NDDニュースレター 2000年 第9号 (通巻第9号)

2000/12/22

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トピックス

共分散処理システムの整備について

(核燃料サイクル開発機構) 杉野 和輝

核データの誤差に起因する炉心核特性の予測精度の評価、及び、その低減の ための炉定数調整を目的として、サイクル機構では、住友原子力工業の協力の 下、ENDF書式で整備された共分散データを群定数化する共分散処理システムの 整備を行っています。

共分散処理システムは、汎用炉定数処理コードNJOYのERRORRルーチンを改良 することにより作成されたERRORJコードとその後処理プログラムから構成され、 ワークステーションのUNIX環境で整備されています。ERRORJコードは、ユーザー が指定する重み関数を用いて、ENDF書式の共分散データを任意の群構造に変換 する機能を有しています。ERRORJコードの特徴として、面積感度法に加えて、 1%感度法と呼ばれる共鳴パラメータに対する断面積の感度から共分散処理を行 う方法が採用されていることが挙げられます。この方法は、分離・非分離共鳴 パラメータを近似無しに取り扱うことが可能であることから、非常に信頼性の 高い方法であるといえます。

現在、原研・核データセンター、及び、シグマ委員会「共分散評価WG」によ り作成されたJENDL-3.2のNa冷却MOX燃料高速炉を構成する主要核種(B-10, B-11, O-16, Na-23, Cr, Fe, Ni, Mn-55, U-235, U-238, Pu-239, Pu-240, Pu-241, (U-233))の断面積(核分裂中性子発生数、核分裂スペクトルを含む)に 対するENDF書式共分散データを、高速炉の炉定数調整計算で用いられています 18群構造に変換し、重核評価WG会合の場で、処理結果あるいはENDF書式の共分 散データの妥当性を検証している段階です。

共分散処理システムの整備は間もなく終了する予定で、その後、共分散デー タとセットで一般公開される運びとなります。

会合の報告等

「長期的展望にたった核データ整備の必要性」に関するIAEA諮問家会合

(原研核データセンター) 深堀 智生

fukahori@ndc.tokai.jaeri.go.jp

平成12年11月28日〜12月1日、オーストリア、ウィーンの国際原子力機関 (IAEA)本部にて「長期的展望にたった核データ整備の必要性」に関するIAEA 諮問家会合が開催された。本諮問家会合では、医学利用(医療用放射性同位元 素の製造、粒子線による放射線治療、内部被曝線量評価)、宇宙物理学(中性子 及び荷電粒子入射反応、原子核モデルの役割)、イオンビーム分析と関連する 技術、保障措置と関連する技術、原子炉及び核燃料サイクル(先進的高速炉及 び鉛冷却炉開発、先進的熱中性子炉及び溶融塩炉開発、核燃料保存のための Burnup Credit)、加速器駆動型未臨界炉(アクチニド及び核分裂生成物の核変 換)、核破砕中性子源ターゲット及び中高エネルギーにおける放射線遮蔽のた めの核データニーズに関する講演・討論があった。以下、会合のサマリーを略 記する。筆者の専門外の分野が殆どであるので、間違った表現または不適切な 表現があった場合はご容赦願いたい。詳細に関しては、次号の核データニュー ス(No.68)を参照してください。

医学利用のための核データニーズに関する提案が、核データ編集(特に荷電 粒子核データ)及び開発を通しての長期的考察が研究を支援するためになされ た。診断用放射性同位元素のサイクロトロンによる生成のための近年データベー ス構築の努力は継続されるべきである。更に、データベース間の差異を除くた めに努力を集中する必要がある。放射性薬品を短時間で生成できる施設のため には関連する同位体の崩壊の特徴及びその生成に係わる反応断面積に関する注 意深い観察が必要である。中性子及び陽子を用いた放射線治療のためのデータ は一般的に改善されたといえるが、データベースの時々刻々の改訂は継続すべ きである。C, O に対するデータ不足の解消は急務である。中性子及び陽子に よる人体組織の放射化に関する情報も必要である。診断用及び治療用放射性同 位体、核子による放射線治療の3分野における新しい開発が継続的にモニター され、データニーズのレビューが定期的になされるべきであろう。

イオンビーム解析と関連する技術のための核データに関しては、いくらかの 微分断面積実験の生データは、SigmaBaseやNRABASEに既に収録済みで、EXFOR に組み込む努力が進行中である。しかし、現在の実験データ間に重大な差異が 認められる。イオンビーム解析の対象となる断面積すべてに関する詳細なリス トが必要である。利用可能なデータの詳細な評価が整合性確認のために必要で ある。イオンビーム解析のための断面積測定は、うまく調整されるべきである。 陽子及びα粒子の非ラザフォード散乱断面積やC, N, Oに対する重陽子入射反 応における荷電粒子放出チャンネルの測定に注力すべきであろう。IAEA核デー タ活動のスコープの中で、イオンビーム解析分野の協力体制を築くべきである。

宇宙物理学は、宇宙で観測される物体及び過程の定量的な理解を目的とする。 必然的に原子核宇宙物理学は他の多くの核物理分野とオーバーラップし、影響 を受ける。したがって、オーバーラップ部分の特定及びこれらの調整を図る (例えば、長寿命FPの中性子捕獲断面積、低エネルギー荷電粒子入射反応断面 積、エネルギー減衰測定、核物理モデルの開発など)必要がある。また、EXFOR やその他のデータベースへのデータの提供のため測定者に協力を依頼する。優 先度の高い核データニーズのリストを作成し、核データネットワークに配布す る。CRP等で先端的な反応モデル及び関連するパラメータに関する長期計画を 調整する。これはADS等の目的のためにも有用であろう。原子核宇宙物理学分 野で構築された実験及び理論的な努力を他の分野とより頻繁に交換することに より、すぐにでも利益があると思われる。したがって、IAEAが原子核宇宙物理 学分野をその長期計画の中に位置付けることを提案する。

精度の高い核データは、保障措置検査活動の主要な要素である。現状の保障 措置のための核データ要求は、一般的には満足されているが、改訂が必要な分 野がある。マイナーアクチニドに対する精度の高い自発核分裂半減期及びその 放出中性子数(ν)は、受動的及び能動的な中性子検出に対し要求されるであろ う。U-235, Pu-239,240,241及びマイナーアクチニドのνは、改訂が必要であ る。U-234,236, Np同位体及びマイナーアクチニド(将来的に)の中性子核分裂 に対する6群崩壊定数及び遅発中性子収率は、現行の活動に有効である。将来 の活動に関して、(α,n)反応は中性子検出における補正のより重要な資源とな るので、より良いデータが望まれる。全てのマイナーアクチニドの崩壊データ の解析は、将来の精度良い同位体構成割合同定をより確実にするために必要で ある。IAEA核データセクションは、保障措置のための核データハンドブックを 継続的に改訂し、核データ要求を予測するために先進的な原子力発電概念の観 測を行うよう提案する。

原子炉及び核燃料サイクルのための核データニーズに関しては、高速炉開発 のシフトに伴い、核分裂性同位体、構成材料、マイナーアクチニドに対するNa 冷却などの核データ改良に関するニーズがある。高速炉スペクトルで核変換さ れるリサイクル燃料要素(鉛ベースの液体重金属冷却材など)として、閉燃料サ イクルオプションに対する核データが必要である。U-233-Th燃料を用いる原子 炉及びその燃料サイクルの開発では、U-233, Th-232, Pa等の核データを改訂 しなければならない。マイナーアクチニドに関して、増殖炉及び核変換炉の高 速スペクトル、閉核燃料サイクル中の貯蔵、輸送、再処理の過程での異なった 炉心外環境に関連する柔らかいスペクトルに対する核データが必要である。ト リウムサイクルに関連する軽いアクチニド(Th-232, U-233, Paなど)の核デー タが必要である。冷却材として有望視されている高沸点で化学的に安定な液体 金属としての鉛に関する核データが必要である。

加速器駆動型未臨界炉のための核データニーズに関する提案を以下のように 行った。精度要求が核分裂断面積で5%、捕獲断面積で10%、非弾性散乱断面積 で15%程度であり、これがまだ満たされていないので、マイナーアクチニド (Am-241,243, Cm同位体)データに関する組織的な活動がまだ重要である。種々 の未臨界炉心(Pu/MA装荷率、冷却材(鉛−ビスマス、ガス)等の違い)の初期及 びサイクル終期における重要なパラメータ(実効増倍率、反応度係数、ピーク 出力、DPA成長率など)に対する感度解析を行う必要がある。また、新しい実験 の提案をする前に、上で示したシステムに対するβeff、崩壊熱、γ線発熱計 算の誤差などのレビューを行うことが重要である。20MeV以下のPb, Bi, N, N-15に対する全断面積、捕獲断面積、弾性・非弾性散乱断面積、(n,p)反応断 面積も重要である。核変換システムに係わるメジャーアクチニドと同様に、 Pu-238,242の特に捕獲断面積の精度のレビューを行う。1-20 MeVにおけるマイ ナーアクチニド及びPuの核分裂断面積の精度を評価する(要求精度は5%)こと も必要となる。

核破砕中性子源ターゲット及び中高エネルギーにおける放射線遮蔽のための 核データニーズは主に20MeV以上に対してである。膨大な要求リストがあり、 加速器関連の構成要素(遮蔽、ターゲット、ビーム窓など)についての多くの断 面積が含まれている。対象分野としては200MeV周辺を境としたエネルギー領域 に分けることができる。200MeV以下の領域に対しては、評価済核データファイ ル作成のためには、計算が主体に成らざるを得ないが、実験と比べてモデル開 発はまだ十分とはいえない。Reference Input Parameter Library (RIPL)に関 する現在のIAEA研究協力を拡張すべきである。200MeVまでのエネルギー領域で の信頼性検証及び核データ処理に特に注目すべきであろう。原研TIARAの68MeV における透過実験以外にもこのエネルギー領域でのベンチマークを行うべきで ある。200MeV以上の領域に対しては、核物理モデルの存在する実験データに対 するテスト及び改良が必要である。新しい理論的アプローチも必要である。核 分裂は特に大きな問題である。最近多くの実験的努力がなされたが、まだ実験 値と計算値間の差が存在する。特に、中性子入射反応、陽子入射軽粒子放出反 応、A=100領域の同位体生成等が問題である。

多くの分野の核データニーズをそれぞれの専門家から直接聞くことができた のは、大変興味深く、大きな収穫であった。しかし、筆者の個人的な感想であ るが、上記で報告された核データニーズは、核データセンターでは日頃から認 識できていると思われる。したがって、特に目新しいものは多くはなかった。 今後も、核データセンターとしては、アンテナを高くたて、各方面のニーズに 注意しながら、タイムリーに核データを提供できればよいと思った。

会合等のお知らせ

原子力学会「核データ・炉物理特別会合」

2001年春の年会(武蔵工大)における標記会合のプログラムが以下のように決 まりました。

                                      座長:岩崎 智彦(東北大)
 1. オクロ天然原子炉解析に関する核データ・原子炉物理の役割
                                            深堀 智生(原研)
 2. JENDL-3.3 の積分テスト
     (1) 臨界炉心積分テスト                 高野 秀機(原研)
     (2) 遮蔽関係積分テスト                 前川 藤夫(原研)
 3. 高速炉用統合炉定数ADJ2000の開発         石川 眞(サイクル機構)

原子力学会「核データ部会・総合講演」

2001年春の年会(武蔵工大)における標記会合のプログラムが以下のように決 まりました。

テーマ:大型加速器施設を利用した核物理・核データ実験研究の最前線

                                            座長:渡辺 幸信 (九大)
 1. 数十MeV領域における核データの実験的研究      馬場 護 (東北大)
 2. 400MeVリングサイクロトロンを使った実験核物理 畑中 吉治 (阪大)
 3. 宇宙核物理とその実験研究                     久保野 茂 (東大)

NEA online bulettin

Nuclear Energy Agency (NEA)の最新のニュースレターが以下のURLにあります.

       NEA Online Bulettin (Dec. 2000)
http://www.nea.fr/html/new.html

その他の国際会議

● NAP2001 :
   International Symposium on Nuclear Astrophysics
   May 3 - 4, 2001, GSI, Darmstadt, Germany
http://www-wnt.gsi.de/nap2001/

● INPC 2001 :
   International Nuclear Physics Conference
   30 July - 3 August, 2001, Berkeley, CA, USA
http://www.lbl.gov/~inpc2001/

● TH 2002 :
   International Conference on Theoretical Physics
   July 22 - 26, UNESCO, Paris, France
http://www-spht.cea.fr/th2002/

● PHYSOR 2002 :
   International Conference on the New Frontiers
   of Nuclear Technology : Reactor Physics, Safety
   and High-Performance Computing
   Oct 7 - 10, 2002, Sheraton Walker Hill Hotel, Seoul, Korea
http://physor2002.kaist.ac.kr/

部会員の最近の成果

T. Iwasaki (tomohiko.iwasaki@qse.tohoku.ac.jp), et al.
   Measurement and Analysis of Capture Reaction Rate of
   ^237^Np in Various Thermal Neutron Fields by Critical
   Assembly and Heavy Water Thermal Neutron Facility
   of Kyoto University
   Nucl. Sci. Eng. 136, 321 (2000)

核データ部会からのお知らせ

核データ部会の会員数

現在の核データ部会会員数は120名です。