NDDニュースレター 2007年 第4号 (通巻第81号)

2007/5/28

Table of Contents

会合の報告

ND2007の印象,感想,そして今後の活動提案について

-- 欧米における核データルネッサンスに対抗するために --

(九大総理工) 渡辺幸信,(JAEA) 千葉敏

核データニュース最新号に投稿したND2007報告(理論・計算手法)の中から,会 議の印象や感想,および今後の核データ研究活動の提案の部分を抽出して報告 する.

まず,会議の第一印象は,欧米における核データ研究の"底力"を見せつけられ たことである.核データという研究領域が炉工学の一分野と見なされる傾向に ある日本とは違い,欧米では物理の一分野であることを反映して,参加した セッション(主に理論・評価手法)の多くが,原子核物理の研究者(若手・中堅 層が多くを占める)による発表で構成されていた.理論・評価手法は核データ 研究の基礎分野であり,それを支える原子核物理分野の研究成果が発表される のは当然であり,この状況はもちろん今回に限ったことでない.核データが核 物理の一分野と見なされる欧米に比べ,そうではない日本側の貢献(発表件数 やインパクト) が減ってきたことにある種の危機感を感じた次第である. (実は,その兆候は前回ND2004ですでに現れていたのではあるが.....)

理論分野では,微視的アプローチが1つの流れとしてはっきりと見えてきた点 が今回の特徴である.日本では現在あまり行われていない核分裂の微視的研究 が欧米では精力的に行われており,ポテンシャル表面の計算から中性子断面積 の計算までが一貫して遂行可能になってきている.反応理論でも共鳴を含む軽 い原子核同士の反応や前平衡多段階直接過程の微視的理論,核構造計算では ハートリー・フォック・ボゴリューボフ(HFB)理論に基づく原子核質量,準位 密度計算の改良などに関する多くの発表があった.現時点でこれらの微視的計 算を核データ評価に適用するには,まだ精度的に十分とは言えないが,着実に 成果が上がってきている印象を持った.核データ評価で一般に使用されている 現実的な現象論的アプローチに比べ,微視的理論は第一原理に基づいた計算で 物理的に興味深く,今後ますます測定が困難な核種に対する核データが必要と された場合の外挿性という点で現象論に対して有利である可能性もあり,核 データ理論研究を若手研究者にアピールするためにも,国内にこの流れを作る 必要性を痛感した次第である.

核データ計算・評価手法に関しても,欧米では少数の研究者等が核となって現 象論モデル(前平衡・統計模型)を核にした汎用的計算コードシステム(TALYSや EMPIRE)が構築され,最近ではその中に共分散計算が組み込まれ,さらに上記 の微視的理論がモデルとして,あるいは計算結果が入力パラメータとして適用 され,驚くべき高度化・進化が図られつつある.又,断面積計算に加えて,共 分散生成,ファイル化,断面積処理,ベンチマーク計算までをほぼ自動で一括 して行う計算システム構築を目指して,開発が進められている.国内でも JENDL-4の評価にはJAEAで新しく開発された計算コードシステム(CCONEやPOD) が使用されているが,それに関連した発表が殆どなかったのは残念であった.

実験の中で特に関心を引いたのが,"surrogate(代理)"法と呼ばれている間接 測定法の進展である.これは,複合核を経由して進む二段階反応に対する断面 積測定に適用される.まず実験では,測定すべき反応の第一段階(特定の複合 核形成)を別の代理反応に置き換え,複合核崩壊の測定(注目する崩壊の分岐比 を測定)を行う.複合核形成断面積は理論計算によって求め,代理反応を使っ て測定した分岐比と組み合わせて,最終的な断面積を算出する.この代理法に より,測定が困難であった中性子捕獲や中性子誘起核分裂断面積についての多 くの新しい測定結果が報告された.上述のように,これらの測定は最終的に複 合核形成断面積と結びつけるために理論の助けが必要であり,実験と理論がタ イアップして,近年,欧米において精力的に取り組まれている印象を強く持っ た.Flocard (CSNSM, 仏)やChadwick (LANL)による基調講演はじめ,いくつか の測定以外の講演でも取り上げられ,その成果や有効性が強調された.国内で は代理反応法による核データ測定研究はまだ皆無に近い状況なので,今後,実 験と理論が融合して推進すべき課題の1つであろう.

冒頭に述べたように,欧米(特にフランスと米国)における応用関連の核物理分 野の実力を痛感した次第である.Gen-IVを旗印として20代から40代前半の評 価・理論・実験研究者が有機的に機能しあう様相は,さながら"核データル ネッサンス"と言うべき活況であった.それに対して日本では炉工学と核物理 の分野が疎遠であるため,現状のままでは欧米の核データルネッサンスの時代 を勝ち抜くのは容易では無いという印象を持った.21世紀の原子力の基盤を支 える核データ研究に対する国内でのアクティビティを維持・発展させていくた めにも,欧米での現状・将来計画を冷静に分析し,中・長期戦略に立った組織 的な研究活動を開始すべき時期が来ていることを強く認識させられた.国内で 物理グループの興味を喚起しようと思っても,JENDLが(特殊な研究型炉を除い て)許認可に使われていない状況ではその意義を説明しにくい.そもそもJENDL が国内商業炉の許認可に使われないのではこの分野の存続の意義が薄れるので はないか.許認可のテーマは再度議論されるべき最重要課題であろう.

最後に,この場を借りて,今後の我が国における核データ活動を効果的に行う ために必要と考えられる組織的活動に関連した幾つかの提案を述べさせて頂 く.これらに対する読者の皆様からの忌憚のない意見を頂戴できれば幸いであ る.今後,意見集約を図りながら,将来に向けた建設的な議論を盛り上げて, アクティビティ向上に繋げる第一歩にしたいと考えている.

● JENDLを国内商業炉の許認可に使えるようにするためにはどうしたよいか議 論する場を設けて,位置づけ(reference dataとしての活路?)を検討する. ● 評価・計算方法に関して,TALYS,EMPIREに相当する高エネルギー領域まで 含む国産汎用計算コードの開発・サポート体制の確立. ● 理論については,統計模型が必ずしも有効で無いような軽い核と核分裂が 関連する重い領域に関する共同研究チームを立ち上げ,(微視的)理論アプ ローチを導入. ● 国産PHITS輸送計算コードで使われるevent-generator用核反応物理モデル (INC, QMD, GEM等)の改良や新規開発・導入.

● 核データ関連で,組織的な予算獲得を目指す.(研究会用,国際会議参加 用,実験用,大型プロジェクト用など). ● 核データ研究に物理研究者の興味を喚起する.例えば,物理学会に定常的 に参加して核データに関連した研究を発表する.逆に原子力学会に参加し てもらう.共同研究テーマを掲げ,共同で予算獲得を目指す,等. ● JAEAタンデム,理研RIBF,RCNP,東北CYRIC等における新しい核データ測 定(例えば,代理反応法等)を計画し,大学・研究所等の合同チームで実 施する. ● 大学,JAEA,産業界のネットワークを活用した若手人材の育成.

● 誰がこれらの音頭を取るべきか? シグマ委員会? 核データ部会? 原子力機 構? 筆者としては核データ部会ではないかと考えている.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:154名 (2006/04/26 現在)

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