NDDニュースレター 2003年 第6号 (通巻第43号)

2003/6/19

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トピックス

IAEAの「反応度誤差の低減」CRPに参加して

(サイクル機構) 石川 眞

本年5月19〜23日にロシアオブニンスクで開かれた標記会議に参加しましたので, その概要と感想を報告させていただきます.

IAEAの「液体金属高速炉の反応度効果の計算不確かさを低減するための最新の コードと方法」研究プロジェクト(CRP、Co-ordinated Research Project)は, 表題通りの目的で,1999年に開かれたIWGFRの年会で新規設置が合意されたもの です.CRPでは,IAEAが各国の参加機関と契約を結び出張旅費が支給されますの で,参加者は事前に実作業を行っていくことを要求されます.(もちろんそのお 金は機関に素通りするだけで,私の小遣いになる訳ではないですが.) 本CRP 会合は,これまで1年毎に3回開かれ,BN-600炉心(解体核処分用にPuバーナー化 したもの)を対象として,各種のベンチマーク解析結果が検討・評価されてきま した.今回は,BN-600のフルMOX炉心についてベンチマーク結果が議論されると ともに,今後の本CRPの活動計画が決定されました.今回の参加国及び人数は, ロシア(IPPE3名,ただし一部参加したものを含めると計12名),仏国(CEA 1名),英国(SERCO Assurance(UKAEAから分離)1名),独国(FZK1名), インド(IGCAR 1名),韓国(KAERI 1名),日本(JNC 1名),IAEA(事務局 1名)の計10名でした.(米国(ANL)及び中国(CIAE)はキャンセルしました. 理由は示されていませんが,イラク戦争のしこりやSARSのためかもと勝手に推測 しています.)

本CRPで議論された主な内容は以下のものです.

● 1. BN-600ハイブリッド炉心ベンチマーク解析Phse1,2&3の報告書

本CRPでは,これまでBN-600ハイブリッド炉心を対象とした3種類のベンチマーク 解析(第1Phase:2次元RZモデル,第2Phase:3次元HeX-Zモデル(いづれも均質 組成モデル),第3Phase:非均質組成モデル及び燃焼解析)を実施してきました. これらの結果は,過去3回の会合で議論され,IAEAにより分厚い報告書ドラフト としてまとめられましたので,各参加機関は,本年9月末までにこのドラフトの 内容をチェックして,また分析・評価の記述についてコメントし,完成すること になりました.多分,IAEAのTECDOCとして,公開されるものと思われますが, IAEAも予算がなく印刷費用がでないかもしれないそうです.(米国に早く分担金 を払えといったらどうかとIAEAにいったら,日本にももっと払ってほしいと言わ れてしまいました.)

● 2. BN-600フルMOX炉心ベンチマーク結果の検討

本CRPの第4Phaseとして,BN-600炉心をNa上部プレナム付きでフルMOX化した場合 のベンチマーク解析結果を各国が持ち寄り,比較検討を行いました.JNCの結果 は,仏国などと比べてとくに問題がありそうな点はありませんでした.さらに, JNCからは,このベンチマーク問題について,JEF-2.2とJENDL-3.2の核データ ライブラリによる差の分析を感度解析手法を用いて行い,両ライブラリの中で, 特にこの炉心に影響を与えているのは,Pu-239の核分裂断面積とν値,鉄の捕獲 断面積,弾性散乱断面積,μ値であることを報告しました.ここで,鉄が効いて いるのは,この炉心が径ブランケットでなく反射体付き炉心であるためと考えら れます.結論としてJNCから,この炉心が核データの小さな差異に非常に敏感な ため,精度のよい設計がかなり難しいと考えられると説明し,各国の合意を得ま した.

● 3. 本CRPの今後の予定

実験データを無料では出さない方針のロシアIPPE研究所との間でかなりの激論に なりましたが,結局,次の第5Phaseは,BFSハイブリッド実験解析(ただし均質 組成データのみが提供され,非均質補正係数を別途IPPEから支給)を各国が行い, 比較検討することになりました.また,最後の第6Phaseは,BN-600フルMOX炉心 にMAを添加した場合のベンチマークと決定しました.この提案は,次のIAEAコー ディネータ会議で承認を受ける予定とのことです.

● 感想

参加国の中で,非均質セル計算や3次元の輸送計算結果を提出したのは,フラン スと日本だけでしたので,正直に言えば,技術的にあまり新しい情報はこのCRP では得られません.ロシアは輸送計算は2次元だけですし,また米国も高速炉に 携わっている人間がほとんどいなくなったことから,詳細計算をすることが難し いようです.しかし,インドは電気出力50万kWeの高速原型炉をまもなく建設開 始するとのことですし,中国も高速実験炉を建設中であり数年で臨界になります. このような会合を通して,お互いの計算能力を比較検討し,建設する高速炉の性 能や安全性を確保する助けとすることは,IAEA活動としてふさわしいものと考え, JNCは今後も積極的に参加していきたいと考えております.  

第15回NEA/NSC/WPEC核データ評価国際協力WP会合出席報告

(核データセンター) 長谷川 明

● 1. 概要

米国サンディエゴ(カルフォルニア州)で5月12-15日にかけて開催された NEA/NSC核データ評価国際協力ワーキングパーティー (WPEC) に出席し,各国 の核データ測定ならびに評価済核データファイル開発の現状や,本ワーキング パーティーの使命である核データに関する共通問題を解決するためのサブグルー プ活動の進捗状況について議論するとともに,今後の活動方針を審議した.従 来問題となっていた測定要求最優先度リストについて,9月に少人数の会合を パリで持ち改訂版を作成することが決められた.本年度期限の来る本ワーキン グパーティーの,NEA/NSCでの継続承認を得るための次期3ヵ年計画が策定され た.またこれに関して,次期ワーキングパーティー議長として,長谷川が就任 した.次期国際会議ND2004会合については,国際諮問委員会,プログラム委員 会が結成され,プログラムの骨格が作られつつある.なお,会議参加者は,日 本1名,米国11名,仏国,IRMM,IAEA各2名,英国,蘭,韓国,ベラルス,NEA 各1名,計23名であった.

● 2. 詳細内容

本ワーキングパーティーは,評価済核データに関するOECD(経済協力開発機構) のNEA(原子力機関)/NSC(原子力科学委員会)のもとで,原子力開発に必要な精 度の良い核データの提供を目指して,評価済核データについての情報交換,評 価についての共通の問題点の解明を行っている.参加はメンバー制をとってお り,世界主要3大ファイルプロジェクト (ENDF, JEFF, JENDL) 及びこれにIAEA を加えた4極であり,OECD/NEA加盟国に限定されず,世界が対象となっている. 今回,イラクでの国際情勢及び査証の関係から,中国,ロシアが不参加となっ た.以下主な会議内容を記す.

1) 各プロジェクトの核データの測定の現状

日本,欧州,米国の核データ測定活動についての紹介があった.欧州では, ADSのためのデータ取得が中心でGSIのHINDASやCERNのn-TOFプロジェクトを中 心に国際協力で測定が続けられている.

2) 各プロジェクトの評価済核データファイルの開発の現状

JENDLに関しては,汎用ファイルJENDL-3.3が2002年5月に公開,今後新たな JENDL-4開発を実施していくこと,JENDL-4の目標は,高燃焼度対応,MOX利用, 臨界安全評価,革新炉/先進炉対応としていること等を報告した.ENDFでは, ENDF/B-VII を開発中で2005年に公開予定である.そのためには,少なくとも1〜 2年前には標準断面積ファイルが完成していなくてはならない.JEFFでは JEFF-3.0汎用ファイルが2002年4月に公開されたが,現在公開したJEFF-3.0 の 問題点のベンチマークチェックを実施中で,問題点をFIXしたJEFF-3.1を2004 年末か2005年初めに公開予定.公開の際には,同時に崩壊データ,核分裂収率 データ,アクチベーションライブラリーも公開との事である.IAEAでは, FENDL開発は一段落し,バリデーションとファイルの保守が中心となっている. また,アクチベーションファイルFENDL/A-2.0についての最近の活動や,その 他のIAEA活動として,Standard Reaction Cross-section Evaluation (標準断 面積評価), RIPL(標準核計算入力パラメータライブラリー), IRDF-2002(ドシ メトリーファイル)作成, Th-Uサイクル断面積データ評価等が紹介された.

3) サブグループ活動

◇ 常置グループ活動について

   A) 核反応断面積計算のためのモデルコードの開発については,前日あった
      サブグループA会合でのまとめが紹介された.核計算コードとして統計
      モデルを使う標準化されたコードシステムとして,品質保証があり,多
      くの計算機で使え,かつ発展性を持ったモジュールMODLIBとして開発し
      ている.共通的に使用するサブルーティン(モジュール) の共通化の作
      業が進展している.

   B) データフォーマットと処理については,ENDF/B-6フォーマットの改訂要
      求のプロセデュアや,今後の活動についての意見交換がなされた.

   C) High Priority Request List(HPRL:高優先度測定要求リスト)では,現
      状HPRLの改定の必要性は大筋で了承された.新たなHPRLリストを再構成
      するための非常に限られたメンバーからなる会議を,9月にParisで開催
      することが決まった.また,今後Generation-IVでの各種概念の検討に
      際し,感度解析に基づくデータリクエストが予定されていることから,
      新たなHPRLへの入力が期待できる.

◇ 傘下短期サブグループ活動について

   SG-7:  標準断面積では,2004年の公開を目指して,WPEC並びにIAEAのCRP
          と協力して実施している.作業は遅れ気味.

   SG-9:  U-235核分裂スペクトルでは最終報告書が提出された.最新データ
          でも相互に食い違っているThermalデータの再測定を推奨している.

   SG-19: アクチベーション断面積では,約100反応について検討を加え,最
          終報告書を取りまとめ中.

   SG-20: 共鳴領域の共分散データの評価と処理では,次年度,範囲を絞って
          継続.

   SG-21: 主要核分裂生成物の中性子反応データでは,現状最良評価データを
          推奨するための,各極のデータファイルのグラフ比較が200核種程
          について実施.

   SG-22: 低濃縮U軽水系の反応度予測の改良のための核データの問題では,
          対象とする核種としては,U-235,U-238,H,O-16がこれまで取り
          上げられており,いろいろ問題点が指摘されている.LAからの最新
          評価値データを使うと問題がかなり解消される結果を出しているが,
          その原因をもっと追求する必要がある.次年度も継続する.

4) 新たなサブグループの立ち上げ

今回は,NEA/NSCでの本ワーキングパーティーの規約改正もあり,新規サブグ ループの立ち上げは見送られた.崩壊データ関連で次年度提案を望みたいとし ている.

5) 核データ国際会議関連

次期核データ国際会議ND2004会合については,国際諮問委員会・プログラム委 員会が結成され,プログラムの骨格が作られつつある.今後日本も積極的に関 与していく必要がある.またその次のND2007に関して,フランスCEAが主催の 意向を非公式に表明した.

6) その他

JEFF代表のR.Jacqmin氏の議長任期終了につき,規約により次期議長として JENDL代表の長谷川が就任することになった.次回はフランス(CEA)で来年5 月下旬に開催される.その後,WPECの日本開催が要請される予定である.

本ワーキングパーティーは,評価済データに共通する問題解決で,日本の JENDL開発にも多くの貢献をしている.各国とも評価済データファイル作成に 利用できるリソースは年々少なくなってきており,この国際協力は今後とも重 要である.

会合等のお知らせ

ICRS-10 & RPS2004

10th International Conference on Radiation Shielding
13th ANS Radiation Protection and Shielding Topical Meeting
      日時  May 9-14, 2004
      場所  Madeira Island, Portugal
詳細  http://www.itn.mces.pt/ICRS-RPS

日本原子力学会2003年秋の大会

● 核データ関連プログラム

9月25日(木)2日目
 9:00-12:00 原子核物理,核データ,核反応工学(B会場)
  捕獲断面積の測定(4件)
  捕獲断面積の評価・計算(2件)
  中高エネルギー核データの測定と実験データの動向調査(3件)
  遅発中性子,崩壊熱,半減期(3件)
12:00-13:00 核データ部会総会(B会場)
13:00-15:00 シグマ・炉物理合同特別会合(E会場)
15:00-18:00 炉物理,核データ,臨界安全(D会場)
9月26日(金)3日目
 9:00-11:00 炉物理部会,核データ部会合同企画セッション(D会場)
  パネル討論「核データ・炉物理研究は,社会にいかに係わるべきか」
11:00-12:00 炉物理,核データ,臨界安全(D会場)
12:00-13:00 炉物理部会総会(D会場)
13:00-16:00 炉物理,核データ,臨界安全(D会場)

ENDF format 処理コード PREPRO2002

ENDF format で作成されている評価済核データファイルの処理コード群の最新 版(PREPRPO2002)が次の URL から公開されています。

http://www-nds.iaea.or.at/ndspub/endf/prepro/

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:140名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい.