原子力学会シニアネットワーク連絡会第10回シンポジウム

環境・エネルギー問題を総合的に考える

低炭素社会の実現を目指して〜

期日       : 2009年8月8日(土) 10:00〜17:00

主催       : 原子力学会シニアネットワーク連絡会

共催       : エネルギー問題に発言する会、エネルギー戦略研究会(EEE会議)

講演       : 日本原子力技術協会、日本原子力産業協会、日本原子力文化振興財団

場所       : 東京大学武田先端知ビル

参加者    : 約160

総合司会: SNW代表幹事 金氏 顕

 

開会挨拶

SNW会長 竹内哲夫

豪雨続きの梅雨がやっと明け本日は炎天下、また貴重な夏休みの土曜日にシンポジウムへ参加いただきありがとうございます。皆様を迎えて有意義な一日にしたいと思います。

今日、私どもSNW連絡会と、日ごろ連携して活動している「エネルギー問題に発言する会」「エネルギー戦略会議(EEE会議)」は、地球規模の環境問題、CO2を中心とする温室効果ガス削減、すなわち「低炭素社会の実現」を取り上げました。

このシンポジウムを計画した当初は、この問題を「美しい星」として世界にアッピールされた安倍元総理のご登壇を願おうという企画があり、大学時代の友人がわが仲間におり、話をしたところ一旦は快く登壇しようという返事がありました。その後政局がご覧のような状態になり、本日のビデオ出演となりました。

会場の皆様も最近ではこの話題が日常茶飯事となって、いろいろ関心や疑問がおありだと思います。たとえば、この6月の麻生総理が2020年に2005年比15%カット宣言。初回の京都の1990年対比6%カットは未達。今回はOKか?などです。

IPCCの気候変動問題の報告書に対しては、異を唱える学者もおり、また温室効果ガス低減は先進国の問題だと発展途上国は不参加の姿勢です。しかしながら、将来温暖化が確実視された時点から始めても手遅れなので、予防処置として今から有効な低減策をとって行こうというのが先進国の姿勢です。

日本は京都議定書以来この問題の旗振り役、むしろのせられたといいたいが、最近ではグリーン・エコなどファジーな言葉のキャンペーンで、国民意識だけは先行しています。

考え直すと、日本のCO2排出量は世界のわずか4%台で、CO2小国です。昔の経済大国時代の蓄積で、低減の対策だけは郡を抜いてトップで、京都会議以来、EUとともにトップ集団で世界に号令していますが、京都での約束の1990対比6%カットすら逆の8%増で難しく、排出権を金で買い始めています。

最近の麻生総理の宣言も世界に通用する面子や体裁面を議論し、国民経済や生活への深刻な影響を十分議論していないのではないかと、疑問に思っています。さらに気を張って選挙マニフェストにも掲げている風潮は、刹那的、自虐的です。将来の経済社会活動に強烈なシバリとなる影響こそ論じるべきと思います。

また、最近では京都会議をセットした直後に脱退した米国が、オバマ大統領の登場でポスト京都では舵取りになるとのことで、議論が活性化しています。グリーンニューディールやスマートグリッドなどで、太陽光、風力など自然エネルギーに供給システムを加え、革命的なコンセプトも入り、議論も高度かつ複雑にしています。自動車産業の雇用対策も入った政治的なにおいがします。

日本は米国と違い、温室効果ガスの太宗であるCO2の削減に絞ると、火力から原子力に転換すれば可能です。これが簡単にできないのは、電力の安定供給に対する信頼度と原子力拡大への国民合意が必要だからです。

もう一つは、60%台の日本の原子力の稼働率をトップレベルの米国や韓国並みの90%にするにも、国民の後押しがいる。電力の80%が原子力のフランス並みにするには、負荷調整運転や週末停止のためには、今のシバリからの開放が必要です。

今回の政府発表の2020年向けのCO2低減中期目標では、当然ながら原子力比率のアップが主骨に織り込まれているはずだが、これが一般国民に発信されていない。主役主演者が覆面黒子の扱いだ。

今日は各分野から第一線の大家をパネルにお招きした。最初に筑波大学の内山先生に基調講演に続き、再生エネルギーの役割、原子力の意義、電力料金への影響などパネル討論をしていただきます。その後は時間を十分とってフロアの皆様との質疑応答と意見討論をしたいと思っております。

