NDDニュースレター 2005年 第10号 (通巻第71号)

2005/11/1

Table of Contents

会合の報告

加速器を利用した応用研究に関する国際会議

AccApp05 - International Conference on Accelerator Application 2005

(原子力機構) 小泉光生

2005年8月29日- 9月1日ベニス(イタリア)でAccApp05が開催された.参加国は 27カ国で,総合講演は15件,パラレルセッションによる講演は115件,ポス ターセッションは35件で,合わせて165件の発表があった.

会議は,核破砕中性子源と加速器駆動炉の研究を中心に据えたものであるが, 加速器施設,中性子源,ターゲット,ターゲットと原子炉,高エネルギー粒子 による放射化などのシミュレーションおよび実験,核データなど多岐にわたる 議題が取り上げられた.講演内容は筆者の専門外の分野の報告もあったが,加 速器を用いた原子力分野について,広く研究情報を得ることができた.特に, 核破砕中性子源の開発が強力に進められているとの印象を得た.

核破砕中性子源は,高速パルス中性子を発生するだけでなく,加速器性能に よっては研究用原子炉上まわる強度の中性子場を発生することができる.加え て,日本やヨーロッパでは研究用原子炉がシャットダウンしているので,核破 砕中性子源の中性子利用研究にける重要性は,今後ますます高まってゆくと思 われる.稼働中の核破砕中性子源施設としては,PSI (Paul Scherrer Institute)のSINQ (Swiss Spallation Neutron Source)とLANL (Los Alamos National Labolatory)のLANSCE (Los Alamos Neutron Science Center)が紹 介された.建設中の中性子源としては,Oak Ridge National Laboratory (ORNL)のSNS (Spallation Neutron Source)と原研・KEKのJ-PARCが紹介され た.今後1MW以上の中性子発生装置が稼働し始めることになる.それに伴い, 大強度ビームの過酷な環境にさらされるターゲット・シールド材の開発が必要 とされている.多くの研究機関で,液体金属を用いたターゲット材の開発が精 力的に進められている.

「核データと実験」のセッションでは,核破砕中性子源,核変換,原子炉,RI 製造などをシミュレートするための,高速中性子の反応断面積や,(γ,n)反応 断面積,陽子や重陽子,ヘリウムなど軽元素などの反応断面積が議題にあがっ ていた.また,より現実的な計算ができるようにシミュレーションの高度化 や,実験とシミュレーションをつき合わせた研究についても発表があった. ADSや高強度中性子源を実用化するためには,システム設計に必要な核データ を取得するのみでなく,広い範囲で高精度な核データを系統的に取得するとと もに,ターゲットやその周囲の壁面の放射化をシミュレーションする技術(計 算コード)の整備が必要となってくるであろう.

AccAppの次回の開催は,アイダホ国立研究所の主催で2007年に行われることに 決定した.会議録は,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Aに2006年のはじめごろ出版される予定である.日本原子力研究開発 機構核データ評価研究グループ発行の「核データニュース」には,もう少し長 い報告記事を出したので,興味がある方はそちらもご覧いただきたい.

P(ND)^2: Perspective on Nuclear Data for the Next Decades

Workshop on the future of theory- and experiment-based nuclear data
evaluation

渡辺幸信 (九大院・総理工)

標記ワークショップがフランスのBruyeres-le-ChatelにあるCEA DIFにて9月26 日から28日の3日間開催された.理論および実験(微分データ測定)に基づく核 データ評価の将来について議論するために,E.Bauge(CEA DIF)を現地組織委員 長とするグループによって組織されたワークショップで,招待講演のみに限定 した専門家会議形式であった.参加者は口頭発表者35名に数名のご意見番(A. Kerman等)や地元の研究者等を加え,約50名であった.日本からは,馬場護先 生(東北大)とOrsayに長期訪問研究員として滞在中の千葉豪氏(原子力研究開発 機構)と私の3名に加え,LANLの河野俊彦氏が参加した.

実験・理論含め多岐に亘った話題提供や活発な議論があり充実した内容であっ た.実験・測定に関する講演は全7件で全体に占める割合は少なかったが,現 在核データ測定をリードしているUppsala,GSI,IRMM,LANL,東北大等の施設 における測定の現状及び将来計画について紹介があった.理論関連では,定番 のトピックス(質量公式,準位密度公式,結合チャンネル法,前平衡模型,中 性子捕獲反応,核分裂等)に加えて,CDCC法や少数多体系理論についてもそれ ぞれの専門家による講演(主として現状報告)があった.さらに,応用に関連し て,共分散や積分実験の発表もあった.これらの個別テーマに加え,実際の核 データ評価に応用されている理論の現状に関する包括的な内容の講演として, TALYSコードの開発者であるKoningによる「モデル計算に基づく評価の現状」 や天体核関連データのGorielyによる「核データ評価に対する微視的モデル」 も示唆に富む内容を含んでいた.

講演の詳細は,http://www.nea.fr/html/science/pndndにプログラム及びアブ ストラクトが公開されているので,関心のある方はそちらを参照してもらいた い.

ワークショップの最後にKoningが座長を務め,サマリーと核データ評価の将来 展望について全体討議を行った.本ワークショップの概要や将来の方向性がつ かめるように,その論点をいくつか箇条書きにしておく.

(1) Can/Should we reply on "microscopic ingredients" for nuclear model   calculations ?

(2) "Normal" OMP and Coupled-Channels calculation is well-established. Can MCAS and CDCC play the same role for light system ?   注: MCAS = Multichannel Algebraic Scattering theory (by K.Amos) CDCC = Continuum Discretized Coupled-Channels theory

(3) Are we ready for the routine quantum mechanical preequilibrium   calculations ?   (4) New roads for experiments ? New energies, New targets, surrogate reactions, exclusive reactions, cover 200-2000MeV range with inverse kinematics, etc.

(5) Is it possible to supply uncertainties (covariance) at every level of nuclear science ?

(6) Can we translate applied nuclear data needs (power reactors,   nonproliferation, SEU, medical) into priorities for theoretical and experimental nuclear physics ?

以下本ワークショップに参加後の私見を一言.計算処理能力の向上に伴い,核 データ評価に使う理論は微視的モデルの指向をより強め,また,共分散がらみ で誤差付の計算結果を与える時代がやってくるだろう.実験の方は,実験技術 の向上と実験屋のアイデアによって,不可能を可能とする革新的な測定方法に 果敢にチャレンジすると同時に,理論モデルに制約を与える,よりexclusive な物理量の測定(スピン量や相関実験)も必要となろう.最後に,上記の(6)に も関連し,核物理畑で活躍している(いた)実験・理論屋が平和的応用指向の核 データ研究にコミットしやすい環境作り(Posdocや研究資金面等)に努力し,研 究者層の厚みが増し,内容がさらに深化(or 進化)した核データ研究へ展開し ていくことを切望しつつ,初秋のパリを後にした次第である.

「国際核融合材料照射施設(IFMIF)のための核データ」に関するIAEA技術

会合(IAEA/TM)報告

(原子力機構)深堀智生

平成17年10月4日〜6日,ドイツ,カールスルーヘ研究センター (Forschungzentrum Karlsruhe,FZK)にて,国際原子力機関(International Atomic Energy Agency,IAEA)技術会合(Technical Meeting, TM)「国際核融合 材料照射施設(International Fusion Material Irradiation Facility, IFMIF)のための核データ」が開催された.IFMIFは核融合炉材料損傷研究のた めの研究施設候補であり,国際協力により研究開発が進められている.このた め,各国でIFMIFに関連した材料損傷及び中性子工学設計計算を行っており, その基本となる核データライブラリに対する要求は次第に厳しいものになって きている.この現状を受け,IAEA核データセクション(Nuclear Data Section, NDS)は本技術会合を開催した.本技術会合の目的は,「IFMIFに関連する核 データの現状及びニーズを把握し,今後の核データ整備に対する提案をIAEAに 対して行うこと」であった.このため,本技術会合では,断面積データベース への要請を議論し,IFMIF研究開発のための今後の核データ整備への手法及び 作業体制に関する検討を行った.参加は,日本,ベルギー,チェコ,ドイツ, オランダ,ロシア,イギリス,米国,IAEAの8ヶ国,1国際機関の24名であっ た.以下,議事に従って,概要を報告する.また,当日の発表資料等はIAEA/ TMのホームページ http://www-nds.iaea.org/tm-fzk/ からダウンロードできる.

議論に先立ち,IFMIF研究開発の概要,IFMIF中性子工学研究の現状,各国の関 連する核データファイルの整備状況及び実験データ取得のための施設に関する 報告が行われた.欧州におけるIFMIF研究開発の中心的存在である欧州核融合 炉開発協力(European Fusion Development Agreement,EFDA)及びFZKから, IFMIFの目的,協力体制,研究施設,研究開発の現状,予算等に付いて説明が あった.現時点での欧州におけるIFMIF研究開発の目的は,技術的なリスク(開 発が間に合わない等)の低減・最適化及び個別のコストや暫定的な安全解析等 の技術評価を行うことである.また,RFQや代替の超伝導空洞等の加速器施 設,ターゲット施設,テストセル施設,設計統合(遮蔽断面積評価,安全性, 中性子及び重陽子による放射化量推定,遠隔操作技術の開発等)及び中性子工 学(放射化量や損傷率の推定)等の研究活動を行っている.EFDAの建設シナリオ では,2011年から建設を開始,2021年からフルパワー稼動を計画し,建設費概 算で140-160Mユーロを考えている.D-Li中性子源のモンテカルロ輸送シミュ レーションのためには,d-Li中性子収率,スペクトル,標準モンテカルロコー ド(MCNP)の標準化と統合が必要となる.このため,MCNPをベースにMcDeLi, McDeLiciousを開発している.

IFMIFの中性子工学研究に関し,FZKからリチウムターゲット設計,材料損傷テ ストモジュール及び装置の放射化に関連した報告があり,原子力機構からは コンクリート及びターゲット周りの放射化に関する核解析について報告を行っ た.IFMIFに関連する実験施設として,東北大学サイクロトロンラジオアイソ トープセンター(CYRIC),原子力機構核融合中性子源(Fusion Neutronics Source, FNS),米国ロスアラモス国立研究所(LANL)のLANSCE (Los Alamos Neutron Science Center)等についての報告があった.

核データファイルの現状に関連して,JENDL高エネルギーファイル(JENDL High Energy File, JENDL/HE),欧州の中高エネルギー放射化ファイル (Intermediate Energy Activation File, IEAF),欧州放射化解析システム (European Activation System, EASY),ロシアの核データファイルについて報 告があった.中高エネルギー放射化断面積ファイル(Intermediate Energy Activation File, IEAF-2001)は20-150 MeV領域の放射化断面積を格納した ファイルである.679核種(Z=1-84)を格納している.欧州放射化システム (European Activation System, EASY)は,リレーショナルデータベースシステ ムであるSAFEPAQ-IIとEAF-2005で構成されている.SAFEPAQ-IIでは,核データ 処理,作図,検証,出力が可能である.また,IEAF及びTALYS出力を読み込み 可能で,211群,351群の群構造及び20-60 MeVの新誤差データ及び積分実験 データ(熱中性子,30 keV,14.5 MeVの実効断面積)を格納している.EAF-2005 は,20-60 MeVはTALYS計算値を格納しており,62637反応の断面積,2192核種 (278新核種)の崩壊データ及び2-4群の誤差データを格納している.重陽子入射 放射化断面積に関しては,2192核種の60688反応断面積を格納している.

将来計画に関する議論の結果,IFMIF設計のための研究開発には,60 MeV以下 のエネルギー範囲において加速粒子である重陽子及び二次的に生成する中性子 による放射化断面積を格納した核データベースが最重要であると結論された. また,中性子の輸送計算のための核データも必要とされた.この結論を受け て,国際協力により必要な核データの整備を加速するため,国際核融合実験炉 (ITER)の核データ要求に関し,国際核融合炉用核データライブラリ(Fusion Evaluated Nuclear Data Library, FENDL)を整備したIAEAに対し,1) 重陽子 入射放射化断面積データベースに関する研究協力計画(Coordinated Research Program, CRP)を組織する,2) 中性子入射による放射化量推定のため,IAEAで 整備している国際原子炉ドシメトリーファイル(International Reactor Dosimetry File, IRDF)を高エネルギー側へ拡張する,3) IFMIF研究開発のた めに必要な核データに対する要求リストを作成する,4) IFMIF中性子スペクト ルにおける放射化量に関する誤差推定のため,核データコミュニティーに対 し,放射化断面積の誤差情報提供を要請することを提案することとした.

欧州ではIFMIF建設には非常に積極的であることがわかった.欧州に対抗する ためには,戦略的な取り組みが必要となろう.

部会員の最近の成果

Y. Akimura, T. Maruyama, N. Yoshinaga, S. Chiba
(sachiba@popsvr.tokai.jaeri.go.jp)
    Molecular dynamics simulation for the baryon-quark phase
    transition at finite baryon density
    Eur. Phys. J., A25, 405 - 411 (2005).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

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