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* 放射線工学部会ニュースレター    2005−25号(296号)*
*                     2005年 8月 8日 *
*                       放射線工学部会発行 *
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<ニュース項目>

 1. 「第12回 放射線工学部会夏期セミナー」の開催報告
 2. 「放射線安全と計測技術に関する国際シンポジウム(ISORD-3)」の報告


 1. 「第12回 放射線工学部会夏期セミナー」の開催報告

 平成17年度の放射線工学部会夏期セミナーは放射線計測研究会と共催で、
「法令改正と計算コードの理論・概要」をテーマとして、7月14〜16日の三日
間にわたり軽井沢(会場:ホテルメゾン軽井沢)にて開催された。参加者は学生
7名を含む40名、講師や幹事を含めて計57名となった。
 今回のセミナーでは二つのテーマをもって開催された。ひとつは放射線障害
防止法及び原子炉等規制法改正の内容、またその導入の背景について4名の方
から講演を頂いた。もうひとつは、近年開発・改訂された計算コードである
PHITS, EGS5コードの理論・概要をそれぞれ開発者から講演して頂き、引き続
いてコードのインストール・演習を行い、最後にそれらのコードを用いた研究
例の講演をお願いした。以下にセミナーのプログラムを示す。

  ・放射線障害防止法改正の経緯      山本英明(原研)
  ・放射線障害防止法の内容について    中村尚司(東北大)
  ・EGS5の概要              平山英夫(KEK)
  ・クリアランスの概念及び法規制体系策定の現状、自然放射性物質の規制
                      杉浦紳之(近畿大)
  ・検認技術および検認装置        中田幹裕(三菱重工)
  ・PHITSの概要             仁井田浩二(RIST)
  ・放射線計測におけるEGS利用      黒澤忠弘(産総研)
  ・IMAGEプロジェクト          高木俊治(三菱総研)
  ・PHITSを用いた被ばく線量計算法の開発 佐藤達彦(原研)
  ・HIMACでの治療ポートの設計      野瀬裕之(IHI)

 1日目の午後からセミナーが開かれ、まず山本氏から「除外・免除・クリア
ランス」の概念やIAEAから出されたBSSの解説、それらのわが国への法令への
取り入れるまでの経緯につての講演があった。続いて障害防止法及び炉規法に
ついての改定箇所の具体的な説明が中村氏からあった。最後に、コードの開発
者である平山氏からモンテカルロ法の解説及びEGS4からEGS5への変更点につい
て説明がされた。夕食をはさんで、学生の方を含む若手研究者5名による研究
発表会があり、活発な議論が行われた。この発表会では参加者全員の投票によ
り、一名に「夏期セミナー賞」が授与された。
 2日目は杉浦氏より原子炉等規正法改正のポイントであるクリアランスの概
念及びそのレベルの評価方法についての解説、また自然放射性物質(NORM)に対
する規制免除の考え方について説明があった。続いて中田氏より、クリアラン
ス判断のための評価法を含めた技術概要の解説とそのための検認装置について
説明が行われた。午前の講義の最後に仁井田氏から、重イオンまで輸送可能な
計算コードとして開発されたPHITSの概要説明があった。昼食をはさんで、午
後はEGS5, PHITSそれぞれのグループに分かれて、EGS5は波戸氏、平山氏の、
またPHITSは仁井田氏のご協力により、計算コードの実習が行われた。この実
習は自由参加であったが、ほとんどのセミナー参加者がPCを持ち込んで実習を
受けていた。また2日目の夜は懇親会を行い、幅広い分野の参加者がそれぞれ
交流を深めた。
 3日目はEGSコードの実用例として、黒澤氏による放射線計測におけるEGSコ
ードの利用に関する研究を、また高木氏より放射線治療線量評価システム
IMAGINEプロジェクトにおけるEGSを利用した線量計算エンジンの発表があった。
続いてPHITSコードの研究例として、佐藤達彦氏から宇宙放射線に起因する高
エネルギー中性子、陽子、重イオンに対する線量評価に関する研究を、また野
瀬氏から重イオンがん治療施設における治療ポート設計のPHITSの利用例の説
明があった。
 実質2日間という短い日程であったが、法令改正における議論の過程も含め
た背景や数値の算出法などより理解を深めることができ、またEGS, PHITSのコ
ード概要の紹介にとどまらず実際にインストールから簡単なサンプルを動かす
まで実習を行うことができ充実したセミナーになったのでなないかと考えてい
る。また放射線工学部会が持つ分野の幅の広さからか、様々な領域で活躍され
ている方々が参加されお互いに交流を深め、新しい視野や知識を広げる機会に
なったのではないかと考えている。
 最後に、ご講演また実習を行って頂いた講師の方、またセミナー参加者をは
じめ開催にご協力頂いた関係者の皆様に深く御礼を申し上げます。
                         (夏期セミナー幹事)



 2. 「放射線安全と計測技術に関する国際シンポジウム(ISORD-3)」の報告

 放射線工学の分野では、2001年から隔年開催で、放射線安全と計測技術に関
する国際シンポジウム(International Symposium on Radiation Safety and
Detection Technology; ISORD)が開催されている。第1回(2001年、韓国ハン
ヤン大学Innovation Technology Center of Radiation Safety; iTRS)、第2
回(2003年、東北大学サイクロトロンRIセンター; CYRIC)に続いて、第3回シ
ンポジウムが2005年の今年、China Institute for Radiation Protection
(CIRP)がホスト機関になって、中国山西省太原の三晋国際ホテルで7月27日(水)
と7月28日(木)の二日間開催された。General ChairはYiren Zuan教授(CIRP)、
Co-ChairはJon Kyung Kim教授(韓国・ハンヤン大学iTRS)、中村尚司名誉教授
(東北大学CYRIC)である。

 開催地の太原は北京の南西約400kmの距離に位置し、北京と西安のほぼ中間
にあたり、広大な盆地のなかの中心都市である。参加者は日本から東北大、名
古屋大など各大学を中心として31名、韓国54名、中国45名、その他2名、合計
132名であった。発表件数は口頭発表45件、ポスター発表78件の計133件であっ
たが、地の利が悪いこともあって、参加者、論文件数とも前回を下回った。加
速器医療、加速器中性子場、線量評価、各種の放射線検出器、原子炉のドシメ
トリ等の分野における日・韓・中を中心とする最新の研究が発表された。

 オープニングとしてGeneral Chair、Co-Chairの開会挨拶に続き、四つの招
待講演が行われた。ウクライナのシンチレーション物質研究所M. Globus氏に
よりシンチレーション検出器の進展に関する講演、東北大中村名誉教授による
中性子検出技術の発展の講演、CIRPのP. Ziguiangによる中国の放射性廃棄物
管理の状況の講演、米国ミシガン大学Z. He助教授によるCdZnTeを用いた三次
元γ線イメージング測定の講演があった。オープニング以降は、2会場に分か
れた口頭発表と、1会場のポスターセッションが二日間にわたり行われた。

 韓国からは、KAERIで開発中の陽子ビームモニタリング用イオンチャンバー
の現状やモジュラー型PWRの小型実証炉SMART-Pの遮蔽評価の報告等があった。
ハンヤン大学で検討中の加速器BNCTにおけるターゲット設計のための熱解析や、
TLDを用いたCTにおける患者の線量評価に関する報告等、中国からは、大亜湾
原子力発電所からの使用済燃料の輸送時における放射線防護の実情や田湾原子
力発電所における自己影響評価システムTW-NAOCASに関する報告、放射性核種
の土壌中での挙動評価についての発表等、日本からは、Multigrid式MSGCの開
発現状、数十MeV領域での陽子入射二重微分断面積の測定結果、光核反応を利
用した放射性廃棄物中難測定核種の非破壊測定法の提案、環境中炭素14に関す
る測定・評価法の発表等、があった。

 発表内容は多彩であったが、本会議の運営については、ホスト機関である
CIRPが国際シンポジウム開催に慣れていないためであろうが、参加者への事前
の情報提供が不十分、ポスター発表の掲示する場所が狭い、プログラムにポス
ター発表を見る時間が設定されていない等、参加者から不満の声が聞かれた。
また、CIRPが大学ではないためと思われるが、学生間の国際交流も円滑には進
まなかったようである。次回は、2007年に韓国ソウルで開催されることになっ
た。なお、プログラム等の詳細はhttp://www.isord-3.com/ に掲載されている。

(文中 敬称略)
                   (九州大 石橋健二、東北大 馬場護)


以上

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ニュースレター担当:遠藤 章(原研)
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