大学における学生とシニアの対話実施概要
−東京工業大学−
報告作成 松永一郎
1.実施主旨
今春日本原子力学会春の年会で実施した「学生とシニアの対話(学生のキャリアデザイン&夢支援)」のフォローアップ。日本原子力学会の学生連絡会の活動を支援し、これから原子力界に進む予定の学生の活性化をはかる。
2.対話の目的
学生とシニアとの対話を通して、学生とシニアの相互理解を図ると共に、学生のキャリアデザインと今後の原子力、エネルギー産業について考える。
3.東京工大における対話の実施
(1)日時 8月1日(水) 14:00〜17:00
(2)参加者
@学生 14名
東京工大 11名(博士1年1名 修士2年5名 修士1年5名)
武蔵工大 2名(修士2年2名)・・オブザーバー
Aシニア
エネルギー問題に発言する会会員9名
荒井利治、伊藤 睦、小川博巳、竹内哲夫、土井彰、中神靖雄、林 勉、堀 雅夫、松永一郎
Bコーディネーター 藤井靖彦東工大教授、天野治氏(電中研、日本原子力学会)
他にオブザーバーとして鈴木一雄氏(東電)、山名康裕氏(月間エネルギー)
(3)実施内容
@総合講演
・ 東工大の原子核工学専攻の概要とアンケート結果の報告
西山氏(学生連絡会代表、東工大D1)
・今後の原子力の行方とキャリアデザインに関して
若者の将来に何を望むのか 竹内氏
原子力の学生さんへのメッセージ(メーカーの立場から) 伊藤氏
技術者としての望ましい人材 土井氏
・今までシニアとの対話に参加して 三木氏(学生連絡会副代表、武蔵工大M2)
・対話を始めるに当たって 藤井東工大教授
A対話
シニア3名+コーディネーター1名の3グループにわけ、各グループに学生が3、4名ずつついて対話。
対話の題材は「原子力産業に何を期待するか」「原子力が社会に受容されるには「将来の原子力の役割」他
対話終了後に参加学生が一言ずつ感想を述べた。感想の全体をまとめるとつぎのとおり。
「対話をして、原子力が社会から受容され事が重要であることを再認識した。」「シニアの経験談を聞き、今後原子力技術者として世に出た時の心構えが分かった。」「原子力は日本の将来にとって重要なものであり、自分の選んだ道がまちがっていないことが分かった。これから原子力の浸透に向け努力していきたい。」等
(4)結果
参加シニアから感想を収集、学生には事後アンケートを実施
(シニアの感想概要)
@ 武蔵工大は学部から大学院生まで含み、原子力を専攻するかどうか未定の学生も含まれていたが、東工大は修士のみで全員原子力希望で進学してきておりまた半数が既に就職が決まっていたので、落ち着いて話ができた。
A 短時間の会合ではあったが学生が前向きに原子力に取り組もうとしている姿勢に好感が持てた。
B 学生との対話は緒に付いたばかりである。相互理解を深めるには対話を重ねることが必要。
C 50歳の年齢差は社会人になる時のおかれた環境も真反対で危機意識の共有には難しい点もあるが、原子力を専攻した学生は世間の反原子力の風潮を乗り越えて進路決定してきただけに貴重な存在。将来エネルギー構想を持って活動してほしい。
D 高い観点から物事を見、反対意見の人達とも議論を戦わせながら問題点を掘り下げ、自分の考えをまとめていくと言った訓練をし、自分の得意分野、特長を踏まえて活用するすべを考えていってほしい。
E 「原子力の将来はどうなのか」「自分の選んだ進路は正しかったのか」「企業で何を目指すべきか」と言う現実的な課題に対して、シニアが経験に基づき回答。その結果「自分の選んだ道に間違いが無かった」という確信が学生側に生じたのは対話の成果。
なお原子力産業の先行きのビジネスが増えることが魅力ある職場に通じ、志望・採用両方が活性化する道である。
F 試験やレポートで忙しい時期にもかかわらず多くの学生が参加し、充実した対話ができた。学生にとっても初めての経験でよい刺激になった。このような対話を広げていく努力が必要。シニアも対話をしている間に説明等工夫をするようになった。
G シニアが社会に出た時からこの50年で原子力は大きく成長した。原子力産業は設備費に比べてエネルギー資源コストは低いので、技術的に大きな可能性を持っており、この道を選択した若い人の活躍の場は広い。
H 若い人は日頃反原子力の風潮に晒されており、今ひとつ自分たちの選択あるいは選定しようとしている進路に自信が持てないでいる。このような対話の機会をつくり、自信を持たせることが重要である。
(学生事後アンケート結果概要)
@企画について
・ 企画に参加して良かったというものが5名、今後またこのような企画があったらぜひ参加したいあるいは都合がつけば参加すると言う者6名で、ほぼ全員が今回の企画を評価
・ 今回と同様な企画で対話・討論してみたいグループとしては、原子力産業界の若手を希望するもの5名、シニアを希望する者4名、教授・助教授を希望する者3名であった。
A主要な感想
・ 貴重な経験や今後の原子力業界の先行がきけてよかった。就職の前に聞けば原子力に進む者がもう少し増えるのではないか。
・ 社会の中の原子力に対する一般人の批判などを聞きたかった。
・ 授業で聞いた話や知っている話なので若手や原子力関係以外の人もいたらもう少し面白かったのではないか。
B今後の企画で討論したいテーマ
・ 今後の原子力の動向、原子力発展のために具体的に何ができるのか
・ 原子力反対の理由の明確化とそれに対する具体的対策
・ 原子力のメリット・デメリット
・ 原子力の重要性
4.今後の対応
今回の対話は本年の7月13日に武蔵工業大学において実施された学生とシニアの対話に続くものである。日本原子力学会学生連絡会及びエネルギー問題に発言する会はこれらの成果を9月13日から八戸工大において開催される日本原子力学会秋の大会で発表する。
また9月14日には平成14年度から16年度までの3年間、㈶エネルギー環境教育センターからエネルギー教育の地域拠点大学に指定され、成果を上げた八戸工大の学生とシニアの対話を計画している。
日本原子力学会学生連絡会はこれらの対話を契機としてその基盤強化の道をさぐり、今後活動していかれることを期待する。またエネルギー問題に発言する会は日本原子力学会に協力して彼らを支援していくこととしたい。
5.対話写真集
林 勉 エネルギー問題に発言する会幹事 挨拶
対話風景
集合写真
懇親会風景
大学における学生とシニアの対話(詳細)
東京工業大学
さる8月1日(水)、東京目黒区の東京工業大学大岡山キャンパス原子炉工学研究所において、同校の原子核工学専攻大学院修士課程1,2年生の学生10名、日本原子力学会学生連絡会所属の学生3名(東京工業大学博士課程1年1名、武蔵工業大学修士課程2年2名)の合計13名の学生と、エネルギー問題に発言する会のシニア会員9名との「学生とシニアの対話」が実施された。
またコーディネーターは東京工業大学大学院の藤井靖彦教授と日本原子力学会企画委員の天野治氏(電力中央研究所)が努めた。
以下にその内容を示す。
1.実施主旨
本年3月の日本原子力学会春の年会において、同学会とエネルギー問題に発言する会が共催で「学生とシニアの対話(学生のキャリアデザイン&夢支援)」セッションを企画した。この企画は日頃我が国のエネルギー問題、特に原子力問題に関して危機感を抱いているシニア世代と、これから社会に出て、将来地球規模で現実化する厳しい環境・エネルギー問題に直接対峙し、日本および世界のために諸問題を解決していってもらわねばならない原子力を専攻する学生とが初めて同じ土俵に上がり、さまざまなテーマについて話し合うという画期的なものであった。
テーマは将来の資源状況、ものづくりなどの技術力の維持と伝承、学生のキャリアデザイン構築などに関することであり、このような「学生とシニアの対話」がさまざまな情報交換の場所として期待され、学生連絡会の活性化に繋がっていくという感触が得られた。
セッション終了後、参加シニア及び天野治氏と今後の対応を話し合った結果、以下のことが合意された。
(1) このような対話は単発ではなく恒常的に進めていく必要がある。
(2) セッションに参加した学生は意識の高い、言わば原子力エリートであるが、もっと一般の学生にもこのような場を提供し、学生たちが学生連絡会の輪をひろげその足場を強化していくことを支援していく必要がある。
(3) 最終的には学生たちが学生連絡会を中心として、我が国/世界の原子力の発展のためにアイデアを出し合い、自ら企画立案実行していけるようになれば理想的である。
そしてそれを学会、原子力産業界、官界等で支援する体制作りにつなげていく。
2.今回の対話の目的
学生とシニアとの対話を通して、学生とシニアの相互理解を図ると共に、学生のキャリアデザインと今後の原子力、エネルギー産業について考える。
3.東京工業大学における対話の実施
東京工業大学原子核工学専攻には学部は無く修士課程、博士課程からできている。修士課程に入学してくる学生は学部では機械系、電気系、物理系、化学系の課程を経ている。修士課程は各学年約30名、1,2年合わせて約60名が在籍している。
修士課程終了後は約2〜3割が博士課程に進学し、残りは就職する。就職先はほぼ半数(約10名)が原子力方面、半数がその他となっている。
今回の対話は東京工業大学の学生が主体となって企画立案し、それをエネルギー問題に発言する会及び原子力学会がサポートする形で実施した。また東京工業大学原子核工学専攻は日本学術振興会の平成15年度COEに選定されていることから、COE-INESの協力も得た。
(1)参加者
@学生
修士課程1年−5名、修士課程2年−5名、博士課程1年−1名の他、武蔵工大修士課程2年−2名がオブザーバーとして参加した。
修士課程2年生は全員が原子力産業に就職内定済みであり、1年生は原子力系に就職を希望するものと未定のものが半々の状態である。
Aシニア
エネルギー問題に発言する会の運営委員の中から希望者を募るとともに、できるだけ広い範囲の経験者と対話したいという学生側の要望を入れ以下のメンバーを選定した。(名簿順)
荒井 利治(元日立製作所)
伊藤 睦(元東芝プラント建設、元東芝)
小川 博巳(元東芝)
竹内 哲夫(東電、元日本原燃、前原子力委員)
土井 彰 (元日立製作所)
中神 靖雄(三菱重工業、元JNC)
林 勉 (元日立製作所)
堀 雅夫 (原子力システム研究懇話会、元原研、元動燃)
松永 一郎(元住友金属鉱山)
Bコーディネーター、オブザーバー
コーディネーターとして藤井靖彦東工大大学院教授と天野治氏(電中研、日本原子力学会企画員)が参加した。またオブザーバーとして鈴木一雄氏(東電原燃サイクル部)、山名康裕月間エネルギー編集長)が参加した。
(2)事前調査
対話に先立ち、学生全員に対して事前アンケートを実施した。
アンケート内容は以下のとおり。
・参加予定者数
・進路予定/進路希望
・原子核工学を専攻した理由
・対話で討論したいと思う事項
・修士1年はシニアや修士2年に聞きたいこと/修士2年はシニアに聞きたいことや修士1年に言っておきたいこと
(アンケート結果)
アンケートの回収率は修士1年、2年ともに50%であった。(13/26,16/32)
@原子核工学を専攻した理由
多い順から
a.原子力に興味があった。
b.原子力とは関係なく研究内容に興味があった。
c.原子力(原子核工学)の勉強がしたい。
d.原子力業界に就職したい。
A対話企画で討論したいと思う事項
a.今後の原子力、原子力産業について
b.エネルギー問題について
c.就職活動について
d.原子力と社会について
(3)対話
対話は「総合講演」と「学生とシニアの対話」の2部構成とした。
@総合講演
学生代表から2人、シニアから3人が「学生のキャリアデザイン」に関係することがらについて各約10分の講演を行った。最後に藤井教授が対話を始めるに当たり、最近の学生の考え方等に関する簡単な講演を行った。
講演内容の概略は次のとおり
a.東工大の原子核工学専攻の概要とアンケート結果の報告
・・西山 潤 氏(東工大博士課程1年)
内容は既述のとおり
b.今後の原子力の行方と学生のキャリアデザイン(電力事業者として)
「若者の将来に何を望むのか」・・・・・・竹内哲夫氏
(概要)
現代文明は安くて大量の化石燃料をエネルギー源としてふんだんに使うことから成り立っているが、これはこの150年ぐらいのことである。中でも使い勝手のよい石油の多量消費は高々50年間のできごとである。しかも早くもそのピークが見えてきた。石油に代わるエネルギーがなければこの文明の維持発展は不可能である。それに代わる次世代のエネルギー源としては原子力しかない。これからその仕事に従事していく若者への期待は大きい。
電気事業のなかで原子力比率はこれからはもっと拡大すること、高速炉に繋がる次世代炉開発が始まること、運用と稼働率向上と高経年炉対策が今後の大きな課題であること、核燃料サイクルの開発と推進ならびに国際機関・研究機関とのタイアップが益々盛んになっていくことを念頭において学んでいって欲しい。
c.今後の原子力の行方と学生のキャリアデザイン(メーカの立場から)
「原子力の学生さんへのメッセージ」・・・・・・伊藤 睦氏
(概要)
脱化石エネルギーの主役はエネルギー安全保障と地球環境問題から原子力しかない。
その課題としては社会の受容/認知、経済性、廃棄物処理、安全確保、品質保証である。日本ではこれから2030年に向かって新規プラントの建設が停滞し、メーカにとって厳しい期間となるが、研究開発の継続と設計・建設技術の維持・継承をはからないと既存の発電所の稼働率向上や高経年対策もままならなくなる。幸いなことに、最近では輸出促進、次世代炉開発、原子力水素製造等も俎上に上るようになってきた。
学生は会社選びに当たって、先輩等にその会社が原子力を事業の柱にしているか良く聞いて、自分が活躍できそうか判断したらよい。そして日本の環境とエネルギーを支えるリーダーとなって欲しい。
d.今後の原子力の行方と学生のキャリアデザイン(技術者として)
「技術者としての望ましい人材」・・・・・・土井 彰氏
(概要)
原子力と言う学問分野があるように世間では見ているがそのような分野はない。原子力は総合技術から成り立っており、原子力産業が必要とする技術分野は広く、産業の裾野は広大である。社会に出ればいろいろなチャンスがめぐってくる。そのチャンスをチャンスとして捉えるにはそれだけの認知能力がなければならない。また知識を実行に移すには、知恵と他の人と違う発想と技術を持っていないと抜きん出ることはできない。今学生として原子力に関するいろいろな勉強をすることは勿論重要である。しかし現在の具体的なシーズやニーズに拘泥することなく、大きな視点から技術者としての資質を磨いて欲しい。
e.今までシニアとの対話に参加して・・・三木陽介氏(武蔵工大修士課程2年)
(概要)
去年の10月から原子力学会のセッションに関係してシニアと対話をする機会ができた。今まで10回ほどいろいろな対話をしたが、一言で言うと「情熱をもらった」ということである。先日J−パワーの大間原子力発電所がフルMOXの許可を得たことに関して、藤家前原子力委員長の談話が新聞に載っているのを読んだが、シニアとの対話で得られた同じような情熱が伝わってきた。情熱をもらうと意思・信念が強くなる。これからは自分の意見を情熱を持って伝えていくことができると考える。
f.対話を始めるに当たって・・・藤井靖彦東工大教授
(概要)
今東工大は前期試験期間中であるがそれにもかかわらずこれだけの学生が集まったのは学生側の期待の大きさを反映している。ここにおられるシニアの方々が社会に出られた当初は世間一般には原子力推進のフォローの風が吹いていた。
今は逆にアゲインストの風が吹いているが、それにもめげずにそれを乗り越えて原子力を選んできた。それだけでもたいしたものである。また若い人はしっかりと勉強して指導力をつけ、これからの社会を変えていって欲しい。
A学生とシニアの対話
対話はシニアを3名ずつ3グループに分け、それぞれの組に修士1年、修士2年を混在して3〜4名配置しておこなった。各組では自己紹介のあと、「原子力業界に何を期待するか」「原子力が社会に受容されるには」「将来の原子力の役割」等についてフリーディスカッションをおこない、対話終了後に参加学生が一言ずつ感想をのべた。
感想は以下のとおり
(修士2年)
A:今までシニアの話を聞く機会はなかった。対話をして、自分なりに原子力のことを考えるようになった。また技術者としての精神的な部分についてどう考えるかヒントをもらった。
B:シニアの今までの経験談が参考になった。これから頑張って原子力の浸透に努力したい。
C:原子力は工学的にまだまだ解決しなければならない問題があるが、社会から信頼されることが重要だと感じた。これからそのような仕事をしたい。
D:原子力が社会から受容されることがなかなか困難ではあるが重要と感じた。会社に入った後、自分のモチベーションをどう高めていけばよいか今日の話が参考になった。
E:これから会社に入るに当たって期待と不安があったが、期待が膨らんできた。このような対話を他の学生にも広めて欲しい。
(修士1年)
F:日本には原子力は向かないと思っていたが、対話を通じてそうでないことが分かった。これからもっと原子力を広めていくことをしていきたい。
G:国家・組織の中で自分をどう生かしていけばよいのか考えさせられた。
H;会社に入ったらどうなるか分からなかったが、対話通じてある程度理解することができた。
I:まだどのような進路にするか決めていないが、原子力方面に魅力があることがわかった。今日の対話で悩みが一つ増えた。
J:進路を決めるに当たって、できるだけ早い時期に現場を見てみたい。
4.対話結果・・感想の収集及び事後アンケートの実施
対話終了後、対話に参加したシニアに感想を求めた。また学生サイドでは独自の事後アンケート調査を行っている。
(1)シニアの感想
シニア9名の感想を別添1に示す。
内容を分類すると以下のとおり
@ 武蔵工大は学部から大学院生まで含み、原子力を専攻するかどうか未定の学生も含まれていたが、東工大は修士のみで全員原子力希望で進学してきておりまた半数が既に就職が決まっていたので、落ち着いて話ができた。
A 短時間の会合ではあったが学生が前向きに原子力に取り組もうとしている姿勢に好感が持てた。
B 学生との対話は緒に付いたばかりである。相互理解を深めるには対話を重ねることが必要。
C 50歳の年齢差は社会人になる時のおかれた環境も真反対で危機意識の共有には難しい点もあるが、原子力を専攻した学生は世間の反原子力の風潮を乗り越えて進路決定してきただけに貴重な存在。将来エネルギー構想を持って活動してほしい。
D 高い観点から物事を見、反対意見の人達とも議論を戦わせながら問題点を掘り下げ、自分の考えをまとめていくと言った訓練をし、自分の得意分野、特長を踏まえて活用するすべを考えていってほしい。
E 「原子力の将来はどうなのか」「自分の選んだ進路は正しかったのか」「企業で何を目指すべきか」と言う現実的な課題に対して、シニアが経験に基づき回答。その結果「自 分の選んだ道に間違いが無かった」という確信が学生側に生じたのは対話の成果。
なお原子力産業の先行きのビジネスが増えることが魅力ある職場に通じ、志望・採用両方が活性化する道である。
F 試験やレポートで忙しい時期にもかかわらず多くの学生が参加し、充実した対話ができた。学生にとっても初めての経験でよい刺激になった。このような対話を広げていく努力が必要。シニアも対話をしている間に説明等工夫をするようになった。
G シニアが社会に出た時からこの50年で原子力は大きく成長した。原子力産業は設備費に比べてエネルギー資源コストは低いので、技術的に大きな可能性を持っており、この道を選択した若い人の活躍の場は広い。
H 若い人は日頃反原子力の風潮に晒されており、今ひとつ自分たちの選択あるいは選定しようとしている進路に自信が持てないでいる。このような対話の機会をつくり、自信を持たせることが重要である。
(2)学生への事後アンケート結果
質問内容及び結果を別添2に示す。
8月16日現在回収率60%(6名/10名)である。
1)企画に参加して 良かった:5名 どちらともいえない:1名 良くなかった:0
2)今後またこのような企画があったら ぜひ参加したい:2名 都合がつけば参加する:4名 参加したくない:0
3)今回と同様な企画で対話・討論してみたいグループ(複数回答可) 原子力産業界の若手:5名 シニア:4名 教授・助教授:3名 一般人、その他は0
4)感想(5人分まとめ)
ア.重な経験や今後の原子力業界の先行がきけてよかった。就職の前に聞けば原子力に進む者がもう少し増えるのではないか。
イ.社会の中の原子力に対する一般人の批判などを聞きたかった。
ウ.授業で聞いた話や知っている話なので若手や原子力関係以外の人もいたらもう少し面白かったのではないか。
(5)今後の企画で討論したいテーマ
ア.今後の原子力の動向、原子力発展のために具体的に何ができるのか
イ.原子力反対の理由の明確化とそれに対する具体的対策
ウ.原子力のメリット・デメリット
エ.原子力の重要性
5.今後の対応
今回は7月13日の武蔵工大に続いての2回目の対話であった。対象とする学生層は多少異なるが、このような機会が今までになかった学生にとって、今後社会に出るに際しての糧になったようである。
9月14日には日本原子力学会秋の年会が実施される八戸工大の学生を対象として、エネルギー教育に関して学生とシニアの対話を予定している。
日本原子力学会学生連絡会はこれらの対話を契機としてその基盤強化の道をさぐり、今後ともこのような企画を立て、実施していかれることを期待する。またエネルギー問題に発言する会は日本原子力学会に協力して彼らを支援していくこととしたい。
別添1
荒井利治
武蔵工大、東工大と学生との会話の幹事役をして頂き有難うございました。
両方に参加しましたので,若干両者の比較をしながら感想をのべます。
1.学生の構成が武蔵工大が学部生を含み原子力を専攻するか未定の空気であったが、東工大では修士のみで,半数以上が就職内定者であったので落ちついてシニアの話を聞く雰囲気であった。それだけによく言えば大人的発言が多く,若者的元気な声は少なかった。
2.話題も電力会社への内定者が多かったので,何故電力会社を選んだのか,どのような事を期待しているかの問いかけから始まり、シニアからは(全員メーカー出身)メーカーとの違いを説明,但しユーザーでも基本は現場や物を知らねばならぬ事を強調した。この点は学生もよく理解していて流石と感じた。
3.会社人としての心がけは,当日の土井さんの講演があったので、かなり格調高く,企業が期待しているものを各人の経験より説明したが,当座は与えられたことはどんな事でも覚える必要があるが,ルーチン業務に埋没しては駄目で,少しでも自分なりに考える時間を持つようにと獎めた。
4.いずれにせよ,現在世間的には風当たりが強い原子力だが,皆さんの選択は個人にとっても,日本にとっても間違いないよい選択だったとのメッセージは伝わったと感じた。
伊藤睦
今回初めての参加でしたが、会社の鎧を脱いで学生の皆さんと率直に対話が出来て、自分としても大変満足しています。
この様な機会を作っていただいた、学生連絡会の西山様、三木様、学会の天野様、鈴木様、そして発言する会の松永様他関係者の努力に敬意を表するとともに、忙しい中出席された学生の皆さんに感謝します。
事前に、武蔵工大での対話会の感想を読んで、学生の皆さんには原子力に対する不安が相当あるものと思っていましたが、意外にもその不安は当たりませんでした。これは、皆さんが既にそこを乗り越えて、原子力を専攻されており、一部の人は既に卒業後の行き先も内定されているとの事で、当たり前のことかも知れません。それでも、これから社会に出て自分のキャリアを積む過程で、我々との対話が生かされることが出来るものと信じます。
今会の対話会では、短時間でしたが、学生さんが夫々、明るく前向きに、原子力に自信を持って取り組んでいる、取り組もうとしている姿を実感し大変心強く思いました。
大学側もこの様な対話会或は先輩の話しを聞く時間を積極的に設営して、技術や経験・歴史の伝承に努めていただきたいと思います。
小川博巳
学生諸君にとっては、試験やレポート書きの忙しい時期にも拘らず多数参加され、シニアの皆様も、お忙しい中をご講演や対話に参加されて、双方が真剣に取組んだこと自体に、先ず敬意を表します。
原子力関係者は、これまで社会に対して「黙して語らず」とのスタンスが一般的でした。原子力について正しく理解して頂くためには、積極的な発信が必要であることを痛感して、シニアは第一歩を踏み出しました。学生諸君との対話も未だ端緒についたばかりですが、予想されるエネルギーの危機、併せて、原子力の果たすべき役割と未来展望、次世代を担う若者への期待、或いは学生諸君の将来のキャリアデザインを実現するためのヒント等など、さらに膝を突き合わせて対話を重ねる機会が持てればと期待しています。
約半世紀の世代を超えて相互に理解を深めるには、其れ相応の対話を重ねることが必要だろうと思います。幸いにも、学生連絡会が既にその準備を開始して下さっていると伺った。次世代を担う諸君が、自らの判断で行動を起こしていることを喜び、大いにエールを送りたい。シルバーパワーを大いに利用しつつ、小さな活動を徐々に拡大して、学生諸君の英知を集めて、例えば「次世代のエネルギー構想」を描いて世に問うては如何であろうか。その様な真摯な要請があれば、シニアは挙って馳せ参じること請け合いである。
竹内哲夫
何回かこのような試みで世代間のギャップが埋まって行きつつあります。当初はクレパスが深すぎて走行不能かと、驚きました。
双方向会話で相手を知る、この結果、日本社会の未来に何らかの効果を生むという事ならば、成果品出力は若手の学生の目覚めと活動開始という事でしょう。シニアは今や活動が終わった人間です。しかし朽ちても若者の意欲付けの肥料くらいにはなりたいと思っています。
丁度50年チガイの皆さん学生と話をしていると、社会、生活、意欲が全くのポジ・ネガ反転のことばかりです。私どもシニアは飢えて世をさまよい、学生時代は世の中を憂い結束、檄を飛ばし叫んだ時代です。皇居前「血のメーデー」で友達が沢山負傷しました。シニアはその青春の幕開けが飢餓、貧困だった。
今全く反転した飽食の時代に悩み無く育った皆さんに、未来の「油欠乏の話し」は酷な事は分かっています。しかし危機意識が今の日本にはなさすぎ、ノー天気、アナタかせすぎる。原子力工学を専攻された皆さんは、世間の評判に向かい合って進んでいる、非標準型なので、極めて貴重な存在、是非とも未来のエネルギーセキュリチィを確保するように活躍下さい。
今日は青森ネブタ開幕の日。日本原燃の社長時代〔6年前に)こんな思い出で書き始めたら止まらなくなった「エッセイ」に同じ事をホダイテいます。
心配症は死ぬまで直らない。という事も自認しています。このエッセイが私の論旨の底流です。
土井 彰
1.若い学生様の物事に取り組む真摯な姿に触ることができ、前回の武蔵工大同様とても気持ちがよかった。
2.若いが故に知識の範囲が狭く、その範囲ですべての物事を判断してしまおうとの傾向はまだ見られるが、今後知識、経験が広まるにつれ、原子力に対して技術者としての正しい判断ができるようになる。若いオピニオンリーダーとして活躍することを期待したい。
3.自分の意見と相反する意見の他人と意見を述べあって討論する習慣がない。討論を深める中で、問題を掘り下げてゆく訓練をしてほしい。
4.自分の特徴、得意な分野は何かを常に考え、社会の中で、自分の特徴をどのように活用するかをもっと考えてほしい。
中神靖雄
武蔵工大でのシニア対話は、学部の学生の参加が多かったこともあり、一般人に近い素朴な質問や疑問、不安といったものが、対話の中心でしたが、東工大の場合は修士で原子力にどっぷり漬かっている人達なので、「原子力の将来はどうなのか」、就職先が決まった人達は、「自分の進路は、これで良かったのか」「企業で何を目指していけばよいのか」等、現実的な課題に、シニアが自らの経験等に基づいて答える形で進められました。
最後に学生側から「自分の選んだ道は正しかったのだ」と確信が持てたとの感想が聞けたのは、対話の甲斐があったということでしょう。
今回の出席者は、電力会社に就職が内定したり、進路を考えている学生が多数を占め、メーカー志望がいなかったのは淋しい気持ちがしました。藤井教授のお話では、採用側も一部メーカーを除き厳しいとの話であり、先行きのビジネスが増えて始めて魅力ある職場となり、志望・採用両方が活性化するのかなとの感想を持った次第です。
林 勉
学生さん達、実験やレポート等大変に忙しい時期にも係わらず、多数の方に参加いただき、充実した対話が実現出来たことは非常に良かった事と思っています。学生さん達の感想からもわかるように、シニアとの対話はいままで経験したことのないことであり、良い刺激を与えることができたと思っています。シニア側も前回の武蔵工大の時より、プレゼンテーションに工夫、改善が見られ、学生さん達も聞きやすかったのではないかと思っています。このような機会をもっと広げて欲しいとの学生さんの要望もあり、この言葉を糧にして、我々シニアも今後とも頑張ってより良い対話が実現できるように努力していきたいと思っています。
堀 雅夫
学生とシニアの間には、年代的に2世代・50年の差があるという話が出ていた。50年前の私は、化学工学専攻の修士1年で新しい技術分野の原子力に興味を持ち、この関係のものを卒論のテーマに選びたくて国会図書館に通って米国の原子力関係の資料を読み漁っていたのを思い出した。
今回の対話で原子力関係企業への就職の話が出ていたが、この50年で原子力は産業として大きく成長したことを実感した。原子力は電力供給の1/3を占めるまでに発展し、さらに幅広いエネルギー利用が期待されている。最近の原子力に対する逆風にも鍛えられて、これまでの成長に伴う歪を取るなど努力をしており、今後エネルギー供給におけるより大きな役割を担っていくことになろう。
原子力のコストの内、エネルギー資源のコストは僅かで設備のコストが大きいと言うことは、技術的にも多くの可能性を持った分野なので、原子力を職業(profession)に選んだ若い人の活躍の場は広いと思う。
松永一郎
東工大は大学院から原子核工学を学ぶようになっているため、もともと「原子力方面に将来進みたい」と考えて進学してきた学生が多く集まっています。また対話に参加したものの半数は既に就職も決まっており、そのためか武蔵工大のときに比べて落ち着いた雰囲気で話しができました。逆にいえば原子力を肯定的に捕らえており、シニアのいうことを割合すんなりと受け入れると言った感じでした。それでも周囲の反原子力の風潮に晒されてきているために、今ひとつ自分たちの選択した道に自信が持てないでいるというのが現状のようです。
しかしわずか3時間足らずのシニアとの対話でしたが「その選択に誤りが無かった」という自信が学生一人一人に湧いてきているのが感じ取られました。これから原子力界の中心になっていく彼らにとって、何物にも代えがたい財産になったものと思われます。
今後この輪を一層広げていけたらと考えます。
別添2