NDDニュースレター 2003年 第4号 (通巻第41号)

2003/4/25

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トピックス

「浦島太郎」佐世保に上陸

神田 幸則

佐世保で開催された日本原子力学会2003年春の年会に出席しました。3月29日 午前の「核データ」会場のみでしたが、お会いした本ニュース編集委員の深堀 智生氏から「久しぶりの・・・」の寄稿を依頼されました。定年退職して2年、 無職にして悠々自適(?)の身が何を思うかと興味を持つ方々もおられるかも 知れないと、お引き受けしました。

私が最後に学会等に出席したのは、8年か9年前ですから、一昔前です。その間 研究とはほど遠い日々を過ごしたのだから、核データとは無関係な生活となる のが当然と2年前の定年の時に思いました。これは極めて自然な思いで、今で も変わりはありません。それなのに、今回佐世保に出かけたのは、自然体で核 データを見てみたいとの誘惑に駆られたからです。誘惑はいろいろな条件で喚 起されたのですが、自然体で見られる自信が2年間の悠々自適の生活で身に着 いたと思ったのが最大の理由です。今住んでいる福岡に近い佐世保で学会があ るなら、「浦島太郎」の玉手箱を開けて見る絶好の機会と思って出かけました。

8件の研究講演と核データ部会で聞いた研究成果や議論は、私を完全な白髪に はしませんでした。心底、安堵いたしました。研究や議論の詳細は別として、 研究の意義や方向性は理解できましたし、納得も致しました。新しい分野や技 術の開発は研究として当然で、今後の発展への期待を持ちました。 ただ、一 昔前には持たなかったであろう感想があります。核データ部会でのJENDLと核 設計計算の「標準化」の議論についてです。以前も似た議論をしていました。 ENDF/BにひけをとらないJENDLを日本国内の関係利用者は使うべきである。 「そうすべき」が「そうならない」理由に対する感想あるいは理解が、一昔前 と違うのです。当時は、「そうすべき」の意識しかありませんでした。今は、 「そうならない」意味も判ってきました。簡単に言えば、日本民族の歴史の流 れと軌を一にしている。舶来ブランド依存です。その方が安心ですし、リスク を回避出来ます。これはわれわれ日本人全体に共通する深層心理に根源かある と思います。核データ・コミュニティーだって例外ではない、のではないか。

佐世保から福岡への帰路、高速道路沿いに展開する桜や萌え出る多彩な緑を追 いつつ、満ち足りた一日に感謝しました。皆様の益々の健闘を期待しながら。

KOMAC計画と関連する核データ

Jonghwa CHANG, Byung-Ho CHOI (KAERI)

韓国原子力研究所(KAERI)は1997年よりKOMAC (Korea Multi-purpose Accelerator Complex)計画を実施している。最終目標は、20 MW (1 GeV, 20 mA, CW)の陽子線形加速器を基礎研究、工業利用及び核変換処理のために建設 することであるが、本計画の前段階が韓国政府(科学技術省)の21世紀先端 R&D プログラムの下に採択された。ここでは、2002年から10年間で、100 MeV, 20 mAまでが建設予定である。2005年7月位までに、RFQやDTLから20 MeVのビー ムを取り出す予定である。

様々な要求を満たすために、減速材、ビーム輸送系及びビームストップは組み 合わせて展開されなければならない。これらの候補材は、グラファイト、アル ミ、金及び銅である。遮蔽や放射化が大強度施設の主な留意点であるが、これ らは2つのタイプに分類できる。第1は、ターゲットや構造材の周りで通常ま たは事故時のビーム照射により引き起こされるものである。第2は、加速また は偏向中のビームロスにより引き起こされるものである。前者はターゲットや ビームダンプの材料組成がわかっていれば簡単であるが、後者は加速器空洞や ビーム輸送機器の設計や製作過程に強く依存するので推定するのがやや難しい。 蓄積放射化効果は2,3年の運転の後しか推定できないかも知れない。

適切な遮蔽設計のためには、核データや計算ツールが施設境界での線量が ICRP-60で示されている許容量を下回っていることを見るために必要である。 構成材料の中性子生成反応データはキーデータの一つである。ロシアのMENDL、 IAEAの医療用荷電粒子データライブラリー、KAERI荷電粒子データライブラリー 等いくつかの陽子入射核データライブラリーがあるが、実験データの大半は医 療用核種生成のための残留核生成収率に特化されているため、許認可のために 適当なデータを見つけることは難しい。

核データコミュニティーの挑戦の一つとして、KOMACのような大強度機器中で の蓄積放射化量を高精度で予測もしくは測定することがあげられる。ビームロ スによって生成されるZn-65のような長半減期核種が多年にわたって蓄積され、 メンテナンスを困難なものにするかも知れない。また、陽子ビームと構造材と の相互作用によって生成される高エネルギー中性子はコンクリート遮蔽や構造 材中に長半減期の放射性元素を蓄積させることができる。この効果は更なる ADS設計のための材料中の不純物許容限度や施設の寿命を決める重要な因子の 一つであろう。

会合の報告

核データ部会総会議事録

松村 哲夫(電中研)

   日 時:平成15年3月29日 12:00〜13:00
   場 所:アルカス佐世保(C会場)
   出席者:小林、井頭、大沢、深堀、岩崎、大杉、村田、石川、
           原田、河野、松村、他 計28名(順不同)
報告/議事:
1. 開会挨拶
2. 報告事項(会計)
3. 報告事項(企画)
4. 報告事項(編集)
5. その他

進行:大沢先生

1. 開会挨拶(小林部会長)

● 核データ部会としての「二法人統合に関する要望書」を、小林部会長、山 野副部会長が9月9日に原研理事長に面談し説明・提出した。その後、JNC 副理 事長に面談し、説明・提出した。

● 「大強度陽子加速器計画に関する四部会要望書」を4箇所(文部科学省、原 子力委員会、KEK、永宮先生)に提出した。

● 学会からの要請に答え、核データ部会の技術マップ、活動実績表を学会に 提出した。

補足として、井頭先生から以下の紹介があった。

● 学会としての「二法人統合に関する要望書」を成合学会長の依頼を受け、 山野氏らが中心となって原案を作成・検討の後、10月に学会から「二法人統合 準備会議」の方に提出した。

● 本年会において、日韓ジョイントセッションが27日には加速器・ビーム科 学部会と核データ部会の合同で、28日には炉物理部会と核データ部会の合同で 実施された。日韓ジョイントセッションは、今後、年1回のペースで実施する 予定であるが、次回は2004年に韓国で開催予定である。日程は(韓国の準備の 都合から2004年5月又は秋ころ)は今後詰めることになっている。

2.報告事項(会計・村田氏)

核データ部会の会計報告に先立ち、村田氏から学会の財政状況について報告が あった。

● 学会の財政は、平成12年くらいから収入・支出の状況が悪化してきている。 昨年、秋から学会に財政を検討するWGが作られることになり、検討作業が始め られている。

● 本年会でも、財務理事から学会の財政状況について報告があった。(3/29 午前I会場)

● 問題の使途不明金問題は最近になって一応の決着に至り、損失額は戻って きたと言うことである。

● 平成12年度以来採択されていなかった国の補助金(600万円)については、 平成15年度は慎重に申請書を作成し、採択に期待をかけている。

● 平成15年度の学会の予算は以下の作成方針で編成された。

   出版関係費用の削減(含む事務局人件費)
   各委員会費用の削減の周知徹底
   平成15年度で赤字となれば、基金、部会繰越金などの財産を
        取り崩すことになる。
   その他、財政困難の打開策として、例えば部会予算の削減等の
        意見が出てきそうである。

● 小林部会長より、学会財政については最近、大口の協賛金減少により収入 が減少してきており、学会としては会員増加に協力して欲しいと言うことであ る。将来には、会費の値上げ、部会費(1部会参加の場合も)の徴収なども検 討されようとしていること等の補足説明があった。

村田氏より、核データ部会に関する会計報告として、

   平成14年度会計報告
       収入 215,035円、収支差額(H15年度への繰越金)132,985円
   平成15年度予算
       予算  164,000円(配布金減少のため)
       これはセミナー残金収入(60000円)を含む。
       支出  192,500円

28,500円の赤字になるが繰越金で対応できる見込みであるとのことである。そ の後の議論により、次の企画報告事項にもあるように、他部会と共同して平成 16年度から夏季セミナーを開催する案が出てきているためと準備に要する時間 を考えて、平成15年度の夏期セミナーは見送ることになった。部会の会計担当 から、セミナー残金収入の6万円を削除し、支出のセミナー補助金5万円も削除 するように訂正したい旨提案があり承認された。後日、会計担当から最終案を 改めて示すことになった。

3.報告事項(企画・井頭先生)

● 学会の企画委員会について以下の報告があった。

   平成15年度から専門委員会を4つ設立、追加される。
   平成15年度からの企画委員を核データ部会からも推薦している。
   国際交流のため、4つの日韓合同セッションを開催した。

● また、学会の編集委員会については、論文投稿の電子化を平成15年度から 開始予定であるとの紹介があった。

● 夏期セミナーについては、人数を集める必要上、核データ部会単独ではな く、放射線工学部会、加速器・ビーム科学部会等との共同開催の方向で協議予 定との報告があった。このため、平成16年度開催に向けた準備を開始する。

● 原田氏より、炉物理部会との共同活動について、炉物理部会から秋の学会 で下記の合同パネルディスカッションの開催を検討したいとの提案があり、こ の件に関する経緯について報告があった。

   産業界からみた要望 (2件程度)
   炉物理から見た要望 (1件程度)
   核データからみた要望 (1件程度)

本パネルディスカッションの結果、標準委員会に「核設計用核データ標準」等 の提案の必要性等も一例として期待されることなどの説明もあった。

● これに対し、原研とサイクル機構の統合を考えると平成15年度に作業する 必要がある。JENDLなど新しい核データが、産業界では許認可用には実は余り 使われていない現状があるなどの意見があった。

● これらの審議を得て、秋の学会にて炉物理部会と核データ部会の合同セッ ションとして 上記ワークショップを行うことが本総会にて承認された。

4.報告事項(編集・深堀氏)

資料に基づき、Newsletter 2002年第10号〜2003年第2号を発行したと報告さ れた。

5.その他

● 九州大学の河野氏より,4月より海外に赴任するが編集委員としての活動は 海外でも可能であるので,平成15年度も運営委員を継続したいとの申し入れが あり,承認された.

● 本年度も「2003年原研核データ研究会」を11月27日, 28日に開催する予定 であるとの紹介が大澤先生(同研究会開催責任者)からあった。

部会員の最近の成果

S. Nakamura (rgm@tokai.jnc.go.jp), H. Wada, O. Shcherbakov,
K. Furutaka, H. Harada, T. Katoh
Measurement of the Thermal Neutron Capture Cross Section and
the Resonance Integral of the Ag-109(n,g)Ag-110m Reaction
J. Nucl. Sci. Technol. 40[3], 119 (2003)

宮原洋(miyahara@met.nagoya-u.ac.jp),成田憲彦,加藤義親,
池田圭一,百瀬琢磨,栗原治,林直美
γ(HPGe)-γ(HPGe)同時計測法による体内放射能測定
Trans. of Atomic Energy Soc. of Japan 2[1], 9 (2003)

S. Lee, S. Yamamoto, K. Kobayashi (koba@rri.kyoto-u.ac.jp),
G. Kim, J. Chang
Neutron Capture Cross-Sction Measurement of Rhodium
in the Energy Region from 0.003 eV to 80 keV by Linac
Time-of-Flight Method
Nucl. Sci. Eng., 144, 94 (2003).

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

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● 現在の部会員数:140名

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