NDDニュースレター 2004年 第2号 (通巻第51号)

2004/2/19

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トピックス

平成15年度日本原子力学会賞受賞

第36回日本原子力学会賞として,小林捷平氏(京大炉)が学術業績賞・特賞,ま た柴田恵一氏(原研)らが論文賞を受賞いたしました.贈呈式は,2004年春の年 会の初日(3月29日)に岡山大学にて開催される予定です.

http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/news/2003awards.htm

小林先生ご受賞に際して

(原研) 長谷川 明

京大炉小林捷平先生におかれましては,日本原子力学会から,平成15年度の学 術業績賞とそれに付加する特賞を受賞されることが決定しました.まことにお めでたい事でございます.

学術業績賞は「原子力平和利用に関する学術及び技術上の分野で,長年あるい はまとまった優れた業績をあげた個人を対象とする」ということからも明らか なように,先生の長年のマイナーアクチニドや超寿命FPの核データの測定につ いての真摯かつ息の長い業績に対して受賞されるにふさわしい賞であります. さらにそれに付け加えうるに,特賞を付加された選定委員会の見識の高さには, 一礼するものがあります.

これまで,先生のデータには,JENDLは大変お世話になっております.例えば, FP核種の捕獲断面積の測定データからは,JENDLの評価において,理論計算モ デルのパラメータ(ガンマ線強度関数)を調整し,それらの断面積を再現する ように評価値を定めていますし,重核の熱中性子断面積,Np237,Am241, Am243 等の主要なマイナーアクチニドの熱中性子断面積や共鳴積分値では,そ の測定値を再現するように,共鳴パラメータの調整を行ったりしています.鉛 減速スペクトロメータによる測定では,主にマイナーアクチニド核種に対して, 核分裂断面積や捕獲断面積が測定されたわけですが,その結果はJENDLの共鳴 パラメータの改訂や検証に役立っております.申すまでもなく,核データの測 定で先生のお得意としているこのエネルギー領域では,核データの理論計算は まだ歯が立ちません.核データ評価は精度良い測定データがないと前へ進みま せん.UやPuといったメジャーアクチニド核種では,いまや1%の精度での断面 積の問題をまじめに議論しているグループもあります.日本の評価済みデータ JENDLを整備してきた核データセンターにとって,先生のとられてきたマイナー アクチニドや超寿命FP等の断面積データは常に気になるデータであり続けまし た.先生のデータともどもJENDLも発展を遂げてきたともいえます.

先生のデータは,本質性,独創性,有用性,波及効果どれをとりましても当て はまるのではないかと思います.さらに賞の評価にあたっては,「原子力の平 和利用の観点から寄与度の高い学術及び技術上のある分野の課題について,そ の解決のために適切なプロセスによる努力を重ね,高い成果を上げた事を評価. 特に学術的な成果を重視」とうたわれておりますが,まさにぴったりの賞と思 います.これはまた,日ごろほめられる事の余りない核データコミュニティに とりましてまことに喜ばしい事であると認識しております.先生におかれまし ては,今後とも研究をお続けになり,更なる核データの発展,ひいては原子力 の発展のために,ますますご活躍いただけるものと期待しております.

不安定核における核反応,および代理反応の手法

(LANL) 河野 俊彦

「代理反応」とは耳慣れない言葉だが,これは"surrogate reaction"というも のを直訳したものである.標的核が短寿命の不安定核の場合,核反応断面積を 測定するのは非常に困難である.そこで,同じ複合核を生成する逆反応チャン ネルを考え,この測定値を理論計算で補正することで,断面積を推定しようと 試みる.このような考え方は昔からあるが,LLNLではこの手法を今後積極的に 推進するため,考えられる技術的・理論的問題点についての会合が1月12〜15 日にCaliforniaのAsilomarで開催された.

主にアメリカの大学・研究所からの出席者がほとんどではあったが,内容が 天体核に関係が深く,ヨーロッパからの出席者も見受けられた.全部で50人 程度のworkshopである.

会議のトピックスは以下に示すとおり,tutorial的なものから,実際に代理反 応を用いた実験と解析の紹介まで,広範囲にわたる.

   原子核反応:統計模型,直接反応の概要
   代理反応を用いる意義について:天体核,radioactive beam
   代理反応の手法:測定技術と理論解析
   実験データと理論の詳細:

反応としてはHe3やαのような荷電粒子反応を用い,それを中性子反応に焼き 直すことが考えられているようである.その場合に形成される複合核のスピン の分布や求めたいエネルギーのミスマッチ等の問題があり,これらをどのよう に理論で補正するかが会合の一つの焦点であった.前平衡過程でのスピン分布 の重要性など,筆者の興味をそそる話題が多かった.

開催地であるAsilomarは,有名なMontereyの先端にあり,海と松葉林の美しい ところである.1月とは思えない温暖な気候で,毎日,海岸沿いの散歩を楽し むことができた.会場となったのはAsilomar Conference Groundsと呼ばれる 宿泊・食事・会議が一箇所に集められたような場所で,雰囲気的には林間学校 である.宿泊施設にはテレビも電話もなく,娯楽は卓球とビリヤードのみだっ たので,気分はキャンピングである.

部会員の最近の成果

T. Aoki, M. Baba (babam@cyric.tohoku.ac.jp), S. Yonai, N. Kawata,
M. Hagiwara, T. Miura and T. Nakamura
   Measurment of differential thick-target neutron yields
   of C, Al, Ta, W(p,xn) reactions for 50-MeV protons
   Nucl. Sci. Eng., 146, 200 (2004).

K. Kobayashi (koba@rri.kyoto-u.ac.jp), S. Lee, S. Yamamoto and
T. Kawano
   Neutron cpture cross-section measurement of ^99^Tc by linac
   time-of-flight method and the resonance analysis
   Nucl. Sci. Eng., 146, 209 (2004).

O. Iwamoto (iwamoto@bisha.tokai.jaeri.go.jp)
   Program CCOM -- Coupled-Channels Optical Model Calculation
   with Automatic Parameter Search --
   JAERI-Data/Code 2003-020.

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:140名

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