日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話
イン九州工業大学2022 概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 金氏顯
《正門、奥は辰野金吾設計の守衛室》
《旧体育館を内部改造したGYMLABOで対話会開催》

はじめに

九工大での対話会は大学側もアクティブラーニング実践イベントとして高く評価している。奇数回は電気電子工学専攻「先端電気工学特論」、偶数回は機械知能工学専攻「エネルギー変換特論」、2単位。今年度は11回目、電気電子工学専攻で特論講座の一部ではなく、「学生とSNWとの対話会」単独イベントとして開催。
担当の先生は前回と同じ渡邊政幸教授。基調講演は、前半として電気技術者が原子力開発に携わった体験談を小川修夫が、後半は現下のエネルギー危機と原子力の役割を金氏が講師となって、各40分ずつで一コマとした。なお、10/5の基調講演、11/16対話会とも対面で行った。
参加学生は21名(うち学部10名、大学院生11名)。基調講演は録画し、10/5に参加しなかった学生もシニアも録画をそれぞれの都合良い時に視聴してもらい、便利で効果的だった。
対話会会場はこれまでと違って、産学官交わりの形成拠点として今年5月にオープンしたばかりのGYMLABOにて行った。体育館の内部をリニューアルしたのでGYMという名称が付いている。その中央のコーワーキングエリアを午后半日借り切った。天井が高いので、隣のグループ対話の声など全く気にならず、開放的空間なので対話会に適した会場である。

1.講演と対話会の概要

1)日時&方式
基調講演:令和4年10月5日(水) 18:00~19:30(対面&録画)
対話会:令和4年11月16日(水) 13:00~17:00(対面)
2)大学側世話役の先生
渡邊政幸:電気電子工学研究系教授
3)参加学生
電気電子工学専攻B4、M1、M2,21名(研究室は電気、電子、情報、IOTなど)⇒5グループ
4)参加シニア(10名)+一般市民オブザーバー(1名)
小川修夫、梶村順二、金氏 顯、川西康平、古藤健司、櫻井三紀夫、武田精悦、針山日出夫、松永一郎、山崎智英、一般市民:西川寿美礼(市民と科学者のトークグループCAS talk代表)
5)基調講演
基調講演(1)「原子力産業が電気電子系の若い技術者に期待すること」、小川修夫
基調講演(2)「エネルギー危機と原子力の役割」、金氏 顯
講師:野村眞一
概要:11月16日開催予定の対話会において、学生との対話を実施するに当たり、原子力発電の基礎知識を始め、最近のエネルギー危機や原子力の役割などを学生に知ってもらうための基調講演であった。学生から2,3質問あったが、学生の受講感想としては、知らなかった原子力発電の開発経緯や原子力発電が期待されている現況が良く理解できて極めて有益であったとのコメントが多かった。(出席学生の受講調査票より)

2.対話会の概要(全体司会進行:渡邊政幸先生)

会の詳細(全体司会進行:河部徹准教授)
1)開会あいさつ
【三谷康範学長】
原子力学会シニアネットワーク連絡会の皆様との対話会は2011年の東電福島第一事故の翌年の2012年に始まった時は私がお世話をさせていただきました。今回で11回目とのことで、大変ありがたく思っています。今年になって日本のエネルギーを取り巻く情勢がガラッと変わった。エネルギー価格はウクライナ情勢の前から上がっていたが、ウクライナ危機で益々加速された。今日は学生にとってエネルギーの重要性を考える絶好のチャンスです。原子力界で活躍された皆様方の話を聞き、また対話をする機会は学生たちにとって視野を広げる大変良い機会です。そして自分の意見を言う非常に良い機会でもあります。今年5月にオープンしたばかりのこの施設で活発な対話会となるよう、よろしくお願いします。
【金氏 顯:SNW九州・会長】
省略
2)グループ対話の概要
学生の事前質問は各グループとも技術者らしい率直で本質的な質問が多かった。世話役から、シニアからの回答時に逆質問を必ず記載しておくよう各グループにお願いした。学生はこれらを11月16日の対話会の1週間以上前には入手し、事前に十分準備出来たものと思われる。
グループ対話はほぼ3時間あったので、事前回答の確認、逆質問への学生からの回答、また双方向のフリーディスカッションに十分な時間が取れたものと思われる。
学生の各グループ発表はどのグループとも大変要領よく、またシニアから聞いたことだけでなく学生としての意見や抱負なども交えて発表。シニアからは全くコメントなど無かった。
以下、各グループ対話の概要である。
■グループA : テーマ「原子力発電と核燃料サイクルの今後について」
1)参加者
大学院生:(電気電子工学専攻)M1 3名、M2 1名、リーダー(M1)
シニア:針山日出夫、古藤 健司
2)主な対話内容
参加シニアの自己紹介と参加学生の研究内容・希望進路等も含めた自己紹介を行い、昨今の国内外の環境・エネルギー経済問題の動向を話題として対話会への導入とした。本論では、事前質問を中心にシニアからの回答の説明を行いつつ、派生する問題について相互に問答することで深層に迫り、所論を深めることで対話を進行させた。
事前質問は ①ウランより臨界質量の少ないプルトニウムを使用するMOX燃料に対応する原子力発電所の増設のためのハードルは何か?②2050年までに革新軽水炉を28基ほど新増設する必要があるとのことであるが、その課題としては何が挙げられるか?③原子力発電所を新増設するにふさわしい場所はどこか?④最終処分場についてどこに造るのが相応しいと考えているか?⑤原子炉を廃炉する際のコストを削減するための具体的な方法はあるか?⑥使用済み燃料中間貯蔵施設の新設において、事故やトラブルなど、事業計画の後ろ倒しでコストが増大していく中で、自由化による競争環境下での投資回収リスクはどのように軽減できるか?であった。
事前質問に対するシニアの回答書はA4で6枚(内表2枚)で簡潔にまとめておいた。学生諸君は回答書によく目を通しているようであった。回答書には学生諸君からの質問に単に答えるだけでなく、「・・・については対話会にて更に議論しよう」「・・・についての解決策?一緒に考えてみよう」「・・・と言われているが、君たちはどう考えるか?」「・・・ついてシニア自身はこう考えるが・・」など、専門家からの上から目線の答えではなく、「共に考えてみようではないか」という姿勢で対話に臨んだ。
所感:今頃の学生諸君の学生生活や気質、進路・展望などを、シニアの学生時代や現役時代の状況なども織り込み、話題として雑談の中で取り上げた。シニアと学生諸君との半世紀ほど違う世代ギャップを常に認識し、相互に理解し合える対話が演出できるよう心掛けることをシニア両者で申し合わせ、対話会に臨むこととした。結果、両者満足な対話会となったことを確認し合えた。
■グループB:「テーマ高レベル放射性廃棄物の地層処分」
1)参加者
学生:B4 3名、M1 1名、博士課程2年1名
シニア:松永一郎、武田精悦
2)主な対話内容
主として11月5日に実施した特別講演「高レベル放射性廃棄物の地層処分(講師:武田)」に対する学生からの質問および関連事項について対話した。
〇地上保管では自然災害や人間の行為の影響を受けるリスクなど将来世代の管理負担が生じる。また放射能の低減は数万年かかるため保管し続けることは現実的ではない。そのため現世代で「最終処分」へ道筋をつけることが重要。
〇地層処分において、あるケーススタディによると、ガラス固化体から漏れ出した放射能を人間が被ばくするのは約80万年後に最大となるが、その時でも毎日人間が自然から浴びている放射能にくらべて問題にならないくらい低い。これは地層処分が将来にわたり十分安全性が確保できることを示しており、将来世代に管理負担を負わせることがなくなることを意味する。
〇最終処分場の候補地の確保に向け、現在北海道の寿都町と神恵内村において文献調査が行われている。両町村の「対話の場」で地層処分の安全性・必要性、地域の将来などについて地域の方々と国・NUMOが話し合いを行っているのが現状。
〇今後に向けて必要なこととして、最終処分場のリスクについて誤解などがあると考えられためそのリスクが十分低いことを周知していくこと、電気代の上昇など体感できる変化から原子力の必要性を実感してもらうこと、対話活動に力をいれること、放射線教育を充実させていくことなどが挙げられた
議論の過程で、安全性に関してはモニタリングの考え方やオーバーパックの安全裕度、災害時・事故時の対応、発電所や再処理施設との比較、地下資源の賦存との関連などが議論された。また処分費用についても議論となった。地域との関係では、いわゆるNIMBYの考え、処分場があると地域が活性化するとの考えや、今後地方の過疎化傾向を考えると候補地への応募も増えてくるのではないかという意見などが出された。
■グループC:テーマ「カーボンニュートラル実現に向けた将来の電源構成について」
1)参加者
学生:(電気電子工学専攻)B4 1名、M1 1名、M2 2名(全員同一研究室)
シニア:金氏 顯、櫻井三紀夫
2)主な対話内容
(1)自己紹介
初めに簡単な自己紹介をシニア、学生の順に行った。M2の学生2名は既に就職が決まっており、1名は九電、1名は地元の製造会社。M1、B4は就活中で、関西の大手電力または製造会社を希望。それぞれしっかりした顔つきで、意見も明瞭に発言していた。
(2)対話内容
主な議論
A)カーボンニュートラルの実現可能性と、実現可能レベルは?
