NDDニュースレター 2005年 第1号 (通巻第62号)

2005/1/17

Table of Contents

トピックス

TALYS ver.0.64 リリース

(LANL)河野俊彦

昨年末,A.KoningらによるTALYSコードがリリースされた.このコードはGNASH やEMPIREのように核反応断面積を計算するもので,前平衡過程にexiton model, 複合核過程には揺らぎの補正が入ったHauser-Feshbach理論を使って,1keVか ら200MeVの領域の核反応断面積を計算する.特に核反応模型パラメータが未知 の反応についても,システマティックス等を用いることで,それなりに断面積 計算ができるのが特徴である.

TALYSの入力は非常に簡潔に出来て,最小限のinputとしては,入射粒子の種類 とエネルギー,それに標的核を与えるのみである.これでENDFフォーマットの 断面積が出力される.もちろん計算を細かく調整することは可能で,核データ 評価の強力なツールとなりうるものである.

TALYSはGNU General Public Licenseのもので配布され,コピーは自由である. ただし,ユーザを掌握をしておきたいために,配布した場合はKoningらに知ら せて欲しいとのことである.その他の配布条件等はマニュアルを参照のこと.

なお,300ページにおよぶマニュアルは,核データに関連した核反応理論を網 羅しており,これだけで核反応理論の教科書となりうるほどのものである.核 データ評価者のみならず,核実験をする人にとっても必携の書と言える.印刷 されたマニュアルはNRGから配布されているが,TALYSのdistributionの中にも PDFとPSのマニュアルが含まれている.

会合の報告

韓国原子力学会秋の会合 韓国-日本合同セッション報告

(東北大) 馬場護 (エンジニアリング開発(株))田原義壽

1.はじめに

韓国原子力学会が9月28日、29日の両日に渡ってスキーリゾート地ヨンピョンで 行われ,29日に日本原子力学会との合同セッションとして午前に核データ・炉 物理、午後に加速器/ビーム科学・核データの発表が行われた.

2.核データ・炉物理合同セッション

炉物理・核データ合同セッションでは、両国から各4件の発表があった.日本側 からは,まず、佐治氏[(株)テプコシステムズ]から炉物理研究委員会の下に実 施された「軽水炉次世代燃料の炉物理」ワーキングパーティによるUO2とMOX燃 料を用いた70GWd/tを目指したピンセル,PWR/BWR燃料集合体ベンチマーク計算 に関する活動が報告された.大岡氏[東工大]からは、CANDL燃焼方式の高温ガス 炉への適用結果が示された.燃焼シミュレーション計算により,今まで行われ た定常(平衡)炉心解析の妥当性が確認され,初期炉心から平衡炉心に至るま での最大反応度変化は1.7%あることが示された.岩永氏[東工大]からは、一点 近似動特性方程式の中に含まれる微分項の取り扱いを検討した結果,遅発中性 子先行核の微分項を無視する効果は大きく,その誤差は臨界に近いほど大きく なることが示され,モンテカルロ法で過渡シミュレーションを行う場合は遅発 中性子の取り扱いが重要であるとの指摘がなされた.田原[エンジニアリング 開発(株)]は、米国のPre-VII核データを用いると低濃縮度燃料の実効増倍率の 過少評価が大幅に改善されること,低エネルギー共鳴領域を詳細多群化した 210群のエネルギー構造と解析的スペクトルを用いてNJOYにより核データを処 理した場合、実効増倍率は連続エネルギーモンテカルロ計算に対し濃縮度やVm/ Vfに対する依存性がなく良好な結果を与えることを示した.

韓国側からは、B.S.Han氏[ソウル大学]より、グラファイト反射体付き核融合ブ ランケットがトリチウム増殖および中性子遮蔽の観点から有効であることが示 された.ブランケットは反射体により,2領域に分割されており,増殖比は 1.33が得られている.N.Z.Cho教授(KAIST)からは、中性子輸送計算法の一つ であるCharacteristics法に対し角度依存粗メッシュ・リバランス加速法を適用 した結果について説明があった.ベンチマーク計算の結果,繰り返し計算回数 で7〜37倍,計算時間は3.5倍〜11.5倍早くなった.J.Y.Cho氏[KAERI]からは、 粗メッシュ差分法に基づくCharacteristics法を用いた動特性コードの紹介が あり,制御棒飛び出し事象に対し他コードとの比較からその妥当性が示された. Y.D.Lee氏[KAERI]からは、ENDF/B-VII用にBNLと共同で行っている95Mo,99Tc, 101Ru,103Rh,109Ag,149-152Sm,155,157Gdなど19核種の核分裂生成物について の評価が述べられた.

3.加速器/ビーム科学・核データ合同セッション

このセッションでは,日本韓国から各5件の発表があった.最初は電子加速器 に関する話題であり,上坂氏[東京大学]からはXバンドリニアックと逆コンプ トン散乱を用いた硬X線装置開発の報告があった.これは医療用CT装置のX線 源を小型加速器で実現することを目的としたもので,放医研が纏め役となって いる医療用小型加速器プロジェクトの一環である.韓国からはSuk氏[KERI]か ら「レーザー・プラズマ相互作用による電子ビーム生成」の話があった.これ はTW程度の大強度レーザーを用いることにより,1ps以下の短パルスで1 MeV以 上の大電流ビームを作るというもので,医療始め様々な応用が期待される.続 いて峰原氏[JAERI]から,フェムト秒kWクラスの自由電子レーザーの開発とそ れを用いた原子炉圧力容器などの応力腐食割れ(SCC)の除去法が,B.C.Lee氏 [KAERI]から自由電子レーザーと電子ビーム源の開発について報告された.

次に,加速器を用いた材料の照射損傷の研究について,寺沢氏[兵庫県立大学 (光州滞在中)]から,様々な重イオンビームを用いた損傷の解析及びイオン ビームを用いた材料の改質等について,またS.C.Kwon氏[KAERI]から韓国にお ける重イオンビーム(KIGAMのタンデム加速器による)と1.2MV電子顕微鏡を用 いた損傷研究について報告があった.

核データについては,馬場[東北大]がJENDL 高エネルギー ファイルの現状と 核データの核設計に与えるインパクトとして硼素中性子捕捉療法(BNCT)用中 性子場の設計への影響について,Y. O. Lee[KAERI] が空気の放射化などを例 に加速器の遮蔽・安全設計に必要な核データとその評価の進展について報告し た.

最後は中性子に関するもので,鬼柳氏[北大]が中性子の磁気モーメントを利用 した中性子レンズの設計について報告し,実用的なレベルで収束などのコント ロールが可能なことを示して注目を集めた.またC.H.Lee氏[KAERI]がHANARO炉 における位置敏感検出器および中性子ミラーなど中性子スペクトロメータ開発 について報告した.

4.今後と今回の反省

合同セッション終了後,セッション参加者を中心に反省と今後の進め方を議論 した結果,基本的に今後も継続する,件数を減らして発表時間を延ばすことを 検討する,若手の参加を促す,次回は来年秋に青森(八戸工大)で開催する, サマ−スクールも日本での開催に向けて前向きに対応することになった.

なお,今回は韓国側から日時場所,内容がなかなかスムースに伝わってこなか ったため,参加者の募集も遅れてしまい,結局部会長,副部会長が参加するこ とになった.合同セッションでは,韓国の原子力事情や研究内容とその進展, また,人的交流も図ることができ,有益であったと感じている.次回は、日本 での開催となるので、日本側の体制を整えて早めに韓国側と折衝して幅広く参 加者を募集したい.

会合の案内

日本原子力学会2005年春の年会

     会期:平成17年3月29日(火)〜31日(木)
会場:東海大学湘南校舎 http://www.pr.tokai.ac.jp/japan/access/shou.html

●3月31日(木) 13:00-16:15 原子核反応・核データ・核反応工学(L会場)

13:00-14:00 チャンネル結合法及び核分裂に関する理論(座長:河野俊彦(LANL))
(原研)千葉 敏,他
(原研)岩本 修
(近大)大澤 孝明,他
(サイクル機構)太田 雅之,他

14:00-15:00 二次粒子スペクトルの測定(座長:千葉敏(原研))
(東北大)萩原 雅之,他
(東北大)糸賀 俊朗,他
(KEK)  佐波 俊哉,他
(阪大) 近藤 恵太郎,他

15:00-16:15 中性子捕獲反応(座長:水本元治(原研))
(東工大) 大釜 和也,他
(東工大) 田中 雄也,他
(東工大) 池田 大祐,他
(サイクル機構) 坂根 仁,他
(サイクル機構) A. Laptev,他

●3月30日(水) (G会場)

12:00-13:00 炉物理部会総会
13:00-15:00 核データ・炉物理合同会合

●3月31日(木) (L会場)

12:00-13:00 核データ部会総会
13:00-16:15 原子核反応・核データ・核反応工学

部会員の最近の成果

M. Sugawara, A. Goto, M. Ohshima, H. Harada (harada@tokai.jnc.go.jp),
K. Furutaka, M. Igashira, T. Ohsaki, M. Mizumoto, A. Cho, M. Koizumi,
Y. Toh, Y. Nagai, K. Kawade
    Design of a Compact 4pi Ge Spectrometer for the Measurement of
    Neutron Capture Cross Sections of Minor Actinides
    J. Nucl. Sci. Technol., 41 (12), 1129 - 1137 (2004).

T. Matsumoto, E. Hiyama, K. Ogata, Y. Iseri, M. Kamimura, S. Chiba
(sachiba@popsvr.tokai.jaeri.go.jp), M. Yahiro
    Continuum-discretized coupled-channels method for four-body
    nuclear breakup in 6He+12C scattering
    Phys. Rev., C70, 061601(R), 5 pages (2005).

T. Tanigawa, M. Matsuzaki, S. Chiba (sachiba@popsvr.tokai.jaeri.go.jp)
    1S0 proton superfluidity in neutron star matter: Impact of bulk
    properties
    Phys. Rev., C70, 065801, 7 pages (2005).

奥村啓介(okumura@mike.tokai.jaeri.go.jp),大木繁夫,山本宗也,松本英樹,
安藤良平,辻本和文,笠原昭博,片倉純一,松村哲夫,青山卓史,青山肇男,
金子俊幸,小坂進矢,須山賢也,内藤俶孝
    JENDLによる核種生成量予測精度の検討
    JAERI-Research 2004-025 (2005).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:148名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい.