NDDニュースレター 2006年 第5号 (通巻第76号)

2006/10/4

Table of Contents

会合の報告

2006年秋の大会セッション報告

(JAEA)原田秀郎,深堀智生

荷電粒子入射反応の測定について,加速器施設の遮蔽設計などに用いられる計 算コードの検証を目的に,高エネルギー陽子入射で0度方向に発生する中性子 の実験結果が報告された.計算結果との比較が行われ,C/Eが約0.6となる領域 が存在することなどが報告され(E1),特に高エネルギーの生成中性子量の問題 点が指摘された.また,荷電粒子生成断面積の測定について,測定技術の開 発・改良が2件報告された.1つは,低エネルギーのフラグメント生成微分断面 積の測定手法の開発であり,Energy-TOF法の有効性が約2 MeVまで実証された (E2).もう1つは,積層型GSO(Ce)検出器を用い,重イオン入射で発生する高エ ネルギー陽子の生成断面積を測定するための取り組みが報告された(E4).今後 の本格的測定に期待がかかる.

中性子入射反応の測定について,高エネルギー準単色中性子スペクトルの低エ ネルギー成分を補正するため0度方向の中性子スペクトルから後方角度の中性 子スペクトルを差し引く手法の検討が報告され,全体の面積に対するピーク面 積の割合90 % を達成した(E5).また,(n, 2n)反応の断面積を測定するため に,放出される2つの中性子を同時計測により直接測定する試みが角度相関の 測定結果を含めて紹介される(E6)とともに,核融合炉における核発熱の評価な どを目的として14 MeV中性子入射で生成するα線の精密測定が報告された (E7).

核データ測定用γ線測定技術では,Ge検出器を用いた高エネルギーγ線分光技 術の開発が進んでいる.即発γ線を用いたFP核種の中性子捕獲断面積決定を目 的に,核準位同定用複数台Ge検出器配置の最適化検討が報告された(E8).ま た,完成した全立体角Geスペクトロメータのエネルギー分解能などの基礎性能 が報告されるとともに,核準位同定法の提案があった(E9).また,光核断面積 測定用に8-12 MeVで測定されたレーザ逆コンプトン光のエネルギー分布につい て,計算した応答関数を用いての導出及びその誤差評価に関する研究が報告さ れた(E10).

中性子捕獲断面積の測定では,核変換研究や元素合成研究を目的としてkeV領 域の安定同位体FP核種の測定が着実に進んでいる.電子ライナックを用いた TOF測定では,Pd-105 とPd-108がeVからkeVの領域で測定された(E11). ま た,加速器駆動未臨界炉の放射線管理で重要なターゲット材料であるW, Taに 対する測定研究が開始された(E14).ペレトロン加速器を用いたTOF測定では, 10-100 keV のエネルギー領域で,Sn-116及びLa-139の測定結果が報告された (E12, 13). MAについては,放射化法によるNp-237とAm-243の熱中性子捕獲断 面積の高精度化に関する研究(E15, E16)が報告された.測定結果を評価ファイ ルへ反映するための検討が望まれる.

核データ評価のセッションでは,JENDL-4のためのFPおよびMA核データの評価 に関する4件の報告が原子力機構からなされた.軟回転体模型を用いた広域的 な解析(E18)では,剛回転体模型では再現できない中間的な変形状態を軟回天 体模型により表現することにより広範な核種の結合チャンネル光学模型計算を 行い,良好な結果を得た.また,軟回転体模型による準位解析から得られるソ フトネスと変形パラメータとの相関を示し,変形パラメータの予測の可能性を 指摘した.核データ評価用コードTNGおよびPODとその周辺コードによるCa同位 体中性子核データの理論解析(E19)では,これまで再現できていなかったγ線 生成データも良く再現できている.Zn同位体データの評価(E17)に関しては, 核データ評価用コードCCONEによるモデル計算において,2成分前平衡過程計算 における一粒子準位密度パラメータおよび統計模型計算における準位密度パラ メータ(RIPL-2にD0があるものは固定)を,実験値を再現するように修正して計 算結果を求めた.評価値は実験データをよく再現しており,反応間の整合性も 取れている.Np-237に対する中性子入射核反応核データの評価(E20)では, CCONEおよびGMAを用いた評価結果が報告された.2つ放物線型の核分裂障壁を Np同位体について系統的に決定し,核分裂断面積をよく再現している.以上, JENDL-4のための評価およびそのため基礎データが着実に整備されている.

理論的な研究のセッションでは,アクチニド核データ評価に応用できる報告が 4件,中高エネルギー核データに関するものが1件,その他が1件あった.原子 核のポテンシャルエネルギー計算の大変形状態への拡張(E21)では,原子核の 質量公式およびこれに使用したポテンシャルを用い,核変形に伴うポテンシャ ル表面の計算を,鞍点領域を十分に含む大変形領域まで拡張した.これによ り,整合性の取れた核分裂障壁推定の可能性が示された.SRM-CCによるアクチ ノイド領域核の集団準位構造と中性子断面積(E22)では,軟回天体模型(SRM)に よる集団運動のサブバンド構造の推定により,非弾性散乱チャンネルが開かな いエネルギー領域においても,サブバンドを含めた計算の影響が現れることが 示された.また,SRMの各パラメータと変形度の相関を示し,実験データの無 い核種に対するパラメータおよび断面積計算関する可能性を指摘した.U-235 の遅発中性子収率のエネルギー依存性の解析(E25)は,核分裂片の励起エネル ギーを求めることにより,即発中性子の余分な放出により遅発中性子を放出す る先行核の生成が減少する可能性があることを示した.これにより,4 MeV領 域の遅発中性子収率の急激な減少と6 MeV以上の領域における平坦化を説明で きると報告した.核分裂片への励起エネルギー分配などに改良の余地はある が,遅発中性子収率計算の予測精度向上に有用な研究である.選択チャンネル 核分裂モデルによる簡便な核分裂収率評価法(E24)では,核分裂片を個別の核 反応チャンネルを経由した結果と仮定し,各々のの核分裂障壁を用いて,核分 裂収率をある程度再現できることを示した.A=85-95,140-150の領域で大きな 過小評価が見られ,この改善が今後の課題であろう.これらは,核分裂や弾 性・非弾性散乱をはじめとするアクチニド核種のための系統的な評価計算の道 を開くものであり,今後の発展が期待される.

軽複合粒子前平衡放出過程の現象論モデルを用いたQMD計算の改良(E23)は,従 来,量子論的分子力学法(QMD)の枠組みでは再現が難しかった軽い複合粒子(d, t,He-3,α)の動力学過程からの放出をcoalescenceモデルを導入することに よって,解決できることを示した.実験データを完全に再現するためには, pick-upやknock-out過程を考慮する必要があるが,中高エネルギー領域におけ る荷電粒子放出チャンネルの評価に非常に有用であると思われる.

Np-237中性子捕獲断面積の予備測定(E26)について,検出器からのデータ収集 および解析方法について報告された.今後,絶対検出効率,フィルター物質等 による中性子強度の減衰量補正,サンプルによる散乱等の補正等を行い,最終 結果にする.今年度中に得られる予定の最終結果に期待したい.

2006年秋の大会核データ部会総会議事録

第14回核データ部会総会 日時: 2006年9月27日(水) 12:00 - 13:00 場所: 北海道大学工学部B3棟B32号室 (E会場)

●報告事項 吉田部会長の報告の後,丸山副部会長より企画担当委員の担当項目が下記のよ うに紹介された. 部会等運営委員会: 深堀,岩崎 シグマ委員会(連絡窓口): 奥村,渡辺 核データ研究会: 深堀,奥村 学術交流: 丸山,村田 学生・若手: 村田,奥村 測定検討小委員会(連絡窓口): 渡辺,深堀 「社会とのかかわり」準備委員会: 深堀,渡辺

部会等運営委員会担当の深堀委員より,大半の部会から部会等運営委員の任期 を現状の3年から部会運営委員の任期に合わせるように要望があったこと,Web を使ったプログラム編成会議に2007年春の年会から全面移行すること,科学技 術の状況に係る総合的意識調査の回答者に田原氏(EDC)と石川氏(JAEA)を推薦 したこと,部会独自収入の20%程度を本部が徴収する議論があったことが報告 された.

核データ研究会担当の深堀委員より,5/17に準備委員会が開催され,本年度の 研究会は11/16-17(チュートリアル0.5日,研究会1.5日)に東海村のリコッティ で開催すること,学生旅費の半額補助のため参加費3,000円徴収すること,ア ブストラクトは部会webに掲載すること,プロシーディングスはJAEAから発行 することなどが報告された.

学術交流担当の丸山副部会長より,11/2-3に慶州(韓国)で開催される韓国原子 力学会の中で炉物理と核データに関する日韓ジョイントセッションが設けられ ているが,日本側からの発表者が決まらない,炉物理部会でも同様の問題を抱 えており,ジョイントセッションを隔年開催にしてはどうか,などの議論が あったとことが報告された.また,馬場氏(東北大)より,加速器・ビーム科学 と核データに関するジョイントセッションもあるが同様の状況であるとのコ メントが出された.

学生・若手担当の村田委員より,LANL夏期実習には千葉豪氏(JAEA)が選出され たこと,日韓サマースクールに対する援助は東北大と東工大の学生が1名ずつ 選出されたことが報告された.

日韓サマースクールの報告が馬場氏(東北大)よりなされ,今回の参加者は110 名であったこと,次回は2008年に東海村か九州で開催し,以降は主催者の負担 を減らすために2年に1回実施することが報告された.

測定検討小委員会担当の深堀委員より,委員会のメーリングリストを作成し当 面はメール主体の意見交換になること,実質的な作業は魚住氏(九大)が中心と なって行っていること,作業を日本グループとしての目標設定,役割分担,予 算獲得などの具体的活動の3段階に分けており,現在第1段階の目標設定を終え た段階であること,当面数十MeVの領域についてのみ役割分担を考えることな どが報告された.これに対し,日本のHigh Priority Request Listを経済性を 考慮したリストや社会に対して核データの重要性をアピールできるリストを 持ってはどうかとのコメントが出さた.

「社会とのかかわり」準備委員会担当の深堀委員より,どのように取り組むべ きかを準備委員会で討論している段階であることが報告された.

編集担当の原田委員より,ニュースレターの発行を前回総会から4本出したこ とが報告され,国際会議の報告などを部会編集担当のメールアドレスか編集 担当委員に連絡していただきたいとの依頼があった.

深堀委員(会計担当の池田委員の代理)より,平成18年度会計の中間報告がなさ れた.また,丸山副部会長より部会員獲得への協力が要請された.

学会編集委員会の報告が深堀委員からなされ,9/1より投稿区分が変更され, 8/1から掲載料が改定されたことが報告された.

核データ部会賞担当の丸山副部会長より,学術賞に須山賢也氏(JAEA),奨励賞 に千葉豪氏(JAEA)が選ばれたことが報告された.この後,表彰式が行われ,吉 田部会長より須山氏と千葉氏に賞状と副賞が送られた.

部会員の最近の成果

N. Hagura (g0567014@sc.musashi-tech.ac.jp), T. Yoshida,
T. Tachibana
    Reconsideration of the Theoretical Supplementation of Decay
    Data in Fission Product Decay Heat Summation Calculations
    J. Nucl. Sci. Technol., 43, 497 - 504 (2006).

M. Segawa, Y. Temma, Y. Nagai, T. Masaki, T. Shima, T. Ohta,
A. Nakayoshi, J. Nishiyama, M. Igashira (iga@nr.titech.ac.jp)
    A detection system for (n,n′) reaction studies of astrophysical
    interest
    Nucl. Instrum. Meth., A564, 370 - 377 (2006).

T. Yamagata, N. Warashina, H. Akimune, S. Asaji, M. Fujiwara,
M. B. Greenfield, H. Hashimoto, R. Hayami, T. Ishida, K. Kawase,
M. Kinoshita, T. Kudoh, K. Nakanishi, S. Nakayama, S. Okumura,
K. Sagara, M. Tanaka, H. Utsunomiya (hiro@konan-u.ac.jp), M. Yosoi
    Excitation of dipole resonances in 4He and in the α clusters
    of 6Li and 7Li
    Phys. Rev., C74, 014309 (7 pages) (2006).

T. Maruyama, S. Chiba (chiba.satoshi@jaea.go.jp)
    Nuclear electromagnetic current in the relativistic approach
    with the momentum-dependent self-energies
    Phys. Rev., C74, 014315 (12 pages) (2006).

D. Satoh, T. Satoh, A. Endo, Y. Yamaguchi, M. Takada, K. Ishibashi
(kisibasi@kune2a.nucl.kyushu-u.ac.jp)
    Measurement of Response Function of a Liquid Organic
    Scintillator for Neutrons up to 800 MeV
    J. Nucl. Sci. Technol., 43, 714 - 719 (2006).

Y. Nagai, T. Kobayashi, T. Shima, T. Kikuchi, K. Takaoka,
M. Igashira (iga@nr.titech.ac.jp), J. Golak, R. Skibinski,
H. Witala, A. Nogga, W. Glockle, H. Kamada
    Measurement of the [sup 2]H(n,gamma)[sup 3]H reaction cross
    section between 10 and 550 keV
    Phys. Rev., C74, 025804 (7 pages) (2006).

H. Utsunomiya (hiro@konan-u.ac.jp), A. Makinaga, S. Goko,
T. Kaihori, H. Akimune, T. Yamagata, M. Ohta, H. Toyokawa,
S. Muller, Y.-W. Lui, and S. Goriely
    Photoneutron cross section measurements on the N = 82 nuclei
    [sup 139]La and [sup 141]Pr: Implications for p-process
    nucleosynthesis
    Phys. Rev., C74, 025806 (6 pages) (2006).

H. Utsunomiya (hiro@konan-u.ac.jp), P. Mohr, A. Zilges, M. Rayet
    Direct determination of photodisintegration cross sections and
    the p-process
    Nucl. Phys., A777, 459 - 478 (2006).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:154名 (2005/04/26 現在)

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