核データ部会設立趣意書

軽水炉から核融合炉まで,あらゆる原子力システムは原子核の反応にその技術の基礎を置いている.したがって,これらの技術が進歩し,世の中により広く受け入れられてゆくためには,原子核の反応をはじめその構造や崩壊に関する深い知見と,それに基づく広範で精度の高い核データの集積が必須のものとなる.一例をあげるなら,原子炉物理学,遮蔽工学,計算機科学の発展ならびに計算機ハードの急速な進歩により,膨大できわめて高精度の計算が可能となりつつあり,近い将来,核データの精度がそのまま原子力システムの設計精度を律するようになるであろう.

これらエネルギー生産のための原子力システムにくわえて,放射線工学や加速器・ビーム工学などの原子力関連技術は,計測,材料などの工学分野から,物理学,生物学,医学,環境科学,天体核物理へとその応用の裾野を広げつつある.その結果,原子核物理をはじめとする基礎研究領域と,原子力関連技術とのボーダーレス化が進み,またそこで必要とされる核データも極めて多岐にわたるものとなる.

このような必要性を満たすため,我が国では,実作業を行うワーキンググループの集合体であるシグマ委員会を基軸として,核データの測定・評価・整備に関わる活動が活発に行われている.しかし,工学的観点に立脚した原子核事象のより深い理解と核データの量的拡大をバランスよく達成するためには,学会における情報交換と適切な議論が必須のものであることは論を待たない.このため,近年やや分散化の傾向にある学会内での核データ関連活動を,「核データ部会」を新たに設立することにより再編成し,核データ研究に携わる研究者・技術者の間の情報伝達と議論をさらに円滑にし,これを活性化することが急務である.それにより,関連する他の部会,あるいは他の学会・協会との機能的な連携が可能となり,結果として日本原子力学会全体の活動の活性化とバランスある発展が可能になるものと考える.