パネルキーノート
神田啓治(エネルギー政策研、京大名誉)





神田でございます。
昨日、エネルギー安全保障問題のお話をしまして、原子力というのが安全保障上どういう位置づけにあるかという話をしました。今日は、産学官についてのお話ですが。一昨日、東京商工会議所で約400人くらいのお客さんを迎えて、木元教子原子力委員と対談を致しました。「何故、今、原子力か」というテーマでした。東京電力問題などを中心に2時間ほど説明致しました。そのときにも、先生方の責任がこういう風にあるのではないかと攻められて、私はひたすら受けながら答えました。その時につくづく思ったことは、大学に席を置いている者は、何が求められているのかを問われている。今や、原子力など大きな工業というのは、何を中心に動いているのか。先程のご講演で「コストファースト」というお話がありましたが。今、大きい産業が動くときに何が中心かというのは、対象によって違う。原子力の場合には、一番気になるのは知事選挙はいつあるか、議員選挙はいつか、いつ定例議会が開かれるのか。その日程を睨みながらですね、こういう議題はあとに出そうかとか、こういうのがいいのかどうかとか。一番ビクビクしてるのは地方議会に対してのように思えてならない。その次はですね、技術者はもちろんまず安全を考えているんですが、経営者達は知事選挙と議会のスケジュールを気にしている。コストっていうのはあまり考えていない。最後になって、コストもあるんだ、と考える。世の中の順序がなんか狂っているんじゃないかと。

その東京電力の問題をちょっと簡単に触れますと、シュラウドといったときに、みんな、なんだシュラウドかと。ヒビが入ってても入ってなくてもええやないか、なんだそれはといった感じでですね、技術者達はシュラウドを知ってますから気にしなかった。私たちはずっと国に対しても、あるいは色々な学会に対して言い続けた事は、日本の法律で原子力に関しては2つほど大変な間違いがある。一つは、維持基準を持っていないこと。常に新品であれという、各国はそんなことをいっていないのに日本だけはやっている。韓国に至っては維持基準は非常にしっかりしてて、稼働率が95%とか。日本はどんなに頑張っても90%にしかならないような基準になっている。もう一つは定期検査が13ヶ月に一度ということ。実際に70年代は世界中で12〜3ヶ月でしたけど、80年代からは15〜18ヶ月になり、90年代は21〜24ヶ月。世界の流行は、殆ど21〜24ヶ月に1回の定期検査です。定期検査の平均日数は大体10日間ですね。で、日本は13ヶ月の周期で定期検査をして、40日間くらいかかる。そういう国というのは全くどこかおかしい。

大学の先生というのはですね、産業とかあるいは産官、研究に限らず産官学と協力しなくてはいけないのですが、そもそもどうあるべきかということを声を大にして社会に対して言っていく責任がある。例えば再処理問題にしてもですね、私は青森県に時々呼ばれて行きますが、技術的な問題で呼ばれたのはたった1回しかない。例えば議員に会いに行く、それから町長に会いに行く、講演会にも3、4回行きましたから、もっと行ってるかな、6回くらい行っているかな。講演会に呼ばれて行くとですね、ケイシー高峰とかと一緒にですね、田舎のおばさんをいっぱい集めて馬鹿話をしながら、核燃料サイクルとはなにかという話をする。

もう一回、元に戻りますが、大学の先生というのは社会はこうあるべきだというのを的確に言及していくというのが一つと、技術的な問題にももう少し関与してもいいような気もするんですが、幸か不幸か、非常にメーカーも優秀でありますので、あまり口出しをする必要がない。ただ、法解釈をしなければならないときに勝手に気を利かせて間違ったことをやっていることがよくあります。そういうのはチェックすべきことだと思いますけれども。もう一度、大学の先生の役割というのは、何をすべきかという方向を示すことは大学に席を置いている人間の責任。メーカーや役人達について触れますと、メーカーはとにかく安くて良いものを作るということをやっていればいいのですが、産学官の官は何をするのか、何もしていないじゃないかという議論もある。東電問題にしてもですね、保安院に能力がないからこういうことになってるんだと。保安院というのは3年に1回ころころ人間が変わり、大した専門知識を持たないまま次のポストに移ることが多い。保安院は去年の1月6日から民間の人を大量に採用しましたし、少なくとも安全性や技術に関しては相当上がったと思います。それが役人との間でまだぎくしゃくしている部分もありますが、悪い方向から良い方向へ向かっているというように期待しています。サイクル機構と六ヶ所村について言えば、何が一番に来るべきか、地方自治体対策を一番にして民間会社がスケジュールを見ていくのではなくて、やはり私は国が関与してもらいたいと思います。スケジュールをどんどん進めていくのは役人の責任であり、あるいは大学の先生の責任であって、経営者は技術的な内容とお金のことをもっと重視してやっていただくように。そうすると、再処理工場というのもうまくいくのではないかと。大学人とか役人というのはその辺りでもっと働く必要がある。安全性に関しては役所任せではなくて、当事者は電力会社であり、あるいは日本原燃などですから、当事者が自覚の元に進めることが必要ではないか。
どうもありがとうございました。