NDDニュースレター 2004年 第8号 (通巻第57号)

2004/8/18

Table of Contents

トピックス

韓国訪問記

(日本原子力研究所 核データセンター) 深堀 智生

韓国では, 多目的陽子加速器施設(KOMAC)計画(現在, 陽子工学フロンティア計画 (PEFP)と呼ばれている)予算が一部認可され, 韓国原子力研究所(KAERI)で要素技 術開発および施設遮蔽設計が進行中である. しかしながら, 韓国においてはこれ まで大強度陽子加速器施設を建設した経験がなく, 陽子加速器遮蔽を専門とする 研究者もいなかった. そこで, KAERIの遮蔽設計チームリーダーのY.-O. Lee氏の 招聘に応じ, 大強度陽子加速器施設放射線安全に係わる高エネルギー核データに ついて, その評価方法, 格納方法, 品質保証の方策, ベンチマークテスト結果等 の解説を行うと共に, PEFPにかかわる放射線安全一般, 遮蔽設計およびその手法 のための核データ利用について討論するために, KAERIおよびポーハン工科大学 加速器研究所(Pohang Accelerator Laboratory, PAL)を訪問した.

KAERIのB.Y. Choi氏の率いるPEFPグループでは, 大強度陽子加速器を中心とした 多目的施設の建設を行っている. 1998年に50 keVのイオン源, 2002年に3 MeVのR FQ加速器が完成し, 現在2010-2012年の完成を目指して100 MeV線形加速器の製作 が行われている. 完成すれば, 100 MeV, 20 mAの陽子ビームを使って, 機能材料 開発, 宇宙空間における放射線挙動研究, 高速切替半導体開発等に利用できる次 世代ビーム施設になるとのことである.この施設のための, 放射線遮蔽設計およ び基礎データとしての高エネルギー核データ利用方法の開発が急務であるとのこ とである.

KAERIの核データ評価研究室(NDEL, J. Chang室長)では, 核データ評価のための 研究, 評価済核データからの群定数作成等の核データ処理の研究, 前2者のため の計算機環境の整備支援を行っている. 評価グループは独自の核データ評価研究 を行い, 核分裂生成物(FP)の中性子核データ, 光核反応データファイルおよび高 エネルギー核データファイルの整備を積極的に開始している. また, 炉心内計装 のためのγ線生成データの取得やトリウムサイクル研究のための核データに興味 を持っている. PEFP遮蔽設計チームリーダーのY.-O. Lee氏もこの研究室の一員 である. KAERIでは種々の核データ活動が行われているが, PEFPの遮蔽設計のよ うな具体的な目的を持った計画に対する核データの利用の経験は少なかった. 特 に,PEFPではJENDL高エネルギー核データファイルを積極的に利用したいとのこと であったので,JENDL高エネルギーファイル(JENDL/HE)の現状について, 評価方法, 格納方法, 品質保証の方策, ベンチマークテスト結果等に関し意見交換等を行 った.

PALの大型放射光施設は, 1994年に完成し, 現在では, 2.0-2.5 GeV, ピーク電流 2 Aの電子ビームを用いたシンクロトロン光源であり, 半導体工学, 材料工学, 生物学, 医学に関するX線解析をはじめとする多くの分野に利用されている. 近 年, 日本の大学・研究機関の利用も活発になってきているそうだ.

KAERIおよびPAL訪問を通して, 韓国で現在稼動している, または近い将来利用さ れる高エネルギー加速器施設を通して, 核データに関する利用経験等について情 報交換を行い, 利用者ニーズに関する情報が得られたので, 高エネルギー核デー タの普及のための参考となった.将来的に, KAERIと協力を進めることは, 日韓双 方の核データ活動に関するポテンシャルを維持・向上するためにも必須であるこ とを感じた.

会合の報告

IAEA/CRP「RIPL-3」第1回研究調整会合報告

(日本原子力研究所 核データセンター) 深堀 智生

IAEA協力研究計画(CRP)「非エネルギー原子力利用分野のための核反応計算用パ ラメータ(Reference Input Nuclear Model Parameter Library, Version 3, RIP L-3)」第1回研究調整会合がウィーン国際原子力機関(IAEA)本部にて6月23-25日 に開催された. 本CRPは, 核データの理論計算に必要な, 原子核質量, 変形, 核 構造やその崩壊形式等核反応計算に必要な入力パラメータを格納した標準入力パ ラメータライブラリーを革新炉利用や非エネルギー分野へ拡張するために組織さ れたものである. 本CRP作業に関して2004-2007年の3年間に, これまでのCRPで作 成されたRIPL(RIPL-2)のテスト及び拡張(RIPL-3), RIPL-3に対応したWWW用検索 ツール等の開発, 本CRPの最終報告書として作成されIAEA-TECDOCとして公開され るハンドブックの執筆等の協力を予定している. 第1回研究調整会合では上記作 業に関する参加各国の作業分担及び詳細な作業計画が議論・決定された. 参加者 は, 事務局のR.Capote Noy(IAEA/NDS)をはじめ, S. Griely(ブリュッセル大学宇 宙物理研究所, ベルギー),Y. Han(中国原子能研究院, CIAE, 中国), G.M. Herna ndez(原子力開発応用研究センター,キューバ), M. Avrigeanu(物理・原子力工学 研究所, ルーマニア), V. Plujko(国立Taras Shevchenko大学, ウクライナ), P. Talou(ロスアラモス国立研究所, LANL, 米国), M.Herman(ブルックヘブン国立研 究所, BNL, 米国), S. Hilaire(CEA, Bruyeres-le-Chatel,フランス), A. Konin g(NRG, Petten, オランダ)および筆者である.

RIPL-3の主目標は, 「正確に定義され, 文書化された手順でメンテナンスおよび 改訂を行うことができるRIPLを作成する」であることを確認した. これは, 品質 保証にもつながる.RIPLの検証を行うために, EMPIRE, TALYS, GNASH, UNF等の コードを用いて, 周期律表の大部分に対する核反応の大規模計算を行い, 最新の 実験データ(HINDAS, n-TOF等)と比較する. これらにより, (少なくともOMP, 準 位密度パラメータ(LDP)核分裂障壁, γ線強度関数について)RIPLの誤差データ推 定または可動範囲を与える. パラメータの誤差に関しては, 相関係数は必須では なく, 誤差データを提供する方向で検討する. LDPの誤差は, その元となったD0 の誤差(誤差の最小値)で代用できる. GC, BSFG, GSFMそれぞれの”a”パラメー タに関する誤差をTauro, Gorielyが検討する. OMPに関しては Koning(現象論的O MP)および Helaire(微視的OMP)が, GDRに関してはPlujkoが, 核分裂障壁に関し てはGorielyが, それぞれ検討する.また, できるだけ多くのパラメータを格納す べく, 努力する(完全性).

今回は第1回研究調整会合であるので, 特に結果が得られたわけではないが, RI PLの完全性と品質保証が本CRPの目標であることが確認され, 完成の暁には核 データ評価者に対して有用なデータベースになることが期待できる.

日韓サマースクールに参加して

(九州大学大学院工学府エネルギー量子工学専攻) 寺尾憲親

韓国の浦項にあるPohang Accelerator Laboratory(PAL)で開催された加速器に 関する日韓セミナーと核データに関するワークショップに参加してきました。 これは加速器の先端利用とその基礎となる放射線工学,核データ,炉物理の内 容を基礎から先端まで講義とセミナーで勉強しようという試みることを目的と していました。我々は当初5日間このセミナーに参加する予定でしたが、台風 10号の影響で帰国日が遅れることを懸念し、帰国日を繰り上げ4日間のみ参加 しました。

セミナーの初日は、加速器に関する基礎的な話に始まり、現在進行している加 速器計画の話まで加速器に関する多くの内容を聞くことができました。二日目 は、加速器駆動システム(ADS)やモンテカルロ計算等について基礎から学ぶこ とができました。内容が高度のものになるとあまり理解はできませんでした が。セミナーの後に、PALの加速器施設の中を見学することもできました。三 日目は、飛行時間法(TOF)に関する実験に参加しました。今回参加した学生の 多くが参加したので、実際にPALで行われている実験のやり方を見せてもらう というものでした。四日目は、核データに関するセミナーでした。核データの 必要性についての講義から理論モデルや実験に関するものまで、多くのことを 学ぶことができました。4日間のみの参加でしたが、それでも数多くのことを 学ぶことができたと思います。

二日目と三日目の夕食後に学生セッションがありました。学生セッションで は、今回のセミナーに参加した日本と韓国の学生の自己紹介と、それぞれが属 する研究室の紹介や研究内容紹介のポスター発表が行われました。自己紹介で は、日本と韓国、そしてバングラディシュの地域や文化の違いと多くの共通点 を見つけることができました。また、ポスター発表では、(当然のことですが) 今回のセミナーで勉強した内容についての研究が多く見受けられたので、講義 の復習と予習を行うことができました。学生セッションを通じてセミナーに参 加された日韓の学生との社会的、学術的な交流を行うことができたので、非常 に有意義な時間を過ごすことができたと思います。

核データ部会からのお知らせ

核データ部会総会におけるお弁当の予約

核データ部会総会が、秋の大会(9月16日,12〜13時,B会場)で開催さ れます。下記の様に核データ部会総会におけるお弁当の予約を受け付けますので ご希望の方は庶務担当の原田氏harada@tokai.jnc.go.jpまで御連絡ください。

代金 500円
内容 お弁当(みそ汁付)
お弁当注文の受付は9月2日(木)夕刻までにお願いします。

部会員の最近の成果

T. Shimizu, H. Sakane, S. Furuichi, M. Shibata,
K. Kawade (a40590a@nucc.cc.nagoya-u.ac.jp) and H. Takeuchi
   An improved pneumatic sample transport system for measurement of
   activation cross-sections with d-D neutrons in the energy range
   between 2.1 and 3.1 MeV
   Nucl. Instrum. Meth., A527, 543 - 553 (2004).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.