NDDニュースレター 2004年 第12号 (通巻第61号)

2004/11/29

Table of Contents

トピックス

ドゥブナでの活動報告

(九大) 魚住裕介

私達のグループはこれまで,主に大阪大学核物理センターにおいて300および 400MeVで荷電粒子データの測定を続けてきました.今年,エネルギー領域を 600MeVまで拡張する目的で,ロシアのJoint Institute for Nuclear Research (JINR)において実験を開始しました.ここでは,共同研究の相手であるJINRの 紹介を中心に簡単な報告をします.

JINRについてはご存知の方も多いと思いますが,若手の方には馴染み薄かもし れませんので,まずはJINRについて簡単な紹介をします.JINRはモスクワ北方 約100kmに位置する小さな町Dubnaに1940年代に原子力の研究所として建設され ました.JINRは現在7つのLaboratoryから構成されていることは広く知られて いますが,これらと同格のCenterがひとつ存在することは余り知られていませ ん.これは現センター長であるV. Samoilov教授がResearch Center of Applied Physicsとして自ら設立し,今年2月に創立10周年を迎えた新しい組織 です.センターは独立採算制となっており,他の組織より自由な活動が許され ているそうです.

今回の私達の実験は,私とSamoilov教授との共同研究という形でスタートしま した.さらに,Laboratory of Nuclear Problem (LNP)も共同研究に参加して, 検出器や回路などはLNPの9つのScientific Divisionの内からDivision of Intermediate-energy Nuclear Physics (DINP)が,ビームは同じくPhasotron Accelerator Divisionがそれぞれ担当しました.DINPには100人程度の scientistが所属し,5つのsector に分かれて活動しているそうです. Phasotron加速器は1949年に建設された,陽子680 MeVのサイクロトロンです. 半世紀以上が経っている装置ですがきちんと働いており,現在では陽子線がん 治療に高い頻度で使用されています.

今回の実験は初めてだったのですが,予想した以上に大変なものでした.特に 9月のテロ事件の後,ロシア国外からの物品持込に対する規制が強化されたた め,検出器や回路類の受け取りが大幅に遅れ結局実験開始の数日前になってし まいました.また,準備の段階では例えばコネクタ形状が微妙に国際規格と違 うなど,日本での実験では全く問題にならない事で時間を費やすことになりま した.更に,がん治療の照射計画が前倒しになったため私達のビームタイムが 短くなってしまうなど,混乱の連続でした.

現在,私達は持ち帰ったデータの解析を進めています.一方,ビームに起因す るバックグランドが高かったため,JINRではその原因の究明に向けて活動を 行っています.来年は,更にスイスのPaul Scherrer Instituteからも実験に 参加して,共同研究の体制を更に拡大強化していく予定です.

会合の報告

「軽核標準断面積の改良」に関するIAEA CRP Meeting

(LANL) 河野 俊彦

10月18日〜22日,オーストリア・ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部にて, 軽核の標準断面積の改良に関する会合が開かれた.今回はこのプロジェクトの 最後の会議であり,標準断面積評価値の最終値を決定する.これらの評価値は ENDF/B-VIIにも採用される予定である.

断面積測定に用いられる標準断面積としてはH,He3,Li,C,Bの断面積があり,こ れらはR-matrixを用いて評価されている.このプロジェクトでは,評価に採用 する実験データの再検討を行い,必要であればそれらを再規格化した後, R-matrixの解析を行う.例えば,今回の再評価では水素の断面積が少し修正さ れている.非常に多くの実験データが水素の断面積の比として得られている が,それらの実験データは全て修正されることになる.

R-matrixの評価は,LANLのEDAと,清華大学のChen氏によるRACコードの計算を 比較することで行われた.実験データ共分散の扱い方が違うため,完全に一致 する結果は得られなかったが,これはコード間の差であるので避けようが無い.

UやPuの核分裂断面積測定の中には軽核断面積との比として与えられているも のがあるので,ここで得られた軽核断面積に基づいて重核断面積の評価を行う ことも,このCRPのスコープの一つである.この評価にはGMA改良版のGMAPコー ドが用いられた.またJENDL-3.3の評価に用いたSOKコードを用いて結果を比較 した.最小自乗法においてPPPと呼ばれる「変な」現象が起こる事が知られて いるが,このGMAPのPは PPP-free の意味である.SOKを用いた比較計算は,結 果がPPP問題に左右されないことを示している.

PPPに関しては長らく忘れられていた感もあるが,今回のCRPにて再び注目され た.KAERIのOh氏はMonte Carloを用いてPPPが起こり得る状況を考察している.

まだ少し作業は残るものの,今回の会合でほぼ最終結果が出された.しかしな がら,断面積共分散の評価が残されており,それまではWPEC等の枠組の中で活 動が続けられる予定である.

部会員の最近の成果

S. Yonai, T. Itoga, M. Baba (babam@cyric.tohoku.ac.jp), T. Nakamura,
H. Yokobori, Y. Tahara
    Benchmark experiments for cyclotron-based neutron source for BNCT
Appl. Radiat. Isot., 61 (5), 1142 - 1151 (2004).

K. Furutaka, H. Harada (harada@tokai.jnc.go.jp), S. Raman
    Prompt Gamma Rays Emitted in Thermal-neutron Capture Reaction by
99Tc and Its Reaction Cross Section
J. Nucl. Sci. Technol., 41 (11), 1033 - 1046 (2004).

S. Kunieda (kuni@meteor.nucl.kyushu-u.ac.jp), N. Shigyo, K. Ishibashi,
    Nuclear Data Evaluations on Zirconium, Niobium and Tungsten for
Neutron and Proton Incidence up to 200 MeV
J. Nucl. Sci. Technol., 41 (11), 1047 - 1058 (2004).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:148名

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