シニアと学生との対話報告
学生とシニアの対話in愛知教育大学2007実施結果報告
平成20年1月13日 金氏 顕(SNW幹事)
0.
狙い
将来我が国の初等中等教育において教師となる教育系大学学生に、我が国のエネルギー・原子力に関する基本的な正しい知識、学校教育における重要性について認識していただき、さらに将来の学習プログラム作成の基本的な考えや教材などの一助になることを狙いとした。
1.準備WG
教育系大学との対話は今回の愛教大が初めてであり、開催にこぎつけるまでに約1年かかったが、その間色々な偶然や人との出会いが重なって実現したものである。(その間の経緯は本資料の末尾に参考として記載した。)
教育学部系学生との対話は初めてのケースなので、これまでの原子力系を中心とした工学部学生とは、エネルギー、原子力、放射線などについての知識、向学意識、将来進路など全く異なるので、狙い、進め方、講演内容、その他事前に検討しておくこと、事後アンケート内容など慎重な対応が求められるので、特別WGをつくり準備した。
WG:金氏顕(総合取りまとめ)、石井正則、伊藤睦、小川博巳、林勉、松永一郎
2.開催日時:12月8日(土)13:00〜17:30
3.会場:刈谷市 愛知教育大学自然科学棟2階 理科授業研究室他
4.参加者
(1)学生:25名(院1年5名、4年3名、3年15名、インドネシア研究生1名、中学生1名。学部3年生はほとんど小学校(全教科担当)教員あるいは中学校理科教員を希望、4年および院生は卒業後すべて小学校教員として採用)
(2)現職教員など:10名(小学校教員1名(新任)、中学校4名(理科:新任と10数年経験者)、高校教員3名(理科:20年以上)、韓国の教育大学の教員(理科教育担当:吉田研究室に6ヶが月間留学中)1名、県教育センター1名。)
(3)参加シニア:12名(石井正則、伊藤 睦、小川博巳、加藤洋明、金氏 顕、宅間正夫、竹内哲夫、西村 章、林 勉、古田富彦、益田恭尚、松永一郎)内9名は原子力有識者派遣事業として参加
(4)オブザーバー参加者(当日は対話グループに同席。)
渡邉泰臣:中部原子力懇談会 事業部長
杉山憲一郎:北海道大学教授、日本エネルギー環境教育学会副会長
鈴木 将:東海大学M1,原子力学会学生連絡会運営委員
玉水弥寿子:原子力文化振興財団 エネルギー文化部副部長
大津浩一:犬山南高校教諭
5.講義:林勉氏、テーマ名「エネルギーの現状と未来ーこれからの社会や生活の変化ー」
学生達に基礎的な知識を提供することを目的に100枚に及ぶPPTを作成し、エネルギー問題、地球温暖化問題、代替エネルギー比較、原子力の役割、放射線などを分かりやすく、また解説文も適宜網羅し、先生になった時の教材にも活用できるものとして講義。また事前に学生から59項目の疑問要望を入手し、講義でカバーできない18項目については別途丁寧な回答解説資料を準備した。
6.対話:予め吉田先生がグループ分けとテーマを設定
(1) 各グループ、シニア2名、先生1〜2名、学生4〜5名で6グループを構成。
各グループのテーマ、先生、学生、シニア、オブザーバーの組合せは下表のとおり。
なお、全グループ共通テーマとして「エネルギー教育の推進」を設定した。
グループ |
テーマ |
|
氏名 |
所属 |
シニア&オブザーバー |
A |
新エネルギー |
|
足立 敏 |
愛教大附属高校教員 |
石井正則 |
|
伊藤 崇智 |
弥富北中学校1年生 |
加藤洋明 |
||
◎ |
會津 友美 |
院1年 |
|
||
○ |
鈴木 理沙 |
3年 |
杉山憲一郎 |
||
|
斉藤 和馬 |
3年 |
|
||
|
伊藤 亜記 |
3年 |
|
||
B |
子どもへの教え方 |
|
梶田 知佐 |
伊勢山中学校教員 |
小川博巳 |
|
Weti Roswiati |
研究生 |
古田富彦 |
||
◎ |
大嶋 由加 |
院1年 |
|
||
|
杉山 哲士 |
4年 |
吉田 淳 |
||
○ |
坪内 登夢 |
3年 |
|
||
|
武田 和大 |
3年 |
|
||
C |
地球環境問題 |
|
孔 泳泰 |
晋州教育大教員 |
竹内哲夫 |
|
古池 秀行 |
鳴海東部小学校教員 |
西村 章 |
||
◎ |
伊藤 祐樹 |
院1年 |
|
||
○ |
稲垣 直美 |
3年 |
大津浩一 |
||
|
小島 有里絵 |
3年 |
|
||
|
楠元 勇也 |
3年 |
|
||
D |
原発による被害,安全面 |
|
小林 夕也 |
東海学園高校教員 |
伊藤 睦 |
◎ |
佐野 嘉昭 |
院1年 |
宅間正夫 |
||
|
田中 康子 |
院1年 |
|
||
○ |
武居 保宏 |
3年 |
渡邉泰臣 |
||
|
越野 秀一 |
3年 |
|
||
E |
限りある資源 |
|
加藤 奈穂子 |
南陽中学校教員 |
林 勉 |
|
伊藤 勝輝 |
鳴海高校教員 |
益田恭尚 |
||
|
福田 恒康 |
愛知淑徳中学教員 |
|
||
◎ |
宮脇 武司 |
4年 |
玉水弥寿子 |
||
○ |
上柿 智絵 |
3年 |
|
||
|
伊藤 洋康 |
3年 |
|
||
F |
世界の中での日本 |
|
櫛田 敏宏 |
県教育センター |
金氏 顕 |
|
天野 祐貴 |
附属名古屋中学校講師 |
松永一郎 |
||
◎ |
竹内 伸吾 |
4年 |
|
||
○ |
彦坂 訓宏 |
3年 |
鈴木 将 |
||
|
西浦 信昭 |
3年 |
|
||
|
安藤 文仁 |
3年 |
|
(2) 学部4年生または大学院生をリーダーとし、3年生をサブリーダーとし、成果発表は学部3年担当とした。これも吉田先生の配慮。各グループの対話成果発表はPCにてパワーポイントで纏められ、添付のように直ちに発表された。各グループ発表毎に1〜2の活発な質疑応答を行なった。
7.対話後の講評と総括
(1) 加藤洋明氏(シニアを代表して)
「事前の勉強を含めて学生の皆さんがエネルギー、原子力、放射線などについて大変熱心に講義を聞き、シニアと対話をする姿に感心した。そして発表では全Gで、教員は正しい知識を身に付けるべきと明快に言っており、大変心強く思った。その上で子供にどう考えさせるかが問題であり、プロセスが大切であります。そのためにもこれからも正しい理解をしようという努力を是非忘れないで継続して下さい。」
(2) 吉田淳教授
「沢山のシニアの方々に参加していただきこのような講義と対話の会を持てたことを感謝します。学生の皆さんはエネルギー、原子力、放射線などについて今回やっと入口の扉を開けることが出来たという段階です。今後更にもう一歩中に踏み込んで、そして大きく扉を開ける努力をして下さい。そして、原子力、放射線などにはプラスとマイナスの両面があることをしっかり勉強して、子供達に何を伝えるべきか、未来はどうなるのか、考えまた議論して欲しいと思います。」
(3) 竹内哲夫氏(SNW会長として)
「これまで原子力を中心とした700人以上の工学系学生との対話を推進してそれなりに成果をあげました。そして更に一般社会に原子力を正しく理解していただくには小中高の教育が大事なので是非先生になることを選んだ学生さんと対話がしたいと願ってましたが、今回初めてその機会を持つことができ、感動しました。まず、林さんの講義を1、2時間聞いてすっと理解する柔軟性があること、そして次にそれらを将来子供達にどう教えたら良いか考えるという熱心さに。今日の発表で皆さんが決意表明されたことを教育の場で是非実現されるよう願ってます。」
8.懇親会
吉田教授をはじめ先生がた、シニア、オブザーバーの懇親会を18時から知立駅付近で開催。本音の話しが出来た。
9.学生&先生の事後アンケート結果概要
事後アンケート結果の概要は以下の通りである。なお、詳細なアンケート集計結果は添付を参照。
(1)アンケート解析対象者
1)愛教大学生 20名
B3:13名 B4:2名 M1:5名
2)教員 9名
小学校教員:1名 中学校教員:4名 高校教員:4名
(2)講演について
話の内容の理解度
|
Aよく理解できた |
B理解できた |
Cあまり理解できなかった |
D理解できなかった |
学生 |
9 |
11 |
― |
― |
教員 |
6 |
3 |
― |
― |
計 |
15 |
14 |
― |
― |
|
52% |
48% |
|
|
・全員、理解できている。
・理解度は教員のほうが高い。
(3)エネルギー教育
1)今回の対話で小中高校におけるエネルギー教育の必要性を実感したか
|
A大いに感じた |
B感じた |
Cあまり感じない |
D感じない |
学生 |
15 |
5 |
― |
― |
教員 |
6 |
3 |
― |
― |
計 |
21 |
8 |
― |
― |
|
72% |
28% |
|
|
・全員、エネルギー教育の必要性を実感した。
(4)対話について
1)対話の前にエネルギーに対する危機意識を持っていたか
|
A非常に持っていた |
B持っていた |
Cあまり持っていなかった |
D持っていなかった |
学生 |
4 |
9 |
6 |
1 |
教員 |
2 |
7 |
― |
― |
計 |
6 |
16 |
6 |
1 |
|
21% |
55% |
21% |
3% |
2)対話の後にエネルギー問題に対する危機意識は変ったか
|
A大いに変った |
B変った |
Cあまり変らなかった |
D変らない |
学生 |
8 |
10 |
1 |
1 |
教員 |
1 |
4 |
2 |
2 |
計 |
9 |
14 |
3 |
3 |
|
31% |
48% |
10% |
10 % |
・ 対話により、5人の内4人が危機意識が変った・
3)対話の満足度
|
Aとても満足 |
B満足 |
Cやや不満 |
D不満 |
学生 |
9 |
6 |
4 |
1 |
シニア |
3 |
6 |
― |
― |
計 |
12 |
12 |
4 |
1 |
|
41% |
41% |
14% |
3% |
・教員は全員、学生は4人に3人が満足している。
4)対話の必要性
|
A非常にある |
Bある |
Cあまりない |
Dない |
学生 |
12 |
7 |
― |
1 |
教員 |
6 |
3 |
― |
― |
計 |
18 |
10 |
― |
1 |
|
62% |
34% |
|
3% |
・ほぼ全員が対話の必要性を感じている。
(5)エネルギー教育に関する考え
1)今後「エネルギー教育」を推進したいか
|
A大いにしたい |
Bしたい |
Cあまりする気はない |
|
学生 |
12 |
6 |
1 |
無回答1 |
教員 |
7 |
2 |
― |
― |
計 |
19 |
8 |
1 |
1 |
|
66% |
28% |
3% |
3% |
・殆ど全員がエネルギー教育を推進したいと考えている。
2)今後「エネルギー教育の研究」を推進したいか
|
A大いにしたい |
Bしたい |
Cあまりする気はない |
Dする気はない |
学生 |
6 |
13 |
― |
1 |
教員 |
7 |
2 |
― |
― |
計 |
13 |
15 |
― |
1 |
|
45% |
52% |
|
3% |
・ほぼ全員が「エネルギー教育の研究」を推進したいと考えている。
3)「エネルギー」や「エネルギー教育」について、他の研修を受ける希望はあるか
|
A大いにある |
Bある |
Cあまり無い |
|
学生 |
6 |
11 |
2 |
無回答1 |
教員 |
4 |
4 |
|
無回答1 |
計 |
10 |
15 |
2 |
2 |
|
34% |
52% |
7% |
7% |
・90%が研修を受ける希望を持っている。
4)他の学生や教員に「エネルギー教育」を普及させたいと考えるか
|
A大いにさせたい |
Bさせたい |
Cあまりさせる気はない |
Dさせる気はない |
学生 |
8 |
11 |
― |
1 |
教員 |
3 |
6 |
― |
― |
計 |
11 |
17 |
|
1 |
|
38% |
59% |
|
3% |
・殆ど全員が「エネルギー教育」を他の学生や教員に普及させたいと思っている。
10.中部電力浜岡発電所見学
