日本エネルギー環境教育学会

第4回全国大会 参加報告

2009.8.25 松永一郎

 

1.第4回全国大会の概要

(1)日時:2009年8月8日(土)、8月9日(日)

(2)場所:福井大学文京キャンパス 

(3)主催:日本エネルギー環境教育学会

共催:福井大学

後援:文科省、経産省、環境省、日本原子力学会、福井県、福井市他県下行政機関、関原懇、北陸原懇他

(4)テーマ:「新学習指導要領に向けたエネルギー環境教育と地域連携」

(5)参加者:全国のエネルギー環境教育に係る大学、高校、中学、小学校の教員が主体

(6)内容:

エネルギー環境教育に関する「実践(小・中)」「普及」「調査・評価」「教材開発」「カリキュラム開発」についての各種発表や、ワークショップとして小学校、中学校の公開授業、サイエンスショー、教材製作などがある。基調講演、特別講演、パネル討論も組まれている。

 

2.SNWからの参加目的

今回SNWから金氏顕代表幹事と松永一郎対話担当幹事が参加した。

(1)エネルギー環境教育に係る普及活動としての「学生とシニアの対話」の実践報告

(2)教育系大学、現職小中高校教員との対話活動の拡大に関する情報収集

(3)その他

 

3.「学生とシニアの対話」の実践報告の発表

(1)概要

学生とシニアの対話会は2005年7月より今年の6月までの4年間で、エネルギー問題に発言する会主催のものまで含めて、全部で32回開催されている。これらの内容と成果及び今後の課題と展開に関して「原子力界シニアによる大学生等との対話を通したエネルギー教育の普及」と題して、2日目の8月9日午後の“普及”というセッションで、5つのテーマに分けて発表した。出席者は約20名だった。

(2)テーマ

@     世代を超えた対話の必要性とシニアの役割PDF):まとめ及び発表 SNW松永一郎

A     対話活動の実施例−三浜町での実施例PDF):まとめ及び発表 SNW金氏 顕

B     対話活動の意義−アンケートから振り返る(PDF:まとめ SNW伊藤睦 発表 SNW松永一郎

C     対話の意義−教育者の視点で振り返るPDF):まとめ及び発表 愛教大 吉田 淳

D     今後の課題と展開:まとめ SNW石井正則 発表 SNW金氏 顕

(3)発表概要(タイトルをクリックするとプレゼンテーション資料(PDF)が参照できます)

@     世代を超えた対話の必要性とシニアの役割PDF)(松永一郎)

21世紀はオイルピーク問題に代表される化石資源枯渇問題、中国、インドなどの急成長に伴う爆発的なエネルギー需要の増加が見込まれ、エネルギー資源の獲得競争が激しくなる。一方では二酸化炭素の排出に制限が課せられ、世界は脱炭素化に向けて協調していかねばならない。非常に厳しい状況にあるが、国民一般には危機感が足りない。シニアは危機感を持っており、学生との対話活動を通して若者の自己啓発化を促している。今まで32回、1000名を超える学生と対話。原子力系から一般工学部系、さらに教育系へと活動を広げている。そのねらいは教育系には児童生徒に教えるに当たって、エネルギーの中で原子力の重要性、問題点について、どこに焦点をあてて考えていけばよいか、のヒントを与える事、原子力系には社会へ出て原子力界を背負っていく意識付けと気概をあたえること、一般工学部系はその中間。

 

A     対話活動の実施例―三浜町での実施例PDF)(金氏 顕)

今年の2月、福井県の美浜町で現職教員、福井大学の教育学部学生、原子力系学生を交えて「立地地域におけるエネルギー環境教育の中の原子力教育のあり方」と言う共通基調テーマで実施。主たる対象を現職の地元の小、中学校教員とし、基調テーマに沿って5つのサブテーマを設定し、ファシリテーション方式で対話した。立地地域の教育の現場での問題点について具体的で率直な意見が色々な人からでる、ユニークな対話であった。テーマの設定に当たり、先生の意見を事前に聞いていなかったので、来年からは聞くようにしたい。

 

B     対話の意義―参加者アンケートから振り返るPDF)(伊藤 睦)

今までの対話会では対話の後に学生にアンケートを求め、シニアからは感想をもらっている。対話は当初は原子力系が主体であったが、一般工学部系、教育学部系とだんだんと変遷してきており、アンケート内容もそれぞれに対応したものとした。

対話のへの満足度、必要性については90%以上の学生が満足しており、その必要性を感じている。

原子力系については、3年前と原子力ルネサンスが出てきた最近では学生の危機意識に変化がみられ、対話の必要性についての比率が低下傾向にある。

対話後のエネルギー危機意識の変化に関しては、教育系が一番大きく、次いで工学系、一番少ないのが原子力系であり、日頃からのエネルギー問題に対する理解や関心の深さ程度の差によるものと考えられる。

教育系のアンケートの結果で、人材育成の面と学校教育者の育成でも、豊かな経験と実績を持つシニアとの対話は効果的で有意義であると認められる。

 

C     対話の意義―教育者の視点で考えるPDF)(吉田 淳)

教員養成課程における課題は、学生はオイルピーク問題は漠然とは知っているが、太陽光や風力で補えると思っている事である。多くの学生はエネルギーに対する認識が低く大学教員(理科担当)でも教育の必要性を認識していない。学校教育の現場では複数の教科にまたがり、総合的関連的に学習活動を展開する必要がある。実際には社会か理科を中心として小中学校ではエネルギーに関する様々な学習を展開している。これからの世界課題として「環境とエネルギー」問題は1020年後の社会、経済、産業等に多大な影響を持つが、「正しい認識に基づくエネルギー環境の認識」は容易ではない。クリーンエネルギーへの期待は大きいが、原子力の必要性や安全性に対する認識はあまり高くない。SNWシニアとの対話は教師としてのエネルギー環境リテラシーの獲得には優れたものであり、教員としてのエネルギー教育への関心の深まりやエネルギー教育の普及に貢献している。

 

D     今後の課題と展開PDF)(石井正則)

教育学部系学生との対話結果を見ると、エネルギー危機や原子力のイメージの変化は80%から90%と原子力系はもとより、一般工学部系に比べても際立って高い。対話の必要性と満足度は90%以上であり、このことから教育学部生が日頃から、エネルギー問題、わけても原子力については殆ど情報に接していないことが分かる。したがって対話の効果はあがっているが、対話はあくまでも将来教師になった時、原子力の重要性や安全性についてどの様に教えたらよいのかと言う事を自ら考えるヒントを与えるだけである。そのために、今後次のことに留意しながら対話活動を継続発展させていくことが必要である。

     エネルギー問題、環境問題に関する多様な角度からの的確な情報提供

     適切な教育に発展する現場における教育手法の提示

     より受講生にとって有効な手法の活用

     対話フォローアップの仕組みの充実(施設見学等)

     点から線、面への拡大とそのための効率的な推進体制の確立(教育委員会関係者の理解と協力、人的資源と資金の手当て等)

 

(4)主要質疑応答

@「世代を超えた対話の必要性とシニアの役割」について

Q:原子力系学生と教育系学生の対話テーマの主要な違いは何か

A:原子力系学生の場合にはエネルギー、原子力に関する知識はあるので、専門的なことや、学生時代に将来に備えてどういったことをしておくべきかといったものであり、教育系の場合には原子力の安全性や、放射線といった基礎的なものである。

Q:原子力系の学生で親の反対を押し切って進学してきたという者はいるか

A:いる。そのような場合、子どもが選ぶと親の原子力に対する見方も変わるそうである。

A「対話活動の実施例―三浜町での実施例」について

Q:(立地に関して)説明したら納得するが、自分のところはいやだという問題をどうすべきなのか。

A:NIMBY(Not in my backyard)の問題は難しい。しかし米国では最近の原子力発電所の安定した高稼働率の結果、PIMBY(Please in my backyard)になってきているといわれており、やはり信頼感を上げるのが一番であろう。

Q:数値で安全を言っても受け容れてもらえない。安全と安心の問題をどうしたらよいのか。

A:リスクについて教えていく必要がある。

C「対話の意義―教育者の視点で考える」について

Q:「学生とシニアの対話」に対する愛知教育大学内での評価はどうなのか。全学的なものにはならないのか。

A:教授陣の中にもいろいろな考え方の人がいる。したがって、とりあえずは今のように個人的な形で開催して様子を見ていく方式がよいと思われる。

 

その他、座長の福井教授より、全般に関するコメントとして「経済系の学生を入れた対話も是非やって欲しい」との意見が出された。

 

4.その他の報告など

(1)   普及活動

「連想法を用いた被爆地における原子力ワークショップの評価」(長崎大藤本准教授)

今年の3月に広島商船高専におけるワークショップ「学生とシニアの対話イン広島竹原2009」を題材にして、対話の効果を「連想法」という定量解析法による方法方で分析した結果を長崎大学の藤本准教授が発表した。

連想法というのはある一つの言葉(例えば「原子力」)と言う言葉を選び、対話の前と対話の後に思いつく言葉(連想語)を挙げてもらい、ある連想語を選んだ人数を定量解析し、対話前後の変化量の大きさから対話の効果を測るものである。

解析の結果、原子力の学習に関して、ワークショップ方式は効果があること、参加者の意見を引き出し、その概念を変化させるにはファシリテータの能力が重要であることがわかった。

(2)   基調講演

「石油ピーク後のエネルギー」−エネルギー収支比から資源の有効利用を考える−(電中研 天野治氏)

エネルギー環境教育学会の副会長の杉山憲一郎北大教授が天野氏が行った北大での講演を聴き、今回の基調講演として推薦したもの。

石油ピーク後は掘りにくい石油を採掘するために石油を使わねばならず、石油の枯渇は急速に進む。今後エネルギーの確保は困難になる。そのためにa.将来を予見するb.それを認識するc.対応を試みるd.解決策を実施する。という4段階が必要。EPRはそれらに対するツールとなる。

なお、このような話をしても豊かな暮らしに慣れ親しんだ30代から50代の人にはなかなか納得してもらえないので、10代、20代といったこれから社会人になる学生達と議論を始めている。

(3)   特別講演

「21世紀のエネルギー資源問題と高速増殖炉の役割」(前福井大学長 児嶋真平氏)

 地球環境を守り、有限な化石燃料をできるだけ使わない低炭素社会を実現するためには、省エネを飛躍的に高めると同時に、再生可能エネルギーの比率を高め、さらに、原子力発電を増やす必要がある。しかし、ウラン235を核燃料とする軽水炉ではウラン資源が尽きてしまう。高速増殖炉でウラン238を燃料として高度に使用することができれば、人類は基幹となるエネルギー源を半永久的に持つことができる。

 

5.感想

日本エネルギー環境教育学会は2005年9月に設立された新しい学会であり、これからのエネルギー環境問題を次世代の青少年層が自分たち自身の問題として捉え、将来において適切な意思決定を行う時の素地を養うための「教育のあり方」についての情報を発信する事を目的としている。これを見ると、SNWの活動は教育だけに限定していない点を除き一致している。

その意味から、今回SNWから初めて参加し、今までの活動について発表した事はSNWのPRになること、今後、当学会と連携を強め新しい展開を図っていくための基礎ができたものと言えよう。たまたまかもしれないが、原子力開発の盛んな福井県での開催ということもあり、天野治氏のEPRの基調講演、児嶋真平前福井大学長のFBRの特別講演といった原子力がらみの話が続いた。教育系の大学教員、小中高校教員にとって原子力はなじみがないだけに、反応はいまいちといったところであったが、このようなことを地道に続けていけば、やがて理解が進んでくるものと思われる。

なお、丁度前日に刷り上った「対話活動の中間報告書」を長洲南海男学会長、伊佐福井大学教授他に手交し、筑波大学教育学部との対話の道筋をつくることきっかけができた。

また、来年度の第5回全国大会は藤本准教授在籍の長崎大学に決まった。発表の有無は別として、絆を強くしていければと考える。

またこの機会を利用して、美浜町学校教育課野原課長補佐、同浜野主事、INSS橋場氏、福井大伊佐先生と、今年度の美浜町でのSNWとの対話会開催について相談、開催する方向で10月の美浜町教育委員会で協議していただくこととした。


発表写真


松永一郎SNW対話担当幹事


金氏 顕SNW代表幹事         


吉田 淳 愛知教育大学教授

  
藤本 登 長崎大学准教授