FBR燃料サイクル、海外の開発力の強さと日本の技術

FBR Fuel Cycle, Development Strategy of Overseas & Domestic Technologies

竹内 哲夫(東電)、野村 茂雄(JNC)、山口 俊弘(JNC)、中村 裕行(日本原燃)、

Tetuo TAKEUCHI    Shigeo NOMURA    Toshihiro YAMAGUCHI  Hiroyuki NAKAMURA  

中島 文明(JNC)、 森山 裕丈(京大院工)、松井 一秋(エネ総研)、天野 治(東電)

Fumiaki NAKAJIMA     Yositake MORIYAMA      Kazuaki MATUI        Osamu AMANO 


 処分場の有効利用とウランリサイクルの観点からFBRサイクルへの取組みが各国とも熱心になってきている。米国では,第2、第3のユッカマウンテン処分場の立地は困難だとして,使用済燃料の減量すなわち,再処理リサイクル研究が本格化している。商業再処理の仏,英,露以外にも,中国,カナダ,韓国が使用済燃料の処理研究を深めている。これらに連動した高速炉開発も,日,露、仏以外に,中国,インドが積極的な展開をめざしている。これらの具体的なドライビングフォースの強さと日本の技術を、多面的に探る。

キーワード:エネルギー戦略、使用済燃料、サイクル、MOX、FBR、国際動向と協力、国産技術、産官学協力

1.半分を使い切った石油、天然ガスの影響        (部会長) 竹内 哲夫

  「豊かな石油時代が終わる。人類は何処へ行くのか?」  この題はつい先頃、日本学術会議主催の石井吉徳先生ほかの講演のテーマであり、また同時に日本工学アカデミーから本が発刊されている。是非一読願いたい。20世紀後半(1960年頃)に突如噴出した石油時代が今後どう展開するかであるが、当初から手がけられ大量の油を自噴でとれた中近東の超一流の油田は今も主流だが、疲弊し始め、一部には海水注圧の助けが要るようになった。その後も新規探索も命運かけて必死に進められて、地球の地勢的な研究(何処に油がありそうだ)が格段に進んだ結果、将来予測が精度良く読めるにつれ、残念ながら、夢は甘くない事がわかった。地球規模の総生産のピークは今年2004年、すでに山を越え、これから衰微一途で、今から50年後には今の数分の一になるという、大変に衝撃的な話だった。

  天然ガスは、10‐20年間の遅れはあっても、同様の衰微傾向を追う。一時もてはやされたメタンハイドレード、オイルサンド、海水ウランなどは存在こそすれ、資源化の意義が不明(要は採掘・精製にエネルギーを使いすぎ正味がない)と紹介された。ITER、宇宙発電などはまだ先だ。人類の全てはないが、日本も含めこの石油の恵みに浴し、大量なエネルギーだけでなく多角的な石油化学原料、新素材(IT.薬品まで)を多用し、今の近代文明の高い頂上を極めた先進国に限っては、この油の急速な落ち込みに対して早くからの対応が急がれる、という趣旨の警告でもある。また講演でも発刊本でも強調しているのは、日本の省力農業、漁業ともに油依存度が高く、もともと自給率、一次エネルギー4%、食料40%、それ自体が世界先進国中最悪である所に、油減衰は、生存をかけるボディに、強烈な両面ブロウとなる。

  私は主として火力の現場技術、実用化開発を担務していた。この頃の開発は、1件3年間の期限付き、だから人生で計10件ほど矢継ぎ早やでやった。やってくれ、やるしかない。80点でも即実用、そんな経過だった。全員が気ぜわしく、石炭油混合燃料(COM)などは、技術を考え始めた瞬間に即事業化計画も始まり、落ち着いてみたら、燃料価格の推移は、予想はずれ、事業化のみは失敗した。だがCWM(水スラリー)、ガス化(複合発電)の技術の礎になった。今の時代では、ガス化の実証機建設がいわき市で着々進んでいるのは心強い。是非、先行パイロット試験機の経験、日本の匠(たくみ)を生かして育てて欲しい。私は技術屋だから、技術開発には失敗が若干あってもこれから学び、挑戦を継続し、後の子孫が残るほうがよほど大切だと思っている。

  石油先細りは、燃料より化学原料に付加価値からシフトする。若干許される動力としては、代替しにくい運輸(飛行機、自動車)に限られよう。火力では他に使いようのない重質残渣油、廃油利用、勿論バイオマス、ごみ、鶏糞といった時代に戻る。後発の天然ガスは、10年ほど時間遅れはあるが、油を追う運命にあるので、サハリンなど新規物に買い手が殺到しよう。

  既に論を待たないが、今の文明・社会構造の維持には、量的な評価と技術的判断が要るが「原子力と核燃サイクルのセット」しかない。昔の石炭(国内炭)産業は、国の強い後方支援を受けても良い資源は少なく、採炭条件も悪く、海外炭供給の急激な進歩で、30−40年間で消えた。これに引き換え、使用済み燃料は、今既に「嫌がられるほどある」「持って行き場所に困るほどある」。この嫌がられ者を変じて救世主にする技術、核燃料サイクルはオニをホトケにする技術である。生粋国産の自国資源である。

2.米国、フランス、および中国の動向        (JNC) 野村 茂雄

1) 米国: 戦略的なエネルギー政策・・新たなリサイクル路線で、世界制覇をめざし着々と推進

  1977年カーター政権は、それまでのリサイクル政策の息の根を完全に止め、以来20世紀末まで世界18カ国で、米国が関与することなく、燃料サイクル技術開発が行われてきた。最近になって、こうした事態の深刻さを米国政権自らが認識することになり、先進リサイクル計画(Advanced Fuel Cycle Initiative;AFCI)やNuclear Power 2010計画、GEN-IV計画などが矢継ぎ早に出され、今や世界をリードするかの勢いである。それでも、再処理リサイクルの事業化は先で、グローバルな議論が展開される20−30年先に備えるのが基本スタンス。('A Brighter Tommorow', Senator P.V.Domenici 2004)

  世界をリードする壮大な地層処分プロジェクト、ユッカマウンテン(YM)計画が動きだしたが、AFCI計画を理解する重要なイシュー。YMの直接処分だけは計画容量はすぐに満杯になる。いくら広大な米国でもYMクラスの処分場を1世紀に3−4箇所も作る国民合意は取れない。だからYMは一旦貯蔵、冷却を主眼にして1−2世紀の間、資源ストックとして運用し、最終的には減容した処分体置き場として長年使う。先進リサイクルは、2010年頃までに核不拡散政策を満足する仕様で有望な複数の技術を選定し、その後工学規模試験で絞り込み、2030年頃には、大きな中間貯蔵容量をもつリサイクルプラント構想をもっている。

  2010年頃に新設原子力発電の再登場、これをバネに早急に米国の電力需要の50%、輸送燃料の25%を2025年までに原子力起源(水素に)にしたい。原子力エネルギー利用で水素製造を行う計画は、今まさに新型炉開発と組み合わせ、世界に先駆け予算化されようとしている。GEN−IVは、最終的に高速炉サイクル路線をねらい、2020−25年までに多国間および2国間の国際協力をうまく活用して実施する、きわめて意欲的で戦略的な政府主導の計画である。

2)フランス: リサイクルの覇者、自らはEPF導入、廃棄物法その後の展開は国際協力の枠組みの最大活用か

  1990年から年間軽水炉100基程度の処理能力をもつ、商業レベルの使用済燃料再処理とMOXリサイクル路線(20のPWRで実施)を展開している。使用済燃料の再処理量は約20,000dに及ぶ。大型軽水炉EPFの導入を今後本格化する中で、ナトリウム冷却型FBRも原型炉まで一応つくり、今は超高温ガス炉と水素製造開発、将来に向けては国際協力で新型高速炉開発を行うシナリオは、よく知られている。CEAとAREAV-COGEMAやEDFが、国策としてがっちり手を組んで、世界市場をにらみ、戦略的な展開を図っている。