愛知教育大学より中部電力の広報に話題提供したところ、12月22日(土)に浜岡原発の見学について便宜を図っていただけることになり、この見学会へのSNWからも3名(伊藤、松永、金氏)随行した。2週間まえの対話に参加した学生の殆ど、また先生は2名参加。2週間目に芽生えた原子力や放射線に関する知識欲、疑問がこの見学で更に膨らみ、見学の最中に中部電力の説明員のかたが沢山の質問の対応に時間が足りずシニアが応援、また往復のバスの中では吉田教授と2名の先生から学生達に学生時代の勉強の重要性など説明したり、と確かな手応えを感じた見学でした。
11.感想
この対話の会に参加された吉田先生、12名のシニア、また5人のオブザーバーのそれぞれの感想などは添付に詳しく纏めてますので参照下さい。幹事としての感想を以下に記します。
(1)
教育系大学学生との対話はSNWとして2年前からの願望であったが、昨年11月の東大市民講座での中学校理科教諭との偶然の出会い、北大杉山先生によるエネルギー環境教育学会との繋がりなどを頼りに細いネットが徐々に太くなり、愛知教育大学の吉田淳教授という熱意と行動力に溢れる先生と出会い、9月末の対話イン九州に体験参加で急速に具体化し、ようやく実現に漕ぎ付けることが出来た。
(2)
これまでの対話は学生側は学生幹事が全て準備したが、今回はこの方式は無理と言うことで吉田先生がほぼ一人で大学側学生への呼びかけから事前の学生からの質問要望集め、テーマの決定、グループ分け、当日の進行、懇親会まで、全て取り仕切っていただいた。吉田先生の存在無ければ開催できなかった。また付属名古屋中の羽澄先生は当日別件で参加できなかったが、現役先生の参加勧誘など側面から支援。
(3)
対話、またその成果発表を通じて学生が大変に素直で、学んだことを如何に生徒達に教えるかということに迅速に反応。反面、素直すぎて批判力が乏しい気もした。教育系大学学生は子供達への教え方を学ぶ、研究するのが主体で、教える内容については特にエネルギー、地球環境、原子力の社会的側面、また世界や我が国の状況と言った地政学的内容は全くと言っていいほど知識が無い、学ばない、従って今回は大学にとっても先生、学生にとって大変貴重な機会であり、SNWにとっても原子力を一般社会に理解促進する意味で大きな成果であったと確信する。
(4)
愛知教育大学とは今後も毎年継続するが、さらに他の教育系大学へも広げたい。しかし、教育系大学特有の相関図があるようなので、吉田先生や杉山先生のご指導を得ながら今後推進していきたい。以上
参考:愛教大学生とシニアの対話開催の経緯
@平成17年から原子力系大学学生との対話を始めたが、当初から原子力の正しい理解を社会に広めるには初等中等教育での授業が是非必要でありそのためには教育系大学学生との対話もいずれ将来にはしたいという願望があった。
A平成18年11月11日の東大市民講座に竹内哲夫会長が講師として登壇、フロアからの質問に真っ先に手を挙げて今の公立学校教育で原子力や放射線を教えることが困難なことを訴えた中学校教諭がいた。講座が終わって名刺を交換、愛知教育大学付属名古屋中学校の理科の先生だった。翌19年3月末に名古屋大学学生との対話を開催したときに愛知教育大学生も合同でと同先生を通して愛教大に提案したがエネルギーや原子力に関して知識認識の差が大きい為実現できなかった。
B19年6月に北海道大学学生と対話をしたときに北大杉山憲一郎教授が同席、同教授はエネルギー環境教育学会の副会長であり教育系大学との対話の可能性を打診したところ愛教大に熱心な先生がいると、吉田淳教授を紹介していただいた。
C9月3日に松永氏と一緒に吉田教授に会いに名古屋まで出かけた。同大付属小学校の校長も兼務しておられ、隣の付属中学で羽澄先生も打合せに同席し今後の進め方を相談、また9月28日に予定している対話イン九州への体験参加を持ちかけた。吉田教授は対話イン九州に参加してこの対話イベントの趣旨、目的を高く評価され愛教大でも学生達にエネルギー教育の重要性を認識してもらう為に効果的であり実施を決断、また式次第、会場など運営など全てを把握され、以後の推進が大変円滑に行なわれることになった。
以上