[質問3−3−19] 地震、耐震設計について
(地震国の原発の安全稼働は可能か? 既設原発の耐震性強化は? 地震国における原発の安全対策は? )
[回答]
原子力発電の安全性に関連して地震、耐震設計についてもいろいろな質問がされています。これについてもまとめて考え方を整理してみましょう。
図1:地球の断面 (プレートの一生:海嶺で生まれ海溝へ沈む)ず ))z 日本海 大西洋 中央海嶺 南アメリカ プレート 南アメリカ大陸 ペルー海溝 太平洋プレート 東太平洋海嶺 日本海溝 火山島 日本列島 ユーラシアプレート 核 マントル マントル対流
次に日本近傍のプレートについてみてみましょう。図2に示すように日本近傍には4つのプレートが存在します。
日本列島が乗っている陸側のプレートの下に太平洋の海側のプレートが沈みこんでいます。ここで起こる地震を「海溝型地震」、あるいは海で起こるから「海洋型地震」と呼んでいます。今回の東北地方太平洋沖地震はこのタイプの地震です。なお、西日本に大きな被害をもたらすと懸念されている「東海地震」や「東南海地震」「南海地震」もこのタイプの地震で、近い将来に発生すると言われています。
また、陸側と海側のプレート同士がお互いに押し合っているため、日本列島が乗っている陸側のプレートの内部にも大きな力がかかり、陸の中の岩石が壊れ地震が発生します。この地震は、私たちが住んでいる所に非常に近いところで起こることから「直下型地震」、あるいは内陸で起こるから「内陸型地震」と呼んでいます。
これらの状況を図3に示します。
図3 日本で起こる地震のタイプ
次に地震について基本的なおさらいをしましょう
@震源(しんげん)と震央(しんおう)
地震を起こす岩石の破壊範囲はある広がりを持っています。その岩石が破壊するときに最初に壊れ始める地中の点を「震源」、「震源」の真上の地表の点を「震央」と呼んでいます。また、「震源」の地表からの深さを「震源深さ」、震源と観測点の距離を「震源距離」、震央と観測点の距離を「震央距離」と言います。これらの状況を図4に示します。
図4 震源(しんげん)と震央(しんおう)
A震源域(しんげんいき)、震源断層(しんげんだんそう)
地下の岩石の破壊が始まるところが「震源」です。地震を起こす岩石の破壊範囲はある広がりを持っています。この岩石が破壊する範囲のことを「震源域」あるいは「震源断層」と呼んでおり、余震の分布や地表に現れた断層などから推定されています。
なお、地震の大きさ(規模)が大きくなるに従って「震源域」も広くなります。
(出典:「地震調査研究推進本部」加筆修正) 大きい地震の震源域 小さい地震の震源域
図5 震源域(しんげんいき)、震源断層(しんげんだんそう)
地震 地震動
地球を構成する地下の岩石が何らかの原因で急激に破壊する自然現象を「地震」と言います。この岩石の破壊により放出されたエネルギーが「地震波」として四方八方に広がって地中を伝わり、そして、わたしたちの住んでいる地面に達して大地を揺らします。
岩石の破壊そのものを「地震」、地震による地面の揺れを「地震動」と呼んでいます。なお、「揺れ(地震動)」は、震源から遠く離れるに伴い小さくなって いく性質があります。
「地震」と言うと、地震そのものを指す場合と地震による地面の揺れ(地震動)を指す場合があり、混同して使われているようです。正しい認識を持ちましょう。
Cマグニチュードと震度の違いは?
「マグニチュード」は、地震そのものの大きさ(規模)を表すものさしです。一方「震度」は、ある大きさの地震が起きた時のわたしたちが生活している場所での揺れの強さのことを表します。 マグニチュードと震度の関係は、例えば、マグニチュードの小さい地震でも震源からの距離が近いと地面は大きく揺れ、「震度」は大きくなります。また、マグニチュードの大きい地震でも震源からの距離が遠いと地面はあまり揺れなく、「震度」は小さくなります
マグニチュードと震度の関係
では実際の原子力発電所の耐震設計はどのように行われているのでしょうか?
実際には次に示す「耐専スペクトル」を用いて行われます。
・耐専スペクトル(距離減衰式)
耐専スペクトルとは、原子力発電所の耐震設計用として整理された距離減衰式の一つです。耐専スペクトルは、岩盤において観測された地震観測記録をデータベースとして作成されており、地震規模M、等価震源距離Xeq(震源断層の拡がりを考慮した仮想的な震源距離)、地盤の弾性波速度(地盤の硬さ)を考慮して解放基盤表面における地震動(応答スペクトル)を算定するものです。
注)耐専スペクトルとは、原子力発電所のための耐震設計専門部会で検討されたスペクトルの略称のことであり、算定方法は、電気協会の技術指針 (JEAG4601-2007)に記載されています。
地震規模M(活断層の長さと幅) 震源距離Δ 距離減衰式を用いた地震動評価
構造物の耐震設計
地震による地盤の揺れ (地震外力) を適切に評価し、その地震外力に構造物の耐力で持たせる設計、つまり、力には力で対抗する設計概念を「耐震設計」と言います。
注)力に対抗する「耐震設計」に対して、力を逃がす「免震設計」があります。
地震外力を静的な水平力 (鉛直力) に置き換えて、その水平力 (鉛直力) を構造物に作用させ、その発生応力が許容値以内であることを確認するものです。地震力を水平力に置き換えて構造物の耐震設計をする手法は、日本が世界で最初に考え出したものです。
なお、動的解析 (地震応答解析) もありますが、基本的には静的解析の考え方が基本になっています。 注)動的解析:ある時間をとれば「力は釣り合っている」という考え
【 耐震設計における要点 】
@地震外力:「地盤の揺れの大きさ(加速度)」と「構造物の質量」の積で表したもの
F=m×α
F:構造物に掛かる地震外力
m:構造物の質量
A地震外力の算定が非常に重要
・震源特性
(地震そのものの特性)
・伝播特性
(深部地下構造の精度)
・サイト特性
Bその地震外力に耐えるように構造物を設計
・構造物に掛かる地震外力は
・地震波の卓越周期と
構造物の固有周期が
一致すると共振現象
が生じ、地震外力が
大きくなる
地震外力の算定方法 固有周期の違う構造物 T1T2T3 → 地震波形を入力 → 構造物が揺れる(応答する) → 揺れの最大加速度値を抽出 → 構造物に作用させる「地震外力」となる
地震外力の算定方法
地震外力の算定手法には、簡便的に算定する手法と詳細に算定する手法がある。
簡便な手法:距離減衰式を用いた地震動評価 → 例:耐専スペクトル
詳細な手法:波形合成法 (断層モデル) による地震動評価
発電所近傍の断層調査に基づいて断層モデルを決定
どちらの算定手法を採用する場合でも、断層の諸元が必要 注)下記の赤字は特に重要
断層の諸元:断層の位置と構造(位置、走向、セグメント)
断層の大きさ(長さ、幅)、深さ、傾斜角
地震規模
震源断層の平均すべり量
断層モデル(長さ、幅、傾斜角
等)
要するに「耐震設計」とは上記のような耐震計算用の応答スペクトルを算出し、そこから得られる最大加速度値を用い、耐震対象となる建物、機器がその加速度で壊れないことを示すという手法です。
なお今回の福島第一の地震では、福島第一発電所の耐震設計の最も重要なシステムで破壊が起きたという報告はありません。
今回話題になった津波について考えてみましょう
日本近傍では、陸側のプレートの下に太平洋の海側のプレートが沈み込んでいます。海側のプレートは沈み込む時に陸側のプレートを引き込みますが、100〜150年の長い時間をかけて、引き込まれた陸側のプレートの端が反発して跳ね上がり、地震が発生します。その時、同時に海底の地形も変化するため、その動きが海水を押し上げ海面に伝わって波が生じます。その波が「津波」です。
つまり、陸側のプレートの跳ね上がりにより「津波」が起こると考えられています。
「津波」の速さは、海の水深が深いほど速くなります。例えば、東南海・南海地震が起こる南海トラフのような水深の深いところでは、津波はジェット機なみの速さで進みます。また、わたしたちが住んでいる海岸付近の水深が浅いところでも、沖合いに比べスピードは遅くはなりますが、それでも水深が10m程度であれば時速約40kmと自動車なみの速さで進みます。このため、津波を見てからでは、例えオリンピック選手でも逃げることはできませんので注意して下さい。
ワンポイントメモ:津波の速度 津波の伝播速度(V)は次式で求まります。 秒速 : 時速 : (g:重力加速度で9.8m/s2、h:海の深さ(m)) この式から、津波の伝播速度(V)と海の深さ(h)の関係を求めると下図のようになります。
なお津波に関する耐震設計審査指針上の記載は、地震随伴事象に対する考慮として 「施設の共用期間中にきわめてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受ける恐れのないこと」となっています。過去の実績から福島第一では5.7m程度の津波を想定し対策を取っていました。今回の地震による津波は基準面に対し約14〜15m、敷地高は基準面に対し約10mであったため、約4〜5mの浸水を許しました。
(山形11
北山一美)