  サイクル分野で直面する課題は、1991年廃棄物法の結論とその後の展開。「高レベル廃棄物をどのようにするのか」の反対派対応として、@核変換、A地層処分、B高レベル廃棄物の中間貯蔵を15年間研究して、その結果を国会で議論する。その時期が2006年であり、現在内容の議論がまさに始まろうとしている。核変換は、軽水炉でも可能としているが、高速中性子スペクトル炉で研究継続、もんじゅへの期待も大きい。地層処分は、粘土層の地下研究所500mの深さで推進。EDFはAをベースに@とBはオプションという態度。こうした分野での進展を判断するには時間が必要であるが、国際協力の展開でこれを短縮する戦略も見て取れる。

3)中国: 驚異的な経済成長で、予想を上回るスピードで原子力・リサイクル路線が現実化

  2020年には、米国に次ぐ国民総生産の規模になり、先端技術分野でインドとともに世界をリードするであろうとする米国CIAの報告が出た。当然エネルギー消費量は現在の1.5倍になり、原子力発電の大幅増強が前提になる。ウラン資源のこれまでの予想需給バランスは崩れ、安定で持続的なリサイクル路線が重要になってくる。こうした中で、今年には高速実験炉の運転開始がある。仏の技術導入による商業再処理工場の建設計画も出された。

  中国は核兵器国であり、再処理プルトニウム抽出の技術力は相当高い。今後商業利用、グローバルスタンダードの観点から、燃料サイクルの分野で、海外、主として欧州やロシア技術を導入するものの、これらを焼きなおし、形を変えて自国ブランドを登場させる時期は、そんなに遠くないと推察。アジア地区のパートナーとして、我が国も、技術協力や共同研究を本格的に開始する段階にあるのではないかと考える。

3.日本が独自に築き上げたMOX技術        (JNC) 山口 俊弘

  わが国のMOX加工技術開発は、MOX燃料量産に向け、世界に先駆けて遠隔・全自動の考え方を取り入れて行ってきた。この国産技術開発は、JNCで行ってきた。 JNCでは、他国の遠隔・全自動MOX加工プラントより、8年も前に運転を開始している。またプラント技術開発と同時に「もんじゅ」燃料(低密度ペレット)のプロセス技術開発も並行して行った。

  国産の遠隔・全自動MOX加工技術開発は、当時、世界的に参考とする技術は存在せず、JNCの第一開発室、第二開発室でそれまでに培った技術成果を活用して、開発されたものであり、まさに日本独自の技術である。また、この開発には、定められた期日(納期)までにもんじゅ燃料を供給するという、開発期限付きの目標が設定された。

  JNCは、1982年から第三開発室(PFPF)の建設を開始し、1988年からプルトニウムを使った運転を開始した。しかし、この遠隔・全自動MOX加工プラントシステムの難しさを、運転開始してまもなく知ることになった。このときの開発当事者は、これまで第一開発室、第二開発室のMOX燃料生産規模では予想もし得なかった数多くの困難に遭遇し、その課題を克服してきた。この過程で数多く失敗を経験し、その都度解決を図ってきおり、その一つ、一つが貴重な開発成果となった。これらの開発成果は、民間の計画するMOX加工プラントで同じ失敗をすることのないよう、設計・建設・運転の各段階で的確に活用できる仕組み(技術移転)作りを構築中である。このわが国独自のMOX加工技術の移転は、いずれ来る高速炉商用化の際の技術移転にも参考になる。

4.パネル討論:中村 裕行(JNFL)、中島 文明(JNC)、森山 裕丈(京大院工)、松井 一秋(エネ総研)、天野 治(東電)

  パネリストからのポイント。 @ 日本の技術の現状、 A 資源の認識と今後困ること、国益として何をすべきか。B 原子力でカバーできること、できないこと、C 原子力の廃棄物などの課題、D 資源の認識の点から、残り時間が限られた中でのFBRサイクルと技術の達成状況、E 国際的な連携とその戦略、F 産官学の連携・分担、良好な環境条件をどう構築するか、G 学会、部会の役割、Hその他、今後のすすめかたの提言