学生とシニア」の対話実施概要

−対話 in慶応2008


2008.7.8 石井正則

 

1.             話のねらいとまとめ

「学生とシニアの対話」でこれまで原子力系大学と教育系大学を対象に実施してきた。原子力系以外の理工学系に対してもネルギー・環境問題を的確に理解してもらう必要があることはもとより、原子力業界を含め、エネルギー業界でも多くの出身者が活躍していることから、かねてより対話の必要性が指摘されていた。

今回ははからずも、慶応義塾大学理工学部学生の熱意と、教官の理解あるご支援により、同学部のみならず、他の学部、他大学の教職課程専攻・教職希望者、ならびに原子力学会学生連絡会関係学生が加わった形でシニアとの対話を行った。

この対話では、まず「環境・エネルギー問題と原子力」についての講演の後、「技術者としてどうエネルギー・環境問題に取り組むか」と「教育の有り方」に関する二つのテーマで対話を行った。

対話への参加は学生の自発的なものであり、対話の進行、発表にも学生の自立性がみられ、また学生の理解度高く、核心に触れることができた。また、事後アンケートからは、講演と対話の内容に満足してもらえたものと推察され、シニアとしてもやりがいのあるものとなった。

世界と日本の環境とエネルギー・原子力問題の実態に触れることにより、原子力やエネルギー分野に限らず、多様な分野での学生の今後の活躍に際しての示唆、指針あるいは規範となるようなものを得てもらえたとしたら幸いである。

このような対話が今後定着してゆくことを期待する。シニアとしてもそれを支援して行きたい。

 

2.対話の実施

(1)日時 平成20年月28日(

13:00〜17:15  (懇親会17:45〜19:15

(2)場所 慶応義塾大学理工学部矢上キャンパス創想館セミナールーム

(3)参加者

@     学生 24

慶応義塾大学理工学部 19名 商学部 1名 武蔵工業大学 1名 東京大学 1名 東海大学 1名 早稲田大学 1名 (学部生13名、修士10名、博士1名)

A     シニア 10名 (敬称略)

荒井利治、石井正則、石井陽一郎、加藤洋明、竹内哲夫、林勉、古川和男、古田富彦、松永一郎、若杉和彦

B     オブザーバー 4名 (敬称略)

大木新彦(武蔵工業大学名誉教授)、中島拓男(東京電力)、塩田哲子(東京電力)、落合和彦(原子力文化振興財団)

(4)実施内容

シニアネットワーク竹内哲夫会長より開会挨拶の後、下記の内容で講演と対話を実施した。

a.基調講演

「環境・エネルギー問題と原子力」  加藤洋明氏

b.対話

次の5グループに別れ対話を実施した。グループ編成とテーマを下記に示す。

Aグループ:原子力の現状と将来展望

Bグループ:原子力ビジネスにおいて学校での学習がどう生かされるか?

Cグループ:原子力の光と影、倫理問題など

Dグループ:原子力ビジネスの現状と将来展望

Eグループ:教育は時代とともにどのように変遷していったか

c.発表

対話終了後、各グループが対話の内容をまとめ、パワーポイントを用いて発表と質疑応答を行った。発表資料は別途資料に示す。

d.講評

発表終了後、シニアを代表して荒井利治氏より講評が行われた。

e.懇親会

対話会が終了後懇親会を実施、対話会では十分語れなかったこのも含め、対話の延長を行うとともに、懇親を深めた。

懇親会には、今回ご支援いただいた相吉教授にも出席いただき、ご挨拶いただいた。

 

5)結果

学生の熱意と教官の理解と支援を受け、幅広く知性あふれる対話となった。

今回の対話では、多様な分野の学生が自発的に参加した。特段原子力を勉強していないにも関わらず、資源、エネルギー、原子力の位置付けに対する理解度も極めて高く、核心にふれた対話が実現できた。

以下に、対話終了後のシニアの感想と学生の事後アンケートの概要(主要なもの)を示す。(詳細添付資料2、3参照)

 

a.シニアの感想概要

対話in慶應」はその計画の経緯から万事未経験のことの連続であった。いって見れば、これまでの原子力系と教育学部系とはことなり、学生の自発的な招集、参加集会であり、これを裏側で学校側からご理解と支援をいただくかっこうとなった。このことにより、学生の自立性をみることができ、学生達が心強く思われた。

学生の自主的な企画で、他学部、他大学の学生の参加も得て、緩やかに拡大して行けば、学生とシニアの対話を原子力系から一般工学系に拡大して行くこともそう難しいことではないであろう。

原子力専攻学生も、原子力が総合技術であることから、一般工学系と対話してすぐに分かり合えたようである。今回の対話からは、今後原子力関係の学部が無い大学への対応を以下にすべきかの貴重な示唆を得た。

今回は理工学系学生に教職に関心がある学生が加わり、環境・エネルギー・原子力問題に教育問題(学力低下、ゆとり教育・理科離れなど)を含め、対話の幅も広く、知性あふれる対話となり、シニアとしても経験を伝え、助言を与えることの意義を感じた。

原子力関連の講座がなく、日常的に原子力を身近に意識することが少ない大学の一つであり、就職先としても、必ずしもエネルギー関連や環境関連ではない。にもかかわらず、集まった学生さんたちは原子力に関する知識もそれなり持っており、専門度の深さという点でなく、資源、エネルギー、環境との関係で原子力の意義をどう捉えるべきかという点で、これほど深い対話を過去に学生とした事はない。

これまで脳の中の一般常識、知識として蓄えられていたものが、実際にもそうだ、実際はこうだ、ということを確認してもらえた。それらの常識、知識が社会に出たときの行動規範となることを期待する。

討議内容、理解とも質が高く、総合的に大成功であった。学生幹事をやってくれた小林君の貢献が大きかったと思う。今後とも継続的に実施していきたい。また、今回参加してくれた早稲田大学でも実現したいものである。

オイルピーク問題など、必ずしもこれまで十分理解されていなかったこともあったようで、今回の対話を通し、一層核心に触れることができたのではないかと思った。

門は開かれた。今後、継続してゆける体制の構築を支援して行きたい。

 

b.学生事後アンケートの概要

23名の参加者の内、20名から回答があった。(回収87%)

参加者の希望進路は、電力23%、原子力関連メーカー9%、メーカー14%、研究機関9%、その他9%、進学28%(原子力系5%、その他23%)

@     講演内容

とても満足した、ある程度満足した学生がそれぞれ40%、55%、殆ど学生が満足したと回答している。(やや不満が5%ある)

A     対話の内容の満足度

とても満足した、ある程度満足したがそれぞれ65%、35%で、全員に満足してもらえた。

主な意見:実際に体験された多くの貴重な話を聞けたこと、質問に非常に丁寧にお答えいただいたこと、自分の知らなかったことや違った視点の意見を聞けたこと、新たに見えてくる世界があったことなど

B     事前に聞きたかったことが聞けたか

70%が十分聞けたとのことであったが、あまり聞けなかったが30%あった。

C     学生とシニアの対話の必要性

非常にあるが80%、ややあるが20%で、全員が必要性を感じている。

主な意見:経験者のノウハウを知ることができた、過去を知る重要性、異分野交流が重要性なの、人間全員が考えるべき議題であること、違う世代の方との交流はとても貴重、なかなか考えの及ばない話題がでるなど

D     対話への再度の参加希望について

まだまだ話し足りないので参加したい、もっと知識を増やして参加したいがそれぞれ35%、55%でその他が10%あった。その他は時間と議題によってはという回答であった。

E     エネルギー危機に対する認識の変化

大いに変化した、多少変化したが10%、45%で合計55%、一方あまり変化しなかった、全く変化しなかったが35%、10%で合計45%であった。

前者では、原子力の必要性を痛感、CO2に対する見方が変わった、資源の埋蔵量を改めて目の当たりにしたなど。後者では危機感は以前からもっていた、あまり新しい知識が得られなかったなど。なお、反対の意見を聞きたかったというものもあった。

F     原子力に対するイメージの変化

大いに変化した、多少変化したが20%、40%(合計60%)、あまり変化しないが40%であった。

主な意見:倫理の重要性を理解しや、安全性に関する認識ができたなど

G     今回の対話で得られたこと

     知識,様々な体験談

     原子力だけでなく,科学全般に対する意識高まり

     原子力に対する理解(安全性の配慮等)

     激励,鋭い指摘

     社会に出てからのことを考えるよいキッカケ

     学生のうちにやれること・やるべきことが聞く経験

     基礎学力・倫理・グローバル化の必要性の認識

     原子力関係者,シニアの方々の原子力に対する見方,考え方

     原子力業界の現状

H     若年層に対する広報活動

     目的意識を強く持ち,マスメディアを積極的に利用する.具体的には,テレビ・CM・インターネットバナー広告・mixi・ポスター・フリーペーパー・漫画などを利用する.また,魅力的なキャッチコピーを作る.さらに大手の広告代理店やコピーライターとのコラボをする.

     今回のように対話を行う

     中・高・大学校での教育の充実させる.具体的には,教科書に詳しくのせる等する.

     日本の誇る分野として,日本のシンボルのようにしたらよい.

     いったんすべての原子力発電を止めてみる.

I     全体の意見

     真髄というか核をついた言葉が多くて,いろんなことを言われると少し大変でした.こういった機会を今後もぜひつくり,参加したいと思った.

     日頃の疑問や意見をシニアの方にぶつけることができた.そこで様々なことを学ぶことができた.

     自分の未熟さを改めて痛感.大学で学ぶことは多いと思ったが,逆に多くを学べるなと感じた.もう少し様々なものを学んだ上でまた対話できたら自分の身になるなと感じた.

 

添付資料

添付1 参加者名簿(グループ別)

添付2 シニア感想

添付3−1 学生側事前アンケート結果

添付3−2 学生側事後アンケート結果


−対話写真−

Aグループ

Bグループ

Cグループ

Dグループ

Eグループ


添付資料1  対話参加者名簿(グループ別)

 

グループとテーマ

学生氏名

専攻・学年

シニア

Aグループ:

原子力の現状と将来展望

千代 健文

総合デザイン斉木研M2

竹内 哲夫

板橋  辰昌

基礎理工伊藤研M2

古川 和男

有薗 謙太

総合デザイン梅垣研M1

 

  昌啓

電子真壁研B4

 

有木 健人

機械B4

 

 

 

 

Bグループ:

原子力ビジネスにおいて学校での学習がどう生かされるか?

酒井 裕介

東大原子力岡研M1

加藤 洋明

松澤 景太

理工学問5B1

石井 陽一郎

滝沢 優司

東海大B2

 

角野 貴久

総合デザイン大森研M2

 

池田  裕介

理工学問1B1

 

 

 

 

Cグループ:

原子力の光と影、倫理問題など

小坪 拓也

機械徳岡研B4

古田 富彦

清水 晃史

機械徳岡研B4

石井 正則

竹谷 勉

総合デザイン黒田研M1

 

藤原 弘康

基礎理工M1

 

原田 尚

物理情報伊藤研B4

 

 

 

 

Dグループ:

原子力ビジネスの現状と将来展望

田村 秀一

機械深潟研B4

林 勉

武藤 和夫

総合デザイン佐野研M2

松永 一郎

秦 真浩

総合デザイン志澤研M1

 

  智行

理工B

 

羽倉 尚人

武蔵工大D

 

 

 

 

Eグループ:

教育は時代とともにどのように変遷していったか

武井 佑紀

数理科学B3

荒井 利治

小林 遼太郎

総合デザイン志澤研M1

若杉 和彦

高田

早大教育学部B1

塩田 哲子

酒井翔平

商学部B1

 

 


添付資料2  シニア感想

(学生連等会元代表の羽倉氏の感想も含む)

 

荒井利治

今回の「対和in慶應」はその計画の経緯から万事未経験のことの連続であった。まづ学生の小林君が持ち前のセンスでSNWの存在を知り行動を起こしたこと。SNW側は学生主体の対話会のやり方を踏襲して、大学側の受け皿が無い今回の事情をよく理解しなかったこと等から結果的に大学、学生の皆さんに大変なご苦労をおかけしてしまった。しかし6/28の対話会はこれらの悪条件を乗り越えて立派な成果を得たと思う。

各グループの熱心な討議内容、学生の理解力は、その発表を聞きいただけで直ぐ分かり、学生の質の高さは懇親会で相吉教授から伺って納得できた。

私が参加したEグループは、教育関係(小林君の教育サークルのメンバー)で、討論テーマももっぱら現在の日本の学力低下、その元凶とされる「ゆとり教育」や理科離れなどであったが、実に的確な指摘があり、これにシニア側(塩田、若杉、荒井と年齢構成が学生と50歳の差をうまく年代的にカバー)がフォローする形で、もっと時間がほしい内容であった。

総括的に今回の成果の源は(1)学生幹事の小林君の熱意と統率力とそれに協力した仲間の努力、(2)志澤、相吉教授の理解ある御支援、(3)SNWの関係者(金氏、松永、石井各氏、特に慶應出身の石井正則氏)の献身的バックアップ、が実ったものと言えよう。

6月になってからの追い込みは見事であった。

今回は今後原子力関係の学部が無い大学への対応を以下にすべきかの貴重な体験をした訳で、慶應の次回以降を含み、しっかり検討をすべきであると思う。

 

石井陽一郎

まず最初から感じたのは本学は社会的なリテラシーが高いということである。

勉強する上で何が必要かについて、われわれBグループのいう基礎―読み、書き、そろばんの重要性は即取り上げた。ついで倫理にピーンと応えたことでも分かる。

1名を除き非原子力系であったがもちろん原子力にそれなりの関心と理解のベースはあったと思われる。こういった学生は自分たちの専門度を高めつつーそのニーズは高い、原子力は総合性が高いー原子力のレベルアップをしていけばよい。いわゆるT型の人間形成でやっていけばよい(原子力専科はこの逆の道となる)

・これから一段とグローバル化していくこともわかってもらえたと思う。今後中国、韓国をはじめ、現在の発展途上国も、かつての日本のように先進国に追いつけ追い越せで、今日本も安閑としてはいられない、現に一人当たりのGDPは大分下った。「モノツクリ日本」というがよく分析する必要がある。いまでこそまだ外国の品質などに疑問符が付く場合があるが、たとえば中国人のモノツクリ能力は潜在的に相当あると例示したが、どの程度か学生の反応はさだかでない。原子力と需要開発は密接な関係があり、これから負荷率向上として電気自動車(含PIHV)の発展が目にみえており、急速充電や分散型電源(やや不透明なところがあるが)などのインフラ整備が大切になると、特に電力関係者には話した。

 

加藤洋明

今回は原子力系でない学生の集まりであったが、学生達の事前アンケート、質問事項などから、かなりエネルギーや原子力を理解しているのに驚かされたが、実際に対話してみても、しっかりした考えをもっており、素直に自分の考えを述べるとともにシニアの話すことにもよく耳をかたむけるなど、かなりレベルの高い学生達であると思った。

基調講演では、エネルギーと環境の諸問題、原子力発電の要点をのべたが、大変熱心に聞いてくれた。

対話では、与えられたテーマにこだわらないで、学生達が抱えている悩み、問題などを自由に話してもらい、それにシニアとして答えた。また、学生達からシニアは企業に入る時どう考えたか、そして現在はどう考えているかなどの質問もあった。学生達にとって就職は最大の関心事で、学生時代に何を勉強しておくのが良いか、企業に入ってどのように対応していけばよいかなどよく考えているようであった。

学生時代は、まず基礎学力をしっかり身につけること、技術者倫理について勉強しておくこと、グローバル化に対応して学生時代にしかできないこと、例えば夏休みなどを利用してBRIC諸国に滞在して若者と交流するなどをしてはと話したが、いずれも素直に納得してくれたようであった。

まとめ、発表なども良く慣れており感心した。

懇親会での会話をふくめて、シニアの人達とこれほど真剣に話あった経験は初めてで、大変役に立ったと多くの学生が話していた。

今回の学生幹事の小林君はじめ関係の先生、SNWの幹事さんに感謝します。

 

竹内哲夫

@今回はこれまでの原子力系、ないしは教育学部系とは異なり、言って見れば学生の自発招集の集会であった。

この開催に至るまでには、特に小林遼太郎君はじめ関係各位が、紆余曲折を越えて多大のご苦労をされたと思う。

これに対して、厚くお礼を言いたい。

A慶応には原子力系の名は無いが、集まった、学生の知識、素養、人柄を含めて高く、議論も実にハイレベルであり感動した。

専門度の深さという点でなく、資源、エネルギー、環境との関係で原子力の意義をどう捉えるべきかで、これほど深い対話を過去に学生とした事はない。それは今回の会合召集のチラシで自発的に集まる学生が慶応には存在する事の証です。

なぜかというと、定例の講義では殆ど無い原子力を情報Webで深く勉強して、原子力の必要性を自己認識している若者がいる事に大きな意義を感じた。ほかの原子力系大学で進学しても親が反対する、いわゆる「隠れキリシタン」ではなく今回は「日の出キリシタン」を発見した。

B爺チャと孫マゴとの会話の意義:・・・・

あとの懇談会でも分かったが、優秀な孫は知識を集めひとりでに勉強する。だがこれが世間に通用するかは新聞には論調で書かれてない。

「オレには自信が無いので、脳の中に一般常識、知識の武器として「仮登録・保存」していた。今回、新聞や世間で言ってないことを激しく語る爺チャと対話して、やはりオレの杞憂(近い意見)は正しく本当だと分かった。これでオレの就職後の人生の行動規範が出来、人生の目標、指針が得られたのが嬉しい・・・・・」

 

林 勉

今回の「対話in 慶応」は原子力系の学生ではないのにもかかわらず、学生達の事前アンケートで原子力の必要性を良く理解しているのにまず驚かされました。理工系、教育系、文系等の学生の混合でしたが、環境・エネルギー問題に強い関心を持った学生さんたちが自発的に参加してくれたと言うことが大きかったのかなと思います。

学生さんたちの感想を数人に聞いてみましたが、皆さん「大変に面白かった、良かった」と言っていました。やはり実社会で経験を積んできたシニアとの対話ができると言うことは他ではできないこことであり、貴重な体験になったようです。

慶応の学生さん達は今までのどこの学生せんより、率直で質問も事前に準備されており、対話も中身のある充実したものになったように感じました。発表も各グループとも要領よくまとめており、立派であったと思います。

総合的に大成功であったと思います。

学生幹事をやってくれた小林君の貢献が大きかったと思います。今後とも継続的に実施していきたい慶応でした。今度は是非早稲田大学でも実現したいものです。

 

古川和男

 常々怠慢だったのですが、今回は少し私の感覚に近い会合であるような気がして参加したのは正解でした。さすが、慶応義塾大の学生たちで、科学技術論を含め知性溢れる問答が出来ました。もう何人かの学生から礼状を貰い、今後問答を積み上げたいものと思います。

 まだ大学一般さえ、社会と同じで「原子力嫌い」が強いようですが、人数を多く集められないでも構いませんから、「エネルギー環境問題と原子力」を語り合おうでは無いか、と大いにこのような企画を拡大していただきたいです。それにつけても、もっと例えば(語弊が有るかもしれませんが)旧原研OBの方々などがもっと協力なさったら良いと思います。今回は勿論、私一人です。原発実務家のOBの皆様のみでなく、「昔の原子力青年?」たちがもっと若者達に社会に働きかけるようにならねば、世は変わらぬのではありませんか?

 少し原子力再出発の機運が強まったと言っても、上記の様ですし、最近のIEAのの2050年半減策提案でも、原子力への期待は僅か6%。如何に世界の大勢は悲観的であることか?こんな程度なら早く止めてしまった方が良いのです。しかしそれでは「地球は地獄」なのだと我々は思うから頑張っているのです。一層頑張りましょう。

 この様な良い会合を準備下さいました、SNWおよび慶応大の先生・OB・学生さんがたのご尽力に感謝いたします。

 

古田富彦

先ず、学生さんたちおよび校風がとても洗練されスマートであると感じた。全般的にはスケジュールがよく準備されていて充実した良い対話会であったと思う。発表もPPで各グループとも要領よくまとめており、時間厳守でよかったと思う。学生幹事をやってくれた小林君の貢献が大きかったと思う。

Cグループ:原子力の光と影、倫理問題などをテーマとした対話では、学生側から影の部分として@高放射線量下での危険作業をインド人にさせているということをインターネットで知ったが、人道的にも倫理的にも許されないのではないか、A原子力発電所へのテロ攻撃に対してはどのように考えているのか、B原子力についての報道のあり方、C放射性廃棄物の処理・処分の今後の対策等について質問が出され、以下のように回答した。

@については、まずインターネット情報の信憑性を確認する必要があること、米国業者とのターンキー契約によるプラント輸入当初はいざ知らず、現在ではとても考えられない。

Aについては、核セキュリテイの観点から余り公表されていないが、警察、自衛隊、海上保安庁との連携はとられているものと思われる。

Bについては、マスコミの本質はニュースハンターであり、事件として報道しがちであるため、何が真実であるかについては自分で判断する必要がある。

Cについては、低レベル廃棄物は環境に影響を与えない方法で埋設処分される。高レベル廃棄物は原子力委員会等で目下検討・対策中であり、早急に解決されるべき問題である。

事故隠し、不祥事などに対して組織の利益よりも社会の利益を優先させるという個人の技術者倫理に期待するのは当然として組織の安全文化に強く影響されるものであることを強調した。

服従に関する社会心理学者ミルグラムの実験について学生側がある程度知っていたので、特に組織内の相手に社会的圧力(人事権など)があるときは、組織の人間として普通服従しやすいものであり、自分の正義を貫きたいときは深刻な事態となり、容易ではないこともある程度分かってもらえたのではないかと思う。

原子力、放射能、放射線について対話するとき、問題となるのは「安全」と「安心」の違い、なぜ一般の人々は比較的小さなリスクを強く怖れ、確実に大きな危害につながるリスクをそれほど怖れないか、「どこまで安全ならばよいか」すなわち「許容可能なリスク」をリスクコミュニケーションによって合意を得るために問題となる「リスク認知因子」10項目について説明した。いずれも素直に納得してくれたようであった。

機械、総合デザイン、数学、理工学専攻の学生側感想文がどのようであるか大変興味と期待をしている。

 

松永一郎

慶應の理工学部は原子力関連の講座がなく、また都会の中にあるので日常的に原子力を身近に意識することが少ない大学の一つであろう。選択している就職先としても、必ずしもエネルギー関連や環境関連ではない。にもかかわらず、集まった学生さんたちは原子力に関する知識もそれなり持っており、エネルギー、環境に関する興味、関心が高く、高度なディスカッションができたと思う。我々のグループでは原子力の他のエネルギーに対する優位性について話し合ったが、日本が伝統的に物づくりをシステム的に実施していくことに長けており、原子力はその頂点にあるハイテク産業であるという説明に納得していた。なお、オイルピーク問題については何も知らず、話しているうちに衝撃を受けたようである。対話の前にインプットしてやる必要性を感じた。発表はなかなかスマートであり、僅かな対話時間にもかかわらず、それなりの結論を出していたのには感心させられた。総じて対話は面白かったようで、アンケート結果が楽しみです。なおここまでこぎつけるまでの幹事学生の小林良太郎君及びその友人達の努力に敬意を払うとともに、それを陰で支えてくださった志澤一之教授の・u梺キ期にわたるご支援に感謝の意を表します。

 

若杉和彦

今回は学生の専門分野や希望に沿い、4,5人ずつを1グループとし、A,B,C,D,Eの計5グループに分かれて対話が行われた。私が参加したEグループでは教育問題が採り上げられ、「教育は時代とともにどのように変遷していったか」を、教育学部や文学部等非理工系学生4名とSNW副会長の荒井さんと私、またオブザーばとして東電から塩田さんの合計7名が参加した。「今の教育は正しいのか?」、「昔の教育にはゆとりがあったのか?いじめはあったのか?」、「今は漫画を読んだり、寝ている学生がいるが、昔はどんな状態だったのか?」等々の質問に対して、我々世代の体験と意見を述べ、活発な対話となった。特に現代ではパソコンや携帯の普及のため、個人対個人あるいは人格対人格の間の結びつきが希薄になっているのではないか、特に中学、高校での教育では専門知識よりも生の人間関係が重視されるべきではないか等の話となった。また、現代ではあらゆる情報がインターネットで得られ、便利ではあるが、すべて取扱説明書的な情報を批判なしに使ってしまうべきでなく、自分自身の意見や思想を持つことが大切であるとの話をした。学生側は非常に明るく、屈託のない態度で、知的レベルもかなりのものと感心した。ただ我々の青春時代と比較して、個性的な主張や強い反論等はなく、穏やかな対話が展開されたように思う。一面社交性があり、常識をわきまえてはいるが、自分の意見を主張するような強さも合わせ持って欲しいと感じた。Eグループでは原子力やエネルギー問題についてはあまり議論の対象にはならなかったが、将来教育行政に携わりたい、教師の資格を取るつもり等、将来の抱負も聞けた。また、対話後の懇親会では私生活を含めた話題が展開され、先輩として体験に基づく意見や助言を伝えることが出来、大変有意義な機会であったと思う。世話役の皆様に感謝したい。

 

石井正則

今回は一般理工学系の学生に教職に関心のある学生が加わったこと、自発的に参加した学生達であったことが、これまでにないものであった。それだけに、準備段階では心配もあったが、対話が順調に進んだことは、学生幹事の努力は勿論であるが、参加学生一人一人の意識が高かったことと事前準備をきちんとして対話に臨まれた結果と思い、敬意を表します。

学校側との関係もこれまでとは異質なスタイルであったが、先生方のご理解が得られ、裏側で支援していただいた。このことにより、学生の自立生を見ることができ、学生達が心強く思われた。

エネルギー・環境問題の解決と今後の原子力に、一般理工系の学生の貢献が欠かせないが、今回参加した学生は皆さん相当程度の理解をされているが、実際に関与してきたシニアから直接話を聞くことにより、一層核心に触れることができたのではないかと思った。

門が開かれたので、継続してゆける体制の構築を支援して行きたい。

 

羽倉尚人(学生連絡会元代表)

今回の対話が原子力系以外の学生を対象としたものであり,かつ,学生側からの発案により実現したものであるということは実に注目すべきことであると思う.私の参加したグループでは,FBRの概念に関する基本的な原子力に関することから,原子力技術の他分野への応用など実に様々な事柄が話題となった.特に,原子力に関する技術がほかの分野でどのように活用されているか,といった問いかけには,原子力を専門としない学生ならではの観点が良く現れており,自らの専門分野と通じる部分があると,深く感心していた様子であった.原子力は総合科学技術であり,様々な技術の結集であることから,単に原子力を専攻している学生だけではなく,いろいろな分野の学生とすぐにわかりあえるという点で,工学全般に対して「原子力で対話する」ということが成立するということを感じられた.

発表では,最後のグループの「教育」に対する報告が興味深かった.私の知る限り,このような発表は,ほかの対話会ではなかったと思う.特に,発表者が,早稲田から唯一参加した学部1年生であったことも驚きであった.さすがに,こうした会に1年生でありながら参加するだけあり,堂々としたすばらしい発表であったと感銘を受けた.

今後,対話をより一般化し,拡大していく上で,今回の事例は非常に重要であると思う.原子力系から工学系に拡張することが,如何に大きな飛躍であるかは想像に難くなく,現実問題としては,かなり困難であると考えられる.しかし,今回のように,学生の発案により開催されたり,また,その会に他大学の学生が参加したり,といった流れで拡大していくのであれば,それは実にすばらしいことであり,そのような緩やかな拡大であれば対応もそう難しくはないのではないかと思う.しかし同時に,今回の主催学生が,極めて意識の高い「まれな存在」であることは忘れてはならないと思う.


添付資料3−1 事前アンケート集計結果

○回答数:17/21

(1)  エネルギー問題に関心がありますか?

 

(2)  地球温暖化問題に関心がありますか?

 

(3)  自然エネルギーは必要であると思いますか?

積極的に推進 ・ やや推進 ・ 許容 ・なんとなく推進反対 ・ 絶対に推進反対

 

(4)  原子力発電は必要であると思いますか?

 

(5)  原子力について学んだことがありますか?

少しある(一般常識ほど)(9)

 

 

(6)  日本の原子力発電における,技術的な安全対策についてどのように思いますか?(イメージで構いません)

 

(7)  原子力発電に対して安心感を抱くことができますか?

 

 

(8)  シニアの方(祖父母など)と話す機会はありますか?

 

(9)  いま最も興味があることは何ですか?(フィーリングで構いません)

 

(9)のみ複数回答可

その他

・大規模で複雑なシステムの設計・政治や経済・環境問題全般・愛・人生・遊ぶこと・非正規雇用・貧困問題


添付資料3−2 事後アンケート集計結果

対象:対話参加学生23名中20名から回答

(内訳:理研:博士1名,修士11名  理学:9名  文学:1名  教学:1名

 

(1)  エネルギー問題に関心がありますか?

A.とても満足した(8/20)

B.ある程度満足した(11/20)

C.やや不満だ(1/20)

D.大いに不満だ(0/20)

 

 

 


(1)  講演の内容は満足のいくものでしたか?その理由は?

 

 

 

 

 

 

◎代表的な意見

A.      エネルギー問題や原子力に関して簡潔に説明していただいた・よくまとまっており,興味深い内容で本対話に適したものだった・シニアの方のご専門についての深い話を聞けた・シニアの方の言葉がいろいろ心に残った

B.      新しい知識が得られた・もっと詳しい内容でもよかった・少し時間が短い・時間が少し長い

C.      原子力発電に興味がない

D.     なし

 

(2)   話の内容は満足のいくものでしたか?そ

A.とても満足した(13/20)

B.ある程度満足した(7/20)

C.やや不満だ(0/20)

D.大いに不満だ(0/20)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◎代表的な意見

A.      シニア・原子力技術者ならではの,実際に体験された多くの貴重な話を聞けた・戦前と戦後の教育の違いが分かった・質問に非常に丁寧にお答えいただいた・自分の知らなかったことや違った視点の意見を聞けた

B.      脱線が多かった・新たに見えてくる世界があった

C.      なし

D.     なし

 

(3)  事前に聞きたいと思っていたことは十分に聞けましたか?

A.十分聞くことができた(14/20)

B.あまり聞けなかった(6/20)

C.全く聞けなかった(0/20)

 

 

 

 

 

 

 

 


     コメント記入欄なし

 

(4)  「学生とシニアの対話」の必要性についてどのように感じますか?その理由は?

A.非常にある(16/20)

B.ややある(4/20)

C.あまりない(0/20)

D.全くない(0/20)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◎代表的な意見

A.      能力ある人のノウハウを知ることができる・過去を知る重要性,異分野交流が重要,人間全員が考えるべき議題・違う世代の方との交流はとても貴重で良い・なかなか考えの及ばない話題がでる

B.      学生が自らシニアの下に来ることに意味がある

C.      なし

D.     なし

 

(5)  今後機会があれば再度シニアとの対話に参加したいと思いますか?

A.まだまだ話し足りないので参加したい(7/20)

B.もっと知識を増やしてから参加したい(11/20)

C.十分話ができたからもういい(0/20)

D.二度も必要ないとおもうからもういい(0/20)

 

 

 

 

 

 

 

 


◎その他

E.  時間に余裕があれば是非

E.  議題とその時の忙しさによっては参加したい

 

(6)  エネルギー危機に関する認識に変化はありましたか?

A.大いに変化した(2/20)

B.多少変化した(9/20)

C.あまり変化しなかった(7/20)

D.全く変化しなかった(2/20)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◎代表的な意見

A.      原子力の必要性を痛感した

B.      知らなかったことが聞けたが反対意見も聞きたいと思った・一生懸命活動している方に触れ感動した・CO2に対する見方が変わった・資源の埋蔵量を改めて目の当たりにした・エネルギー供給「商業化された技術」に原子力が初めて入ったことを知った・ピークオイル論について知った・事の深刻さに対して前向きになれた

C.      危機感は以前から持っていた・エネルギー問題に関しては,あまり多くの新しい知識が得られなかった・ますます意識が高まった

 

(7)  原子力に対するイメージは変わりましたか?その理由は?

A.大いに変化した(4/20)

B.多少変化した(8/20)

C.あまり変化しなかった(8/20)

D.全く変化しなかった(0/20)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◎代表的な意見

A.      貴重な話を聞けた・倫理的なことが必要なことを理解した

B.      知らなかったことを聞けた・原発は危険と思っていたが安全なものだと認識できた・原子力に関わる方に対する意識が変わった

C.      講演等で原子力に関する大まかな知識は得ていた・エネルギー問題に関しては,あまり多くの新しい知識が得られなかった

D.     なし

 

余談:学生の希望進路(複数選択可)(理研:博士1,修士11 理学:9・文学:1・教学:1)

A.電力(5/22)

B.原子力関連メーカー(2/22)

C.メーカー(3/22)

D.研究機関(2/22)

E.その他(4/22)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


(8)  今回の対話で得られたことは何ですか?

F(28%)

 
◎代表的な意見

     知識,様々な体験談

     無知の知

     シニアの方が伝えたいことの重み

     原子力だけでなく,科学全般に対する意識高まり

     原子力に対する深い見識

     激励,鋭い指摘

     社会に出てからのことを考えるよいキッカケ

     学生のうちにやれること・やるべきことが聞く経験

     基礎学力・倫理・グローバル化の必要性の認識

     原子力関連施設には,十分な安全性の配慮がなされているという認識

     なぜ原子力が受け入れられないかの認識

     原子力関係者,シニアの方々の原子力に対する見方,考え方

     原子力業界の現状

     出会いと対話の重要性

     的を得た話をすることの困難さ

     原子力で知らなすぎる,浅すぎるということ

 

(9)   原子力に対する関心の低い10代,20代の若年層に対する原子力広報活動はどんな方法が良いと思いますか?

◎代表的な意見

     目的意識を強く持ち,マスメディアを積極的に利用する.具体的には,テレビ・CM・インターネットバナー広告・mixi・ポスター・フリーペーパー・漫画などを利用する.また,魅力的なキャッチコピーを作る.さらに大手の広告代理店やコピーライターとのコラボをする.

     今回のように対話を行う

     中・高・大学校での教育の充実させる.具体的には,教科書に詳しくのせる等する.

     日本の誇る分野として,日本のシンボルのようにしたらよい.

     いったんすべての原子力発電を止めてみる.

 

(10)               全体の感想・意見

◎代表的な意見

○ご指摘

     グループ発表は必要ないと思う.

     発表の時間が短く,また各班のテーマに沿っていない感じがした.グループごとにテーマを決めることはないと思う.

     質疑の時間をもう少し設けたほうが良い.

○感想

     教育についてのグループを設けていただきありがとうございましたご無理をお願いいたしました.

     大変有意義でした.

     シニアの世代の方とこんなに長く話す機会はなかなかないので,緊張していたが,話し始めると分かりやすく要点をついた話し方をしてくれて,非常によかった.こういった機会を今後もぜひつくり,参加したいと思った.シニアの方の言うことは本当に真髄というか核をついた言葉が多くて,いろんなことを言われると少し大変でした.

     シニアの方と直接話すことができたのでよかった.

     グループワーク形式では,日頃の疑問や意見をシニアの方にぶつけることができた.そこで様々なことを学ぶことができた.この形式は一番良い形式だと思う.

     自分の未熟さを改めて痛感.大学で学ぶことは多いと思ったが,逆に多くを学べるなと感じた.もう少し様々なものを学んだ上でまた対話できたら自分の身になるなと感じた.

     経験者のシニアの人と話ができてよかった

     自分の意識を高めることができた

 

以上