<理解され信用され

受入れられるPu利用への道>

澤井 定

 

 

エネルギー問題に発言する会の澤井でございます。

敦賀で稼動している新型転換炉「ふげん」は、Pu利用を主体にした世界初の熱中性子発電炉で、私は「ふげん」と実証炉の開発、およびPu利用に40年近く、陰に陽に、関係してきました。

本日は、Pu利用の効果・意義、およびわが国におけるPu利用の開発・実績・関連事項について、表題の視点から、私の経験を踏まえて、お話したいと思います。

最初に、エネルギーセキュリテイに関連して、民生用のエネルギーと物資の供給が大幅に不足した戦争後半の生活の一端をお話し、本題に入りたいと思います。

戦争が長引くにつれ、エネルギーと物資の供給が軍需に傾斜した影響が民生に大きく出るようになりました。食料・衣料・靴などに配給制・点数制が導入され、衣類・靴下の継ぎはぎは珍しくなくなりました。

一般庶民の家庭電気は、照明と1台のラジオ、そして10Aのフューズが標準でした。冷房はなく、暖房は火鉢・炬燵・ストーブで、その燃料調達も大変になっていきました(冬はオーバーを着て勉強机に向かった記憶があります)。都市ガスは炊飯が主で、風呂釜が故障すれば修理は殆どできなくなり、銭湯に行く人が増えました。

乗用車は町に殆ど見かけなくなり、遠距離列車の本数は減り、バスも次第に木炭車に替わっていきました。私の学徒勤労動員先、航空機生産に必要な資材と部品を効率輸送する軍需省のトラック輸送隊でさえ、昭和20年には、ガソリンに替えて国産アルコールの使用が増え、一部のトラックは木炭車に改造されました(これで戦争は敗れると思いました)。木炭車は重いガス発生器を搭載し、馬力は下がり、エンジンの始動に時間がかかりました。

エネルギーと物資の供給が大幅に不足すると、このように衣食が不自由になり、交通機関が縮小し、暖冷房装置・自家用車などが無い生活になりますが、若い人は想像できないと思いますし、シニアは戻りたくない生活です。

 

原子力はPu利用が究極

このOHPは、主要なエネルギー資源の確認埋蔵量と現在の需要に基く可採年数を示します。確認埋蔵量のエネルギー量は、石油と天然ガスは略同程度、石炭とUはその数倍〜1桁上の値です。現在、軽水炉が利用しているエネルギーは天然Uが保有する1/200 程度で、Uの可採年数は64年と評価されています。

高速増殖炉が実用化されると、U-238の大部分を利用でき、現在の原子力エネルギー利用量で、可採年数は数千年になります(従って、天然U、減損U、劣化Uの確保と備蓄が将来の備えに重要です)。高速増殖炉の実用化は、石油・天然ガスが枯渇しないか、U可採年数以内で実現することが望ましいといえます。この与えられた期間は今までの高速増殖炉開発の経過を考えますと、決して長くはありません。

一方、Resources Conservation の観点から、化石燃料は原料として利用・リサイクルし、その分のエネルギーは原子力でカバーし、将来、化石燃料が少なくなれば、原子力は液体燃料・気体燃料の合成・生成などのエネルギー源に活用するのが有効と考えられます。

因みに、現在の原子力利用は、化石燃料の1桁以上低い値です。

 

Pu利用の関係分野

Pu利用に関係する主な分野についてOHPに示しました。

技術分野で備えが整うことは、技術の実証、次いで大型化・経済性・高い信頼性を実現することです。原子炉へのPu利用が関係分野の技術開発を牽引してきました。しかし、備えが整うまでのリードタイムは、一般に長い年月が必要です。Pu燃料の設計・製造を例に取りますと、第一Pu燃料開発室から実証段階の第三Pu燃料開発室に発展するまで22年かかっています。

 

Pu利用を理解され信用され受入れられる道

Puを本格的に利用するには、国の内外で理解され信用されなければなりません。

世界に対しては、国のエネルギー基本政策を明確に示し、日本はエネルギー資源が少なくPu利用が必要で、平和利用に徹していることを、このOHPに掲げる事項を通して理解させ信用されるように努めなければなりません。

Communicationは相互理解を深め、重要な情報を相互伝達する鍵であり、また、国際協力で開発を進めていることは、その開発価値が国際的に認められ、世界に貢献している証拠です。

INFCEなどの国際会議、日米再処理交渉などの2国間交渉、国際協定は、日本の立場と政策を国際的に認めさせる好い機会と考えます。保障措置は国際原子力機関の認証が得られたもので、日本のPu利用が平和利用に徹していることを内外に証明しています。

国内に対しては、良好な稼働率・MOX燃料の使用実績、対話・情報の透明化を積み重ね、信用を固めることが第一と思っています。

そして、開発の火を継続させ発展させることが大切で、開発の火が消えると技術者は散逸し、開発施設は撤去され、技術は消滅します。

 

「もんじゅ」の国際協力

現在、高速増殖炉の開発は世界的に下火ですが、日本が世界に寄与する機会でもあります。

高速増殖炉「もんじゅ」の開発は、ここに示しますように、米・英・仏・独などの主要国・主要機関と協力協定を結び、それらとの国際協力の下に進めています。敦賀に国際技術センターが設置され、国際協力の開発が進められています。


 

本格的Pu利用開発のスタート

わが国におけるPu利用の本格的開発は、原子力委員会が動力炉開発基本方針を内定した1966.05.18に始まります。動力炉開発基本計画は、Pu利用の確立を目指した核燃料政策の上に策定されました。

そして、Puは高速増殖炉への利用を最終目標にするが、当面、熱中性子炉の利用を図り、昭和50年を目途に利用技術の実用化を推進すると示されました。

当時の世界的認識は、軽水炉は大発展し、濃縮Uを商業的に供給できるのはアメリカのみ、安価な天然Uは60万st、また再処理費はt当り1000万円と評価され、高レベル放射性廃棄物の処理・処分は問題にされませんでした。そして、天然U所要量と濃縮U分離作業量の削減が、原子力先進国のエネルギーセキュリテイの最大関心事で、高速増殖炉の開発と並行して、Puリサイクルと改良転換炉の開発が進められました。アメリカ依存度の低減が基本にありました。

当時、軽水炉の急激な発展により、アメリカは濃縮Uの供給不足を懸念し、Puリサイクルを支持していました。しかし、1974.05 にインドが地下核実験を実行したことで、Pu利用の開発は大きなブレーキがかかりました。

 

「ふげん」の代表的MOX炉心構成

「ふげん」は建設契約が難航し、初期炉心からMOX燃料を利用して冷却材ボイド反応度を下げ、一次冷却系ループ数を半減するなど、大幅に合理化して、契約を締結しました。

この決定がなされた背景には、原型段階にある第二Pu燃料開発室の運転開始を半年後に控えていたこと、アメリカがPuリサイクルをむしろ支援していたことなどがあり、幸運が重なりました。

「ふげん」の代表的炉心構成をここに示しますが、「ふげん」は20年以上に亘りPuを問題なく利用し、その利用技術は実証されたと考えています。

 

「ふげん」のMOX燃料の使用実績

「ふげん」は、現在まで748体の燃料集合体を装荷し、燃料破損の経験はありません。

 

「常陽」のMOX燃料の使用実績

一方、高速増殖実験炉「常陽」においても、MOX燃料は約500体装荷しましたが、燃料破損はありません。

MOX燃料利用の開発は、丈夫なMOX燃料集合体の設計・製造とそれを適切な環境下で効率よく使用することを基本にしました。

 

このOHPは、MOX燃料の設計・製造技術の開発施設、Pu燃料センターの全景で、MOX燃料の開発はプルサーマル用からスタートしました。

 

第一Pu燃料開発室は物性研究、設計・製造技術の開発を、第二Pu燃料開発室は機械化・自動化を施し、「常陽」、DCA、「ふげん」の燃料集合体を製造・供給しました。第三Pu燃料開発室はリサイクルが繰り返され高次Puを取り扱うことを考え、遠隔・自動化と遮蔽を強化し、「常陽」と「もんじゅ」の燃料集合体を製造・供給しています。

 

MOX燃料集合体の開発

丈夫で長持ちする燃料集合体の開発は、ここに示しますように、材料と燃料の特性・物性試験、耐久試験、小数体照射試験、次いで、必要な改良を加えて集合体照射試験を行い、自己炉において使用実績を積み重ねて信頼性と性能の向上を図ります。

(尚、プルサーマル用試験用燃料をHWBRに〜12年、新型転換炉実証炉用燃料集合体を「ふげん」に〜7年装荷しました)

第一Pu燃料開発室が稼動間もなく製作したMOX燃料は、Puサーマル用でしたが、新型転換炉と高速増殖炉の試作燃料を含み、先進国が自分の試験炉に装荷して日本のMOX燃料開発を支援したことに、感心し感謝しています。また、英国がSGHWRに「ふげん」のMOX燃料集合体を装荷して照射試験を行ったことも、国際協力のあり方の上で、学ぶべきことと思っています。私個人としては、この恩返しを世界にしたいと考えています。

 

MOX燃料使用の開発

MOX燃料の使用については、原子炉は安全率1で動くので、現象解明を基に適切な環境下で効率よく燃料が利用できるよう、下記の実績データを比較解析し、解析コードの高度化に努めました。

臨界実験で、Cold & 準Clean状態

総合機能試験で、Cold & Clean状態

起動試験で、Hot & 準Clean状態

定格運転で、Hot & Burnup 状態

適切な環境下で効率よく利用することの実現に、運転管理・保守補修管理のサポートが重要と認識しています。

 

MOX燃料集合体の高度化

MOX燃料集合体の高度化は、原型炉あるいは実験炉において、照射試験結果と設計値を比較評価し、開発成果を勘案して滞在年数・燃焼度を延ばせると評価されれば新型転換炉実証炉燃料集合体のように「ふげん」に少数体装荷or 「常陽」のようにMK-II 炉心からMK-III炉心に移行の方法がとられます。

 

「常陽」のMK=III炉心への移行

現在、「常陽」はMK-II炉心からMK-III 炉心に改造中で、改造が終了すると、炉心が大きくなり中性子束が3割アップし、照射用集合体数が2倍になり、高速増殖炉開発に強力な武器が備わります。

 

「ふげん」におけるPu-241崩壊とAm-241蓄積の影響

最後に、Pu利用で考慮すべき事項に触れたいと思います。軽水炉の使用済燃料から抽出される核分裂性Puは、Pu-241 が約20%、Pu-239が約80%ですが、Pu-241が半減期〜14年で崩壊して核分裂を殆ど起こさないAm-241に変換し、このAm-241がB-10と同程度に中性子を吸収するとともに、放射能を増加させることです。

 

この効果は、「ふげん」において表記の燃料組成の初期炉心の場合、5年で反応度は3%程度低下します。

これから、再処理・抽出したPuは、できるだけ早く、それも新しい

Puから使用することが好ましいといえます。

 

 

おわりに

以上述べたことをまとめますと、以下のようです。

1          Pu利用は原子力利用の鍵

2          Pu利用分野の備えが整うまで長いリードタイムが必要

3           内外にPu利用を理解・信用・受入れられる道

   下記の積み重ねが重要です。

    対話・Communication

    国際協力・国際プロジェクト      

    良好なプラント稼働率とMOX燃料使用実績

    保障措置・核物質防護

    情報の透明化

 4 「ふげん」におけるMOX燃料の利用は実証

 

 

[後書きメモ]

1 日米再処理交渉

  再処理に関する日米交渉において、昭和52年3月には、福田総理大臣・カーター大統領会談が行われました。

2 INFCE余聞

@            INFCEにおけるPu利用の日本の戦略とアメリカの提案、

および新型転換炉のPu利用の発表

日本の基本戦略は、「日本の再処理と軽水炉へのPu利用を世界に理解させ認めさせること」が主で、新型転換炉のPu利用

は従でした。そして前者に関する発表がなされました。

   一方、アメリカから、軽水炉にPuリサイクルを禁止することが提案されました。

この3ヶ月弱後、日本から新型転換炉にPuを利用することが発表されました。

A            INFCEに関するUSDOEの委託調査報告書

USDOEから委託調査を受けたR&D Associatesは、上記の経緯を検討し、日本においては新型転換炉がリードタイムが長いPu利用関連技術の開発を牽引していると評価し、次の報告書をUSDOEに提出しました。

   “FUGEN:A MIRROR OF JAPAN’S NUCLEAR POLICY”

       THE SIGNIFICANCE FOR THE U.S. AND INFCE

    By Kramish : RDA-TR-194203-002(Rev.2), 1979.07