NDDニュースレター 2002年 第12号 (通巻第36号)

2002/11/25

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トピックス

PHYSOR2002に出席して

(大阪大学) 竹田 敏一

炉物理国際会議PHYSOR2002は,今年の10月7日〜10日韓国ソウルで開催された. 米国原子力学会(ANS)の炉物理部会では,2年に1回国際会議を開催しており, その国際会議は,3回に2回は米国内,1回は米国外で開催されており,今回の PHYSOR2002 は,2000年の米国Pittsburghで開催されたPHYSOR2000に続く米国 外での国際会議であった.PHYSOR2002のGeneral Chairは,ソウル大学のChang Kim教授,プログラム委員長は,KAISTのNam Zin Cho教授で,ヨーロッパ・ア ジア諸国からの参加者を多くするため4名のプログラム副委員長が定められた. 参加者は25カ国から339名であり,韓国からの参加者は地元のためやはり一番 多く60名で,次は日本の56名,米国の48名と続き,日本からのContributionも 非常に多く,最終日のCho氏とのカルビを食べながらの会食では,日本からの 参加,セッションチェアマンへの寄与に対してのお礼の言葉があった.

会議は,10月7日のオープニングセッションではじまり,それに引き続くプレ ナリーセッションでは,カールスルーエ大学のCacuci教授(NSEのeditorでもあ る),アルゴンヌ研究所の副所長のY. Chang氏,東大の矢川教授,ブルックヘ ブン研究所のD. Diamond氏の講演があった.このうちCacuci教授の話は,特に 加速器駆動未臨界システム(ADS)の摂動に関するもので原子炉の固有値問題と は違い中性子源問題の摂動はおもしろそうだという印象を強く受けた.Chang 氏,Diamond氏の講演では米国における原子力の復興が着実に進んでいると感 じた.矢川教授からは日本原子力研究所が進めているITBL(IT-Based Laboratory)の構築と活用,研究開発についての発表があった.プレナリーセッ ションの後,Cacuci氏の講演に対するclaimがあった.(claimがあった人の名 前は伏せておきます)プログラム委員長のCho教授と副委員長の私に,「従来の 原子炉を勉強しようとする若手研究者にとって悪い影響を与えかねない発言が あった」と抗議してきたが,私はそんな詳細な発表を英語で理解するだけの語 学力もなく,Cho氏もどこが問題なのかがわからないということで,「本論文 でそうのようなことが書かれていなければ問題なかろう」との結論で,この claimに対処した.

会議は4つのパラレルセッションからなり,朝8時から夕方5時35分までぎっし りつまった会議であった.セッションチェアは朝7時に集合,朝食がついてい たのはありがたかったが,毎日朝早くから夕方までホテルにかんづめになった.

著者の参加したセッションのうち興味を覚えた発表について説明する.

1Aの「Deterministic Transport Methods (I)」では,NFI山本章夫氏の 「Acceleration of Response Matrix Method by Cross Section Scaling」が 興味ある発表であった.断面積のスケリング因子を掛けて加速する方法で,非 常に使いやすい方法である.

1Bの「Advanced Reactor Concepts and Design (I)」では,1B-04の 「Modeling of HTRs : from a Homogeneous to an Exact Heterogeneous Core with Monte Carlo」がHTRの2重非均質性をモンテカルロでどのように取扱うか が興味深かった.

4Aの「VENUS‐2 Benchmark」は4件の発表があったが,全ての解析でMOX燃料集 合体の核分裂率が8%程度過大評価されており,この過大評価の原因の検討が望 まれるところである.Santamarina氏は,この過大評価はMOX燃料のγ線測定の 際のFPの発生割合がMOXとウランで違うためではないかとのコメントをした.

8B,9Bの「OECD/NEA C5G7 MOX Benchmark (I),(II)」では,MOX燃料ピンを含ん だ2 次元,3次元のピン出力分布の計算結果の比較検討が発表された.C5G7 は, 第5 番目の炉心(Core)で,7群(Group7)定数が与えられている.ノード法,球 面調和関数法,衝突確率,CCCP法,MOC(Method of Characteristics)法などが 用いられた.ピン非均質性を考慮した3次元計算はなかなか難しいことが示さ れたが,韓国KAISTの3次元Characteristics法の結果は非常に興味あった.

11A,14Aの「Lattice Physics Methods and Verification (I),(II)」では,最 新の格子計算(集合体計算)法についての興味ある発表があった.11A-01は集合 体境界条件を1次元体系から求めて2次元集合体計算の精度を向上する発表, 11A-03はMOCによるガス炉等の2重非均質の取扱い,11A-04は,燃料棒内の温度 分布,自己遮蔽の分布を考慮したドップラー反応度係数の計算結果の比較, 14A-04のWIMSコードの改良版WIMS9の発表は興味あるものであった.

また,この会議期間中にStudent Programが催された.主催はPHYSORの運営を 手伝っていた韓国学生達で,各国の学生同士の交流を目的としたものであった. 参加人数は約20名でそのうち外国人は,日本1名,ハンガリー1名,米国1名, スウェーデン1名の計4名であった.まず,自己紹介を兼ねて食事をとり,その 後にメインイベントの宴会があった.韓国では食事と宴会(お酒)は別々なもの で,宴会では,ビアホールで乾杯し,4人は特大ピッチャー(全長1mで1リット ル位はいる)挑戦したとのことである.韓国や韓国料理の内容や,各自の専門 分野についての意見交換もし,参加した学生は,「Student Programは非常に 有意義なものであり,お酒を飲んだり,いろいろな話をすることも良かったが, 一番の思い出はたくさんの友人が出来たことである」と述べている.

10月9日にPHYSOR2002のバンケットが開催され,和やかな雰囲気の中で韓国の 民族舞踊を楽しんだ.この時に,ソウル大学のKim教授,KAISTのCho教授と私 とでアジアでの炉物理(核データも含む)の会合を持って韓国,日本だけでな く,中国からも研究者を集めて国際会合を開くようにしようと話し合った.核 データ部会,炉物理部会が中心となり,より広範囲のアジアでの研究協力,コ ミュニケーションが進むことを期待して筆を置きます.

CSEWG2002会合の概要

(原研) 深堀 智生

米国断面積評価ワーキンググループ(CSEWG)会合が2002年11月5-7日,米国ブルッ クヘブン国立研究所(BNL)で,約40名の参加で開催された.CSEWGは米国のシグ マ委員会に相当し,評価済核データファイルENDFの整備を主目的に,核データ の評価,処理,利用等に関する全米的な議論を行っている.米国以外の参加者 は著者と,国際原子力機関核データセクション(IAEA/NDS)のA.Trkov,OECD/NEA データバンクのA.Nouri及び韓国原子力研究所(KAERI)のJ.Changの各氏の計4 人であった.

核データ処理及びフォーマット専門部会では,BNLでのユーティリティーコー ド整備及び米国内の各機関における核データ処理コードに関する報告を行った 後,フォーマット改訂(ENDF-7フォーマット)について議論を集中した.座長の M.Greene(オークリッジ国立研究所(ORNL))は,基本方針として,ENDFフォーマッ トは今や国際標準であるし,十分な定義と汎用性を持っており,大きな変更は コード改造等に多大な予算を必要とする旨言及した.米国内でのENDF-7 フォー マットに関する議論の結果をレビューした結果,個別の革命的変化に関しては,

  1)  計算精度 (precision) の問題の解決
  2)  既存のソフトに対するインパクトの最小化の問題の解決
  3)  フォーマットは情報交換の担い手であると言うことを認識する
  4)  以前のバージョンとの互換性の問題の解決
  5)  File 6は,他の要求に対してまだ十分に拡張の余地がある

とし,これに基づき,「ENDF-7フォーマット改訂には,ENDF-6フォーマットを 基礎とし,改訂を加えることを基本姿勢としたい」と提案され,了承された. 個別の利用分野に関する大きなフォーマット改訂の問題は,汎用ファイルの フォーマット修正ではなく,個別の特殊目的ファイルで対応すればよいとの意 見が大勢を占めた.各国からの個別なフォーマット提案に関する議論は割愛し, 我が国からの提案に関する議論のみ報告する.

  1)  「エネルギー依存の遅発中性子時間定数の追加」に関しては次回までに
      核データ処理及びフォーマット専門部会で検討する
  2)  「荷電粒子弾性散乱角度分布をRutherford散乱との比で格納」
      は採択された
  3)  非分離共鳴パラメータのエネルギー依存共分散の追加」は次回までに
      核データ処理及びフォーマット専門部会でORNL提案の「Long-range
      共鳴パラメータの共分散の追加」と一緒に検討する

採択された提案に関しては,次回までにENDF-6フォーマットマニュアルに反映 させることになった.

核データ測定及び基礎科学専門部会では,Rensselaer Polytechnic Institute (RPI), アルゴンヌ国立研究所(ANL), ロスアラモス国立研究所(LANL), 国立標 準・技術研究所(NIST)等米国各機関における核データ測定の現状が紹介された. 核データ測定活動の維持・活性化が緊急の課題であり,これには将来的な核デー タニーズの詳細な調査が必要であろうと報告された.

核データ評価専門部会では,LANLでの中高エネルギーアクチニド核データ及び 光核反応データ評価,ORNLでの共鳴パラメータの評価,ローレンスリバモア国 立研究所(LLNL)の統計模型コードによる評価,BNLでの核分裂生成物領域の共 鳴パラメータ及び統計模型コードによる評価について報告があった.また,次 期米国評価済核データファイルENDF/B-VII作成に関して,必要な未格納元素の 洗い出し,他のファイル(JENDL, JEFF)等との比較による最適評価の可能性の 検討,その他のニーズの調査を基本に開発を進めたい意向が示された.

核データ積分テスト専門部会では,臨界安全ベンチマークテスト,ZPR-6, ZPR-9及びZeus実験解析等に関する報告がなされた.特に,原研で整備した JENDL-3.3のU-235 及びU-238に関するベンチマークは,我が国を相当意識して いるようであった.

ENDF/B-VIIの整備予定として,2002年はフォーマット検討,2002-2004年は 評価作業,2004年に検証,2005年公開というスケジュールの提案があり, 了承された.次回の会合は,2003年11月4-6日に予定する.

その他報告事項として,米国エネルギー省(DOE)のS.A.Coon氏が,2002年予算 ではUS Nuclear Data ProgramにDOEから$4.8M (内$2.7MがBNL/NNDC)であり, 2003年にはDOE/Nuclear Physics Divisionで若手研究者の活性化を図る計画が あると述べた.また,テロ対策のためのワークショップを行い,必要な核デー タの洗い出しを始めた旨報告した.これを受けて,CSEWGでどのように対応す るか議論された.ENDFは中性子輸送計算コードのライブラリーとして重要であ るし,ENSDFは含有物質の同定や受動的検出器に利用でき,2002年の DOE/Office of Security Standardに採用されている.核不拡散の観点からは, 使用済み核燃料中に多く含まれるNp-237の臨界質量(現時点では60±15 kg) の 精度向上のため,核分裂及び非弾性散乱断面積や核分裂当たりの中性子数の再 評価必要であると考えられる.このため,2003年にLANLへ$100kの予算が付い た.光核分裂からの遅発中性子検出を基本とした,アクチニド検出器のために は,光核分裂反応関連のデータが必要である.以上の議論を踏まえて,国土安 全保障のための核データに関するタスクフォースをCSEWG内に組織することが 採択された.

米国の次期汎用核データファイルENDF/B-VIIにおけるフォーマット改訂に関し, 次期ENDF-7フォーマットに関する提言及び議論を行った.ENDF-7フォーマット 変更は,JENDLの次期バージョンのデータ整備にも多くの制約条件を課すこと になることから,フォーマット決定に際しては,できるだけ日本の要求を反映 させたものであることが必要であったが,我が国からの主張はほぼ受け入れら れ,従前のENDF-6フォーマット構造を大きく変えることなく,重要な改訂のた めの提案を取り込むことになった.

企画委員会だより

(武蔵工業大学) 吉田 正

11月12日(火)に日本原子力学会・平成14年度第3回企画委員会が東京で開催さ れました.当部会の運営等に直接関係する項目を中心に審議事項の概要を報告 します.

● 専門委員会の設立承認

以下の研究専門委員会の設立が承認された.

  1) 「大学の原子力工学研究教育設備等検討」特別専門委員会
  2) 「大規模シミュレーション」研究専門委員会
  3) 「原子力オープンスクールに関する調査」特別専門委員会

● 「部会表彰制度」に関する要望書

標記要望書が「計算科学技術部会」から提出された.学会賞との整合性や他部 会とのバランスを考える必要があるが,基本的には理事会にあげることで合意 された. 原案は,部会功績賞,部会業績賞,部会奨励賞よりなる.

● 部会海外講師渡航費用援助金の検討

国際交流活性化の目的で,部会が海外から講師を招聘する際,その渡航費用を 20万円を限度に援助してきたが,財政の逼迫から 20万は維持できなくなった との報告が事務局からあった.急に対応案は出せず,継続審議となった.

● 「春の年会」・「秋の大会」枠組み編成会議メンバー選出

第II区分(放射線工学と加速器・ビーム科学)からは林克己氏(日立エンジ) が 選出された.

● ワーキング・グループ活動報告

以下のワーキンググループから活動状況が報告された.

 1) 「原子力学会年会・大会オンライン受付WG」
 2) 「部会に係わる検討会」
 3) 「原子力学会年会・大会国際化WG」
 4) 「企画関係規定類見直し検討WG」
 5) 「年会・大会優秀発表賞検討WG」
 6) 「受託研究調査に関する検討WG」

● 学術的会合関係

  1) 「2002年秋の大会」終了報告
    参加者約1,500名.懇親会参加者約100名.投稿勧誘12件.
  2) 「2003年春の年会」企画セッション等の検討
    核データ部会は,合同企画セッションを,加速器・ビーム科学部会,
      炉物理部会とそれぞれ共催するため,独自の企画セッションは持たない
      ことで了承された.なお,炉物理部会・核データ部会の「日本・韓国
      原子力学会交流セッション」は総合講演と位置づける.

● 次回

1月8日(水)10:30〜13:30.終了後「2003年春の年会」プログラム編成会.

部会員の最近の成果

K. Shibata (shibata@ndc.tokai.jaeri.go.jp)
   Evaluation of Neutron Nuclear Data for Sodium-23
   J. Nucl. Sci. Technol. 39[10], 1065 (2002).

K. Shibata (shibata@ndc.tokai.jaeri.go.jp), T. Kawano, T. Nakagawa,
O. Iwamoto, J. Katakura, T. Fukahori, S. Chiba, A. Hasegawa, T. Murata,
H. Matsunobu, T. Ohsawa, Y. Nakajima, T. Yoshida, A. Zukeran, M. Kawai,
M. Baba, M. Ishikawa, T. Asami, T. Watanabe, Y. Watanabe, M. Igashira,
N. Yamamuro, H. Kitazawa, N. Yamano, H. Takano
   Japanese Evaluated Nuclear Data Library Version 3 Revision-3:
   JENDL-3.3
   J. Nucl. Sci. Technol. 39[11], 1125 (2002).

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:140名

●「部会員の最近の成果」に載せる情報をNDDeditors@ndc.tokai.jaeri.go.jp までお知らせ下さい。