NDDニュースレター 2007年 第1号 (通巻第78号)

2007/3/9

Table of Contents

会合の報告

加速器駆動未臨界炉システム(ADS)に関する京都大学原子炉研究所ワーク

ショップ -第4回国際ADSワークショップ(ADSアジアネットワーク会合)-

(JAEA)深堀智生,大井川宏之,佐々敏信,大内伸夫

2006年12月14-15日,京都大学原子炉実験所(KURRI)にて,標記ワークショップ が開催された.以下,講演内容の概要を示す.

KURRIにおけるADS研究計画では,2.5-150MeVで約1μA (120Hz)のH+をFFAGで加 速し,KUCAに入射する.実験として,未臨界炉心の中性子フラックス分布の測 定,中性子スペクトルの測定,種々の炉心パラメータ決定のための中性子雑音 解析,未臨界度測定を行う予定である.JAEAにおけるADS概念設計では,1.5 GeV陽子を鉛-ビスマスターゲットに入射し,最大反応度0.97の未臨界炉心に 中性子を供給する.2.5tのMAを含む窒化物燃料(Puをドライバとして含む)を装 荷する.工学的実現性の検証として,MEGAPIE計画との協力,出力ピーキング の減少,低酸素濃度における材料腐食挙動に関する静的試験,核設計に対する 誤差の推定等に関する研究を行っている.核設計においてはAm-241の中性子捕 獲断面積の精度が最も重要であることが示された.中国におけるADS研究は, システム最適化,炉物理技術,加速器技術,核および材料データの各グループ に分かれて行われている.システム研究では,1GeV,30mAの加速器を用いた ADS概念設計が行われている.韓国では,ナトリウム冷却高速炉(KALIMER-600 燃焼炉)による核変換,鉛-ビスマス未臨界炉(HYPER燃焼炉,反応度0.98,熱出 力1000MWt)による核変換が検討されている.分離技術の開発では,KAERIでUを 用いた試験が行われている.また,PEACER (Proliferation-resistant, Environment-friendly, Accident-tolerant, Continual, Economical, Reactor) 計画がソウル大を中心に実施されている.

KURRIにおける炉物理に関する実験的研究では,エネルギー増倍機,未臨界度 の特性,核データライブラリの検証等を目的として,KUCA+FFAG,KUCA+14MeV 中性子源での実験を行っている.KUCA+14MeV中性子源での実験では,Inワイ ヤーを炉心内に配置し,中性子フルエンスを測定した.これにより,未臨界度 に応じた中性子特性を得,MCNP計算により,実験結果をよく再現できることを 確認した.また,光ファイバーを用いた測定では,中性子増倍率および未臨界 度に応じた中性子の減衰特性を得ることができた.名大によるRossi-α法によ るリアルタイム未臨界度測定システムの開発では,リアルタイム未臨界度測定 システムの成立性検証のため,計算時間,測定精度,反応度変化に対する追従 性を検討した.計数率の処理時間依存性を測定し,数千cps以下であれば,リ アルタイム測定が可能である.KUCAでの検証実験では10%以上の測定精度が得 られた.中国ADS未臨界実験集合体VENUS-1の実験的研究では,中性子分布の時 間依存性の測定にはパルス中性子法を用いている.中性子減衰曲線の直線部分 (早い時間領域の中性子減衰)をフィッティングすることによりα値を導出し た.この結果,炉心領域より反射体領域の減衰係数が数10%大きいことが分 かった.ADSのための放射化検出器の研究では,高エネルギー中性子測定法と して,Biを用いた放射化検出器を開発した.ADSの中性子スペクトルをMCNPX計 算により推定し,ADSにおける測定方法を研究し,Bi放射化検出器による測定 の信頼性検証をFFAG施設(KEK)にて検証することを目的としている.実験は準 単色中性子源で,Bi(n,xn)(x=4-10)およびIn(n,n'),(n,γ)を放射化検出器 として使用する.中性子スペクトル測定結果はMCNPX計算と良い一致を示した.

中国(中国原子能研究院,CIAE)におけるADSのための核データライブラリの開 発では,250MeVまでの中性子核データファイルを,主に構造材核種に対して作 成している.中性子および陽子データをAPMN,MENDコード,DWUCK4を用いて評 価し,光核反応データも整備している.岩本-原田モデルにより,複合粒子ス ペクトルもよく再現している.日本におけるADSのための核データ評価に関し て,JENDL/HEの評価方法,ツール,評価結果およびいくつかの積分テストを通 したパフォーマンスを筆者の一人(T. F.)が報告した.韓国では,核データに 関しては,誤差データ,高燃焼度化のためのFP核データの改良,Thサイクルに 関する核データ,PEFPのための核データについて主に活動している.KAERI- BNL研究協力により,EMPIRE2を用いて32核種の主要FP(中性子エネルギー20MeV 以下)の評価を行った.将来的には実験データの生産量は減少するが,それを 補う誤差データを含む核データの品質保証が炉物理計算に重要になるであろう とコメントされた.

中国における高電流RFQのための低エネルギービーム輸送(LEBT)の開発が成功 すれば,高品質の大電流ビームを次段加速器(RFQ)に供給できる.このために 開発したマイクロ波イオン源について,その信頼性および寿命について報告さ れた.KURRIの FFAG加速器に関して,エネルギー可変の加速器およびコンパク トな強力中性子源としてのFFAGについて報告された.Kumatori Accelerator driven Reactor Project(KART)はADSの成立性検証のためのものであり,反 応度(keff)に従ってエネルギーを可変にできるFFAG加速器を中心としている. インジェクターおよびブースターは建設終了で,2007年1月に主リングから KUCAに向かってビームが取り出される予定である.J-PARC加速器については, 線形加速器,RCS (3GeV Rapid Cycling Synchrotron),MR (50GeV Main Ring) の建設の現状が示され,今後の整備計画が紹介された.韓国におけるPEFP加速 器開発では,3つのゴール,すなわち,100MeV,20mAの線形加速器を建設,陽 子ビームの利用技術の開発,利用技術の工業利用への推進が設定されている. 現在はテジョンのKAERIサイトでテストが行われているが,将来的(2008年に移 設を開始し,2012年に運転開始を予定)にはキョンジュ・サイトで全体を建設 する予定である.

会合では将来の協力計画についても検討した.近い将来における中国でのADS 研究では,多目的検証システム(Chinese Spallation Neutron Source (CSNS),Beijing Radioactive Ion-beam Facility (BRIF))が検討されてい る.概念検討の段階であるが,150MeV程度の加速器およびMWプール型の未臨界 炉が検討されている.J-PARCにおける核変換実験施設(TEF)におけるTEF-P(ADS 炉物理的実験用の臨界炉心,Np-237/Am-241を5%含有したMOX燃料試験も検討し ている)およびTEF-T(液体金属環境でのターゲット(材料)テスト)について紹介 された.TEFを利用した研究課題について行われた暫定版アンケート(Letter- of-Intent,LOI)結果についても紹介された.国内外から112名(内56名が海外 から)の反応があった.LOI自体はhttp://j-parc.jp/からダウンロードでき る.KURRIではFFAGを用いたADS研究の将来計画として,中性子・光子スペクト ルおよび陽子ターゲットからの強度測定,中性子フラックス分布測定,中性子 スペクトル測定,未臨界度測定,ADSの動的振る舞いの研究,エネルギー生産 を模擬したTh装荷ADS炉心研究,ADSにおけるMAの反応率測定,中性子増倍特性 の測定等が提案された.

日中韓でADS関連実験の解析計算や核データの積分実験解析等で今後協力を行 えそうである.今後の発展に期待したい.

部会員の最近の成果

K. Kondo, I. Murata (murata@eie.eng.osaka-u.ac.jp), K. Ochiai,
H. Miyamaru, N. Kubota, S. Takagi, S. Shido, A. Takahashi,
T. Nishitani
    Charged-particle spectrometry using a pencil-beam DT neutron
    source for double-differential cross-section measurement
    Nucl. Instrum. Meth., A568 723 - 733 (2006).

T. Takeda (takeda@nucl.eng.osaka-u.ac.jp), T. Okamoto, A. Inoue,
S. Kosaka, H. Ikeda
    Effect of anisotropic scattering in neutronics analysis of BWR
    assembly
    Ann. Nucl. Energy, 33, 1315 - 1321 (2006).

M.B. Chadwick, P. Oblozinsky, M. Herman, N.M. Greene, R.D. McKnight,
D.L. Smith, P.G. Young, R.E. MacFarlane, G.M. Hale, S.C. Frankle,
A.C. Kahler, T. Kawano (kawano@lanl.gov), R.C. Little, D.G. Madland,
P. Moller, R.D. Mosteller, P.R. Page, P. Talou, H. Trellue,
M.C. White, W.B. Wilson, R. Arcilla, C.L. Dunford, S.F. Mughabghab,
B. Pritychenko, D. Rochman, A.A. Sonzogni, C.R. Lubitz, T.H. Trumbull,
J.P. Weinman, D.A. Brown, D.E. Cullen, D.P. Heinrichs, D.P. McNabb,
H. Derrien, M.E. Dunn, N.M. Larson, L.C. Leal, A.D. Carlson,
R.C. Block, J.B. Briggs, E.T. Cheng, H.C. Huria, M.L. Zerkle,
K.S. Kozier, A. Courcelle, V. Pronyaev and S.C. van der Marck
    ENDF/B-VII.0: Next Generation Evaluated Nuclear Data Library for
    Nuclear Science and Technology
    Nucl. Data Sheets, 107, 2931 - 3118 (2006).

H. Harada (harada.hideo@jaea.go.jp), S. Nakamura, M. Ohta, T. Fujii,
H. Yamana
    Emission Probabilities of Gamma Rays from the Decay of 233Pa and
    238Np, and the Thermal Capture Cross Section of 237Np
    J. Nucl. Sci. Technol., 43, 1289 - 1297 (2006).

M. Ohta, S. Nakamura, H. Harada (harada.hideo@jaea.go.jp), T. Fujii,
H. Yamana
    Measurement of Effective Capture Cross Section of Americium-243
    for Thermal Neutrons
    J. Nucl. Sci. Technol., 43, 1441 - 1445 (2006).

T. Hayakawa, S. Miyamoto, Y. Hayashi, K. Kawase, K. Horikawa, S. Chiba,
(chiba.satoshi@jaea.go.jp) K. Nakanishi, H. Hashimoto, T. Ohta, M. Kando,
T. Mochizuki, T. Kajino, M. Fujiwara
    Half-life of [sup 184]Re populated by the (gamma,n) reaction from
    laser Compton scattering gamma rays at the electron storage ring
    NewSUBARU
    Phys. Rev., C74, 065802 (5 pages) (2006).

Y. Uozumi (uozumi@nucl.kyushu-u.ac.jp), P. Evtoukhovitch, H. Fukuda,
M. Imamura, H. Iwamoto, V. Kalinikov, W. Kallies, N. Khumutov, T. Kin,
N. Koba, Y. Koba, N. Kuchinski, A. Moisenko, D. Mzavia, M. Nakano,
V. Samoilov, Z. Tsamalaidze, G. Wakabayashia, Y. Yamashita
    Magnitude factor systematics of Kalbach phenomenology for reactions
    emitting helium and lithium ions
    Nucl. Insrum. Meth., A571, 743 - 747 (2007).

K. Oyamatsu (oyak@asu.aasa.ac.jp), K. Iida
    Symmetry energy at subnuclear densities and nuclei in neutron star
    crusts
    Phys. Rev., C75, 015801 (10 pages) (2007).

K. Shibata (shibata.keiichi@jaea.go.jp), T. Nakagawa
    Uncertainty Analyses of Neutron Cross Section for Nitrogen-15,
    Lead-206, 207, 208, Bismuth-209, Plutonium-238, Americium-242m,
    and Curium-244 in JENDL-3.3
    J. Nucl. Sci. Technol., 44 (1), 1 - 9 (2007).

K. Shibata (shibata.keiichi@jaea.go.jp)
    Calculation of Neutron Nuclear Data on Calcium Isotopes for JENDL-4
    J. Nucl. Sci. Technol., 44 (1), 10 - 20 (2007).

S. Nakamura, H. Harada (harada.hideo@jaea.go.jp), S. Raman,
P. E. Koehler
    Thermal Neutron Capture Cross Sections of Zirconium-91 and
    Zirconium-93 by Prompt g-ray Spectroscopy
    J. Nucl. Sci. Technol., 44 (1), 21 - 28 (2007).

S. Nakamura, H. Harada (harada.hideo@jaea.go.jp), S. Raman,
P. E. Koehler
    Thermal Neutron Capture Cross Section of Palladium-107
    J. Nucl. Sci. Technol., 44 (2), 103 - 108 (2007).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

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核データ部会総会

核データ部会総会が2007年春の年会中の3月28日 (水) 12:00〜13:00にE会場で 開催されます.奮ってご参加ください.

● 現在の部会員数:154名 (2006/04/26 現在)

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