NDDニュースレター 2002年 第8号 (通巻第32号)

2002/7/31

Table of Contents

トピックス

TALYS: A Nuclear Reaction Code

(NRG) A.J. Koning, (CEA) S. Hilaire, (NRG) M. Duijvestijn

TALYSとはPettenのNRGとBruyeres-le-ChatelのCEAで作成されている原子核反 応コードで,自分たちの原子核反応に関する知識を単一のソフトウェアパッケー ジにまとめようと考えて,1998年に開発を始めた.コードの主たる目的は,信 頼できるモデル・柔軟性・利用しやすさ,の最適な組合せを通じて,非分離共 鳴領域から200 MeVまでの領域での完全かつ正確な原子核反応を記述すること であり,基礎実験の解析や核データ評価に利用することができる.

TALYSには2つの目的があり,これらは互いに強く関連している.一つは,原子 核反応実験の解析に用いる核物理のツールであること.実験と理論を用いるこ とで,入射粒子と原子核の基本的な相互作用に対する知見を得ることができる. 核反応モデル計算が十分な精度をもって実験値を再現するということが分かっ ていれば,モデル計算によって測定の信頼性も与えられる.明らかに,このよ うなソフトウェアプロジェクトは,実験データベース無くしては成り立たない ものである.

原子核物理に続き,TALYSには核データツールとしての第2の機能がある.実験 データに対して種々のモデルパラメータを微調整することで,TALYSはエネル ギー的に可能な全ての反応に対する核データを,ユーザが与えたエネルギー・ 角度に対して計算することが可能である(共鳴領域を除く).理論計算と実験デー タに基づいて作成された核データライブラリは,既存の,あるいは新しい原子 力技術に対する基礎的情報になる.TALYSのような原子核反応コードに直接的・ 間接的に関連する重要な応用技術は,従来型・先進的原子炉,加速器駆動型シ ステム,放射性廃棄物の核変換,核融合炉,防衛,医療用同位体生成,放射線 治療,油田採掘,地球物理学,天体物理学に及ぶ.

TALYSの特徴は以下のようなものである.

● 全体にわたって,直接過程,複合核,前平衡,核分裂反応に対する最新の
核反応モデルを,近似なしに用いている

● 広範囲のエネルギー(0.001- 200 MeV)と質量(12 < A < 339)の範囲に対し
て,連続した滑らかな原子核反応機構の記述

● ECISを用た,光学模型とチャンネル結合模型の完全な計算

● 非常に多くの核に対して得られた新しい光学ポテンシャル

● 全断面積,部分断面積,エネルギースペクトル,角分布,2重微分断面積

● 核種生成断面積励起関数,isomer生成断面積,離散・連続γ線生成断面積

● 質量,離散準位,共鳴,準位密度パラメータ,変形パラメータ,核分裂障
壁,γ線パラメータ等の,核構造データの自動参照(通常は,PIPLから)

● 種々の揺らぎの補正,開かれた全てのチャンネルに対して多段階
Hauser-Feshbach計算を実行

● 種々の,現象論的・微視的準位密度,種々の核分裂モデル

● 前平衡に対する任意のオーダーでの,古典的(エキシトンモデル)と量子力学的
(多段階直接過程/複合核過程)モデル,

● (n,2np)などのような個々の反応断面積のスペクトルと反跳粒子に対する正
確なモデリング

● 原子核反応機構に対する適当な理論が無いか,TALYSにまだ採り入れられてい
ない場合は,システマティックスを利用

● 自動的にENDF-6フォーマット化された核データを生成

● 分かりやすいソースコード,分かりやすい入出力,分厚いマニュアル,
それに,たくさんのサンプル計算

なおTALYSは開発中のため,まだ未公開である.

MCGNASH

(LANL) M.B. Chadwick, P. Talou

良く知られているように,GNASHはHauser-Feshbach統計模型に前平衡過程と直 接過程効果を入れたコンピュータコードで,種々の原子核と広い範囲にわたる エネルギー領域(およそ200 MeV以下)において原子核反応断面積を計算できる. このコードは70年代初頭から開発が進められ,核反応理論の発展とともに,多 くの改良が施されて来た.例えば最新のバージョンには,量子力学的FKK前平 衡過程が取り込まれている.

GNASHに含まれる物理は何年にもわたって大きく変わって来ているが,コーディ ングそのものにはさほど進展がない.欠点としては,古いFortran77でのコー ディングであること,利用者にやさしくないこと,中身が読みにくく移植がし にくいこと,等である.しかしながら,コードを発展的に書き換えていく必要 性は,今日,非常に大きい.

最近になって,MCGNASHと呼ばれる「新しい」GNASHを作成することに努力が傾 けられている.MCGNASHは新しいFortran95を用いてコーディングされており, GNASHのもつ素晴らしい特徴を保ちながら,新しい理論やモデルを取り込み, かつ前述の欠点を取り除いたものである.MCGNASHの開発はまだ始まったばか りであるが,すでに完成されている部分だけを使っての計算は可能である.勿 論GNASHも,現在のような開発段階に於いてMCGNASHの計算結果をテストするた めに積極的に用いられている.

会合等のお知らせ

原子力学会2002年秋の大会(再掲)

9月15日(日)13:00 - 15:00 「核データ・炉物理特別会合」
                                      座長: 吉田 正 (武蔵工大)
 (1) 核燃料サイクルと核データ
   1. 核燃料サイクル用核データ
                                         原田 秀郎 (サイクル機構)
    2. 各種核データライブラリーによるPIE解析
                                                 奥村 啓介 (原研)
    3. JENDL FP Decay Data File 2000と日米の崩壊熱スタンダード 
                                                 片倉 純一 (原研)
 (2) 半導体メモリのシングルイベントアップセットの研究  
                                                 渡辺 幸信 (九大)

9月16日(月)9:00 - 11:25
    「原子核物理、核データ、核反応工学」関連のセッション (9件)
9月16日(月)12:00 - 13:00
    「核データ部会総会」
9月16日(月)13:00 - 15:45
    「原子核物理、核データ、核反応工学」関連のセッション (10件)

NEA online bulettin

Nuclear Energy Agency (NEA)の最新版のニュースレター(7月号)が以下のURL にあります。

http://www.nea.fr/html/new.html

部会員の最近の成果

T. Katoh (ue6t-ktu@asahi-net.or.jp), S. Nakamura,
K. Furutaka, H. Harada, T. Baba, T. Fujii, H. Yamana
   Measurement of Thermal Neutron Capture Cross Section
   and Resonance Integral of the 166mHo(n,g)167Ho Reaction
   Using a Two-step Irradiation Technique
   J. Nucl. Sci. Technol.,  39, 705 (2002).

Y. Tahara (tahara@atom.hq.mhi.co.jp), H. Sekimoto
   Transport Equivalent Diffusion Constants for Reflector
   Region in PWRs
   J. Nucl. Sci. Technol.,  39, 716 (2002).

H. Oigawa (oigawa@omega.tokai.jaeri.go.jp), S. Iijima, M. Andoh
   Experiments and Analyses on Sodium Void Reactivity Worth in
   Uranium-free Fast Reactor at FCA
   J. Nucl. Sci. Technol.,  39, 729 (2002).

H. Sakane (sakane@knvdg.nucl.nagoya-u.ac.jp), Y. Kasugai,
M. Shibata, Y. Ikeda, K. Kawade
   Measurement of the activation cross-sections of (n,np+d)
   reactions for lanthanide isotopes in the energy range
   between 13.4 and 14.9 MeV
   Ann. Nucl. Energy, 29, 1209 (2002).

これらの論文入手については、直接著者に連絡してください。

核データ部会からのお知らせ

● 現在の部会員数:133名

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