再生可能エネルギーで100%担うことは不可能。気象依存の不安定電源は、安定化措置 を講ずるために1/3が限界。SNWでは、「調和電源ミックス」という提案をしていて、再エネ1/3、原子力1/3、CCUS付き火力1/3、の組み合わせが最適と考えている。
B)原子力発電の再稼働に重要な使用済み燃料再処理の状況は?
六ケ所再処理工場の建設はほぼ完成して、一旦実燃料再処理の試運転まで進んだが、設備上、および、管理上のトラブルが発生して試験を中断した。対策進行中に福島第一の事故が発生し、原子力の安全規制が強化されたため、その新基準への対応が行われ、2020年7月に安全規制委員会の審査に合格したが、直後に設備管理の不備が見つかり、現状、運転再開の目途が付いていない。
C)2050年以降まで見通した原子力新増設のためには、どこに建設するのが良いか?
国内の原子力発電所の敷地には、大型炉複数基分のスペースが残されており、電力会社が革新的次世代軽水炉の予定地として挙げている地点には次のような例がある。原電敦賀3,4号機、中国電上関原発、九電川内3号機、東電東通1,2号機。
D)「調和電源ミックス」提案で原子力発電を1/3としているが、1/3以上にしない理由は?
原子力1/3程度までは既存の発電所内の敷地に建設することができる。それ以上の建設には新たな立地地点を必要とするので、建設期間・コスト・地元の了解等で難しさが予想されるため、原子力1/3程度、を提案している。CCUS付き火力発電の経済性によっては、より多くの原子力発電を必要とする可能性もある。
学生諸君は、これらの議論において積極的に自分の意見を述べ、また、シニアの考えも良く聞いて総合的な理解を深めた様子であった。彼らは電気・電子系の学科に所属していて、日ごろ原子力に関する講義は受けていないので、事前の基調講演と質疑応答、および、当日の対話を通して、原子力とエネルギー問題の重要性をよく認識したものと思われる。
3)まとめ
渡邊先生の丁寧な司会進行により、対話が円滑に進行できた。意見交換もスムーズだったが、学生1対シニア1の質問回答になり易く、学生さん同士の多様な意見の交わし合いにはなりにくかった。これは、学生さん達が普段原子力の講義を受けていないため議論の素地となる考え方やデータを持てていないことによると思われる。今回の対話を通して、学生さん達がエネルギー問題を自分の将来の身近な問題として捉え、真剣に取り組んでくれることを期待したい。
■グループD:テーマ「原子力発電の課題と解決策について」
1)参加者
学生:(電気電子工学専攻)M1 1名、M2 2名、B4 1名
シニア:梶村順二、小川修夫
2)事前質問
Q1:放射性廃棄物は技術的に減少出来るのか、発電量に比例するのか
Q2:高レベル廃棄物は埋設後10万年の管理は出来るのか
Q3:核燃料サイクルの合理化はどう考えるのか
Q4:原子力の仕組みや安全性についての教育、情報拡散は事故後ごと比べ現在はどう変わったか
3)主な対話内容
学生の事前質問についてのシニアからの補足説明の後、学生からの追加質問に加え、シニアからの学生への質問について 議論し対話を進めた。
主な関心事と議論の推移は以下の通り。
グループDで議論した原子力発電の課題と解決策は:
高レベル放射性廃棄物処分場はまだ決まっていない⇒原子力利用に不安を感じる NIMBYで家の近くに設置されるのはみな嫌う⇒ 住民の理解を得るのが先決、原子力発電所の近くに置けないか
使用済み燃料は直接処分か 再処理後処分か⇒ 資源小国の日本にとっては再処理の方がメリットは大きい
ガラス固化体の10万年管理はどうするのか⇒日本人が超長期にわたって管理することは不可能⇒ 新技術の核変換で放射能レベルを短期間で大幅に低減できる
日本の安全規制が厳しすぎるようだ⇒リスクとベネフットをコストで比較することを考えるべき
原子力の危険度に関わる国民の認識は⇒国民の認識を高めるため学校の教育カリキュラムに取り込むべき
4)対話の学生まとめ
原子力利用のメリットも多いが、国民の心理的課題の解決に多く時間がかかるように感じる。
再生可能エネルギーを主力電源にするには課題も多々あり、安定したエネルギーの実現には原子力が必要と思う。
5)対話の感想
電気電子工学系の学生にとって、原子力工学の課題は別分野でありながら、幅広く関心を持って真剣に議論できたことにシニアとして感謝したい。原子力の課題も多難で解決も一筋縄ではいかないことを学生もよく認識し、原子力の必要性、重要性を理解いただけたと思う。
■グループE:テーマ「原子力発電の発電効率と発電電力あたりの費用について」
1)参加者
学生:M2 3名 B4 1名 合計4名
シニア:山崎智英、川西康平
2)主な対話内容
対話はほとんど、事前に出された質問に対する回答、シニアからの逆質問を中心に進みました。
小型モジュール炉(SMR)将来性について
核融合発電が実用化された場合、経済性
ウクライナ侵攻で安全基準がさらに引き上げられる可能性はあるか
地層処分場の規模について
というものでした。
テーマである原子力発電の経済性に直結する質問でしたが、SMRについても最終処分についても知識があり、「4万本以上埋設出来る施設を1カ所建設」など、事前に調べたと思われる質問もあり、対話が具体的で地に足のついたものになったと思います。
就職先が内定している学生が多かったせいか、エネルギー問題に高い関心をもっており、SMRの実用性や地層処分などに高い関心をもって対話できたと思います。
化石燃料に頼っていると、昨今のロシアのウクライナ侵略によってエネルギー安全保障が脆弱であるということが現実に示されていることからも、原子力発電の必要性を肌身に感じていると思います。しかし、原子力発電は必要だからといっても明日からすぐに増やせるものではなく、長期的な取り組みが必要で近視眼的なメディアには注意が必要です。
原子力発電の新増設は必要だとしても、資金の確保、投資環境の改善、地元との話し合い、規制側との協調、バックエンド問題の国の取り組みなど、多くの課題が横たわっていることを話しあい、それらをうまくまとめて最後の発表してくれたと思います。
3)所感
学生には、メディアなどの情報を鵜呑みにするのではなく、しっかり自分の考えを持つことが必要と感じていただいたのではないでしょうか。
ただ、どうしても学生は遠慮もあるのでしょうが、シニアが発言する時間が長くなりがちだったと思います。できるだけ、学生の発言を引き出すテクニックを勉強する必要性を感じます。

3.講評:省略


4.閉会の挨拶:省略


5.参加の先生とシニア、市民の感想:省略


6.学生アンケート結果の概要

参加学生21全員が回答、学部4年6人、修士1年7人、2年7人、博士2年1人。
講演内容は20人が満足、やや不満が1人、不満の理由は技術面以外が多かった。
対話内容は全員が満足、事前に聞きたいと思っていたとも21人全員が聞くことが出来た。
対話で得られたことは新しい知識17人、マスコミと違う情報5人、将来の進路の参考3人。
対話の必要性に関し、非常にあるが14人、ややあるが6人、あまりないが1人。対面の効果だ。
放射線、放射能は怖いは2人、20人は恐れる必要なしと知っていた、または今回理解した。
原子力発電の必要性には全員が必要、削減すべきでない。早期削減や撤退はゼロ。
2050年カーボンニュートラルの実現可能性は10人が実現できない、6人が相当いいところまで実現、5人が分からない。
自由意見の中に、「原子力が思った以上に安全性が高いことが分かった」、「原子力発電や地層処分に対し深い知識を学び、今までの考えが変わった」、「人口減少などの社会的課題と紐付けること、かつ正しい情報を提供することで望ましい社会が来ると感じることが出来た」、「貴重な時間をありがとうございました。これからの生活に何か生かしていきたいと考えます」などの大変にうれしい感想が書かれていて、学生との対話会の意義を改めて認識します。
昨年度の対話会と比べると、対話会にも原子力にも肯定的な意見が多く、ロシアのウクライナ侵略などによるエネルギー危機感や原子力の役割の認識、そして自分たちの技術者としての使命をシニアとの対面での対話を通じて強く自覚したのではないかと思われます。

7.別添資料リスト