炎天下お運びいただいた皆様に実り多いシンポジウムとなること主催者としてお願いし、ご挨拶とさせていただきます。

 

第一部      安倍元総理に聞く

聞き手 齋藤伸三(前原子力委員長代理)

 荒井利治(シニアネットワーク副会長、元日立製作所常務取締役)

概要

安倍元総理は、日本の総理として初めて、世界全体でCO22050年まで に半減しようと世界に向かって呼びかけた方であり、それが福田前総理の北海道洞爺湖サミットに引き継がれ、現在に至っている。しかし、現役の政府の責任者ではないので、その辺もわきまえた話の組み立てとなっている。即ち、「クールアース50」を提唱された背景を伺った。そして、その内容について、直接、ご本人の言葉として伺い、それを実現する上で、安倍先生が原子力をどの程度重視されているか、原子力を進めていく上での問題点をどうお考えかを引き出せれば良いと考えた。

また、偶々、新聞で一行、自民党内に「日本をエネルギー資源大国にする勉強会」と言うのがあり、顧問が安倍先生であることを知り、“エネルギー資源大国“とはどのようなことを考えているのか、その中で原子力はどのように位置づけられているのか伺った。

安倍先生は、私どもの質問に対し、極めて丁寧に、誠実にお答え下さった。

その中で、原子力に関し、原子力発電はCO2削減の重要なツールであり、安定的な電力供給方法として欠かせない手段であると明確に捉えられていた。また、これは世界的にも同様な認識で、各国が原子力発電所の新設に動いていること、原子力発電技術は日本とフランスが世界最先端であり、日本はフロントランナーとして仕事を進めていく上でもチャンスではないかと激励された

また、原子力発電について、国民の間には慎重論もあるので、国民、立地地域の住民の理解を得つつ進めていかなければならず、国会議員の先生方も努力しなければならないが、新潟県中越沖地震の柏崎刈羽発電所の例を引き、残念ながら、マスコミが不安を煽っているところがあると先生自らおっしゃったのは印象的であった。

一方、麻生提案については、直接的には言及を避けられたが、原子力の重要性を述べられ、CO2削減は国民負担を少なくしながら達成すべきであると言うことでは当方の言い分を聞いて戴けた。

「日本をエネルギー資源大国にする勉強会」では、外国の資源を如何に有利に確保するかを進めているようで、特別に原子力は議論されていないことが分かり、原子力エネルギーの多様な利用にもご理解を戴けるようお願いをした。

最後に、これからの文明のあるべき姿と若者へのメッセージを戴いた。

 

第二部       「低炭素社会に向けたエネルギー選択〜原子力の役割と政策について〜」

筑波大学教授 内山洋司氏

講演要旨(詳細は講演資料を参照)

l         今回は問題提起型の講演としたい。国内外の情勢の変化と原子力の位置づけを述べることから始める。

l         IPCCの第4次レポート作成では日本からも30名の原稿起案者が派遣されたが、私もその一員で第3作業部会(排出抑制と気候変動緩和策)の作業に参加した。第1作業部会(変動メカニズム)でのモデルはまだ十分ではない。特に雲の影響を把握することは難しい。エアロゾルによる影響も大きいと判断される。太陽放射線(黒点)変動の影響は小さい。1940年以降の気温低下もエアロゾルの影響と見られている。

l         将来の気温上昇モデルは完全なものではない。上昇シナリオの幅も広く、不確実性が高い。影響評価では定量的な評価はほとんどできず、定性的に行った。その中でEU1.5度上昇に留めるべく450ppmCO2380ppm)を主張し、政治的に使われて2050CO2半減の国際約束となった。

l         人類の発展による異常な状態ではあるが、急激な変化は社会問題を生じる。温暖化対策も自然な流れに沿うことが重要。

l         中期目標は2005年比「−15%」となった。産業構造の変換が謳われているが、素材リサイクルなどは慎重に進める必要がある。地産地消と言っても温室を使う地元栽培よりも遠くから運んだ方がエネルギー消費が小さい場合があろう。

l         発電では再生可能エネルギーが有効とされているが、経済性からいうと再生可能エネルギーはコストが高い。原子力はコスト・パーフォーマンスが高い。

l         省エネというが、人類はエネルギーを使うことで発展してきた。発展の中に低減要素をどのように積極的に取り込むかが重要。これまでも省エネ努力はされて来ているが、効果は余り出ていない。

l         最終消費を抑える政策が沢山挙げられているが、需要がマイナスとなるのでは設備投資のインセンティブは無くなる。企業は良い技術があってもそれに対する投資をしなくなる。この問題は深刻でおそらく国の政策でやるしかないであろう。

l         新エネルギーでは太陽光を20倍にすることとなっている。おそらくこれは原子力1基分の効果であろう。原子力は経済効果が一番高いが、投資回収が長期になると安定した財務確保が難しくなる。電力需要が伸びない場合には設備投資が困難になる。今回の中期目標は電力業界にも厳しいもので、9基新設はやっとのものであろう。

l         太陽光・風力はエネルギー密度低く、地域状況に左右される。規模の経済性が得難く、政府援助なしでは成り立ち難い。稼働率が太陽光で15%、風力で25%程度であるため、KWの価値が少ない。供給源としての基本的要件に欠けているため、バックアップとして火力発電が必要。

l         原子力は残念ながら100%のリスク削減は不可能。リスクの相対的評価が必要である。今後も安泰とは言えない。ブレない政策が必要である。もんじゅ、六ヶ所再処理は技術的にブレている。開発する立場の人々も信頼できる技術の開発を続けることが大切である。

l         原子力発電は最も事故の確率の低いものである。OECDの被害曲線グラフで見ても一番下に原子力が来ている。チェルノビル事故のあった非OECDの例で見ても原子力の被害曲線は下に来ている。

l         しかしリスク認知となると話は変わってくる。リスクの高いものとして専門家は最初に自動車を挙げるが、女性や大学生は原子力を先ず挙げる。このように実際の被害確率と認知の間には大きなギャップがある。マスコミによる影響もかなり大きいとは思われるが、「客観的な理解」を求めてどのように正確な情報を提供して行くかが重要であろう。地域的には放射線利用を前面に出した広報活動も1つの方法と思われる。

l         原子力発電については長期的にブレない、かつ柔軟な政策が肝要である。

本項 小野章昌 記

 

第三部      パネル討論 環境・エネルギー問題を総合的に考える

 

座長   :     林 勉 (エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所理事)

パネリスト:  秋庭悦子氏:NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長

内山洋司氏:筑波大学大学院教授

                     徳田憲昭氏:エネルギー総合工学研究所副部長

益田恭尚氏:シニア3団体会員、元東芝首席技監

                            松尾雄司氏:日本エネルギー経済研究所、主任研究員

T 各パネリストの御意見と対話の記録

 

1.松尾雄司氏 「日本の温室効果ガス排出量の中長期的な削減に向けて」

  (詳細は講演資料を参照)

2020年で対2005年比−15%の日本の温室効果ガス削減の中期目標見通し策定の経緯について説明があった。特に、日本経済への影響、2020年の分野ごとの姿、新エネルギー・原子力の導入促進についての分析結果が示された。とりわけ日本では、原子力にかける期待が大きいことも示された。

また2050年までの日本の排出量削減、需給の姿についても言及された。この時点では電力供給はほとんどがCO2を排出しない電源となり、原子力の役割は極めて大きくなろう。

 

2.徳田憲昭氏 「再生可能エネルギー 〜技術開発の状況と将来展望〜」

  (詳細は講演資料を参照)

新エネルギー部会での再生可能エネルギーの導入拡大、導入目標について説明された。

太陽光発電の大量導入ケースにおける需給構造の変化、系統安定化の課題等が示され、火力発電や揚水発電の活用、蓄電池利用、ユビキタスパワーネットワーク等が紹介された。

 

3.益田恭尚氏 「環境・エネルギー問題を総合的に考える 低炭素社会の実現を目指して」

  (詳細は講演資料を参照)

2001年以降、原子力界に起こった出来事について紹介。2020年までに温室効果ガスを15%削減の内訳で、最も寄与の大きい原子力についての国民への説明が不十分なことを指摘。石油生産のピークと併せ、原子力の最大限の活用こそが、エネルギー安全保障と地球温暖化防止のベースとなるべきと主張。

 

4.秋庭悦子氏 「環境・エネルギー問題を総合的に考える 低炭素社会の実現を目指して」

  (詳細は講演資料を参照)

あすかエネルギーフォーラムとその活動を紹介。地球温暖化対策のために1家庭が1ヶ月に負担しても良いと考えている金額は高々1000円程度で、中期目標達成のための出費を負担できるか疑問。国民の負担について良く周知することを政府に提言。一方原子力については、低炭素社会づくりの中核と捉えながら、高経年化や新検査制度等について納得できる説明を求めた。また全てのエネルギー政策は国民との相互理解が前提で、その上で国民負担があることを知らせるべき。

 

5.対話

 2020年あるいは2050年の低炭素社会の実現に向けた様々な面からの指摘や見通しなどが議論された。

 

1)社会的側面

今まで日本は急激な需要の伸びに対応する形で発展して来られたが、これからは、経済が下方見通しとなることに対応した政策の見直しが必要。

需要の伸びない中で、低炭素社会をどう実現するか、太陽光やバイオマスは世界的な需要で支えられるかもしれないが、原子力産業はどう育てるか。需要の開拓や、国内のみでなく、アジアと一体となった展開を考えないとやってゆけないのではないか。(内山氏)

原油高、消費減で、石油サプライチェーンもシュリンクしており、経済的な影響が大きい。(松尾氏)

 

2)技術的側面

日本エネルギー経済研究所で行った2050年のエネルギー需給の試算例では、原子力が発電電力量の62%を占め、その設備容量は7,100万kWと推定される。(松尾氏)原子力で必要な発電量をまかなうことは技術的には十分可能だと思われる。(益田氏)一方、太陽光は12,000万kW、風力は3,600万kWとかなり大きな割合を占めることになる。こうなると系統安定化が問題となる。(松尾氏)

系統安定化には、揚水発電、蓄電池、原子力の負荷追従運転等が考えられる。現在の蓄電池は効率が悪く、今後は、Liイオン電池等の高効率電池の開発が必要。(徳田氏)

原子力での負荷追従も可能であることのPRをもっとすべき。(益田氏)

原子力については、技術的には大丈夫でも社会的に受け入れられるようにネットワークを広げて行くことが前提。(秋庭氏)

 

3)経済的側面

太陽光サーチャージは不公平感が大きい。国民に納得できるような説明が必要。また、系統安定化の費用は入っていないし、発電量の全量買取りなどすれば更に国民の負担が増える。(秋庭氏)

日本は、CO2の限界削減費用が国際的に見ると高い。この事実を十分に認識した上で、日本は国際交渉に臨む必要がある。さもないと、大量にCO2を発生するような産業はどんどん海外へ出て行くことになり、日本の総合力を削ぐことになる。(松尾氏)

エネルギー問題は政治家の人気取りの道具に利用されている感がある。エネルギー問題は、雇用、エネルギー安全保障、経済に直結する問題。欧米はしたたかであり、先進国としての姿勢を示す意味はあるが、目標の数値は数値として、国民生活が悪化しないよう世界をリードして行く必要がある。(内山氏)

本項 西村章 記

 

U パネル討論

 (事前に回収された質問書を林座長が代読して各パネリストに質問した。敬称略)

 

:地球環境問題としてCO2削減は世界的に取り上げられているか?

内山:世界的だ。ただしCO2による温暖化だけではなく、むしろ一部だ。森林破壊、農業、砂漠化、海洋汚染など。途上国のエネルギー増加は仕方がない。先進国は地球環境問題全般にバランスを考えて進めようとしている。日本もその一部を担うべきだ。

 

Q:太陽光発電は利用可能な場所等を考えると、屋根など限られており、現実的とは思えない。マイクログリッドとの関連は。

徳田:当初太陽光発電は当初の2030年ロードマップで7/kWhを予想、シリコンの値段が下がるのを期待した。だが中国のその後大量に買うようになり、高値安定し2030年に7/kWhは既に困難となってきた。変動電源、安定電源、蓄電池大型化、などやることは多い。マイクログリッドでは変動電源である太陽光発電を大型蓄電池とくみあわせる方法、変動電源でもよい水素を独立に製造する方法も考えられる。

 

Q,:限界削減費用の安い途上国で削減する場合、CO2削減費用は誰が費用負担するのか?

松尾:地球環境問題は今後の世界全体で考えるべき課題であり、中長期的には途上国も応分の負担をすべきであると考える。

 

Q土井:先程、『GHG15%を低減するためには、原子力に期待されている役割が大きく実現はなかなか困難である』とも取れる説明に拍手があったが、この場合、原子力をあきらめ、原子力以外を増加することになるのか?

秋葉:原子力を止めろといっているのではない。原発稼働率82%などの前提は知らされてないのが現実。技術だけしっかりしても社会的に知られなくては意味がない。[拍手]

 

Q:原子力発電所現場からの実感として、現場の報告が上役から無視されることがある。事故につながらないか心配だ。

益田:しっかり物を見てくれといっているつもりだが、現場は書類つくりに忙殺されているようだ。

竹内:火力発電所は人が少ないので、実務をどんどんこなしているという達成感がある。原発は書類作りが大変。問題点は現場にある。規制側が強すぎる結果として、現場に直結する技術力がつかない傾向があるようだ。同じ電力会社でなんでこんなに差があるのか。[拍手]火力卒業生の中には東南アジアで活躍している人もいる。日本的な書類作りは役立たないところがある。

 

:何故原子力は故障率が高くて、廃棄物の処分場はないなど問題が多いのか。電力の密閉体質もあるのではないか。メディア批判よりも反省すべきことも多いと思うが。

内山:地震はあったが、故障率は世界一低い。原子力は今や一番開放的になった。核不拡散、守秘義務などの例外を除けば、問えば答えがすぐ出てくる。原子力は原理的に化学エネルギーの8000万倍ものエネルギーを発生させ、これを平和的に使こなしている。このことをマスコミはもっとバランスの取れた報道をすべきだ。

益田:日本の原子力の計画外停止は一番低い。それにもかかわらず停止時間は、米の1〜2日に対し日本は前後1〜2週間かかり稼働率が悪い。燃料のピンホールは排気筒からの放出放射能が許容値を超えなければ運転が許容されるのに止める。女川では地震波が設計震度から僅か極短時間超えている部分があった、地震波のエネルギーは低いのに一年間も止めた。これでは稼働率は上がらない。保安院は電力を指導し、安全が確認されたら自信をもって発言し運転許可を出すべきだ。

 

Q,:原子力発電所の単価は56/kWhとあるが、廃棄物処理のコストは含まれるのか?

:資料P70にあるように、廃棄物コストは含まれている。

 

Q:電力は供給量に応じ、大―原子力(火力、水力は新設禁止)、中―バイオ、地熱、小―小型水力、太陽光、風力、のように規模を区分し供給すべきではないか?

内山:時間帯でも違うし分離しろというのは無理な話。世界どこでも同じで、負荷パターンに応じて総合的、経済的に運用されている。

 

:マイクログリッドの利用はどうか?

松尾←益田氏(?):マイクログリッドは山間僻地で現場完結の使い方がある。蓄電池併用もある。発電機と畜電含め実験中。離島も同様。

 

:温暖化対策で米国がコミットしない場合、日本ではどうすればよいか?

松尾:米国や中国も参加してもらわねばならない。日本としても参加してもらうよう努力する必要がある。

 

:ポスト京都議定書で原子力をCDMに認めさせるように働くべきである。

内山:原子力は温暖化抑制に貢献している。廃棄物に関連した持続可能性から、原子力がはずれているが、これはEUが多数の票をもって方向を決めていることによる。

 

:高温ガス炉による水素製造は、水素製造系統も原子炉級で作らなければならないとすると高いものになるのではないか? 原子炉規制法を改定するのか?

齋藤伸三:高温ガス炉+化学プラントの構成であるが、化学プラントの部分も原子炉規制法の対象となるとコストは高くなる。化学プラントで事故が発生した場合は、原子炉を止め、原子炉級の崩壊熱除去系を別途、設置しておくなどにより、水素製造部分等を原子炉級から分離することがポイントとなる。

 

:ドイツでは炭素税を導入しているが、日本も導入する時期が近づいていると考えるのか?

松尾:そう思うが、まずその前に中期目標達成のための対策を検討することが先だ。

内山:EUでは炭素税を導入しているが、他の税もみなおし負担がかからないよう対応している。私見だが軽油取引税5兆円などあり、総合的な配慮の下に導入すべきだろう。

秋葉:所得の大小に関係なくあちこちで税金が増えるようなシステムはおかしいと思う。

 

:太陽光発電の2030年の開発目標では、2030年にKwh当たり7円程度まで下げられると考えているのか?

徳田:新しいタイプへ移行する動きはある。

 

:森林がCO2を吸収する効果は考慮されるのか?この点について日本、世界の考え方は?

内山:国際的に認められている。ただし、日本の場合その効果はほぼ飽和状態になっている。

 

:原子力を国民にもっと理解してもらうためにどうすればいいと考えるか?

内山:リスクをどのように認知するかは人によって違う。賛成者と反対者が二つの中心になる楕円形になった状態を想定すると判り易い。これを出来るだけ円に近づけるようにすることが大切だ。ただひとつの意見に集約させることは大変難しいと思う。フィンランドの廃棄物処分施設のあるオルキルオトでは、現物を見せて安全かどうかは他者に判断させている。これは一例だが、参考になる。

秋葉:そうだと思うが、判断する力を養う必要がある。放射線に関する基礎知識が必要だ。エネルギー教育が必要だと思う。

 

:中期目標の評価の中に蓄電池は含まれているのか?

徳田:含まれていない。

松尾:蓄電池の対策は別途必要になる。この問題については経済産業省の「低炭素電力供給システムに関する研究会」で議論されており、必要なコストについての評価もなされている。

 

2050年の65%削減の試算は如何なる根拠に基づいているのか?太陽光発電に期待しすぎているのではないか?

松尾2050年の試算では、まず需要部門についての計算を行った。その結果、産業や運輸においてどうしてもある程度のCO2は排出されるため、65%削減のためには発電部門での排出量をほぼゼロに近くしなくてはならない、という試算結果になっている。

太陽光の想定が非常に大きいというのはその通りだと思うが、例えば発電のほぼ全てを原子力のみに頼るというようなことは、リスク分散の面からも望ましくない。原子力と再生可能エネルギーを双方ともに、最大限利用することを目指すべきだ、という意味で、2050年の試算では再生可能エネルギーを大きく積んでいる。

 

2050年の問題では、何が問題で何で苦しむのかをきちんと考えることが必要と思う。

松尾:考えている仮定が2050年では変わっている可能性もある。方向性はいいと思うのだが。

益田2050年の予想は難しい。ただ、原子力が100%になった場合の問題点なども検討しておく必要はあろう。また、今後の観測体制の強化、CO2濃度が減らない場合どうするか検討しておく必要がある。

松尾:考えておく必要はあると思う。

内山:長期的には不確実さがある。エネルギー問題についても然りだ。15年前まではもっと楽観的であった。まさか中国やインドがこんなに急激に成長するとは誰も予測していなかった。この危機感は今や世界的な問題になっている。日本も真剣に取り組み、解決策を考えなければならない。

 

:安倍元総理のビデオについてどう思うか?今年12月COP15で温暖化対策が議論される。早くも外国からGHG15%減は少なすぎるとの論調が出ているがどう思うか?

松尾:欧州では「90年比20パーセント」という削減目標が立てられており、日本の目標も90年比で見ると決して野心的ではない、という主張がなされることがある。しかし欧州が90年比にこだわるのは、旧ソ連崩壊や東西ドイツの統一等の影響で、90年比で見ると欧州の削減実績量が大きく、その分彼らにとって有利になるために過ぎない。客観的に考えて、今後10年間(2020年まで)の目標を決めるに際して20年間も昔(1990年)の数値を基準にすることは、やはり不合理だと思う。

 日本の「2005年比15パーセント削減」という目標は国際的に比較しても非常に大きな努力を必要とするものであり、かつ2005年比で比べた場合に欧州や米国等の削減目標を数値的にも上回るものである。決して小さな目標ではないと思う。

益田:15%減は実現が難しいと思う。経団連が言っているとおりだ。原子力でも稼働率85%の実現は易しくない。国民全員が対策を真剣に考えてほしい。

徳田:日本の省エネ技術は既に高いのに、さらに15%減は難しいと思う。

内山:15%減は至難の業だ。EUが日本に厳しい態度であることは予想できる。その政策に乗らない方がいい。全体で需要が伸びないのに、生産規模が縮小しているのに、CO2排出量をカットするのは難しい。このような経済環境でCO2削減のための設備投資をするとは考えられない。日本もしたたかにEUに対すべきで、経済をひっくり返すべきでない。

秋葉:15%減の是非は一体誰が判断するのか。電気を4分の1、25%カットするのは、今日午前中のこの会場の冷房ダウンの体験でも分かるとおり、大変難しい。どんな暮らしにすべきなのか、国民的議論を行うべきである。

 

:最後にパネラーからひとりずつ簡単なコメントをいただきたい。

松尾:我々に原子力が必要であることは当たり前であり、その認識を広めて行くことが必要である。

益田:日本は民主国家であり、国民の意見を聞くことが不可欠である。原子力教育に関しては来年から始まる小中学校の教科書に期待している。温暖化対策や原子力の議論に皆さんが参加されることを望む。

徳田:原子力の人の考え方が良く判った。原子力を含めてどのようなベストミックスであるべきかを考えたい。

内山:エネルギー問題をどうするのか、どのように展開するのかを、世界的な規模で考える時期に来たのかなと思う。単にいい製品を作って売ればいいと考えていた時代は終わった。原子力についても、日本の技術が海外で本当に役立つにはどのようなシステムであるべきなのか考えるべきである。原発の地元では放射線利用と教育を取り入れて欲しい。

秋葉:一般の人に「原子力」と言えば特別なレッテルを貼られる。何故役立っているのに嫌われるのか。エネルギー自給率4%の時に、エネルギーが私たちの生活にどのような意味を持つのか判ってもらいたい。順序を踏んで、一般の人に理解してもらう努力が必要と思う。若田さんが宇宙から地球を見て、「電気が輝いている」と言ったが、すばらしい。

パネル討論の項 前半 石井陽一郎、後半 若杉和彦 記

 

座長まとめ

林 勉

本日は「環境・エネルギー問題を総合的に考える」というタイトルで、「安倍元総理に聞く」から始まって、内山先生のご講演、そして午後からはパネリストの皆様との討論とフロアの皆様との対話を実施しました。その結果、改めてこの問題がいかに重要でかつ困難をともなうものであるかについて、皆様と認識を共有できたのではないかと思います。

残念ながら、この重要かつ困難ということについて、国民に広く認識されていないのが現状です。一部の方たちは、自然エネルギーを大幅に拡大すれば原子力はなくても低炭素社会が実現するとか、中期目標では15%は不足で25%〜30%削減が必要との議論がありますが、現実をよく見ていない議論であることがよくわかったと思います。世界に向けてわが国の目標を高くすれば、更に大きな負担が国民にかかってくる可能性があります。技術的に対応できないとなると、排出権取引など実態価値をもたないものに莫大なお金を投じるしかなく、国益を大きく阻害することになります。

私たちはこのような事態をさけ、健全な低炭素社会の実現を希望します。低炭素社会の実現は2050年の世界のGHG50%削減することです。このためには自然エネルギーの拡大も重要ですが、なによりも重要なのは原子力の健全な推進、大幅な拡大であることが、本日のシンポジウムから明らかになったと思います。このためどうするかが私たちに与えられた課題です。本日の討論を出発点として、本日参加いただいた皆様ともども、この課題に少しでも貢献できるよう頑張ってゆきたいと思います。

本日は長時間ありがとうございます。

 

閉会挨拶

エネルギー戦略研究会会長(EEE会議代表) 金子熊夫

エネルギー問題は実に間口が広く内容も奥深く、非常に複雑で、正しく理解するのは大変です。とくに私のような理系的な素養の乏しい人間にはそうでして、実を申せば、私は元々外交官出身で、典型的な文科系人間ですが、運命のいたずらで外務省の現役時代からかなり長い間、約40年ほど、エネルギーや環境問題に関わっており、とくに近年は原子力・核問題に深く関与しています。とりわけ、現在我々が直面しているエネルギーと温暖化対策の関係は非常に込み入った難しい問題でありまして、言うなれば、レオナルド・ダビンチのような超人間的な理解力が必要だと思っています。

今回のシンポジウムのタイトルについて言えば、「環境・エネルギー問題を総合的に考える」の「総合的に」という視点が重要なポイントです。原子力だけ、自然エネルギーだけというのではなく、あらゆるエネルギーを総合的に考えないといけません。野球と同じで、1番、2番バッターだけではだめです。大量得点をたたき出すには、とくにピンチには4番バッターがしっかり打たねばならない。このようにピンチのときに最も頼りになるのが4番バッターで、原子力はまさにこの4番バッターに相当すると思っています。

ただ勿論、4番バッターがいくら頑張ってもそれだけでは駄目で、やはり全員野球で行かなければなりません。風力もあれば太陽光もあります。それぞれのマイナスを指摘して攻撃するのではなく、プラス面をよく見ないといけないと思います。私は、これをドイツ語の「シャーデンフロイデ」(Schadenfreude)----これは英語にもちゃんと取り入れられています-----という言葉でよく表現していますが、つまり「他人の不幸や欠点を喜ぶ」というのではなく、それぞれの長所、短所をよく理解し、お互いに補い合って、協力するという姿勢が大事だと思います。

そういう意味で言えば、例えば石炭はイメージはあまり良くありませんが、IGCCCCSなどがうまく行けば大いに貢献してもらえます。水力発電についても大型のダム建設を必要とするようなものは問題でしょうが、小型水力は中々有望だと思います。このような形で、色々な新旧のエネルギーを総動員して、全員野球をやらねばならない。その中で原子力は不動の4番バッターとして、着実に役割を果たして行く、というように理解する必要があります。

これは、とりもなおさず、エネルギーの「ベスト・ミックス」ということでありまして、専門家は原子力がその中核、基盤にある、いわば「縁の下の力持ち」だということをよく知っていますが、一般国民は必ずしもそのことを知りません。我々がいくら原子力は大事だと言ってもマスコミは報道してくれませんし、政治家もこのことをはっきり言う必要があるにもかかわらず、日本の政治家ははっきり発言しない。私はいつも思うのですが、ブッシュ前大統領は評判が良くない、確かに史上最低に近い大統領だったかもしれませんが、少なくとも1つだけ立派なことをしました。在任中彼は、地方遊説の途中にしばしば原子力発電所を訪問し、従業員を前に演説しましたが、その中で「原子力は米国のエネルギー安全保障(自立)にとって極めて重要である。諸君、自信と使命感を持ってしっかりやって下さい」と言って従業員を勇気づけました。このシーンがテレビで全国に流れ、一般市民に対する強いメッセージとなりました。米国で「原子力ルネサンス」機運が高まったのは明らかにブッシュ政権の功績であったと思います。

私が長年主宰しているエネルギー戦略研究会(通称EEE会議)では、姉妹団体である「エネルギー問題に発言する会」や「原子力シニア・ネットワーク」(SNW)と協力して、過去5年ほどの間に5,6本の政策提言をまとめ、時の内閣総理大臣宛に提出し、一般市民にもメッセージとして訴えてきました。一昨年秋安倍総理宛に、昨年暮れ麻生総理宛に提出した政策提言はお手元の資料集の最後の方に全文が載っております。これからも引き続きこうした政策提言を随時発表して行きますので、本日ご来場の皆様にも是非一人でも多く賛同者になっていただきたいと思います。

本日のシンポジウムは、地球温暖化防止という観点から原子力はどのような役割を果たすべきかというところに議論の主眼を置きましたが、原子力は温暖化問題解決に必要なだけではありません。これから世界の資源争奪競争は益々熾烈になって行きますが、その中で各国ともエネルギー・セキュリティ----オバマ大統領の言葉で「エネルギー自立」energy independence-----をどうやって確保していくかが大問題になってきます。 エネルギー自給率僅か4%で「資源小国」とか「無資源国」を自認する日本こそ、もっと原子力の重要性を自覚せねばなりません。

ここに(パワーポイントのスライドに)示す共同宣言案----これは今回のシンポジウムの参加者の共通認識をまとめたもので、パネリストの益田さんが起草して下さったもの---の最後にはっきり書いてありますように、「最大限の原子力活用こそが、エネルギー安全保障と地球温暖化防止のベース」です。このことに異論のある方は多分おられないと思いますので、今後----できれば8月末の総選挙直後に-----新しい内閣総理大臣宛に政策提言を提出するときには、是非とも皆様にもご賛同いただきますよう、また、できれば本日のシンポジウムの主催・共催団体のいずれかに加入してご一緒に活動していただきますよう、とくにお願いしておきます。

本日は茹だるような猛暑のなか、最後まで熱心に討論に参加いただき、眞に有難うございました。また、講師、パネリストの皆様にも、積極的なご協力に対し、主催者、共催者を代表して厚くお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。

以上