株式会社 講談社 殿

貴社出版物「ロッカショ」に対する抗議文

2008年3月3日

エネルギー戦略研究会(EEE会議)

有志会員 (個人名は末尾に列記)

貴社出版による坂本龍一氏他の「ロッカショ: 2万4000年後の地球へのメッセージ」は事実を無視し、国民に六ヶ所村再処理工場反対を呼びかけようという、反対のための反対を目的としたセンセーショナルな出版物であり、良識ある出版社としては到底看過することの出来ないものと考えますので、強く抗議いたします。

一々取上げるにも足りないと考えましたが、余りにも事実と異なる内容が多く、読者をミスリードすることにより、我国にとって益々重要となるエネルギー問題について一般市民の判断を誤らせるものであると考え、抗議の気持を籠めて項目毎に反論します。

先ず第一に、この本の著者および発言されている方々は、我国のエネルギー事情の現状を十分ご存知なのでしょうか。我国のエネルギー自給率は4%しかなく(主要先進国中最下位)、「準国産エネルギー」としての原子力を加えても18%に過ぎないという甚だ憂慮すべき状況にあることを先ずもって知っていただく必要があります。

我国の文化や生活の裏付けとなっている電気やガソリンが将来とも、必要なだけ入手できるとお考えでしょうか。 世界の原油生産量は明らかにピークを迎えています。これは国際エネルギー機関(IEA)や米国エネルギー省(DOE)の統計を見ても明らかです。今年に至り、シェル石油の社長自身が全従業員に対するメッセージの中で「容易に回収できる石油・ガスは2015年には生産ピークを迎える」と述べており、メジャーオイルの首脳ですら貴重な資源である石油とガスが生産ピークを迎えることを認めているのです。

加えて、地球温暖化対策が我国でも叫ばれています。2050年にの「クールアース50」を実現するには、国民の協力を得て省エネを実施し、風力・太陽光などの自然エネルギーを増やすことは勿論必要ですが、それに加えて原子力発電を大幅に増やす以外に我国としてのエネルギー確保および炭酸ガス削減の途はないと言えましょう。

2050年には石油やガスの供給量は現在の1/5あるいは1/10になっていることでしょう。そこでどうやって文化的生活を保つことができるのでしょうか、坂本氏の専門でもある音楽を楽しむことができるのでしょうか。 この本で発言されている方々は是非真面目にその方法を考えていただきたいと思います。私共は真剣に子供達や孫達の将来を考えています。

「ロッカショ」の内容については以下のように事実誤認を確認し、問題点を提起します。

「ロッカショ」の問題点

I. 坂本龍一氏の発言部分

20063月くらいに見た、グリーンピースのサイトかな。『1日で通常の原発の1年分』という情報を見てしまった。」 P.32

 地球上に生命誕生以来30億年に亘り、地球上の生物は宇宙や地中から受ける放射線の中で、進化し、健康な生活を享受してきた。自然放射線は誰もが浴びているものであり、その中で健康に生活している。現在世界の人々が年間浴びている放射線量の平均値は2.4ミリシーベルトである。六ヶ所村再処理工場から放出される放射能によって住民が受ける放射線量は、国の安全審査によって0.022ミリシーベルトと上限が定められている。これはあくまで上限であり、実際に住民が受ける放射線量は相当これを下回るであろう。つまり、自然放射能の1/100以下のものを坂本氏は問題にされていることになる。同氏が本気でそうおっしゃるなら、同氏は自然界では生きて行けないことになろう。

原子力発電所から放出される放射線量は低減努力を重ねた結果非常に少なくなっているのは事実である。原子力発電所の実績値と再処理工場の上限数値を比較した「1日で通常の原発の1年分」というこの本の主題そのものが意味をなさないことがお分かりいただけると思う。つまり、両者とも自然放射線に比べてはるかに桁数の低いものである。自然放射線と比べて初めて有害か、無害かが分かるということを認識して頂く必要がある。

 

「プルトニウムはまさに核兵器の原料ですから、そちらへいつでも転用できるという懸念です。」P.37 「1年間で8,000キログラムのプルトニウムが生産される予定ですが、日本はすでに国内外に43トンものプルトニウムを保有しています。」P.52

「何時でも転用できる」というのは間違った理解である。これまでに軽水炉の使用済燃料から回収されたプルトニウムから兵器が作られた例は皆無である。軽水炉の使用済燃料には核分裂の邪魔をするプルトニウム同位元素が多く含まれており、爆弾に仕上げるのは至難の業である。インドやパキスタン、北朝鮮を含めて核保有国はプルトニウム生産専用の原子炉を作り、いわゆる兵器級プルトニウムを特別に製造している。日本は平和利用に徹している国であり、軽水炉の使用済燃料から分離したプルトニウムといえども、ウラン・プルトニウム混合酸化物として取り出すという、核拡散面でより安全な方策をとり、進んで国際原子力機関(IAEA)による厳格な監視と保障措置を受けている。

我国が所有しているプルトニウムは総て発電を目的としたもので、目的の不明確なプルトニウムは所有していない。現在所有している43トンのプルトニウムの大半は英仏に預かってもらっているものであり、日本の施設に受け入れたものは厳格なIAEAの査察下に置かれ、処理されている。

 

「地球全体で森林が減っているのは、人類総体が滅びつつあることへの予兆だと思います。原発のある場所も、もともとは森林を伐採して作られたわけだしね。核も木も地球規模の問題なので、本来、中心となる場所はどこでもいい。けれどシンボルとしては六ヶ所がいい。」P.42

日本の原子力発電所はすべて海岸立地であり、占有スペースもそれほど大きくはなく、森林を破壊したケースはない。森林破壊につながっているのは、開発途上国における木材輸出や、焼畑農業などのための森林の不用意な伐採等が問題として提起されている。自動車用エタノールを作る目的で、砂糖きび栽培のためアマゾンの森林を耕作地に転用するなども問題の一つである。原子力発電はむしろ二酸化炭素を放出しない発電として、将来は電気自動車などに有効に利用されるであろう。
 貴重な森林の確保は世界的に最も重要な課題の一つであるが、原子力発電所や再処理工場の設置を否定するのは筋違いである。

 

「今、ニューヨークの自宅は100%風力発電なんです。それまではケチケチ電気を使っていたのが、今はジャブジャブ使っています」P.43

ニューヨークのご自宅は電力会社の電線と完全に遮断されているのですか? 若し、地元電力会社からの電力に頼っているのであれば、ニューヨークの電力会社は主に石炭火力による電力を供給しているのである。ロングアイランドなどにある風力発電から供給されたものと見做す「グリーン電力購入システム」を利用しているのかもしれないが、実際には電気を使えば、使うほど電力会社は石炭を焚き増す必要がある。

 

「放射能の被害はたいしたことないという人には、だったら三陸の魚を食べてもらおうと思う。六ヶ所のトマトを食べてください、と言いたい。あなたの子供と一緒に」P.44

非常に挑発的、情緒的な発言である。再処理工場から放出される放射能による住民の放射線量は上述のごとく0.022ミリシーベルト/年に上限を定められており、これは再処理工場近辺の穀物、野菜、魚介類を食べている前提で算出されたものである。また自然放射能による被曝線量(2.4ミリシーベルト)と比べて1/100以下である。過去に「所沢市のほうれん草がダイオキシンに汚染されている」と報道した久米宏氏の番組で放送局は後に謝罪を行ったが、それ以上の風評被害をもたらす内容で地元住民と共に厳しく抗議したい。勿論、我々は喜んで六ヶ所のトマトも三陸の魚も子供と一緒に食べると申し上げる。

 

II. 掲載資料の部分

(原子力資料情報室の資料をベースにした放射能放出量と一般人の年間摂取限度との比較)P.67

例えば、「海洋放出の元素として「トリチウム」は一般人の年間摂取限度の32,000万倍」という誇張した数字を出している。

これは年間放出量を1人の個人が全部吸収したと仮定した場合の計算と思われるが、そんなことが起こる可能性はありえない。希釈された海洋水中に含まれるトリチウム濃度が放出前(あるいは周囲)の海水のトリチウム濃度と比較してどうであるか、また自然放射能に比べて、人間に対する影響という意味で有意の差があるかを見るべきであろう。いずれにしても安全審査で設定されている周辺住民に与える線量の上限(0.022ミリシーベルト/年)をはるかに下回る線量にしか寄与しないものであり、それは自然放射能線量の1001を大幅に下回るものと言えよう。数字を一人歩きさせるための仮定としかいいようがない。

 

同じく原子力資料情報室の資料として「六ヶ所再処理工場で事故が起ったら」を参照し、「燃料貯蔵プールに3,000トンが貯蔵されている状態で、内蔵する放射能のうちの1%30トン分の放射能が環境中に放出された場合、半数致死線量の3シーベルトの影響が及ぶ範囲は134.4キロメートル、急性障害を引起す250ミリシーベルトの影響範囲は691.1キロメートル、東京23区にも被害が及びます」とある。P.69

ここでいう想定は貯蔵プールの臨界爆発事故が起こり燃料が飛散した場合を想定したか、航空機の墜落事故を想定したものか、全くの仮想と思われる。貯蔵プールは、水が漏洩すればより臨界になりにくくなる。また、航空機の墜落に対しても耐えられるよう建物が設計されている。 

 

(高レベル廃棄物についての記述) P.70

「ガラス固化体1本に含まれる死の灰は広島原爆30発分にも相当するため、側に立っているだけで30秒以内に致死量に達するだけの放射線を浴びてしまうほど、非常に危険なものなのです。」「管理しなくてはならないゴミの容量はむしろ増加するのです。」

ガラス固化体は十分な放射線防護を施した容器に封入され、十分な遮蔽を施して保管されている。六ヶ所村工場内にある高レベル・ガラス固化体の貯蔵施設では、2mのコンクリート遮蔽が施されており、貯蔵庫の真上に人間が立ってもなんら問題はない。

再処理したためゴミの量が増加するという主張であるが、使用済燃料をそのまま処分するとしたら、ガラス固化する場合に比べて高レベル廃棄物の容量が約5倍になることを認識いただきたい。再処理によって高レベル廃棄物の量は大幅に減るのである。また再処理工程で発生する低レベル廃棄物は仮に容量が増えてもその浅地処分は容易である。

 

(世界の安全保障を揺るがす再処理工場)

「エルバラダイ事務局長は、最終的にはプルトニウムも高濃縮ウランも、まったく持たないというのが進むべき方向だとコメントしている。」P.72

全くの誤解。エルバラダイ事務局長は原子力平和利用を推進しており、ウラン濃縮や再処理を地域ごとに進める国際核燃料センターの創設が望ましいと提唱している。

 

III. 河野太郎議員の発言部分

「当初7,000億円ぐらいで建てることになっていたのに、最終的には21,000億円もかかりました。そういうことを考えると、「大本営発表」は総コスト19兆円ということになっていますが、最終的には60兆円近い金額になるかもしれません。消費税が何%も上ったのと同じくらいの国民負担になります。」 P.77

再処理の総コスト見通しは11兆円である。運営費を含めて30年間のコストを対象としているものを、それが建設費と同じ割合で膨張するとするのは余りにも暴論と言えよう。また再処理費は税金ではなく、電気代金の一部として受益者が負担することを認識していただきたい。

さらに、原子力発電コストは再処理費用や廃棄物処理費、廃止炉費用等を全部加算しても他の電源に比較して一番安いことは、石油価格が27.41$/バレルであった平成16年の経済産業省の電気事業分科会コスト検討小委の検討結果で確認されていることを申し添えたい。

 

「再処理にこんなお金をかけるならば、その何分の一かを自然エネルギーの開発に使ったらどうかという議論に、きっとなると思うのです。何が起きているのか何も知らされず、何の議論もなく、ただコストを黙って負担するのは、ちょっとおかしいですね。」 P.77

使用済み燃料の再処理コストは電力コストに含まれている。その上で、一番経済的な電力となっている。電気代と税負担とを混同してはならない。自然エネルギーは「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネルギー法)」で保護されていて、電力会社は市場価格を上回る料金を支払い、風力、太陽光発電による電力を買取っている。再処理と自然エネルギーが投資面でバッテイングするものではない。

 

「今、使い道のないプルトニウムを作り出すことに多額のお金を掛ける必要はありません。そして、プルトニウムはテロリストにも狙われる可能性があるということも考えなければなりません。」、「しかも、プルサーマルを運転しても、ウラン燃料が1割節約できるだけです。ウラン燃料を節約するために、こんな莫大なお金をかけるならば、ウランそのものをそのお金で買って備蓄しておいたほうが、よっぽど効率的です。」、「日本が保有するプルトニウムが43トンもあって、そのプルトニウムすら使い道がないのに、毎年新しくプルトニウムを8トンずつ作っていくということは、誰が考えても可笑しな話だし、これに19兆円から60兆円近くの負担が国民にのしかかってくるということを知ったら、賛成する人は誰もいないでしょう。」 P.78−80

将来の化石燃料枯渇に備え、地球温暖化防止の切り札として原子力発電を利用して行くという根本的なところを理解いただく必要があろう。ウラン資源の有効利用のためにも、軽水炉の次には現在国際協力プログラムで開発を進めている高速増殖炉(第4世代原子炉)の導入が強く望まれており、高速増殖炉の運転にはプルトニウムが必要になる。従って、高速増殖炉の開発に合わせプルトニウムを準備していく必要がある(例えば我国で2030基の高速増殖炉導入を図るには300450トンのプルトニウムが必要)。 また現在電力会社が進めているMOX燃料利用はこの高速増殖炉の燃料を準備するために不可欠なものである。すなわちMOX燃料は1回燃やすだけでなく、その使用済燃料を貯蔵しておいて、将来再処理すればウラン燃料の約5倍のプルトニウムを回収できる。つまり将来必要な量のプルトニウムを確保するためには、六ヶ所村での再処理とMOX燃料の製造およびその利用がどうしても必要となるのである。プルトニウムを高速増殖炉で再利用することにより原子力発電の経済性が増大し、化石燃料の枯渇に対処できることを十分理解してもらいたい。

 

「再生可能エネルギーに関する産業を盛り立てて、それを次の日本の基幹産業にして、海外に輸出しようと考える方が、僕は日本の将来のためになると思うんですよ。それを、原子力が大事なあまり、自然エネルギーを押さえ込んできたから、むしろヨーロッパの企業が頑張っている状況になっている。」 P.85

日本は太陽電池では世界一の生産国であり、風力発電機の製造・輸出も盛んである。十分世界をリードしていると言える。

自然エネルギーは間歇的なエネルギー源であって、例えば日本の自然環境下では風力発電の稼働率は20%以下であり、常にバックアップ発電容量を必要とすること、送配電グリッドに組み込むには電圧、周波数維持の面から限度がある(例:1020%)ことを認識する必要があろう。将来自然エネルギーで全てを賄いたいというのは1つの夢ではあろうが、エネルギー密度が低いため多大の敷地面積を必要とし、利用には限度があることを認識いただきたい。

 

「原発が耐用年数に達した順に廃炉にできるよう、天然ガスに少しずつシフトして行く。こうしながら、とにかく全力で再生可能エネルギーに投資して、研究開発をやっていきましょう。」 P.86

天然ガスも化石燃料であり、石油に続いて生産ピークが来るのは自明である。冒頭で参照したように、シェル石油の社長は2015年にはガスも生産ピークを迎えると予想している。石油・ガスのピーク後はますます化石燃料の価格が上ることが予想され、各国間の獲り合いになって来よう。天然ガス依存はエネルギー安全保障上の対策にはなり得ないのではないか。また上述のように自然エネルギーも電力グリッドの中で収容できる限度があるということを認識してもらう必要があろう。

 

IV. 多数のアーテイストの発言(P.96-117

  共通しているのは感情に訴えようとしているところにあるが、これに対する一番的確な説明は、自然にも放射能があるということであり、それによって人類は健康を保ってきたこと、そして原子力発電所および再処理工場による放射能が自然放射能に比べて非常に小さなものであること、世界で450基近い原子炉が運転されているが、チェルノブイル原子力発電所の事故を除いては、周辺住民の放射線被害は報告されていないことなどを知ってもらうことであろう(本書に報告されているラ・アーグ市の例(小児白血病発生率2.8倍)は母集団が小さすぎることによる統計上の誤差範囲と考えられる。同じ資料で隣接地区では0.8倍となっている)

以上

この抗議文の賛同者

池亀 亮   元東京電力副社長 

伊藤 睦   元東芝原子力事業部長、元東芝プラント社長 

石井 亨   元三菱重工()

小川博巳   エネルギーネット代表、元東芝 

小野章昌   元三井物産

金氏 顕   三菱重工業()特別顧問、原子力シニアネットワーク代表幹事

金子熊夫   エネルギー戦略研究会会長(EEE会議代表)、元東海大学教授

金子正人   放射線影響協会 顧問

黒川明夫   ISO品質主任審査員

小泉陽大   六ヶ所第一中学校PTA会長

斎藤 修    元放射線影響協会 常務理事

齋藤健彌   元東芝 燃料サイクル部長

齋藤伸三   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力研究所理事長

佐藤祥次   元NUPEC特任顧問

柴山哲男   ()クリハラント、元三菱原子力工業()

白山新平   関東学院大学 人間環境学部教授、工学博士 

副島忠邦   ()国際広報企画 代表取締役

竹内哲夫   前原子力委員、元日本原燃社長、元東京電力副社長、

種市治雄   六ヶ所村在住 会社役員

辻 萬亀雄  元兼松株式会社

中神靖雄   三菱重工業() 特別顧問

橋本 貢   六ヶ所村在住 会社役員

橋本 竜   六ヶ所村商工会青年部 部長 

林 勉    エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所理事・原子力事業部長

藤井晴雄  元四国電力原子燃料部、元海外電力調査会調査部主管研究員       

益田恭尚  元東芝首席技監  

松岡 強   元()エナジス社長

松永一郎  エネルギー問題研究・普及会 代表

三島 毅   日本原燃()燃料製造部 部長  

武藤 正   元動燃事業団 

以上30名