NDDニュースレター 2005年 第9号 (通巻第70号)

2005/10/11

Table of Contents

会合の報告

2005年秋の大会核データ部会総会議事録

第12回核データ部会 日時: 2005年9月13日(火) 12:00 - 13:00 場所: 八戸工業大学本館309講義室

●感謝状の贈呈 馬場部会長の開会の挨拶の後,2005年の論文賞を受賞されたサイクル機構の原 田秀郎氏と中村詔司氏,京大炉の山名元氏にが,賞金を部会に寄付されたこと に対して,感謝状が贈呈された.

●報告事項 企画担当の井頭委員より,企画セッション,合同部会に関する報告がなされ た.核データ部会に関しては,J-PARC関連の炉物理,核データ,加速器・ ビーム科学,放射線工学部会合同企画,核データ・炉物理研究に関する炉物 理,核データ部会合同企画,日韓国際セッションに関する加速器・ビーム科 学,核データ,炉物理部会合同企画と多岐にわたって活動しており,これ以 上の活性化は難しいのでは無いかとの考えが示された.また,新しい部会等 企画委員会の定員が28名から15名になり,井頭委員は当面1年間はこの委員を 引き受ける旨の報告があった.

編集担当の深堀委員より,NDD Newsletterの発行状況と記事執筆のお願いがな された.

部会賞の選考結果報告が,田原副部会長よりなされた.今年度は初めてのこと であったため,選考スケジュールが通常より1ヶ月遅くなったことが報告され た.今年度は,奨励賞に原研の國枝賢氏が選ばれ,馬場部会長から賞状と報奨 金が授与された.

井頭委員と馬場部会長から,LANL派遣事業についての報告があった.この事業 はLANLの河野氏から提案され,事業の内容を鑑みて部会の企画とするのが適切 であると判断した.今回は手続きの関係で対象を大学院生とし,九州大学の渡 邊健人氏が8月中旬から派遣されている.今後は学生だけでなく若手職員等に も対象を広げたいとの希望が出された.

7月に開かれた日韓サマースクールについて,馬場部会長より報告があった. 今年から日本原子力学会本体と韓国原子力学会の合同サマースクールと位置づ けられることになった.参加者は日本人学生約20名,韓国側学生約30名,講師 陣約30名の合計約80名であった.学生間の連絡には東工大の西山氏が活躍した との報告があった.次回は2006年8月上旬に韓国のテジョンで開催される予定 である.また,学会全体の学生交流事業運営委員会に,馬場部会長が核データ 部会代表として,深堀委員が北関東支部代表として運営委員会に参加すること になっている.

平成17年度の予算収支中間報告が,奥村委員よりなされた.現時点では,管理 費と部会賞報奨金は支出するが,国際協力事業への参加補助など他の費目につ いては,支出予定が無いことが報告された.

●審議事項 田原副部会長より部会賞について,来年は早めに案内を出す旨説明があった. また現在の選考過程が多層構造であり,他の部会についてはより単純な過程を とっていることもあり,今後の検討課題とした.

井頭委員よりサマースクールについて,あまり大きくしない,最先端だけでな く学生にも分かりやすい基本的な内容も盛り込み教育効果が上がる工夫をす る,日本側が隔年で主催するためには運営を体系化する必要があるとの指摘が あった.

2005年秋の大会「原子核物理,核データ,核反応工学セッション」のまとめ

深堀智生(原研)

八戸工業大学で行われた原子力学会秋の大会「原子核物理,核データ,核反応 工学セッション」について,報告する.あくまで私見であるので,内容の誤解 等はご容赦願いたい.

「FP崩壊熱総和計算へのTAGSエネルギー導入と新WPEC活動」(武蔵工大,C1)で は,Total Absorption Gamma-ray Spectrometer (TAGS)を崩壊熱総和計算へ補 正として利用した影響が報告された.JENDLに関しては,TAGSデータを導入す ると理論的な補正と合わせて,過剰補正となってしまう.そこで,TAGS測定の 信頼性確認を行い,TAGSデータ導入に関して,大きな影響を与える核種(La- 142-144,Ce-141,Rb-147)の抽出および今後のTAGS測定候補核種(K-89,Nb- 100,Mo-105,Rh-108,Nb-98,Tc-102)の摘出を行った.

中性子捕獲反応研究に関する報告が3件あった.「Sn-117のkeV中性子捕獲断面 積及び捕獲γ線スペクトルの測定」(東工大,C2)は,試料の入手が困難なSn- 126の代わりにSn安定同位体の系統的な捕獲断面積測定の高精度化を行うこと で,理論計算の予測精度向上を図り,この評価を行う研究の一環である.測定 結果と比較すると,JENDL-3.3は10-100 keVで約10%過小評価となっている.今 後,偶数核(Sn-116-124)を測定し,Sn-126の計算につなげる予定である. 「Li-6とB-10の冷中性子捕獲反応断面積の測定」(東工大,原研,RCNP,C3)で は,東工大の以前の測定からの外挿による評価済み核データの不一致を解決す るための測定結果が報告された.結果として得られた熱中性子捕獲断面積の値 は,Li-6で48.4±2.2 mb,B-10で286±19 mbとなっており,それぞれJENDL- 3.3の38.5mb,500 mb)からずれており,JENDL-3.3やENDF/B-VIで採用されて いない実験データを支持した.「Se-79,Pd-107核変換断面積の光核反応による 評価」(甲南大,サイクル機構,産総研,C6)は,LLFPの中性子捕獲断面積測定 には強い中性子源と試料(入手困難)が必要なので,代わりに逆反応である光中 性子断面積測定を用いて評価使用とする試みの一環の報告であった.準単色レ ーザー逆コンプトンγ線を用い,keV-MeV領域でのSe-80, Pd-108(γ,n)反応断 面積の測定を行った.

フラッシュADCを用いた測定法の改良・開発に関する報告が2件あった.「中性 子捕獲反応研究のためのフラッシュADCを用いた高性能データ収集システム開 発」(サイクル機構,C4)では,TOFのEとtの間は線形の関係ではないことを利 用して,2重のチャンネルを同時に測定することにより,時間差を利用して動 作の速いフラッシュADCで計数を行う方法の開発し,測定時間の大幅な減少 (約1/10)を図ることができた.一方,ADS研究開発では,MAの核分裂断面積 が必要であるが,JENDL-3.3,ENDF/B-VI,JEFF-3.1間での相違も大きい.これ は,α線のバックグラウンドが大きいことと試料の入手困難さに起因している. 鉛減衰スペクトロメータは中性子束が大きいので上記問題を解決できるが, 10keVまでしか測定できなかった.「デジタル信号処理を利用した鉛減速スペ クトロメータにおける測定エネルギー範囲拡張」(東北大,京大炉,C5)では, C4と同様にフラッシュADC(デジタルオシロスコープ)を用いて,鉛減速スペク トロメータの測定可能エネルギー範囲を高エネルギー側(4MeVまで)に拡張し た研究の報告が行われた.

核データ評価に使用するコード開発に関する発表が2件あった.「核データ評 価計算プログラムの開発(2)」(原研,C7)では,MA中性子核データ評価のため のプログラム開発の一環で,今回は排他的二重微分断面積の取出し及びENDF型 式ファイル出力用プログラムの開発に関する報告があった. 「中高エネルギ ー核反応における前平衡複合粒子放出モデルの比較」(九大,C8)では,d,t,h, αの前平衡過程放出の問題点を明らかにするための計算モデルの改良に関する 報告が行われた.Kalbachモデル,岩本-原田-佐藤モデル,QMD間の比較を行っ た結果,スペクトルに関してαは比較的良好であるが,d,tに問題があること が指摘された.

半導体デバイスのシングルイベント現象(SEU)に関する報告2件があった.「半 導体デバイスのシングルイベント現象解析用核反応データの検討」(九大,C9) では,多イオン同時放出過程のSEUへの影響に差は無く,エネルギースペクト ルのSEUへの影響は高集積化に伴い影響が少なくなると報告された.「70 MeV 陽子入射反応に対するSiからの二次重荷電粒子生成断面積の測定」(東北大, KEK,放医研,C10)及び「数10 MeV中性子による二次フラグメントのスペクト ル測定(2)」KEK,東北大,C11)では,測定手法の開発(Bragg Curve Spectrometer),系統的データ取得及びモデルコードとの比較に関する報告が あった.Si,Alの測定結果(30,60,90,135度のα,Li,Be,B,C,N,O放出二重微分 断面積(DDX))では,JENDL/HE,LA150,PHITSではフラグメントデータが不足 していると指摘された.

「ビーム状DT中性子を用いた荷電粒子放出二重微分断面積の測定(2)」(阪大, 原研,C12)は,LiFのLiの測定のための実験の一環として,Fの測定を行ってい る.ビーム状中性子は,バックグラウンド中性子の低減により,S/N比の向上 が期待できる.問題となるバックグラウンド陽子は,チェンバー外からの反跳 陽子,検出器表面の反跳,検出器内での陽子生成反応に起因することがわかっ た.30,50,70,90,110,130,150度におけるDDX測定結果から,JENDL-3.3より前 方性が強いことが指摘された.また,陽子DDXに関してはJENDL-3.3が過小評価 (GSへの遷移は過大評価)と指摘された.断面積はJENDL-3.3よりENDF/B-VIに 近い.

「同時計数によるベリリウムからの(n,2n)反応微分断面積の測定」(阪大,原 研,C13)では,中性子増倍反応によるトリチウム生成に寄与するブレイクアッ プ反応を2個の中性子を同時計数することにより,測定した.測定結果 (442.58±1.99 mb)には,中性子放出角度分布に前方性が見られ,JENDL-3.3 (380.73 mb)は前方性を過小評価している可能性があると報告された.しかし, 検出器間散乱の可能性もあるとの意見もあった.

中高エネルギー領域の測定3件の報告があった.「数百MeVまでの連続エネルギ ー中性子入射中性子生成二重微分断面積の測定」(九大,原研,東北大,LANL, C14)では,Feの100 MeVの測定結果が報告された.「350 MeV陽子入射による厚 いターゲットからの0度方向における中性子エネルギースペクトルの測定」(原 研,JASRI,東北大,SLAC,京大炉,清水建設,理研,RCNP,C15)は,最前方の 厚いターゲットからの中性子放出(TTY)実験はFe+p(210 MeV)のみであるため, C,Al,Fe,Pbについて測定した.MCNPX,PHITS,MARS15コードの計算結果との比較 では,コードは過小評価していると指摘された.「厚いターゲットからの生成 中性子スペクトルの測定−40 MeV重陽子によるFe,Ta(d,xn)反応−」(東北大 CYRIC,C16)では,IFMIFのための重陽子入射中性子TTYデータ測定の一環として, 0,5,15,30,60,90,110度についてのスペクトルが測定された.MCNPXの計算値は 過小評価となることが指摘された.

会合のお知らせ

RPSD 2006

14th Biennial Topical Meeting of the ANS Radiation Protection and Shielding Division

日時:April  2 -6, 2006
場所:Carlsbad, New Mexico, USA
詳細:http://www.ans-rpsw-carlsbad.com/

部会員の最近の成果

奥村啓介(okumura@mike.tokai.jaeri.go.jp),川崎憲二,森貴正
    KRITZ-2臨界実験のベンチマーク解析
    JAERI-Research 2005-018 (2005).

T. Hayakawa, T. Shizuma, T. Kajino, S. Chiba
(sachiba@popsvr.tokai.jaeri.go.jp), N. Shinohara, T. Nakagawa, T. Arima
    New s-Process Path and Its Implications for a 187Re-187Os Nucleo-
    Cosmochronometer
    Astrophys. J., 628, 533 - 540, (2005).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

● 現在の部会員数:150名 (4/22 現在)

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい.