NDDニュースレター 2004年 第1号 (通巻第50号)

2004/2/6

Table of Contents

お知らせ

核データづくりに思う

核データ部会長 (京大) 小林 捷平

核データ研究は,原子力研究の開始と共にスタートし,以降半世紀にもわたっ て続けられてきたものの,未だに究明すべき課題は少なくない.これまでの研 究によって,核データは殆んど整備されたとの見方もあるようだが,EXFORデー タファイル等に見られる実測データの現状から,核種,核反応,エネルギー領 域,角度分布など1つ1つのデータを取ってみると,特に,TRU/マイナーアク チニド(MA)及び長寿命核分裂生成物(LLFP)関連核種について,核データの 整備がなお必要とされることが分かる.実測データに基づいて整備される評価 済核データにおいては,特に実測データが欠落している核種・反応において評 価済核データ間に著しい差異が見られることが多く,新たな実験データと共に, 評価済核データの見直しも必要とされるところである.

世界的に見ても今日,核データ実験のactivityは残念ながら1970〜1980年代に 比べて低いと言わざるを得ない.それには諸事情もあることと思われるが,新 たな原子力利用,革新的な原子力施設の研究開発推進に際し(最近では,原子 力分野以外においても核データの必要性が高まってきているが),核データの 現状から見て,特にTRU/MA,LLFP関連核種の核データ整備は,核的熱的評価お よび安全性,経済性評価において欠かすことができない.こうしたneedsに応え 得る信頼度の高い核データ(実験値のみならず評価済核データ)が求められる.

我が国においては,大学,原研,サイクル機構を中心とした研究機関を中心に, 地道な核データ実験研究が続けられてきており,評価済核データにおいても一 昨年JENDL-3.3が公開されるなど,今や核データ研究活動においては世界をリー ドするまでに至っている.ここで言うまでもないことであるが,実験を行えば データが取れる,計算機を走らせば評価値が求まると言う安易な「核データづ くり」は慎まなければならない.質の悪いデータは核データ全体の信頼性を低 め,何よりも評価者やユーザから見放されるからである.核データ実験や評価 を一種の「ものづくり」と見た場合,ユーザに信頼され,利用されるデータで なければならない.ユーザに利用されてこそ核データの存在感が生まれるもの ではないだろうか.そこには,核データにおいても,いわゆる「品質保証」が 求められる時代になってきたと言える.その意味において,実験者は質の高い 実測値の取得に努めると共に,評価者からも実験誤差とその詳細検討の結果が 求められることになる.また,評価者においては,実験データの精査によって 信頼度の高い評価値を導出することに期待がかかる.さらに,もう一歩踏み込 んで「利用される核データづくり」には,ユーザにとって直ぐにも利用できる 形での核データの提供が重要ではないだろうか.今後は,単に実験と評価を行 うのみに留まることなく,信頼のおける核データを整備し,核データとしてポ イント毎の数値,群定数,図表など,ユーザのneedsに応え得るサービスの提供 にも心掛けていく必要があるのではないだろうか?

会合の報告

CSEWG報告

(原研) 深堀 智生

CSEWG会合が2003年11月4-6日,米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)で,約40名 の参加で開催された.CSEWG会合の一部は,米国核データプログラム(USNDP)会 合(11月6,7日)と共催で行われ,引き続き同会合が行われたので,両会合に参加 することができた.

ENDF/B-VIIに対するフォーマットの提案に関しては,N.M. Larson (ORNL)が, 分離共鳴パラメータに対する共分散行列のコンパクト・フォーマットについて の提案を行った.更に,最大2チャンネルの核分裂,荷電粒子放出や非弾性散乱 に対応したチャンネルの定義を含むR-行列限定のフォーマットを提案した.こ れらは,毎年処理コードの動向を見ながら,今年は中間的なフォーマットとし て採択することになった.A. Trkov(IAEA/NDS)は,OECD/NEA評価国際協力ワー キング・パーティー(WPEC)からのフォーマット提案を行った.これらの一部は 採択された.この他,マニュアル中の訂正要求に関しては,HermanにMSWordフ ァイルで送ればいいことがアナウンスされた.

核データ処理コード関連では,LANLのNJOY(R.E. MacFarlane)に関しては,多群 断面積の処理を改定し,Larsonの提案について作業した.FORTRAN 77から90(95) への移行にまだ問題があるようだ.ORNLのAMPX(M.E. Dunn)を用いて,KENO V.a 用に50核種のENDF/B-VI.7多群断面積の処理を行った.LLNLのENDL処理コード (D.P. McNabb)に関しては,ENDF/B-VIからENDLへFETEコードを用いて翻訳し, ENDF/B-VI中D,Bi-209,Pa-233,Np-237,Bk-249,N-14,U-233のバグの修正を 行った.報告書はhttp://www.nndc.bnl.gov/csewg/errors.htmlにある.Np-237, U-233に関してはENDF/B-VIIのβ版評価で修正される予定である.その他,ANL の処理コード(R.D. McKnight)に関するMCNP等のライブラリーのチェックやENDF フォーマット・チェック・コードの改訂(C.L. Dunford (BNL))に関する報告も 行われた.

ENDF/B-VIIのための核データ評価及び検証に関しては以下の報告があった.LANL では,中性子,荷電粒子,150 MeV以下のデータ評価,NJOYのテスト等,ORNLで は,共鳴領域や主要アクチノイドの評価,BNL/KAERIの協力では,FP領域の評価 及びEMPIRE-IIの開発,IAEA-CRP(LANLが参加)では光核反応データが,それぞれ 整備されている.ENDF/B-VIIでは,30中性子データ,10陽子データ,5重陽子デ ータ,3三重陽子データ,2つの3Heデータ,160光核反応データ等,全体で210デ ータが更新される予定である.この内,BNL/KAERI協力では3中性子データ (Tc-99,Eu-153,Gd-157),ORNLでは4中性子データ(F-19,Cl-35,37,Pu-241), LANL/ORNL協力では7中性子データ(Si-28,Pb-208,U-232-235,238),LANLでは 16中性子データ(Al-27,Hg,U-236,237,239-241,Np-237,Pu-239,Am-241), 10陽子データ(H-3,Li-6,7,Hg),5重陽子データ(H-2,3,He-3,Li-6,7),3三 重陽子データ(H-3,He-3,Li-6),2つのHe-3データ(He-3,Li-6)を整備してい る.提出された評価及びレビューキットが

http://www.nndc.bnl.gov/csewg_members/eval/

で公開されている.

ENDF/B-VIIの公開予定等について,2004年に検証,2005年末(CSEWG会合後)公開 との報告があった.重要な核種に関しては,慎重な検証をwwwで公開している pre-B-7 fileにより行う.標準断面積及びFP核種の評価にはもう少し時間がかか る.Broomstick等の遮蔽ベンチマークテストはまだ行われていない.共分散の検 証をどうするかの議論があったが,結論は出なかった.

USNDP核反応ワーキング・グループ(WG)との共通セッションとして,本土防衛の ための核データ及び核反応モデルと宇宙核物理のセッションが催された.本土防 衛のための核データのセッションでは,Department of Homeland Security (DHS)から,外部中性子またはγ線入射による核分裂または光中性子を検出する 方法についてのコメント(M. Burns,S.M. Bowyer (DHS))があった.また,核デ ータニーズに関するLANL(W. Johnson (LLNL))及びLLNLの展望(K. Sale (LLNL)) において,光核分裂反応からの遅発中性子・γ線検出及びGe検出器を用いた高精 度・高分解能測定に関連する核データに関する重要性が指摘された.核物質検出 研究(本土防衛)のための核構造・崩壊データとは,装荷量制御,放射性同位元素 の同定,汚い爆弾への使用物検出,時限装置としての放射性物質の検出等に用い るものである(J. Tuli (BNL)).核物質検出と光核分裂遅発中性子に関して, R. Little (LANL)が報告した.MCNP(X)は,核不拡散,能動的検出システム(遅発 中性子検出)の最適設計等のためのシミュレーションツールとして使用可能であ る.核データコミュニティーと本土防衛コミュニティーの恒常的な連絡が必要で あるとしている.

引き続き,共通セッションとして,核反応モデルと宇宙核物理のセッションが行 われた.ここでは,PRECO(デューク大),EMPIRE(BNL),McGNASH(LANL)及びTALYS (オランダ)等の核反応モデル・コード開発や宇宙核物理のための評価及びモデル 開発に関する報告があった.これらに関しては,宇宙核物理タスク・フォースを 組織して対応している.

この他,核データ測定及び基礎物理セッション,国際会議及びその他の会合報告, 臨界安全のための核データ評価に関する報告,核構造データ・ワーキング・グル ープ報告などがあったが,割愛させていただく.次回日程として,2004年11月1日 に臨界安全グループ会合(非公開),同2-4日にCSEWG会合,同4-5日にUSNDP会合を 予定している. CSEWGは,ENDFやENSDF等の核データファイルの評価・作成以外に も,本土防衛や核データ普及に関して,積極的かつ戦略的に政府との連携を進め ているようである.この傾向はOblozinskyがNNDCのセンター長になってから顕著 になっているように感じた.

会合等のおしらせ

原子力学会2004年春の年会について

(原研) 深堀 智生

2004年原子力学会春の年プログラムの編成が一応終了いたしましたので,核デ ータ関連セッションの日程をお届けします.敬称は略させていただきます.最 終的には学会のホームページなどで確認して下さい.

● 原子核物理,核データ,核反応工学
3月30日(火) K会場
  9:00-9:45 軽核の核反応及び反ニュートリノの影響
       座長:大澤孝明(近大)
       発表者:村田徹(アイテル),千葉敏(原研),寺尾憲親(九大)
  9:45-10:30 中性子捕獲反応
       座長:千葉敏(原研)
       発表者:大釜和也(東工大),中村詔司(サイクル機構),
               O. Shcherbakov(サイクル機構)
 10:30-11:15 2次荷電粒子スペクトルの測定
       座長:執行信寛(九大)
       発表者:近藤恵太郎(阪大),萩原雅之(東北大),金政浩(九大)
 11:15-12:00 中高エネルギー2次中性子スペクトルの測定
       座長:深堀智生(原研)
       発表者:渡辺健人(九大),国枝賢(九大),糸賀俊朗(東北大)

● 核データ部会総会
3月30日(火) K会場 12:00-13:00

● 核データ部会総合講演
3月30日(火) K会場 15:00-17:00
       「我が国の核データ測定施設の展望と世界情勢」

● その他
3月30日(火) K会場 13:00-15:00   総合講演・報告5(常温核融合関連)
3月30日(火) P会場 14:00頃-18:00 炉物理,核データ,臨界安全
3月31日(水) P会場 9:00-16:00    炉物理,核データ,臨界安全
3月31日(水) O会場 12:00-13:00   炉物理部会総会

部会員の最近の成果

O. Shcherbakov, K. Furutaka, S. Nakamura,
H. Harada (harada@tokai.jnc.go.jp) and K. Kobayashi
   A BGO detector system for studies of neutron capture by
   radioactive nuclides,
   Nucl. Instru. Methds, A517, 269 (2004).

H. Harada (harada@tokai.jnc.go.jp), S. Nakamura, T. Fujii and
H. Yamana
   Measurement of effective capture cross section of Np-238 for
   thermal neutrons,
   J. Nucl. Sci. Technol., 41[1], 1 (2004).

K. Tsujimoto, T. Sasa, K. Nishihara, H. Oigawa and
H. Takano (takano@cens.tokai.jaeri.go.jp)
   Neutronics design for lead-bismath cooled accelerator-driven
   system for transmutation of minor actinide,
   J. Nucl. Sci. Technol., 41[1], 21 (2004).

これらの論文入手については,直接著者に連絡してください.

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:144名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい.