NDDニュースレター 2003年 第2号 (通巻第39号)

2003/2/28

Table of Contents

会合の報告

2002年米国断面積評価ワーキンググループ(CSEWG)会合報告

(原研) 深堀 智生

標記会合が2002年11月5-7日、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)で、約40 名の参加で開催された。米国以外の参加者は筆者と、IAEA/NDSのA. Trkov、 NEA/Data BankのA. Nouri及びKAERIのJ. Changの各氏の計4人であった。筆者 の本会合参加の主目的はフォーマットの変更に関する確認と情報交換であった が、以下、会合のagendaにしたがって、会合の概要を報告する。

通常のCommittee報告に先立ち、2001.09.11テロに関連したDOEからの要請で、 テロ対策のための核データ整備に関してCSEWGでどのように対応するか議論さ れた。これに対応して、国土安全保障のための核データに関するタスクフォー スをCSEWG内に組織することが提案された。ここには、核不拡散を考慮した原 子炉の特徴を検討することも含まれる。

Measurement and Basic Science Committeeでは、米国内での測定に関する活 動状況が報告された。Rensselaer Polytechnic Institute (RPI)では、Y、Cd、 Rh、U-236,238の熱及び熱外中性子エネルギー領域の透過係数及び捕獲断面積 測定が実施されている。SAMMYによるGd、Hf、Nd、Nbの共鳴パラメータ解析が 終了し、U-238の測定及びENDFのパラメータから分解能を決定した。Smの共鳴 パラメータに関しては、ENDFと比べて、少しエネルギーのずれが観測された。 Sm-149に関してはいくつかのスピンに違いが見られた。ANLでは、厚いAgター ゲットや薄いT, D, Ti, O ,Cターゲットに2-7 MeV重陽子を照射した測定を行っ ている。LANLでの主な測定活動は、FIGAROによる準位密度測定及びC, Si, Fe, Mo(n,n'γ)断面積測定、GEANIEによる1-400 MeV中性子入射反応のγ線生成断 面積(B-11、O-18)、FP核種に対する(n,xn)反応断面積測定、U-238核分裂生 成物電荷分布測定、isomer生成断面積、Fe, Cr(n,n'γ)断面積測定、DANCEに よる捕獲断面積測定(0.5mgの試料でいい!)や陽子入射スポレーション反応 断面積測定などである。NISTに関しては、10 MeVにおける水素の中性子弾性散 乱断面積測定、D, He-3中性子弾性散乱の高精度測定、4meVにおけるLi-6(n,t) 断面積の誤差0.4%の測定、鉄断面積のチェックなどが報告された。オハイオ大 加速器研究所では、4.5MVタンデム加速器を使って、Be-9(p,n), (d,n)中性子 源による水素の弾性散乱(NIST、LANLとの協力)測定を行っている。また、世 界の標準断面積測定に関する報告があった。

Evaluation Committeeでは、LANLにおけるU, Pu同位体、Pb-208及び軽核に対 する評価活動、ORNLにおけるU-235非分離共鳴及びU-238分離・非分離共鳴解析、 F-19, Cl-35,37の評価、LLNLの評価活動、BNLにおける評価活動、光核反応デー タ評価等について報告された。ENDF/B-VII評価に関する議論が行われ、未格納 の元素を特定し、ユーザニーズの収集の必要性が言及された。ENDF/B-VIIの整 備予定として、2002年はフォーマット検討、2002-2004年は評価作業、2004 年 に検証、2005年公開というスケジュールで行きたいと提案があり、了承された。

Formats and Processing Committeeでは、まず、BNLの活動や処理コードに関 する報告が行われた。その後、ENDF-7フォーマット提案について議論した。現 状の80桁の枠組みをはずし、格納精度及び量を拡張するなど様々な提案がなさ れたが、最終的には「ENDF-7フォーマット改訂には、ENDF-6フォーマットを基 礎として改訂を加えることを基本姿勢としたい」と提案され、反対はなかった。 現状で改訂が合意されたものは以下の通りである。

   - MF=8,9,10において安定同位体のデータを格納可能にし、更に、精度を保
     障するために半減期、Q値、分岐比の誤差をファイル中に格納する(NEA/DB)
   - Kalbach-Mannの系統式のfMSDだけでなくaパラメータもファイルに格納可
     能にする(ECN)
   - 荷電粒子弾性散乱角度分布をRutherford散乱との比で格納 (JENDL)

採択された提案に関しては、次回までにENDF-6フォーマットマニュアルに反映 させることになった。

Data Validation Committeeでは、INEEL/ICSBEP活動状況、ZPR-6炉心10 (Pu/C/SST)の解析、Zeus第3実験解析、選択されたICSBEPに対するENDF/B、 JEFF、JENDLのモンテカルロ固有値の比較、JENDL-3.3のU-235及びU-238に対す るベンチマークテスト、WPEC/SG-22 (U-238の熱中性子断面積)等について報告 があった。

国立核データセンター(NNDC) 50周年記念行事がCSEWG会合の前日に催された。 国立核データセンター(NNDC)の歴史の概略は、以下の通りである。NNDCのルー ツを遡ると1952年のDonald J. Hughesを長としたブルックヘブン中性子断面積 編集グループがブルックヘブン国立研究所(BNL)の物理部の1グループとし て承認されたところへ行き着く。このグループは、1955年に有名なBNL-325 (Neutron Cross Sections, “Barn Book”, 表紙に小屋(barnの基の意味、理 化学事典を参照)の絵を使用した)の第1版を公刊した。1960年には、Hughes の亡き後、John R. Stehn率いるシグマセンターが原子力工学部の原子炉物理 部門に移動した。同時期に同じ部署に断面積評価グループが、原子核理論を専 門とするCharles E. Porterを長に組織された。これらのグループは、緩い協 調をしながら、サポート部隊を構成していた。Porterが1964年になくなった後、 John Stehnが両グループの長を実質的に兼任した。その後、Sol Pearlsteinが 断面積評価グループ、Murrey Goldbergがシグマセンターのグループ長を引き 継いだ。1967年には、原子力委員会によりシグマセンターが国立中性子断面積 センター(NNCSC)に選定され、Pearlsteinが実質的ディレクターに指名された。 更に、1968年には正式にディレクターとなった。1977年には、NNCSCは、エネ ルギー研究開発局(ERDA)により核構造・崩壊データの機能を追加され、名称を 現在のNNDC (http://www.nndc.bnl.gov/)に変更された(翻訳、ここまで)。 この後、1992年からCharles L. Dunford、2002年からPavel Oblozinskyがセン ター長を務めている。

以上、2002年度CSEWG会合の報告概要を記した。全体として、実験、評価、積 分テストなどの報告は、我が国のものとさほど違わない。しかし、ENDF/B-VII の構想が2-3年で公開というのは「大丈夫かいな?」という第一印象であった。 JEFFのような「他国のファイルからの引用も可」という姿勢転換がこれを可能 にするのかも知れない。ENDFもこの路線を行こうとしているようであり、今後 の評価済ファイル作成の流行になるのではないかという危惧もある。今回の目 的でもあったフォーマット修正に関する議論が、大体、ENDF-6フォーマットを 基に改良を加えるといったところに落ち着いてほっとしている。

「マイナーアクチニド廃棄物核変換のための核分裂収率データ」

第4回研究調整会合報告

(原研) 深堀 智生

標記会合が2002年11月25-29日ウィーンIAEA本部にて開催された。まず、断面 積評価にもとづく核分裂生成物質量分布の予測、200 MeVまでのアクチニドに 対する中性子入射核分裂収率における対称及び非対称分裂、Np-237に対する 18 MeV中性子による核分裂収率、5-160 MeVの中性子入射エネルギー領域にお けるアクチニドの核分裂収率質量分布の記述に関する2つのモデルによるアプ ローチ、片倉(原研)による5 Gaussianアプローチの新しいパラメータセット の提案及び系統式等の参加者の進捗状況報告が行われた。

ベンチマーク計算に関して、まず、U-238、Pu-239及びPu-242中性子入射核分 裂に対する質量分布評価、U-238核分裂収率に対する系統式及び共分散、 Cf-252自発核分裂の質量分布の評価、2-200 MeV領域におけるU-238中性子核分 裂に対する分裂片質量分布に関する報告が行われた。中性子放出後の質量分布 に関するベンチマーク計算がWahl、Duijvestijn(ECN-Petten、ALICE及び TALYSによる計算)、片倉、Kibkalo、Liuらによって行われ、これらの相互比 較を実験データとともに行った。全ての実験データを基にしたものは片倉、 Wahlによって行われた。Liu及びKibkaloはZollerのデータのみをもとに行われ たため、Zollerの間違った表記を反映している可能性がある。モデル計算は ALICE及びTALYSによって行われ、どちらがよいかエネルギー及び対象核種によ って異なり、双方とも実験データを完全に再現するには至らない。しかし、全 く実験データがないものに関しては、使用可能の範囲でもある。相対的に、片 倉のフィッティングがもっとも良いと思われる。ただし、全ての計算結果は重 核分裂片と軽核分裂片のピーク高さの非対称性を表してはいないし、シャープ な実験データ構造(重核分裂片のA=134の周辺、中性子放出がこのあたりで止 まる)も表してはいない。したがって、中性子放出後の質量分布フィッティン グには軽質量片と重質量片が対称でない5つの独立したGaussianが必要であろ う。比較の過程でわかったことであるが、「比較には質量分解能の補正をしな いデータの方がいい」ように思われたのは、Zollerは既にこの補正を行ってお り、今回のベンチマークでは補正を2度行っていたことに起因するようである。 また、スムージングの効果も無視できない。このため、ベンチマーク計算の相 互比較の対象としてZollerのオリジナルデータを用いることとした。中性子放 出前の質量分布に関するベンチマーク計算は、Wahl、Duijvestijn、Kibkalo、 Zhdanov、Liuらによって行われた。中性子放出前の質量分布に関する比較対象 の実験データは全て運動学的な測定であるので、補正がされてしまっている。 これも上記と同様に問題であるので、オリジナルの実験データと比較しなけれ ばならない。全体の傾向は中性子放出後の質量分布に関するベンチマーク計算 結果と同様である。Wahlの計算値は高エネルギー入射で対称成分が大きすぎる。 また、概して実験データを用いた系統式がモデル計算よりも実験データをより 再現する。

TECDOCのための報告書の現状確認を行った後、目次の作成及び最終結果の作成 に入ったが、「結果をどのように実際の評価へ反映するか」、「他にどのよう な作業がまだ必要か」、「CRPを更に続けるべきか、どのように提案するか」 が議論となった。TECDOCのための問題点検討作業に関しては、(1)Zollerの データの導出に関するの記述は間違いないようであるが、与えられているデー タが何か間違っているため、注意事項をTECDOCに記載する、(2)二重に質量 分解能の補正を行ってしまっていた件に関しては、ベンチマーク計算の相互比 較の対象としてZollerのオリジナルデータを用いる、(3)Wahlの計算値が高 エネルギー入射で対称成分が大きすぎる問題は、Wahlに知らせて、改訂を頼む、 (4)核分裂片質量分布計算の現状は、系統式及びモデル計算を含めて予測精 度は100%(ファクター2)程度である。この状況を改善するには、実験を行う か、モデルを改善する必要がある、とした。TECDOCに含むものは、(1)ベン チマーク計算の結果、(2)ベンチマーク計算結果に対するCRPの意見、(3) ユーザがどのように使えるか、または、CRPがどのように推奨するか、物理的 な説明や利用範囲についての記述、(4)全体を実験データと比較し、パラメー タの振る舞いを見る、等が提案された。

本CRPの結論として、熱中性子エネルギーから150 MeV程度までのエネルギー領 域における核分裂収率(核分裂片質量分布)をトリウムからフェルミウムまで のアクチノイド核種に対して全体的に見てファクター2程度の精度で与えるこ とができたといえるだろう。当面はこれらの成果を高エネルギー核データ評価 に役立てていきたいと考えている。しかし、中性子放出後の重核分裂片と軽核 分裂片のピーク高さの違いやモデル計算による予測性度の向上のためには更な る実験及び解析が必要であることは論を待たない。研究者各位(特に実験者) のご協力をお願いしたい。

会合の案内

核データ部会総会

原子力学会春の年会(平成15年3月27-29日、アルカス佐世保)において、下記 の通り核データ部会総会を開催いたしますので、是非ご出席下さい。

日時:平成15年3月29日(土)12:00-13:00
場所:C会場

Nuclei in Cosmos VIII

昨年日本で開催された国際会議 Nuclei in Cosmos VII に続いて、第8回の国 際会議が来年7月にカナダの Vancouver で開催されます。参加に興味をお持 ちの方は、主催者事務局の Lothar Buchmann (lothar@triumf.ca) にメールを お送って下さい。

毎回、天文、宇宙物理、宇宙線、素粒子、原子核、地球物理、隕石、などの広 い研究分野から世界一線の研究者が集まり、宇宙における物質/元素の起源と 宇宙・銀河・星の進化に関して活発な議論が展開されています。年を追うごと に、学際領域の最新成果を含む発表件数も増え、今後も大変面白い研究展開が 期待できます。(東京天文台 梶野 敏貴)

部会員の最近の成果

V. M. Maslov, Yu. V. Porodzinskij, M. Baba,
A. Hasegawa (hasegawa@ndc.tokai.jaeri.go.jp)
   Neutron Capture Cross Section of ^232^Th
   Nucl. Sci. Eng., 143, 177 (2003).

T. Matsumoto, M. Igashira (iga@nr.titech.ac.jp), T. Ohsaki
   Measurement of keV-Neutron Capture Cross Sections
   and Capture Gamma-Ray Spectra of ^99^TC
   J. Nucl. Sci. Technol., 40, 61 (2003).

E. Sh. Sukhovitskii, S. Chiba (sachiba@popsvr.tokai.jaeri.go.jp),
J. Y. Lee, B. T. Kim, S. W. Hong
   Analysis of Nucleon Scattering Data of ^52^Cr
   with a Coupling Scheme Built with the Soft-rotator Model
   J. Nucl. Sci. Technol., 40, 69 (2003).

T. Kawano and K. Shibata (shibata@ndc.tokai.jaeri.go.jp)
   Evaluation of Covariances for Resolved Resonance Parameters of
   ^235^U, ^238^U, and ^239^Pu in JENDL-3.2
   JAERI-Research 2003-001 (2003).

K. Shibata (Ed.) (shibata@ndc.tokai.jaeri.go.jp)
   Descriptive Data of JENDL-3.3
   JAERI-Data/Code 2002-026 (2003).

T. Nakagawa (nakagawa@ndc.tokai.jaeri.go.jp) and O. Iwamoto
   Comparison of Fission and Capture Cross Sections of Minor
   Actinides
   JAERI-Data/Code 2002-025 (2003).

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:140名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい。