NDDニュースレター 2002年 第13号 (通巻第37号)

2002/12/27

Table of Contents

トピックス

平成14年度仁科記念賞受賞

(東工大) 井頭 政之

平成14年度(第48回)の仁科記念賞を、大阪大学核物理研究センターの永井泰樹 教授と共同受賞した。同賞は仁科記念財団の事業の一つで、過去の受賞者の中 には後にノーベル賞に輝いた江崎玲於奈先生や小柴昌俊先生の名前もある。

ホームページ参照:  http://www.nishina-mf.or.jp/

受賞対象の「公式」研究業績は『原子核による速中性子捕獲現象の研究』であ るが、財団から最初に連絡を頂いた時は「原子核による速中性子非共鳴p波中 性子捕獲現象の発見」であった。この研究は「宇宙における元素合成」に関し た核データ研究で、東工大・原子炉研のペレトロン加速器とkeV中性子捕獲反 応実験用コンプトン抑止型NaI(Tl)ガンマ線検出器を用いて、当時は東工大・ 理学部・応用物理学科だった永井先生と平成2年から開始した共同研究である。

元素合成に重要な中性子エネルギーはkT=30keVであるが、我々は最初にC-12 の捕獲断面積測定を行った。それまでの測定値としてはORNLのMacklinの200± 400μbという値しか無く、また熱中性子捕獲断面積の測定値を1/v則によって 外挿した値は3μbであった。即ち「2桁の不確かさ」がある状況で、元素合成 研究において大きな問題となっていた。我々の結果は16.8±2.1μbで、1/v外 挿値の約5 倍となった。そして、我々は捕獲ガンマ線のエネルギー分析も行っ たため、この1/v外挿値より大きな値の原因は「非共鳴p波中性子捕獲」である ことを明らかにした。C-12の結果を纏めた論文のpreprintを天体核物理学創始 者の一人でノーベル賞受賞者のW. A. Fowler先生に送ったところ、我々の成果 を非常に高く評価し、平成2年秋の来日の際にペレトロン実験室を訪ねてくれ た。

O-16についてはORELAを用いたAllenの0.2±0.1μbという測定値があり、また、 1/v外挿値も0.2μbとなり、問題の所在が認識されていなかった。しかし、我々 の測定結果は34±4μbと実に170倍となり、またも「非共鳴p波中性子捕獲」が 原因であることが明らかになった。O-16の結果については、「新しい測定値が 古い測定値より小さくなるのはよくあるが、2桁も大きくなった例はこれまで に無い。何故、そんなに大きくなったのか?」とよく質問を受けるが、返答に 困ってしまう。

C-12およびO-16は宇宙における元素合成研究において重要な核種であり、現在 もその重要性が増しており、それに伴って我々の研究成果も重要性が更に増し て来ている。この様な状況において、今回の受賞となった次第である。

授賞式は故仁科芳雄先生の誕生日である12月6日(金)に、お堀端の東京會舘で 開催された。西島和彦仁科記念財団理事長の挨拶に続いて、伊達宗行選考委員 長(大阪大学名誉教授)からの選考過程報告と受賞業績内容の紹介があった。今 年度は28件の推薦があり、例年に漏れず夜9時を過ぎるまで議論が続き、最終 的に選考委員(約20名)の過半数の支持を得た3件が選考されたそうである。受 賞業績内容については、伊達先生はメモを一切見ず、3件について空で見事に 紹介された。敬服の一語に尽きる。そして、西島理事長から賞状と記念品が贈 呈されて授賞式は終了し、引き続いて懇親会となった。

授賞式・懇親会の出席者は、選考委員を含む仁科記念財団関係の方々、歴代の 受賞者(とご婦人)、等々で100名を越し、93歳の伏見康治先生(大阪大学名誉教 授) もお元気に出席されていた。物理の教科書で名前を存じ上げている先生方 が勢揃いしている感があった。原子力界では、故仁科芳雄先生のご子息であり、 筆者が20年以上に渡ってご指導頂いている仁科浩二郎先生(愛知淑徳大学)が出 席されていた。

今回の授賞を研究室の学生と卒業生が喜んでくれた。これを機に、これからも 若い人をどんどん巻き込んで、核データ研究活動を種々の分野で活発にしたい と思っている。最後に、これまでの多くの方のご支援にお礼を申し上げると共 に、核データ研究の活性化のために今後も益々のご支援をお願いしたい。

会合の報告

2002年核データ研究会の報告

核データ研究会実行委員会委員長 (近大) 大澤孝明

1. 今年度の構想

11月21日〜22日に原研東海研究所先端基礎研究交流棟で2002年核データ研究会 が開かれた。昨年は、核データ国際会議(ND2001)が10月に筑波で開催されたこ ともあって、恒例の核データ研究会は開催しなかったので、今年は2年ぶりの 開催になった。核データ研究会のことが皆さん方の脳裏または年間計画の中に 入っているか少し心配したが、結果から見るとこれは杞憂であった。

参加者総数は133名(日本人125名、外国人8名)、国内参加者の内訳は、原研48 名、民間企業35名、大学19名、学生14名、国内研究機関13名であった。今年度 は、旅費予算枠が縮小したため、他の財源で旅費を調達できる方にはできるだ けそのようにして頂くようにお願いした。そのせいか、前回(平成12年度;155 名)よりやや減少したが、ほぼ予想範囲内であった。

本年度は、以下のテーマを柱としてプログラムを構成した。

 1) JENDL-3.3の完成
 2) 国産核データライブラリに対する産業界の要望
 3) JENDL FP核データ評価の現状と今後
 4) トピックス(ニュートリノ物理、質量公式、共鳴トンネル核分裂)
 5) 国際セッション
 6) ポスターセッション

2. 研究会の内容

上の項目ごとに、発表および議論の内容を簡単に紹介する。

(1) JENDL-3.3作成の経緯と変更点、およびそれを用いた積分テストの結果が 報告された。全般的にJENDL-3.2よりも改善されているが、まだすべての点で consistentになったわけではない。MA核種の生成量評価のため、それに関連し た核データの精度向上が今後の課題の一つである。

(2) 産業界から、核データのユーザーとのインターフェイスの改善(利用に当 たっての相談先、材料損傷評価に適した群構造のライブラリの整備など)に関 する要望が寄せられた。また、Dy、Ni-59など、JENDL-3.3に収納されていない 核種のデータへの要望も述べられた。これに対して、総合的核データ利用シス テムを開発する計画があるという回答があった。

(3) 高燃焼度化にともないFP核種の核分裂収率、捕獲断面積、共鳴パラメータ などにこれまで以上の信頼度が要求されており、国際的にも統一ファイルの作 成を視野に入れた研究協力がスタートしている。これに合わせてシグマ委員会 内でもWGが活動を再開している。また、FP核種の核データ測定の将来計画があ ることが紹介された。

(4) トピックスのうち、「ニュートリノ物理の新展開」は、小柴昌俊氏のノー ベル賞受賞の直後であったので、きわめてタイムリーであった。「質量公式と その天体物理への応用」は核データの基礎である質量公式と、応用分野の一つ でもある天体物理に跨る興味深い話題であった。また、(d,pf)反応を用いた共 鳴トンネル核分裂の研究は、核分裂メカニズムにかかわる意欲的な研究であり、 今後の展開が期待される。

(5) 中国からの発表予定者がビザの手続きが間に合わなかったため参加できな かったのはかえすがえす残念である。それで今年の国際セッションは、韓国 KAERIのY.-O. Lee氏の、「KAERI高エネルギー核データライブラリの進展 −陽 子入射による放出中性子スペクトル−」に関する発表と、バングラデッシュ INSTのM. Q. Huda氏の「TRIGA MARK II研究炉のモンテカルロシミュレーショ ンを用いたJENDL-3.2, -3.3及びENDFのベンチマークテスト」、の2件になった。

(6) ポスターセッションは、34件の発表があった。奇数番号と偶数番号の2回 に分けたことで、余裕をもって見て回ることができた。

ポスター発表賞は、今回から参加者全員の投票により決定する方式に改めた。 齊藤浩介氏(東工大)と島川聡司氏(原研)が多数の票を集め、受賞した。研究内 容と発表の仕方の両面が考慮された、妥当な決定であったと思われる。

3. 考察と反省

データは、それがいかに優れたものであっても、使われなければ意味がない。 今回、ユーザーとのインターフェイスを良くするという課題の重要性をあらた めて認識した。核データセンターの人員増が期待しにくい現在、技術的問題に 対する質問などは、核データセンターのHPに書き込みボードを設け、知ってい る人が回答する(または対応できそうな人を紹介する)というボランティア・ベー スの対応で、多少は改善できるのではないか。さまざまな分野からのデータの 要求、疑問、問題提起などもボード上で行うようにすれば、ユーザーの要求な どを吸い上げることに役立つかもしれない。なお、核データセンターHPに、 11月22日に「JENDLなどの核データに関する質問受け付けます」という質問コー ナーが設置された。

http://wwwndc.tokai.jaeri.go.jp/FAQ/FAQ_index.html

産業界での利用を促進するためには、炉型に依存しないStandard libraryを用 意するなど、JENDL利用へのincentiveとなるような方策をとることも考える必 要があろう。

国際セッションは、例年、参加者の関心とのリンクがやや弱いように感じる。 いろいろな事情があるので容易ではないが、さらなる活性化の方策はないもの であろうか。

ポスター発表賞の選考のしかたは、全員投票制にしたことでより多くの方々の 眼で判断して頂けるようになり、よかったと思っている。

最後に、実行委員の方々、および原研核データセンターの方々には、この研究 会を成功に導く上で、さまざまなお骨折りとご協力をいただいたことに対し、 厚く御礼申し上げます。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:140名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい。