり,今後長期間データ採取が課題となることが回答された。