「学生とシニア」の対話実施概要
−対話 in名古屋大学−
松永一郎
1.実施主旨
昨年度から続けている「学生とシニアの対話」の名古屋大学版。日本原子力学会の学生連絡会及びシニアネットワーク(SNW)の活動の一端として、原子力系の学生とシニアの交流を図る。SNW主催の活動としては5回目の「対話」であるが、エネルギー問題に発言する会主催のものからの通算では11回目となる。
2.対話の目的
原子力系学生とシニアとの対話を通して、学生とシニア間の相互理解を図ると共に、今後の原子力、エネルギー産業について共に考え、これからの対話のあり方やエネルギー教育の実践あり方の参考にする。学生との対話では、彼らが社会へ出るまえに、原子力OBの経験や気概を少しでも吸収できる機会を提供し、今後の実務への自信に繋げてもらう。
3.対話の実施
(1)日時 平成19年3月30日(金)
13:00〜17:00 (懇親会17:30〜19:30)
(2)場所 名古屋大学工学部 ベンチャービジネスラボラトリー ベンチャーホール
(3)参加者
@学生37名(原子力系)
博士課程2、修士課程18、学部生17
(修士課程の内 武蔵工大2、神戸大1)
Aシニア
・SNW会員、協力会員 15名
荒井利治、石井正則、石井陽一郎、伊藤睦、小川博巳、金氏顕、岸本洋一郎、斎藤修、齋藤伸三、竹内榮次、竹内哲夫、中神靖雄、林勉、松永一郎、山崎吉秀
B教員
名古屋大学大学院 杉山貴彦助教授
(4)実施内容
a基調講演
・一緒に考えよう!私たちのエネルギーと環境 小川博巳 氏
b.対話
8グループに別れ、シニア2名に対して、学生が4名〜5名ずつ付いて対話。
学生のグループ分けは事前に実施したアンケート結果を参考にした。
対話の題材は各グループで対話を進めて行く段階で、学生側の興味に準じてグループごとに決めた。
対話終了後に各グループから対話内容のまとめが発表された。また、シニアを代表して、齋藤伸三氏から総合的な講評がなされた。
(5)結果
シニア各人から感想を収集。学生に事後アンケートを実施した。
(シニアの感想概要)
年度末の春休みという不利な条件下にもかかわらず、多くの学生の参加をみて盛会であった。学生たちは事前に講義等を通じて、環境問題やオイルピーク等についてもある一定の知識を有しているようで、原子力の重要性や発展性についてかなりの確信を抱いていることが伺われた。折からの、電力の過去のトラブル隠しや、データ改ざん等の不祥事の報道についてもかなり冷静に受け止めているようで、今回の対話を通じて、それなりに納得したようであった。ただし、自分たちの将来の仕事と具体的にどの様に繋がっていくのか、いまひとつ分からないというのが本音のようであり、その点を彼らに分かりやすく伝えていく工夫が必要である。
学生たちのレベルは高く、対話から何かを吸収しようとする意欲も強く、対話は成功であった。
(学生事後アンケート結果概要)
37名の参加者の内、30名から回答があった。(回収率81%)
@対話の必要性について、全ての学生から「非常にある」または「ややあるとの回答を得た。学生によって興味が異なるため、「対話」から得た情報は様々であるが、「深い知識や経験のあるシニアと対話をする」という貴重な体験そのものが、学生に大きな刺激となったようである。
Aエネルギー危機に対するイメージの変化については、55%の学生が変化したと答えている。これまでの講義などで、多くの学生はエネルギーに関して漠然とした危機感を有していたが、今回の対話でより現実味を帯びた問題であると再認識した学生が多かったようである。また世界規模で問題を解決する必要性を認識し、視野が広がった学生も見受けられた。
B原子力に対するイメージの変化については、変化した学生が45%であった。
世間ではデータ改ざん問題やトラブル隠し問題が取り上げられているが、参加した学生原子力に関する分野を専攻しているので、もともと原子力に対して肯定的なイメージをもっており、このような問題によって原子力の必要性に疑問を抱く学生は少なかった。シニアの話を聞いて将来の原子力に明るい展望を持った学生が多かったと考えられる。
C事前に聞きたいと思っていたことが十分に聞けたと答えた学生は79%という高い率であったことから、今回の対話では学生からの活発な質問や意見が多く出されていたといえる。
D対話内容に対する満足度は97%が満足したと答えている。その理由としては、学生が
聞きたいと思っていたことにシニアが分かりやすく、説得力のある説明で応じてくれたこと、シニアの熱意に大いに感化されたことなどが挙げられる。また、シニア2名に対して学生が4〜5名という組み合わせが、一人当たりの発言回数や超えの聞き取りに丁度良かったということも挙げられる。
なお事前にグループリーダーを決めておいたために、対話がスムースに運んだ点も見逃せない。
各設問に対する解答は下記の通りである。
(1) 「学生とシニアの対話」の必要性についてどのように感じますか?
1.非常にある 69% 2.ややある 31%
3.あまりない 0 4.全く無い 0
(2)エネルギー危機に対する認識の変化はありましたか?
1.大いに変化した 17% 2.多少変化した 38%
3.あまり変化しなかった 31% 4.全く変化しなかった 14%
(3)原子力に対するイメージに変化はありましたか?
1.大いに変化した 31% 2.多少変化した 14%
3.あまり変化しなかった 34% 4.全く変化しなかった 21%
(4)事前に聞きたいと思っていたことは聞けましたか?
1.十分聞けた 79% 2.あまり聞けなかった 21%
3.全く聞けなかった 0
(5)対話の内容は満足のいくものでしたか?
1.とても満足した 59% 2.ある程度満足した 38%
3.やや不満だ 3% 4.大いに不満だ 0
4.まとめ
今回の対話は年度末の春休みという不利な状況にもかかわらず多くの学生が参加し、彼らの満足度も高く、成功裡に終えることができた。その理由としては、学生幹事の宇留賀君が昨年の12月に開催された東北大における対話と、今年2月に行われた「学生幹事による反省会」に参加して内容をよく把握していたこと、準備期間にかなり余裕があったことが挙げられる。本人の力量が優れていたことは勿論である。
集まった学生たちの意識も高く、折からの電力の過去のトラブル隠し、データ改ざん問題で世間が騒いでいる割には、比較的事態を冷静に捉えており、これからの原子力の重要性と発展性に対して、かなり確信をもっている感じであった。ただ、それが自分たちの将来と具体的にどの様に繋がっていくのかについて、いまひとつ分からないというのが本音のようであり、今回の対話を通じて、聞きたい質問に答えてもらったことで、おぼろげながらも多くの学生が自信を深めた様子が事後アンケートからも伺える。シニアとしてはその点について、彼らに分かりやすく伝えていく工夫が必要であろう。
なお、シニア1人に対して、学生数は2〜2.5人というかなり贅沢な配分であったことも学生の満足度が高かった理由として挙げられよう。また事前にグループごとに取りまとめのリーダー役を決めていたが、そのことが円滑な対話の進行に寄与したことも見逃せない。こういったリーダー役を中心として、事前にグループ内で対話テーマ等について、学生同士で話し合いがもたれるようになれば理想的である。
ついでながら、今回は事後アンケートをとるために、かなり時間をとり(20分程度)記入してもらった。そのためか、多くの学生が自由記入項目にしっかりと記入していた。今までで一番充実したアンケートになっていると言える。
最後になりますが、今回の対話の準備と進行を精力的に進めていただいた名古屋大学大学院マテリアル理工学専攻の杉山貴彦助教授と、博士課程1年の宇留賀貴彦君に深甚なる感謝の意を表します。
5.今後の予定
近畿大学 詳細未定
6.対話写真
対話写真欄参照
添付資料
添付1 シニア感想
添付2 学生側事後アンケート結果
参考資料
学生事前アンケート結果
対話写真
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総合司会・開会挨拶 宇留賀学生幹事 |
シニアネットワーク 金氏幹事挨拶 |
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基調講演 シニアネットワーク 小川博巳氏 |
対話風景 |
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発表風景 |
講評 シニアネットワーク 斎藤伸三氏 |
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懇親会 |
懇親会 |
添付1 シニア感想
荒井利治
今回の対話集会は次ぎの幾つかのハンデイがあり心配していたが、結果は取り纏めの松永、伊藤両氏および皆様の御努力により、全国一巡の節目として良い成果が得られたと思います。
1.学会の春の大会修了後で、先生、学生とも気が抜けていないか。
2.当初学生の動員数を過少評価し、シニアの数が不足気味であった。
3.名古屋は中部電力が長年原子力に対するPA活動を続けてこられた
土地で、SNWの活動の趣旨が十分理解されていない恐れがある。
特に気づいた点は、
(1)取り纏めにあたったリーダー役の学生、宇留賀和義さんの準備、当日の運営に対するセンスが抜群であったこと。
(2)当日の学生が、原子力や核エネルギーに関係あるコースの専攻学生であったこと、また後で分かったのだが、先生が事前に竹内会長の論文を紹介されていたことなどから、小川博巳氏の基調講演の内容がよく理解されていた。
(3)従って、全体の半数の4グループで、原子力の話題、残り4グループが会社生活での心構えを対話のテーマに選んだ。私のグループは後者で、必ずしも現在の専攻にこだわらず、基礎をしっかりやっておけば会社で新たな展開があることを自分の経験から述べた。これは話を聞くと学生の専攻の動機が、自分は絶対これをやりたいというほど強くなかったことによる。
(4)しかし今後、学問も、仕事も細分化が進み、専門性が強く求められるようになる
と考えられる。その場合、幅広く全体を知った上で、専攻分野の意義を理解し、興味と情熱をもって取り組むタイプの学生が必要とされよう。
会社で新入社員全部に基礎から教えていたのでは間に合わないからである。そして
その質と数が外国との競争の上で問われる時代が来る。
年代が違うからと分かっていても、おとなしく、余り積極的に話さない学生を前にして、今後の教育のあり方に思いをはせた。
石井正則
3月末という、卒業・就職される方は巣立った後という時期に、盛大な対話集会ができたことは、先生のご理解とともに学生幹事、参加学生諸君の熱意の賜物と思います。それだけに、シニアとしても少しでも多く応えたいと思い、懇親会の時間も活用させてもらいました。
今回は核融合も含めて原子力を選択した学生が主体であり、あらかじめ行なったアンケートからも、シニアに対との対話の焦点が概ね絞られておりました。また、直前に報道された情報隠しなどに対する心配も大きいかと思いましたが、過去の業界の体質を清算するためということで、理解してもらえたように思います。せっかく原子力立国という夢に向かっているだけに、彼ら若い世代には、この面での付けは残さないようにしなければならないと痛感しています。
あらかじめ提起されていた話題、「原子力の将来」「高速増殖炉の状況と課題」「学生がすべきこと」の応答を通して、特に会社に入ってからの生きがいや喜びというものがどういうものかについて、学生諸君の関心が高いと感じました。失敗は必ずする。失敗の苦難を克服し、期待したものが達成された時の喜びを味わってもらいたい、同時にそれにより一流のエンジニアや研究者に成長してもらいたいと念じています。
石井陽一郎
今回は原子力、量子力学の学生のみで、当初よりも学生参加数が十名以上増え、シニアも対応して増えました。 予想どおり学生のレベルも高いし、関心も高かったと思います。
学生の関心事項がアンケートにより事前に整理されていたのは運営上よかったと思います。
私の感じでは学生はアンケートおよびプレゼンテーションにより具体的なところはともかく、包括的には原子力についてよい意味であらかじめ把握していたと思います。
原子力にはとかくネガテイブな話が多い中で、学生の本音は原子力は飽和産業化しているのではないか、「やりがい」ある魅力ある仕事はどれだけあるのだろうかということにあったと思います。
この点、現役、OBの役割は大きい。 環境・エネルギーセキュリテイからくる原子力への世界的追い風、2030年頃からの日本の大量の廃炉、更新問題、設備・燃料の長寿命化、建設のみならずメンテナンスへの比重増加、設備は常に時代ともに革新だけでなくマイナーな改良がおこなわれる。 特に原子力にはやることはたいへん多いと思う。
さらに我が国近代産業のいくつかの柱の中では高効率化、とりわけ原子力には安全・安心が基本前提になる。 原子力においても日本の人材は世界からも期待されている。 不断に研鑚、向上が必要である。
個別に懇談するのはつっこんだ話が出来、これまたたいへん面白く有意義でした。
懇談のまとめの一つに「考える」というのがあったが、これは問題解決力のことである、 たいへん大切なことである。そのための教育であり、未知の要素に挑戦することである。 学生諸君は以上により原子力への思いがいっそう確たるものとなったと期待します。
伊藤 睦
1)地元、大物シニアの参加で学生さんも喜んでくれたと思います。
2)特に、我々のグループでは今後の原子力開発で立地問題が出て、これに対して、長年地元対応で経験された苦労からの話は説得力があったと思います。
3)学生さんはよく原子力のことを勉強していて、質問が具体的である。たとえば、「高速増殖炉の実証炉の建設運営は日本原電になるのか」、「軽水炉との競合は」、「開発に時間が掛かるのはなぜか」といった我々の疑問でもあるような事が出てくる。一年前の学生との対話で議論された、石油危機とか資源論は卒業しているように見える。
4)全般的に、原子力の将来に希望を持っているが、何か今一つしっくりしてない感じが伺えた。本当に建設が進むのか、もう成熟産業で新しいことも無いのでは、と言った疑問に応える必要があろう。
5)この一年で、原子力の風向きが変ったこともあり、学生さんの意識も相当変ってきた事を感じた。これからの対話会では、基調講演の内容を含めて対話の焦点を臨機応変にする事が求められると思います。
6)今回基調講演の初頭に「制御棒脱落事象」問題を取り上げたことは、なんとなく重苦しい雰囲気を和らげて、大変良かったものと思います。
小川 博巳
[事前準備と学生の積極性について]
グループリーダを事前に選任し、事前アンケートを介して対話会へ臨む心構えをさせるなど、ちょっとした事前の準備が、シニアとの対話テーマをごく短時間で絞り込み、対話会をスムースに展開する上でかなり効果的であった。対話会の成否は、「対話会に臨む学生の心構え如何」によって決まるが、その様な視点からは、これまでの対話会の中でも際だっていたと云える。学生幹事の宇留賀さんが、東北大にオブザーバー参加して以来、工夫を凝らした成果を高く評価したい。
次回以降へ引き継ぐべき、貴重なノウハウの一つであろう。
加えて、「量子エネルギー工学」を専攻する学生で、原子力・環境などにかんする予備知識のレベルもかなり高く、対話に於ける積極性もこれまでにない意欲的なものが感じられた。これは、日頃の講義の中でバランス取れた適切な情報が与えられ、又は視点を高め、或いは広めるための適度な刺激が与えられている結果であろう。名古屋大学の学生に対する姿勢が窺われ、敬意を表したい。
[原子力への魅力について]
シンポにおける山本先生のご指摘と併せ、対話・懇親会における杉山先生のご発言は、貴重な課題を提起された。
即ち、『原子力を学ぶことに対する魅力』を如何に学生に与え得るか? 『原子力発電は既存の技術であり、新たな技術開発の余地が少なく、未知の領域が乏しい、魅力に欠ける技術領域』
に成り下がっていないか?
産業界は、マスメディアの偏った報道により足を引っ張られていることを恨むのではなく、どの様にしたら次世代の若者に夢を与え、希望を抱いて「原子力の門戸」を叩く動機付けが出来るかを、真剣に考えるべき時を迎えている。大学への進学を控えた高校生達にも、夢と希望を抱かせうる「魅力」を如何にアッピールするかは、我々シニアも含めて原子力産業界の大きな課題だ。「原子力の過去の懺悔」が暫らく尾を引くであろうが、若者が観て「輝きを失った原子力」にしない工夫が求められる。
国の原子力人材育成計画でも、産官学こぞって知恵を絞るべきテーマであり、産業界は電事連・電工会或いは原産協などで組織的に真摯な検討をすすめる必要があろう。SNWとしてその提言をすべきではあるまいか?
金氏 顯
1.春休みの真っ最中に参加するだけあって参加学生は皆原子力産業界に進みたいという意思表示には頼もしく思った。前日の山本一良先生の講演で若い先生方が学生へ原子力分野の魅力をPRしていると伺ったがその成果だと思われ、名古屋大学の原子力系の研究と教育の取り組みを高く評価したい。また今回の対話は準備が周到に行なわれた、指導の杉山先生、幹事のD1宇留賀さんのお陰である。
2.グループ3のメンバーは、学生がD1が一人、M1とB3がそれぞれ2人の5人、シニアは石井陽一郎さんと私の2人。世代、経験や専門がシニアも学生同士も皆それぞれ異なり、色々な話題に対する知識、意見が異なって、シニアの一方的な話でなく、質疑、反論、意見交換など良い意味で活発な対話になった。人数比も世代もバランスよかった。
3.事前アンケートでの質問上位9件(10人以上)に対し予め回答を参考に用意し学生に渡した(皆様のご参考に添付、一部追記)ので、学生たちも安心して自由討論に入れたと思う。2時間の対話の大半は将来の就職(M1にとっては目前)を意識した質問回答(原子力産業界にこれから仕事はあるのか?どのようなものか?原子力専攻学生より機械や電気の方が沢山必要なのか?など)であった。シニアからは原子力専攻としたときに親や友人の反応は?またそれにどう対応したか?など質問し彼らの選択を激励し心構えなど経験に基づき話した。
4.昨今マスコミで叩かれている原子力業界の不祥事やトラブルは学生達も関心事であり、これらの背景、実情など説明し少しは安心したようだが、原子力の業界に不安、不信を抱かないよう、今後の展開を含め何らかの方法で彼らに正しく伝える必要がある。
岸本洋一郎
すでにエネルギー問題、環境問題の講義を受けていることもあってか、今後の原子力の展望についての関心が全員高かった。世界の中で日本の中で原子力が果たすべき役割について、また、原子力分野でまだまだ山のようにあるやるべきことについて、いろいろな角度からのシニアの認識が伝わることにより、良い動機付けになったのではないか。
企業の求める人材については、8グループ中4グループで話題なったが、どのグループでもシニアから重要な類似のサジェッションが伝えられていた。このことからも分かるように、働いてきた企業や機関の違いを超えて、シニアの長い経験からの教訓をしっかり伝えることは大変に重要であると思う。
今回の対話は、昨年11月30日に、経済産業大臣が、「ありとあらゆるこのようなデータ改ざん、隠蔽の事件を過去にすべてさかのぼって調査せよ」という指示をすべての電力会社に出し、過去の「制御棒引き抜け」などの「トラブル隠し」や「データ改ざん」といった事柄が順次公表されているなかで、行われた。学生にはすべてオープンにしようとしている最中ということで、理解されたようである。メディアの報道の誤りを指摘した意見もあり、批判力もなかなかである。(北陸電力志賀1号の制御棒引き抜けの朝のTV報道で、間違えばチェルノブイリになるという説明があったという件。)
斎藤 修
1.事前準備
今回の集会はジニアと学生の幹事の連絡及び事前の準備がすばらしく大変スムースにかつ効果的に対話が行われたのには感心させられた。特に学生幹事の運営が光っていた。
2.前日の連絡会企画セッションでの山本教授のお話では、原子力学科の希望者数の低下について具体的な数字で示されて、改めてショッキングな数字であった。最近いくらか回復気味であるとのことで少し気が休まったが、原子力の魅力について我々シニアがもっと熱を入れて語るべきであると、改めて考えさせられた。
3.今回の学生は専門に原子力やエネルギーについて勉強している人達であったので、小川さんの講演(大変いい内容であった)についても十分に理解したようで、普段の勉強ぶりが想像されるものであった。
4.最近の学生は昔と違って、ディベートなどよくやっているのではないかと思っていたが、学内での機会は意外と少ないということであった。今後の国際的な活動を考えると、もっと考慮されてもいいのではないかと感じた。
齋藤伸三
名古屋大学の学生は、一定の知識レベルも持ち、参加学生は問題意識も高く、幅広く真剣に対話が進んだと思います。 印象に残った2,3点を以下に記します。
1.中学生の時に、JCO事故が起こり真実は何かと関心を持ち原子力に進んだと言う学生が参加しており、そのようなきっかけもあるのかと気持ちを新たにしました。小生が、3日3晩現地対策本部(原研東海研究所)で技術的指揮に当たった一部始終を話したところ大変な興味を示し納得した様子であった。
2.原子力は二酸化炭素を排出しないが、本当に放射性物質の放出による危険性はないのか疑問を感じているとの率直な意見も出され、これに対し、設置許可申請の際に仮想事故解析を義務付け、この解析では事故進展のシナリオなしに格納容器内に放射性希ガス100%、放射性ヨウ素50%が放出されるとして評価することになっており、それによっても周辺公衆に著しい放射線災害を与えないことになっていると説明したところ、そのような説明を一般にもすれば納得されるのではないかとの反応があり、一つの示唆であると思えた。
3.原子力関連企業等への就職希望を有する学生が多く、原子力企業の将来性を心配していたが、原子力発電は将来に亘って必要であり、メーカーも国際展開が期待されているので将来は寧ろ洋々としていると話しておいた。
電力、メーカーもこれからの若者の希望と期待に応え、それを直に若い学生に発信していくことが大切であると感ずる。
竹内榮次
名古屋で開催される初めての対話であったので、地元出身のシニアとして参加した。多くの学生とシニアが一堂に会しての対話は盛会であり、地元からの参加者が1名であったのはいささか残念であった。
学生が皆、まじめで真剣であることに感銘を受けた。いま世間では、過去のトラブル隠し、データ改ざん等の問題で電力に対する信頼が大きく揺らいでおり、シニアとして責任を感じている。SNWのこのような対話活動を通して、信頼回復をはかることは重要である。今後また機会があったら参加できたらと考える。都合により、懇親会に出られなかったのは残念である。
竹内哲夫
ラウンドの終回の集会が終わり名古屋であったということ、ペアの西村さん(GNF)が急遽欠落し、それにかわり若手の先生の杉山助教授が参加したので、一風変った体験になりました。
日頃の先生・生徒に、喋り屋の私が闖入した構図になった。
押しなべて感想は:
@学生の時代を見る目と先行きに対する知識欲、自分が将来何オなすべきかについては極めて意欲的であった。
素直に先行きのオイルピークと原子力の意義を既に知っている。
何が今後社会入りした時に役立つかを模索して自分の人生設計をしている姿勢はよかった。
今回のSNWのプレゼンみたいな話は講義で既に杉山先生が学生に講義をしたとの事であり、これまでのいくつかの大学よりは名古屋の学生はこういう面からは大人ポイ感じだった。
Aあまり皆さんが小職の人生経験を熱心に聴くので、つい喋りすぎて、途中で杉山先生が学生は「自分のまとめの発表」があると諭されたのは、私の失態で、反省しています。
B小中高教育との意見を聞いたが、突然に大学で核融合までを視野に専攻を決めたような学生もいるが、本人の経験では、学科専攻の決定などには、親の反撥もあり、国民全体の初等教育における原子力、エネルギーの欠落については、将来の教育指導要領の改訂が是非必要だと、皆が意見一致した。
総じて名古屋ラウンドは高ぶりもなく、真摯な対話が若者との間に出来たとの印象です。
中神靖雄
今回は春休みということもあり、私の属した第2グループは頭書学生名簿の6人のうち、4名が欠席となりましたが、神戸大学の岡本さんとピンチヒッターの高橋さんが加わり、
頭書メンバーの学部の笹田さん、今山さんの4名とシニア2名で有意義な交流が出来た
のではないかと思っています。
まず学生側から関心のあるテーマとして、「原子力産業の将来」「高速増殖炉などの新型
炉の現状と将来」「企業での仕事の内容と何が求められるのか」が提起され、シニアから
自分達の経験に基づく見解を述べ、更に学生側から問題点や不安等が提起され討論しました。
最近の原子力を取り巻く情報隠蔽・改竄の背景や、国民に原子力が理解されないことに対し解決策はあるのか、話が進みました。
シニア側がしゃべり過ぎ、学生側にもっと発言を促すべきだったかと、若干反省もしていますが、学生の皆さんはそれぞれ意識も高く、原子力の分野に取り組んでいる、又はこれ
から取り組もうかとしておられる若者達で、今後の成長が大いに期待できると思った次第です。
参考のため、予め頂いた事前アンケートで関心の多かったテーマへの話題提供用として当日配布したペーパーを添付します。
林 勉
毎回学生側の取りまとめ者は参加学生を集めるのに苦労していると聞いていますが、今回は37名も参加していただき良い対話ができました。学生達は原子力工学専攻で、原子力についてもかなり勉強していることもあり、それぞれ問題意識も高く、有意義な対話ができたと考えます。就職も電力会社、メーカー等希望もかなり明確な物を持っており、頼もしく感じました。懇親会の席で今回の対話の感想を尋ねてみましたが、殆どの学生が大変に有意義であったと言ってくれていました。これらを総合して今回の対話は大成功であったと思います。
気になった点2点下記します。
1.対話に参加していただいた、杉山先生が懇親会で話しかけてこられて、「原子力は既に成熟分野であり、新しいことに挑戦する学生達にとって魅力ある分野ではなくなっている。これをどうするか真剣に悩んでいる」といっておられました。
この点については、原子力学会のセッションで山本先生もテーマとして取り上げていましたが、今後我々としてもどのように学生達に訴えていくべきか検討する必要があると思います。
2.今回の「臨界問題」にからんで、学生側とりまとめをやってくれた宇留賀君が「制御棒の引き抜け問題で全数引き抜けのようなケースでどうなるか等不安が残る」と言っていました。このような不安はごく自然なものであると思います。このようなケースに対してどのような防護策が講じられ、その発生確率はどのようなものであり、確率的に考慮しなくて良いものであるか等についても検討し、学生達にきちんと説明できるストーリーが必要であると思いました。
松永一郎
今回の対話は年度末の春休みという不利な条件下で、修士2年の学生が一人も参加しないという状況にもかかわらず、多くの学生が参加し成功裡に終えることができた。その理由としては、学生幹事の宇留賀君が昨年の12月に開催された東北大における対話と、今年2月に行われた「学生幹事による反省会」に参加して内容をよく把握していたこと、準備期間にかなり余裕があったことが挙げられる。本人の力量が優れていたことは勿論である。
そのために、集まった学生たちの意識も高く、折からの電力の過去のトラブル隠し、データ改ざん問題で世間が騒いでいる割には、比較的事態を冷静に捉えており、これからの原子力の重要性と発展性に対して、かなり確信をもっている感じであった。ただ、それが自分たちの将来と具体的にどの様に繋がっていくのかについて、いまひとつ分からないというのが本音のようであり、今回の対話に参加しておぼろげながらも多くの学生が自信を深めた様子が事後アンケートからも伺える。
ついでながら、今回は事後アンケートをとるために、かなり時間をとり(20分程度)記入してもらったが、そのために多くの学生が自由記入項目にしっかりと記入していた。今までで一番充実したアンケートになっていると言えよう。
なお、シニア1人に対して、学生数は2〜2.5人というかなり贅沢な配分であったことも学生の満足度が高かった理由として挙げられよう。
山崎吉秀
対話での所感ですが、私共のグループ8の学生さん、計測関係の研究に当っている人達 ばかりでしたが、エネルギーとしての原子力にも強い関心があると見かけました。
原子力の将来展望とか、何故社会に受け入れられにくいのかといったことの会話のなかで、
ずい分彼らにとって勉強になったのではと推察しております。特に我国は勿論であるが、地球規模で見ても原子力の役割は欠かすことが出来ず、これからの発展は必至のものであるといったところに強く印象づけられていたように思う。逆に普段、広い視野で原子力をとらえる機会が案外少ないのではとも感じた次第である。いずれにしても熱心な会話に接してみると彼らはきっと原子力界の有用な人材になってくれると、意を強くした次第です。
懇親会の方、大阪での先約があってエスケープして申し訳ありませんでした。
添付2 「学生とシニアとの対話」事後アンケートの集計結果
先月3月30日に名古屋大学にて開催された「学生とシニアとの対話」の事後アンケートを集計したので,結果を以下にまとめる.今回は,学生の参加総数37名のうち30名から回答を得た.参加人数の内訳は表1に示す通りである.
表1 参加人数の内訳 |
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シニア |
15名 |
職員 |
1名 |
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D1 |
2名 |
M2 |
1名 |
M1 |
17名 |
大学院生合計 |
20名 |
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B4 |
11名 |
B3 |
6名 |
学部生合計 |
17名 |
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総計 |
53名 |
なお,参加者には当日運営のご協力をいただいた学生連絡会の3名(M1 2名,M2 1名)を含む.学生連絡会の3名を除き,学生はすべて名古屋大学の原子力関連の専攻である.
(1)「学生とシニアとの対話」の必要性についてどのように感じますか?その理由は?
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主な理由:
· 研究室以外の人と話すことで視野が広がるため.
· シニアの方々の知識や経験は非常に興味深く貴重であるため.
· 伝えるということの大切さを実感できるから.
· 学生では情報を得にくい過去の問題や企業の実際などを聞くことができるから.
· 広い視野から原子力を見てきた人たちの話が聞けるから.
· 話を聞くことで意識が高まり,心が引き締まるから.
· 原子力の現状や展望について正確な情報を共有できる機会であるから.
· 学生にとって良い刺激となり,原子力についての勉強に意欲が出るから.
· 原子力分野に携わるものとしてシニアの方々の経験や知見を引き継いでいくことは重要であるから.
· 学生が企業のOBと交流できる貴重な場であるため.
· 現場に関しての見識が深いシニアの方と話すことで,社会で必要な能力がどのようなものであるかといった就職活動のヒントが得られるから.
· 新聞などで得る情報よりも具体的でわかりやすい話が聞けるため.
今回の結果ではすべての学生から対話の必要性について「非常にある」または「ややある」との回答を得た.学生によって興味が異なるため,「対話」で得たい情報は様々であるが,「深い知識や経験のあるシニアと話をする」という貴重な体験そのものが学生に深い刺激を与えたことは確かであるといえる.
(2)エネルギー危機に対する認識に変化はありましたか?その理由は?
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変化した主な理由:
· 原子力エネルギーが今後も重要であることが再認識できたから.
· グローバルな見解ができるようになったから.
· 講義などを通してエネルギー問題や環境に対する認識はあったが,「対話」により,それらに対する具体的な展開(FBR,Puバーナーなど)を聞くことができ,エネルギー危機に対する認識が深まったため.
· 現在使用しているエネルギーの4割が将来なくなると聞いて衝撃的だったから.
· 日本のエネルギーに対する危機の甘さを痛感させられたから.
· 中国のほかにインドやアメリカでも原子力の需要が今後高まってくると新たに知ったから.
· 化石燃料だけではエネルギーをまかないきれないと知り,原子力への期待がより大きくなったから.
· オイルピークについて知らなかったから.
· 水素の必要性についても認識が深まったため.
· 漠然とした危機感に具体性を帯びたため.
変化しなかった主な理由:
· 「対話」の内容が知識の範囲内であったため.
· 大半は授業で聞いた内容と同じだったため.
これまでの講義などで,多くの学生はエネルギーに対して漠然とした危機感を持っていたが,今回の「対話」でより現実味を帯びた問題であると再認識した学生が多いと考えられる.また,世界規模で問題を解決する必要性などを認識し,視野が広がった学生も見受けられた.
(3)原子力に対するイメージに変化はありましたか?その理由は?
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変化した主な理由:
· 今後,原子力発電所の建設がリプレイスなどで増加していくと聞けたため.
· 原子力を「産業」として見た場合のリスクやコストといった概念は新鮮であった.
· 原子力が国の政策として取り入れられると知ったから.
· これからの電力は原子力以外に考えられないと感じたから.
· 実際に働いてきた人の話を聞けたから.
· 原子力の将来が非常に明るいものであると感じたから.
· シニアの方々の原子力に対する前向きな考えや,力強い語り口調,まだまだ現役には負けないといった意気込みに感化されたから.
· 国際的な技術協力などが今後の原子力分野で重要となり,世界から見た日本の役割は大きいと思ったから.
· 日本の原子力に関する技術レベルが高いと知り,安心できたから.
· 隠蔽や改ざん等の暗い問題を清算し,今後はより明白な社会になると聞き期待が持てるようになったから.
変化しなかった主な理由:
· もともと原子力に対してよいイメージを持っていたから.
· 原子力分野専攻であり,原子力に対する考え方にシニアの方々との相違はなかったため.
世間ではデータ改ざんや隠蔽などの問題が取りあげられているが,参加した学生は原子力に関連する分野を専攻しているため,もともと原子力に対して肯定的なイメージを持っており,このような問題によって原子力の必要性に疑問を抱く学生は少なかった.シニアの方々の話を聞いて将来の原子力に明るい展望を持った学生が多かったと考えられる.
(4)事前に聞きたいと思っていたことは聞けましたか?
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約8割の学生が聞きたいことを十分に聞くことができたと回答していることから,今回の対話では学生からの活発な質問や意見が多く出されていたといえる.このことが,後の設問(5)における満足度につながったものと考えられる.
(5)対話の内容は満足のいくものでしたか?その理由は?
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満足した主な理由:
· 普段聞けないような話(FBRについて,原子力の産業としての側面,企業の話,昔の経験談,原子力の将来)が聞けた.
· 知識や経験が豊かなシニアの話を聞けたから.
· 他の人の様々な質問により,自分以外の考え方が開けたから.
· 自分の意見に耳を傾けていただけたから.
· 楽しく和やかな雰囲気でざっくばらんな話ができたから.
· 最近の制御棒抜けや隠蔽問題について総合的に聞くことができたから.
不満である主な理由:
· 対話時間が少し短かったから.
· あまり自分の意見がいえなかったから.
· まとめ役がなかなか決まらなかったから.
参加学生の97%が対話内容に満足しており,今回の「対話」が学生にとって有意義なものであったといえる.満足な対話につながった理由としては,学生の原子力に対する疑問や質問に対し,シニアの方がわかりやすく,説得力のある説明を持って応じて下さったためといえる.また,シニアの方々の熱意に大いに感化されたことも満足につながった理由といえる.グループの規模や部屋の大きさは一人の発言回数や人と人との物理的間合い(グループ内の声が聞こえない,グループ外の声が聞こえる)を左右させるが,今回のシニア2人に対し学生5人程度は対話を円滑に進める上で適当であったと思われる.対話のまとめ役は事前に最高学年の学生に頼んであったが,まとめ役が欠席したグループが3つあり,新たな候補の選出に苦労したようである.まとめ役は必ず事前に決めておくことが円滑な対話を行う上で重要であるとわかった.
(6)原子力に対する関心の低い10代,20代の若年層に対する原子力広報活動はどんな方法が良いと思いますか?
· 学校や企業へ出張訪問,出前講義をして,エネルギー問題や温暖化について理解してもらい,原子力のメリットや必要性を訴える.
· 原子力に対して否定的なメディアに対し,国の政策をもっと理解させ,報道をさせる必要がある.
· テレビのCMや科学館への誘いをする.CMだけでなく報道番組でも放送する.
· 教科書にエネルギー問題や原子力についての記載を増やす.
· 一般の人でもわかるように専門用語を使用せず,図などを用いると効果的だと思う.
· 原子力には関心がないというわけではなく,現実味がないため興味がもてないと思う.「対話」もそうであるが,何か頭や体を使った「体験」が重要だと思う.
· 数式等が出てくる学術書ではなく,原子力に関する一通りの知識が付く文庫本を一冊出版する.
· 原子力がなくなった場合に今の生活がどのように変化するのかを具体的に話をする.
· インターネットを利用する.
· 小中の教員に正しい知識を勉強してもらう.
· 現在のエネルギーに関する問題について,数値をもって説明し,現実味を持たせる.
· 有名俳優主演で「不都合な真実」のような映画やドラマを製作し,上映する.
(7)本企画を通して全体の感想・意見などがあれば自由に書いてください.
· 非常に有意義な時間であった.
· またこのような機会があればぜひ参加したい.
· 今後もこのような活動を行って原子力に関することを広めていきたい.
· もっといろいろな人がシニアの方と話ができるような機会を増やしたい.
· 普段話す機会を持てないようなすばらしい方々とお話ができて非常に楽しかった.
· シニアの方々の出身を考えて質問をする学生が多いのに驚いた.
· 共通のテーマを持つ人が集まれば短時間でもっと深くテーマを絞って話せると思う.
· グループメンバーの事前アンケートの結果が知りたかった.
· 講演の時間を対話に使って欲しかった.
設問の(1)や(5)と合わせて,学生は総じて「対話」に満足であり,このような機会をもっと増やして行きたいと感じている.今後の「対話」を行う上で参考となる意見としては,「共通の話題をもっているメンバーでグループを作る」ことにより「限りある時間内で内容の濃い対話」を行うことが重要ではないかと思う.これには,事前アンケートのとり方を工夫する(今回のアンケートでは取り上げたい話題の選択肢が多く,しかも複数選択ができたため,テーマを絞りにくい)ことに加え,これまで一度も実現していなかったグループ内の事前の打ち合わせが有効であると考える.名古屋大学での開催は今回が初めてであり,参加者もほとんどが初参加であるため,会の主旨や内容,得られる効果などを想像することが難しく,事前の打ち合わせをする「雰囲気」に至ることができなかった.しかし,「対話」の開催地もおおむね日本全国を網羅し,次回の開催からは過去の対話を経験した人が出てくるはずである.そうなれば,主催者からではなく,前回の対話で意義や重要性を十分に理解した学生の中から,グループ分けやリーダーの選出が自発的に行われ,事前の打ち合わせに至る「雰囲気」が形成されるものと思われる.
今回の「対話」では参加者を募るに当たり,職員からの呼びかけは一切行っていない.これは,職員の呼びかけによる強制参加をなくし,学生の自発的な参加を目指したためである.この結果,当日無断欠席をする学生も幾人か見受けられ,グループによってはシニアの方や参加学生にご迷惑をかける結果となったかもしれない.この点については深くお詫び申し上げたい.しかし,多くのグループでは積極的な対話が展開され,シニア−学生の双方に満足のいく有意義な時間となったと考えている.今後は,このような学生からの積極的な活動を進展させることにより,「対話」のひいては原子力全体のネットワークが広がっていくことを目指してきたい.
参考
「学生とシニアとの対話」事前アンケートの集計結果
名古屋大学
宇留賀 和義
今回は原子力や核エネルギーに関係のあるコースに所属する学生約140名を対象に「学生とシニアとの対話」への参加および事前アンケートへの協力を要請し,112名から回答を得た.以下にアンケートの結果をまとめる.
1.参加者
参加者の学年別内訳
B3 |
8 |
B4 |
14 |
M1 |
16 |
M2 |
0 |
D |
3 |
合計 |
41名 |
参加者は学部3,4年生とM1が大部分である.M2は就職の関係から参加は困難であったと考えられる.アンケートの自由記載欄にはM2の学生から「是非参加したかったが時期的に困難」,「3月上旬であればよかった」などの意見があり,開催日程については検討の余地があると思われる.博士課程の学生が3名出席するということで,各グループに配置し,対話を円滑に進めるグループリーダーのような役割をお願いする予定である.
2.エネルギー問題や環境問題に関心があるか
回答者の96%がエネルギーや環境問題に関心があり,学生が高い問題意識を持っていることが明らかとなった.特に,「対話」への参加者に着目すると,71%が「非常に関心がある」との回答であり,問題意識の高い学生の参加率が高いことがわかる.当日の活発な意見交換が期待できるものと思われる.
3.原子力は必要であるか.
この問いに対しては回答者のすべてが「必要である」と回答した.アンケートの対象が原子力に関連のあるコースに所属している学生であり,原子力の必要性については共通の認識としてあるようである.
4.将来の1次エネルギー源は何になると思うか.(3つ以内で回答)
アンケートの3番に関連し,多くの学生が将来的に原子力エネルギーが必要であるとの認識であった.化石エネルギーは31%を占めており,依然として必要であるという考えを持つ学生が多いようである.特に,石油や石炭よりも天然ガスに注目する人が多かった.これは,石油はまもなく枯渇するとのイメージによるものではないかと推測される.半面,自然エネルギーへの期待は20%以下の低いものであった.また,核融合などの将来エネルギーを挙げる学生も2%と低かった.これらの結果は対話を始めるきっかけとして有効に活用できるものと思われる.
5.原子力について学んだことがあるか.
この問いについては,対象が原子力関連の学生であるため,90%が「ある」と回答した.あらかじめ対象が原子力関連の学生であるとわかっていたため,あまり有効な設問とはならなかったと感じている.「自分は原子力の知識があると思うか」といった自己に問いかける内容にしたほうがよかったと考えている.
6.「対話」で取り上げたいテーマについて.
この結果については参加者からの回答のみを有効としてまとめた.以下の表に対話のテーマとそのテーマをチェックした人数をまとめる.
対話のテーマ |
人数 |
化石燃料が枯渇するというが、それほど切迫した危機として感じることはないのではないか? |
5 |
オイルピークの問題とは具体的にどのようなことか?将来的にどのようなことになってしまうのか? |
2 |
日本は将来、どのようにエネルギーを確保すればよいのか?日本人のエネルギーに対する危機意識を変えるためにはどうすべきか?学生はどうすればよいのか? |
17 |
太陽光や風力、バイオマスなどの自然エネルギーの利用をもっと高めるべきではないか? |
6 |
今後の原子力はどうなるか?発展?停滞?衰退?また短期的、長期的にどうか? |
22 |
なぜ,原子力・放射線に対する反対意見が多いのか?原子力・放射線を受け入れられる社会にするにはどうすべきか?これまでにどのような苦労があったか? |
15 |
原子力は本当に安全なのか?古い原発の耐震強度は大丈夫か? |
9 |
原子力業界は一般に隠蔽体質といわれるが,実際はどうなのか? |
9 |
プルトニウムの利用を社会が受け入れるためにはどのような努力が必要か? |
5 |
プルトニウムの大量保有は諸外国に容認されるのか?容認されるために必要な政策や法整備をすべきではないか。 |
5 |
高速増殖炉の開発状況および課題は? |
23 |
核燃料サイクルの現状と今後について |
13 |
将来的に望まれる本来の原子力の姿とはどのようなものか?(社会的、技術的に) |
6 |
放射性廃棄物の処分はどうすればよいのか?クリアランスレベルはどのように設定すればよいのか? |
10 |
原子力は安価な電源であるか?再処理や放射性廃棄物処分にお金がかかるのではないか? |
7 |
学部でエネルギー全般を学ぶ(広く浅く)事を社会、企業はどのように考えるか、また評価するか? |
11 |
企業での仕事とはどのようなものか? |
20 |
今の学生は個人行動する人が多いが、社会ではどのようにつきあっていけばよいのか? |
5 |
企業は学生に何を望むのか? |
20 |
学生は社会に出るにあたってどのような力をつけるべきか? |
19 |
技術者として働く時、女性だからこそ、ここの部分で有利だと思うことはあるか? |
2 |
職場での女性に対する待遇はどうであったか?今後どのような場面で女性が活躍することを期待されるか? |
2 |
技術者として働く時、男女差があるなと感じる部分はどこか?またその理由は? |
2 |
※人気のあるテーマ上位5つの人数を赤字で記した.
参加者の共通の話題として「原子力の将来について」,「高速増殖炉について」,「企業での仕事や就職に向けて取り組むべきことについて」の3つがあるようである.この他,エネルギー問題や原子力反対意見に対してどう取り組むのかといった課題についても多くの関心が寄せられていることがわかった.当日のグループ分けはこの結果を参考に,話題の共通性や学年の均等性などを考慮して行う計画である.