NDDニュースレター 2005年 第6号 (通巻第67号)

2005/6/28

Table of Contents

会合の報告

Monte Carlo 2005 Topical Meeting (1)会議の印象

(清水建設)小迫和明

(原研)長家康展

標記の国際会議が2005年4月17-21日にAmerican Nuclear Society (ANS)の主催 によりテネシー州チャタヌーガで開催された.この会議は粒子輸送モンテカル ロ法に関する国際会議で,これまでのところ不定期に開催されている.筆者ら の知る限りにおいて粒子輸送モンテカルロ法に関する国際会議や国際ワーク ショップを挙げてみると次のようになる.

The NEACRP meeting of a Monte Carlo study group, Argonne, Illinois, USA, July 1-3, 1974.

The seminar-workshop on Monte Carlo Theory and Application, Oak Ridge, Tennessee, USA, April 21-23, 1980.

International Conference of Monte Carlo Methods for Neutron and Photon Transport Calculations, Budapest, Hungary, September 25-28, 1990.

Seminar on advanced Monte Carlo Computer Programs for Radiation Transport, April 27-29 1993, Saclay, France.

International Conference on Advanced Monte Carlo for Radiation Physics, Particle Transport Simulation and Applications, Lisbon, Portugal, October 23-26, 2000.

これらの会議は他の特に持ち回りで行ってきたのではなく,自発的に開催され てきたものであるが,今回の会議は2000年に行われた会議を引き継いだ会議で ある.会議の略称も2000年からMonte Carlo 2xxxと呼ばれるようになり,今後 はこの名称を引き継いでいくようになると思われる.

今回の参加者は,プロシーディングから推定(registration deskで最終参加者 リストを要求したところ,後で送ると言われたが,まだ送られてきていな い.)して,22カ国,1国際機関(CERN)から約200名で,日本からは11名の参加 者があった.発表件数については,こちらも推定したところ,約160件ほど で,当日キャンセルとなった発表も多かった.

会議は毎日Plenary Sessionが2件で,その後は4並列でTechnical Sessionが行 われた.今回の会議では,すべてがオーラルセッションで,しかも手法と応用 を織り交ぜてプログラムが組まれていたので,聞きたい話が散らばっており, 結構セッションの途中で部屋を行き来きしなければならなかった.Closing Sessionでは,このようなプログラム構成の方がよいという意見もあったが, 筆者等としてはもう少し整理されていたほうがよかったように思われた. MC2005の発表内容を総括すると以下のようになる.モンテカルロコードに関し ては,MCNP, MCNPXとGEANT4に関するものが殆どであった.新しい芽として PHITSが注目を浴びたが,それ以外のコード(MVP, MARS, PENELOPE, FLUKAな ど)は数件以下の発表に留まり,利用量の絶対的格差を痛感した.利用分野に 関しては,加速器や宇宙などの高エネルギー分野が多数を占め,線量評価や医 療分野がそれに続き,原子炉,可視化,計算手法などは少数派と言える.純粋 な核データについての発表はなかったと思う.参加者に関しては,米国が当然 多数を占めており,続いてヨーロッパ,日本,韓国,その他の順であったよう に思う.

印象に残った事柄のみ以下に列挙する.MCNP5は,陽子輸送を組み入れた開発 バージョンの紹介とペブル等を扱うための確率論的幾何形状の説明があった. GEANT4は,中高エネルギー以上で更に複数の計算モデルが導入され,改良モデ ルの提案もあるため,入力オプションの多い複雑なコードとなっている.ボク セルファントムのボクセルのサイズは,計算機資源の充実に伴い1 cmからmm オーダーに移行し詳細化が著しい.MCNPXにおけるPulse-height tallyの分散 低減法の改良はすばらしいと言える.PHITSは,重イオンまで含む統合コード としてその高い能力が示された.

初日にMCNPチームが4時間の医療物理応用のワークショップを開き,翌日の夜 はMCNPXチームがオープンハウスを行った.会議での講演内容も含めて,さな がら両コードの宣伝合戦のようでもあった.

会議は,多くの参加者が宿泊したマリオットホテルに隣接するチャタヌーガ・ コンベンションセンターで行われた.チャタヌーガの街は半分程度のビルが空 いており,非常に閑散とした雰囲気であった.また,近くに適当なレストラン もなく,近郊に有名な観光地もなかった.そのため,寂しいが会議に集中でき る開催場所であったと言える.

前に記したように粒子輸送モンテカルロに関する国際会議は10年を一区切りと して必ず節目の年には開催されてきており,次回の国際会議(MC2010)は2010 年に日本でSNA 2010 (International Conference on Supercomputing in Nuclear Applications)と共同開催する方向で調整が進められている.5年後に は,計算機と共にモンテカルロ法による粒子輸送シミュレーションも更に進歩 していると思われ,多くの方の参加を期待するところである.

Monte Carlo 2005 Topical Meeting (2)中性子輸送に関するモンテカルロ法

(原研)長家康展

会議の印象で述べたように,テクニカルセッションは4つ平行に行われたの で,すべてを聞くことはできなかった.筆者の出張目的が中性子輸送に関する 最新計算手法の調査であったので,ここでは中性子輸送に関するモンテカルロ 法の発表について概説する.

Finch(LANL)は核分裂行列法を改良したVacation Matrix Methodの報告を行っ た.この手法では核分裂行列を他のノードを出た中性子があるノードで核分裂 を起こすVacation Matrixと,体系の幾何学的非対称性を表し,統計的に変動 する非対称性の原因となる対角成分で構成された対角行列とに分解し,核分裂 行列の統計的なノイズを取り除いている.これにより,固有関数即ち核分裂源 分布の収束を加速することが可能であり,問題によっては,収束した核分裂源 分布を得るのに通常の核分裂源反復法の約1,000分の1のヒストリー数でよいこ とが示された.

Griesheimer(ミシガン大学)から関数展開タリーを用いて空間的に連続な核分 裂源分布を求める手法の報告があった.この手法では,従来の核分裂源反復に おいて必要であった核分裂の位置を保存しておく必要はなく,代わりに高次の モーメントを計算し,このモーメントから連続的な核分裂源分布を構成する. 1次元平板上の体系で行われた検証計算が報告され,従来の核分裂源反復より も速く正確な核分裂源分布を得ることができることが示された.

Kim(ソウル国立大学)は核分裂源分布の基本モードの収束判定条件について報 告を行った.通常は,核分裂領域の強度について連続した世代間の相対比があ る値以下になれば収束したとみなされるが,彼等の手法では1世代以上離れた 世代の相対比を考え,その値が相対比の2または3標準偏差以下になれば核分裂 源分布は収束したと判定する.この判定法を用いて,より正確に核分裂源分布 の収束判定ができるようになり,核分裂行列法を用いれば核分裂源分布の収束 を加速することができることを実証した.

植木(ニューメキシコ大)は情報理論を用いてアンダーサンプリング(実際に存 在する核分裂源分布から正しくサンプリングされていないこと)に対する事後 診断の方法を提案した.相対エントロピーは,アクティブサイクルの間,真の 核分裂源分布に対するShannonエントロピーと各サイクルにおける核分裂源分 布に対するShannonエントロピーの差の近傍になければならないという判定条 件を導出し,実際にWhitesidesによって提案されたkeff of the worldの問題 に適用した.1サイクル当り1000ヒストリーではこの判定条件は満たさないも のの,1サイクル当り60000ヒストリーとすればこの判定条件を満たすようにな り,この判定条件が有効であることを示した.

Richet(IRSN)は,各サイクル毎のkeff列のようなスカラー列を”bridge”と呼 ばれる列(一種の規格化されたスカラー列)に変換し,bridgeに基づく統計量 (statistic)を用いて,定常判定と核分裂源が収束するまでのサイクル数 (inactive cycle数)の決定を事後診断において行う方法を提案した.更に, 様々なbridgeに基づく統計量とinactive cycle数決定法を比較し,最も効率的 であると思われる組み合わせを選択した.実際にその組み合わせで,OECD/NEA で提案された源収束の問題に適用し,提案された手法が有効であることを示し た.

Tarasov(Russian Federation Nuclear Center)から時間依存モンテカルロコー ドTDMCCの報告があった.このコードは原子炉動特性の計算を行うことがで き,本発表ではPWRの集合体でステップ上に正の反応度を印加したときの計算 例が示された.この例でも莫大な計算時間を必要とし,今のところモンテカル ロ法による動特性計算は,現実的ではないが,計算機の性能と大規模シミュ レーション技術の向上と共に徐々に行われつつある.

Haeck(SCK・CEN)は,モンテカルロコードで反応率は計算せずに,中性子スペ クトルだけを計算し,反応率はコードの外で詳細多群(10000群のオーダー)計 算により求めることで,効率的に燃焼計算を行う手法を報告した.この手法に より,計算時間を30分の1に減らすことができるとのことであった.検証計算 としてNEA/OECD燃焼度クレジットベンチマーク問題のPhase IV-Bを解き,参照 解としたAPOLLO2の結果とよく一致することが示された.

Bowman(ORNL)からSCALEコードシステムに組み込まれたKENO V.aとKENO VIコー ドを用いた燃焼計算についての報告があった.SCALEシステムではTRITONとい うコントロールモジュールでKENO V.aまたはKENO VIとORIGEN-Sコードを結合 し,燃焼計算が行われている.ベンチマーク計算として4つのPWR炉心における 燃料集合体に対する燃焼計算を行い,決定論的手法の結果及び測定結果とよく 一致することが報告された.

Chang(INEEL)からMCWOと名付けられたBashシェルスクリプトでMCNPとORIGEN2 を結合し,燃焼計算を行う手法が報告された.MCWOでは1群の断面積と中性子 束をMCNPで計算し,それを基にORIGEN2で燃焼計算を行う.MCWOはAdvanced Test Reactorで行われたRERTR(Reduced Enrichment Research and Test Reactor)実験と兵器級MOX燃料実験の解析に用いられ,MCWOで計算された燃焼 度は測定された燃焼度とよく一致することが示された.

Artemyeva(Russian Federation Nuclear Center)はTDMCCコードを用いた燃焼 計算パッケージについて報告した.TDMCCはRussian Federation Nuclear Centerで開発されたC-95モンテカルロコードを基に開発された時間依存モンテ カルロコードで,その定常計算パッケージを用いた反応率計算と燃焼パッケー ジによる核種の崩壊計算を繰り返す方法で燃焼計算を行っている.

部会員の最近の成果

H. Wu, K. Okumura (okumura@mike.tokai.jaeri.go.jp), K. Shibata
    Proposal of New 235U Nuclear Data to Improve keff Biases on 235U
    Enrichment and Temperature for Low Enriched Uranium Fueled Lattices
    Moderated by Light Water
    JAERI-Research 2005-013 (2005).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:150名 (4/22 現在)

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい.