NDDニュースレター 2003年 第12号 (通巻第49号)

2003/12/27

Table of Contents

会合の報告

第8回原子核の構造とダイナミクスにおけるクラスター的様相に関する国際会議

(原研) 千葉 敏

標記国際会議が、平成15年11月24日〜29日にかけて奈良県立新公会堂に て開催された。主催は理化学研究所及び京都大学大学院理学研究科であり、原研 も共催機関のひとつとして名を連ねた。

原子核におけるクラスター描像は、原子核を理解する上で重要な一側面であり、 わが国の研究活動は理論、実験両面において国際的にも高く評価されている。ま たこのような原子核科学の発展は原子力に対しても重要な基礎付けを与えるため 原研としても重要な会議であると認識されている。本会議は、クラスター描像に よる原子核物理研究の最新の研究成果に関して、その専門家の発表・討議等を通 じて情報交換を行うことを目的とするもので、このシリーズの国際会議の第8回 目として開催された。内容的には、特にクラスター現象と不安定核の物理との関 連に重点が置かれたが、天体核反応やハイパー核等でのクラスター物理をも含ま れた。さらに、ハドロン科学や物質科学等、原子核以外の系でのクラスター現象 や原子核物理の社会への貢献、特に核変換などへの貢献も課題として含まれてい た。

会議のトピックスは、以下に示すとおり原子核のクラスター現象が関連する諸物 理と、その周辺分野及び原子力応用まで幅広く含むものであった。

● 安定及び不安定原子核のクラスター構造
● 核反応におけるクラスター的側面
● 核物質、中性子星におけるクラスター
● 核分裂、超重元素合成とクラスター崩壊
● 天体核物理とクラスター物理
● 原子核におけるストレンジネスとクラスター物理
● 核物理の応用:医療、核変換、等

参加人数は約200名(国内約130名、国外約70名)であり、著名な参加者としては有 馬 明人氏(参議院)、池田 清美氏(理研)、堀内昶氏(京大)、谷畑 勇夫氏 (理研)、佐藤 勝彦氏(東大)、玉垣 良三氏(京大)、Y.C. Tang氏 (Minnesota)、D.M. Brink氏(Oxford)、G.F. Bertch氏(Washington)、 Yu.Ts.Oganessian氏(Dubna)等が挙げられる。

会場は東大寺と春日大社に囲まれた奈良公園の一角にある新しい公会堂である。 ここには能の舞台があり、なんとプレナリーセッションはその能の舞台で行われ た。また、近くにホテルがないこともあり、参加者は毎日鹿の闊歩する公園を通 って会場まで通うことになった。外国人のみならず、日本人参加者にとっても異 国情緒?のある情景であった。会議の規模と会場の組み合わせ、コーヒーブレー クのセッティング、エクスカーションツアー(法隆寺と某電気メーカーの開発セ ンター)も大変良く、金曜の昼には能も披露され、運営の良さと相まって雰囲気 の良い会議であった。

2003年核データ研究会の報告

核データ研究会実行委員会委員長 (近大) 大澤 孝明

「2003核データ研究会」は平成15年11月27日−28日に、原研東海研究所先端基礎 研究交流棟で開催された。「中性子断面積研究会」としてスタートして以来、今 年は通算25回目になる。本年度は、以下のテーマを柱としてプログラムを構成し た。

1.ADS開発と核種変換のための核データ
2.次世代炉等への核データニーズと次期JENDL構想
3.核物理研究及び核データ測定の最前線
4.トピックス(宇宙核物理と核データ)
5.国際セッション(アジア地域の核データニーズ及び活動)
5.わが国の核データ研究の今後 —シグマ40周年記念にあたって—
6.ポスターセッション

なお、今回の新しい試みとして、前日(11月26日)に「核データチュートリア ル」を開催した。テーマは「核デ−タ評価の概要」と「炉定数の作成方法」であ った。

研究会の参加者総数は121名(日本人117名、外国人4名)で、国内参加者の内訳 は次の通りである:原研55名、民間企業18名、大学20名、学生14名、国内研究機 関10名。

ポスター発表賞は、昨年同様、参加者全員の投票により決定する方式で実施 した。受賞者は、原かおる氏(甲南大)と関根隆氏(サイクル機構)であった。

発表内容の概略を以下に紹介する。

(1) 初めての試みであった「核データチュートリアル」は予想を超える48名の参 加を得て、好評裡に実施された。参加者の内訳は次の通りである:原研20名、民 間企業18名、研究機関(原研以外)7名、大学職員1名、学生2名。参加者から今 後も開催してほしいとの強い要望があり、また、核データ研究への認識を深め、 利用者の裾野を広げるという意味でも、継続して開催することが望まれる。

(2) マイナーアクチニド(MA)核種の核データは、ミクロデータの間にまだ不整 合があり(例:Am-241の熱中性子捕獲断面積と全断面積)、また、照射後試験に おいても核種生成量の計算値と測定値の間に大きなずれが見られる。ADS炉心の 燃焼に伴う未臨界度の変動は、Np-237、Am-241等の核データに大きく左右され、 断面積以上にν値に対する感度が大きい。さらに、ADSでの核種変換においては、 中高エネルギーにおけるFPの生成率が重要になるため、系統式および理論モデル による推定法の研究が進められている。

(3) 核破砕反応生成核種の数はFPよりも多く1000核種以上にのぼるため、その核 データの研究が必要である。安全性の面からはGd-148が重要になることが指摘さ れた。一方、高エネルギー核データと粒子輸送現象の解析のための汎用計算コー ドとしてPHITSが開発された。これは、200GeVまでの核反応、物質中での重イオ ンの輸送、および低エネルギー中性子の輸送をモンテカルロ法で計算するコード である。このコードを用いて半導体におけるSEU問題を解析した結果もポスター セッションで発表された。

(4) FCAで行われた低減速軽水炉模擬炉心の臨界実験の結果を、JENDL-3.2/-3.3 を用いてSRACおよびMVPコードで解析した結果が報告された。MAのデータの不確 かさの影響は、k-effとNaボイド効果に対する限り大きくはない。「常陽」にお けるドライバ燃料とMA照射試料の同位体解析の結果から、Am-241の捕獲とアイソ マ比、Am-243、Cm-242、Cm-244の捕獲断面積の精度の改善が必要であることがわ かった。正確な不確かさ解析を行うためにはMA核種の共分散ファイルの整備が必 要である。

(5) 新しい観点からの検討として、PWR(U炉心およびMOX炉心)の放射性物質イ ンベントリー評価があげられる。崩壊および核分裂収率データとして、ORIGEN-2. 1/-2.2組み込みデータとJENDL-3.3/JNDC-V2を用いた結果の間には大きな差異 は認められなかった。

(6) 「次期JENDL検討委員会」の報告によると、次期汎用ファイル(JENDL-4) は、部分的な修正にとどまることなく、原子炉、ADS、核融合炉、医学など各応 用分野のニーズに対応できることを狙う。そのため、荷電粒子反応、光反応、自 発核分裂なども含め、上限エネルギーも必要があれば引き上げることも考慮する。

(7) 核分裂における揺動・散逸過程をLangevin方程式で扱うことにより、Sg-270 の変形ポテンシャルに非対称分裂へつながる谷間がなくても、動力学的効果によ り非対称分裂側へ押し出す効果があることが分かった。

(8) 宇宙におけるs過程による元素合成においては、中性子捕獲が主要な役割を 果たす。従来はs波捕獲が主であると考えられてきたが、p波捕獲も重要である ことが分かった。重要核種の捕獲断面積の測定が計画されている。レーザー・電 子衝突で作った高エネルギーγ線を用いて(γ,n)反応断面積を測定し、詳細均衡 の関係を使って逆反応断面積を求めた結果も報告された。

(9) 国際セッションでは、韓国原研における250MeVまでのアクチニド核種の核 データの計算評価、およびPohang中性子装置における共鳴データ測定の結果が報 告された。

(10) 今年はシグマ委員会発足40周年にあたるので、先人たちの足跡を確認する と共に、原子力2法人統合を控えて、シグマ委員会と核データセンターの今後に ついての問題提起と議論が行われた。

部会員の最近の成果

中川庸夫 (nakagawa@bisha.tokai.jaeri.go.jp)
   中性子実験データ格納検索システムNESTOR2
   JAERI-Data/Code 2003-016 (2003).

中川庸夫 (nakagawa@bisha.tokai.jaeri.go.jp)
   統合核データ評価システムパソコン版W-Indesの試作
   JAERI-Data/Code 2003-018 (2003).

T. Kawano (kawano@lanl.gov), H. Matsunobu, T. Murata,
A. Zukeran, Y. Nakajima, M. Kawai, O. Iwamoto, K. Shibata
T. Nakagawa, T. Ohsawa, M. Baba, T. Yoshida, M. Ishikawa
   Evaluation of Heavy Nuclide Data for JENDL-3.3
   JAERI-Research 2003-026 (2003).

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:144名

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