添付−6

 

愛知教育大生他の浜岡原子力発電所見学同行記

 

2009年6月29日

SNW会員 路次安憲

 

6月27日(土)の、愛知教育大生及び小中高校の先生方の見学会に同行したので、感想を申し述べます。

 

1.5月30日の対話会から1ケ月後に見学会を実施するこのパターンは大変効果的であると思う。今回の参加者は吉田先生、平野先生、中原懇の渡邉氏を含めて30名。そのうち5月30日の対話会に参加していた人たちが約2/3であった。

 

2.私は掛川駅〜掛川駅までの同行である。見学は御前崎「なぶら市場」での昼食後、@オフサイトモニタ、A浜岡原子力館(PR館)、B5号機の中央制御室、原子炉建屋、タービン建屋、C原子力研修センター、の順に実施された。

 

3.往路のバス中では、私からの「話題提供」として添付の資料を配布・説明した。初めての学生さんには理解が難しいかとも考えたが、原子力は安全をどこまでも追求するためにこのようなことまで考えて実行しているのだということを知ってもらう材料とした。

 

4.オフサイトモニター(地域の放射線レベルを観測する装置)はバス車中からの見学であるが、渡邉さんからの、「NaIシンチレーションカウンター,電離箱の両検出方式で常時測定し、データは市役所等に送られて公表されている」との説明に一同感心。

 

5.浜岡原子力館の“売り”は海抜62mからの発電所の眺めと、実物大(高さ22m)の原子炉模型であろう。やはり百聞は一見にしかずで学生たちは感激していた。

季節は梅雨であるが当日は薄日のさすいい天気だったので発電所の全貌が眺められ、案内の2人の女性館員からの身近なものを例に挙げた説明(敷地は名古屋ドーム33個が入る、排気塔の高さは約100m、下部の直径は9mで横倒しにすればバスも通れる等)も分かり易く、質問や会話が弾んだ。

      

原子炉模型では制御棒の動きや炉心水面の位置なども眺められるが、むしろ、「こんな小さな炉心で膨大なエネルギーを出せる」ことにも一同感心した模様。

また、厚さ2mもある外周コンクリートの中に(5号機の場合は直径5cmもある)太い鉄筋が網の目のように配置されており、隣に置かれた15階建てのマンションの壁と比べて「マンションが心配になった」との声もでた。

さらには、原子炉建屋を建設するため、22mも掘り下げて岩盤の上にマンメイドロックを造り上げる写真にも感動した模様で、私の近くで見学していた人たちから私に耐震性に関する質問がいくつか出された。

 

6.5号機の見学では、同時多発テロ以降一般見学者の入域は厳しく制限されているとの説明があった。やむを得ぬこととは言え、見学によって一般の方々の理解が進むことを考えれば非常に残念であると個人的には思う。

建屋内の美しさ、静けさには皆が一様に驚いていた。おそらくは雑然とした工場的なものをイメージしていたのであろう。

      

さらにグッドデザイン賞を受賞した中央制御室をガラス越しに見学。この日は原子炉起動後の調整運転中で(出力241MW)多数の関係者が詰めていて、原子力安全・保安院の検査官も立ち会う中での緊張した作業の様子を垣間見ることができた。

 

原子炉格納容器上部空間を放射線防護が整った窓越しに見学。燃料プールも見下ろせた。ちょうどプールの脇に防護服を着た作業員の方がひとりおられたので、説明役の女性館員が管理区域への入退出に関する説明をされたのは好タイミングであった。

      

タービンフロアも窓越しに見学。定期検査時の、分解した機器が所狭しと置かれている写真と当日の広々とした空間を対比して、メンテナンス作業というものの一端が理解できたのではないかと思われる。学生たちの関心は損傷したタービン羽根の模型にも集まっていた(研修センターには本物が保管されていた)。

 

7.原子力研修センターは、@保修訓練、Aシミュレータを活用した運転訓練、B過去のトラブルを教訓として生かすための展示場、から構成されている。

時間が足りなくなったため、A、Bを簡単に見学させてもらったが、とくにAでは、“原子炉トリップ”を経験させてもらっていい勉強になっただろうと思われる。

私からは、コンピュータ技術の発達により炉心等の物理モデルがリアルタイムで正確に模擬できるようになり、とくに原子力発電所のように滅多に事故が発生することの無いプラントの運転訓練にはシミュレーション技術が欠かせないものとなっていると説明しておいた。

 

8.バスの中では往復とも質問が無かったのが少し残念な気がするが、代わって吉田先生から学生たちが知りたそうなことを質問いただき、吉田先生との対話のような形で話を進めることができたのはありがたかった。

なお、帰路のバスの中では眠気覚ましとして私から、JALの国際線コックピットでの機長との放射線談義の経験談、映画ゴジラで浜岡原発が取り上げられていた話などを紹介した。

 

 

補足資料

 

中部電力浜岡原子力発電所見学に係る話題提供

 

1.浜岡5号機の特徴

 

    見学対象の5号機は最新型ABWRで、電気出力は世界でも最大級の138万kW。

インターナルポンプの採用、安全系を含めた総合デジタル監視制御設備の採用で安全性が一層向上している。

 

    BWRプラントであるが、発電機出力段以降送電線に繋ぐまでの間の電気系統設備(相分離母線、発電機負荷開閉器、主変圧器、開閉所(GIS))は三菱電機製という珍しいプラント。概略スコープは下図のとおり。

2.アクシデントマネジメント(AM)について

 

    原子力における安全とは、原子力施設周辺の一般公衆の生命・健康・財産を放射線災害から防護することを意味する。放射線被爆以外の事故もいろいろとありうるが、これは基本的に一般産業における安全と同様であって、社会的に重要な一般産業と同等以上の安全が確保されていることを前提として、原子力安全においては一般公衆の放射線災害からの防護が最重要であることが共通の認識となっている。

 

    原子力発電の安全確保の鉄則は、異常状態が発生した際に原子炉を「止める」こと、炉心(核燃料)を「冷やす」こと、そして核燃料中に生成されている放射性物質を「閉じ込める」ことである。このために原子炉保護系と工学的安全防護系が設けられており、それらで十分な安全が確保されている。

    原子力発電所は大規模な工学施設であることから、さまざまな設備が設けられている。事故時には、本来の事故対応設備以外でも利用できるものがあれば利用する方がより安全性が向上する。そういう観点から、それらが使えるようにあらかじめ方策を考えておくことがAMである。AMは法的な“Must”ではないが、原子力安全委員会の推奨に基づいて全プラントに整備されているものである。

 

    要は、原子力は安全を最優先として開発・構築されてきたものであり、あらゆる産業システムの中で、安全問題を工学的に徹底して考え(論理構築し)、システム・設備として実現させていることが原子力の最大の特徴であることを理解したい。

 

    BWRにおけるAMの例を添付−1に示す。

 

3.高経年化対策について

 

    「高経年化対策」とは、運転開始から年月が経過した(現在は30年以上としている)プラントを、今後とも安全に運転していくために行われる、技術(劣化度)評価、保守管理、それらに必要な技術開発等の活動を総称したものである。

 

    運転開始から年月が経過したプラントは「老朽化している筈であり、老朽化=危険」と考える人は多いと思われる。しかしながら実態は必ずしもそうではない。

 

  原子力発電所は膨大な「機器・構造物」から構成されている。「機器・構造物」は、どのように細心の注意を払って設計・製作・運転・保守を行っていても、時間の経過とともに(経年に伴い)、進行速度はまちまちだが劣化していく(これは「老朽化」と呼べる)。ただ、それらは保全活動により、ある程度まで劣化すると「保修」が行われたり「予防保全策としての新品への取替」が行われるわけである。

例えば1970年代に運転開始したプラントにおいては、ほとんどの機器・構造物が新品に交換されているのが実態である。

 

  もちろん、「原子炉圧力容器」のように取り替えられていない機器・構造物も存在するので、そのようなものに関する安全性をより慎重に評価する活動として、個々のプラントが運転開始後30年に達する前に、電気事業者は安全に関係する全ての機器・構造物に関する技術評価(劣化予測)とその対策立案(保守管理の充実等)を行って、報告書を国に提出し国の審査を受けることが法律で定められている。

 

  定期事業者検査、定期安全レビュー、高経年化対策の関連を添付―2に示す。

 

  この活動はひとつのプラントで2年程度に及ぶ膨大な作業であるが、このような技術評価を繰り返すことによって技術的知見が蓄積され、日本の原子力発電所が世界で最も安全と評価される下地のひとつとなっている。

 

  もちろん、中部電力が浜岡1,2号機で示されたように、経済性も勘案して廃炉とした上で新しいプラントを建設することも、安全性をより高めるための重要な経営判断であろう。