平成13年6月4日

       再処理・リサイクル部会会長 竹内哲夫


「自己紹介と部会長を引き受けた理由」

 今日、原子力学会がこの時代にふさわしく「再処理・リサイクル」部会を創設する晴れの舞台で、祝辞を語らせていただく名誉にあずかりました。ただ今ご紹介いただいた初代の部会長を勤めさして頂く原子力委員会委員の竹内でございます。本日はご多忙にも関わらず、設立記念総会に多数の皆様のご列席を賜りましたことに厚く御礼申し上げます。

 ご存知のように、私はこの1月の省庁再編を機として原子力委員になりましたが、その前4年半の間は、日本原燃(株)の社長として青森にて六ヶ所再処理工場の建設推進に深く関わってきました。また、今の現職、原子力委員会活動の中で、「再処理・リサイクル」は最大の課題テーマの一つであり、原子力委員相互のなかでも私の重点担当項目の一つになっております。

 それと今日、私が初代部会長としてここに登壇するまでにはまだ若干の飛躍がございます。この間、恐らく部会長候補推薦、選考などの諸般の議論もあったものと思います。その中では多分、ズボラな性格故、私がこのような学会活動に向いていると思う人は自他共にいなかった筈です。しかし一方では、任務も肩書きからも依頼したら逃げられないという意見もあった筈です。結果として、東大の鈴木 篤行先生などからの依頼もあり、日本的しがらみと、歳相応の奉仕の精神もださなければという思案もあり、結果して本日ここに登壇の運びとなりました。このため、次元も最低限の話ですが、部会長資格認定を満たすために、35年間放置していた、会員資格(入会手続き)をして本日を迎えました。

 冗談は抜きにして、今日の下準備として、東大の田中副部会長始め、学会活動のエキスパートの多くの方々が、長い期間、再処理・リサイクルの21世紀の夢、将来の方向性をも議論、周到緻密に準備された設立趣旨書などを、関係の多くの方と速成勉強しました。

 今、本日、原子力学会がこの時代にふさわしく「再処理・リサイクル」部会を21世紀新時代に向け新たな第一歩を期す事は、誠に時宜を得た事と、私も全くの賛同の意であり、これまでの設営に向けたご尽力に対し深く敬意を表したいと思います。かような晴れの舞台に微力ながら関与することに喜びを感じ、本日ご臨席の皆様方のご支援を頂きながら、一緒に部会の発展に努めたいことをお約束したいと思います。

「再処理の必要性」

 本日ご臨席の皆様には、釈迦に説法ですが、20世紀後半に至った特に先進国における人類の大量エネルギーの使用は、それまでの頼りだった化石燃料が有限であると警告がでてきております。また、21世紀はこのエネルギーと環境の共存的な調和の世紀だとおもいます。環境問題は、局地の酸性雨から始まり、さらに地球規模での温暖化まで、世紀末までには地球の生態系、文明発展、極言すれば人類の存続にも警鐘が鳴ると、危惧されてます。しかし問題が余りに大きく、しかも緩慢な変化のため、全人類的な実感にはほど遠く、京都議定書の議論1つとっても、国家間、南北間の意見一致どころか、議論の糸口も見出せない状態にある。

 この1ヶ月ほどの内外の原子力を巡る動きには、深く考えさせられることが多い。

 1は、1月に誕生したブッシュ米政権がごく最近発表した(チェーニー副大統領の)エネルギー政策の転換に向けたDialogueである。Pu再生、再利用を嫌い、世界を牽制してきた国が、国家エネルギー戦略のもとで、スリーマイル事故以来の口を閉ざれていた原子力発電へ肩入れ、更にリサイクル路線への容認的な評価と開発への意欲すら感じるメッセージには、仰天させられた。

 2は、先週行はれた新潟県刈羽村でのプルサーマル導入を巡る、住民投票である。結果はNOが過半数、ご存知の通りです。

この2つの国家的な動きは同じ次元で比較したり出来ないことは皆さんもおわかりですが、わざと論点として話題にしました。自国のエネルギーの自立率にまだまだ余裕がある米国が、国家戦略として原子力とリサイクルで将来を磐石なものにしようとする。一方のわが国は先進国中、エネルギー資源の大半を海外から輸入している最低レベルの資源小国でありながら、UまではいいがPuは嫌らしいから使わないで置こうという話が、まかり通っている。

 この議論は国としての政策誘導、国民性の違いなど、切りがないが、今日この会場にお集まりの皆様方には一言だけ申しあげたい。

 それは、原子力分野が度重なる、不祥事、トラブルなどで、遠慮し過ぎて、国民の意識から「日陰者」扱いにしてしまった罪が原子力関係者にあります。しかし、これからも、遠慮してじっと耐えることは、更に世の中を混迷に導きます。知らずのうちに放任したために、こんな悪い結果なった事にも、いわば無作為の罪になります。

 半世紀も経たないうちにPuが日本の救世主になる事を今も信じて、毎日、研究開発、事業化に精励しておられる皆さん、先を見通せる人こそ率先して勇気ある宣教師「平成の日蓮」にならなければならない。云わず語らず放任する事は、いわば無作為の罪であり、当部会こそこの問題を語る殿堂、総本山であり当学会の皆さんは社会一般にむけて、原子力を、リサイクルを、一般の方々と目線をあわせて分かりやすく説明する辻説法師でもなければなりません。

「設立について」

 これから、学会活動など、いわば設立準備にあたってこられた方々からの、その経緯、活動方針などにつき、ご報告します。

 「再処理・リサイクル部会」は本年3月の原子力学会企画会議(3月14日)および理事会総会(3月23日)で設立が承認されております。本日の設立記念総会をもちまして、部会員200名を超える「再処理・リサイクル部会」の活動を本格的に開始いたします。

 一方、緒先輩で歴史もあり、極めて積極的に活動されてこられた「バックエンド部会」、「核燃料部会」から、当部会へ貴重なご助言もいただいており、それらを反映しながら関連部会との相互連携を深めていく所存です。

「学会の活動」

 原子力学会は会員の自主的かつ学術的な活動を行なう組織であります。この「再処理・リサイクル部会」も同様で、部会会員が自主的に決めたことについて、公正かつ論理的に議論する場であります。逆にこのような場を通して日本および世界の今後のあり方がより鮮明に見える筈であり、その議論の結果を広範かつ専門的に、且つタイムリーに捉え、発信することが必要と考えます。

 部会活動内容は3本の柱と考えており

1. 再処理・リサイクルの必要性に関わる議論

2. 再処理・リサイクル路線が技術的、経済的に定着化し、国内および国際社会に受け入れられるかに関わる議論

3. 本分野での産官学の連携再構築に関する議論

 この3本の柱を軸として活動し、部会活動の透明性を高め、成果を機敏に内外に発信できるようにする予定でございます。

「部会の具体的活動」

 最初の2本の柱につきましては、

(1)冬のセミナーの場(本年度は茨城地区で11月29日、30日を予定)を用意し、その中で議論を深めていきたいと考えております。また、当部会主催のワークショップ、討論会をリクエストに応じて開催いたします。

(2)海外の学会との意見交換(国際学会の開催に合わせて、合同ミーテングの計画等)も含めて、過去の経験と最新技術開発動向を議論し、今後の再処理のあり方を提言していく計画であり、米国原子力学会(ANS) FCWM(Fuel Cycle and Waste Management division)とGLOBAL 2001で第一回合同ミーテングを予定しております。なお、米国原子力学会は国の方針に対し、その是正を迫った実績があります。

 3本目の柱につきましては、長期にわたる研究開発が必要なリサイクル路線の中核を占める再処理分野における大学の活動を活性化するため、先生方に「部会」に積極的に関わって頂き、研究、教育を活性化させていただき、一方学生自身の活動にも強く期待します。さらに先生方には国際会議等での情報発信や情報収集に期待するところでありまして、当部会の運営委員にも、東北大、東大、東工大、埼玉大、名大、京大から6名の先生がたに参加をいただき、具体的活動をお願いしているところでございます。

 これら3本の柱を絡ませながら、原子力業界の身内の論理ではなく、視線を高く幅広い見地から国内でのさまざまな意見の方々とのオープンな議論およびその場の提供、一方、米国、EUおよびアジアの原子力学会との対話、特にANSのような国の方針を是正させるほどの論理性と見識と権威について、学ぶべき点は学び、議論する点は議論により相互理解を深め、「学習」「論理性」そして「忍耐力」の3点を合言葉に部会の透明性を高め、内外に発信していく予定です。

「産官学の協調 チャレンジングスピリット」

 グローバリゼイション、インターネット時代の到来と共に、技術開発の国際間の協調分担が進み、一方、産学官も全体にリストラクチャリングの波の中での効率化、機能分担化、協調体制の進展が求められています。小さな地球で少ない金で効果的な開発を、しかも開発所有権を確保するという命題も残さねばなりません。学会活動は産官学の接点問題を超えた活動なので、これを通してそれぞれの分野が時代即応のリフォームを図れるようになっていって欲しいと思います。このためには情報交流を通じ、組織・団体それぞれの身内だけの論理を離れ、高い視野からの議論を深めて逝く必要があります。

さらに、その議論が白熱し、皆様のチャレンジングスピリットを刺激し、日本人固有の緻密さと相俟って、世界から賞賛されるようになるような開発の母体になる事を期待しております。


以上をもちまして、「再処理・リサイクル」部会の設立総会のご挨拶とさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました。