第15回「ヒューマン・マシン・システム研究セミナー」報告

2004年9月2〜3日 (福井県敦賀市 ウェルサンピア敦賀)





 今回で15回目となるヒューマンマシンシステム研究部会夏期セミナーは、シンビオ社会研究会と共催で、原発銀座とも言われる若狭地区の福井県敦賀市ウェルサンピア敦賀で平成16年9月2〜3日に開催されました。
 本セミナーのテーマは、「ヒューマンインタフェースとリスクコミュニケーション」であり、各方面から60名の参加がありました。第一日目(9月2日)は「IT活用による現場作業の支援技術」についての技術展望、パネル討論「原子力リスクコミュニケーションの取り組み−地元生活者と現場で働いておられる方々との対話」、第二日目(9月3日)は、公共的観点からの規制行政の課題、原子力への社会世論の変遷、という違った切り口から、原子力発電への課題を考究するために、それぞれの方面の一線で実際的活動をリードされている方々を講師に招いて講演をお願いしました。さらに、先日の関西電力美浜発電所の事故に関して、その事故速報と討論の時間を特別に設けました。第一日目の夕方には懇親会が開催され、カジュアルな雰囲気の中で、セミナーに引き続き熱い議論が続けられました。また、第二日目の午後には、核燃料サイクル開発機構の協力を得て、もんじゅとその関連施設を見学しました。以下に、セミナーのプログラムを紹介します(敬称略)。

・部会長挨拶 
  北村 正晴(東北大学)
・特別講演「原子力と学会の役割〜日本学学術会議会員として」
  木村 逸郎(原子力安全システム研究所)
・技術展望「IT活用による現場作業の支援技術」
  「次世代プラントの現場作業支援システム開発事例紹介」
   ウウェイ(三菱電機)
  「フレキシブルメンテナンスシステム開発の紹介」
   渡辺 長深(三菱重工業)
  「VRVirtual Reality及びARAugmented Reality技術を用いた解体計画支援シス
  テムの開発と課題」
   井口 幸弘(核燃料サイクル開発機構)
・パネル討論「原子力リスクコミュニケーションの取り組み−地元生活者と現場で
 働いておられる方々との対話」
・「最近の事例に見る保安活動におけるヒューマンファクターの課題と取り組み」
  牧野 真臣(原子力安全基盤機構)
・「原子力の世論−10年間の調査から−」
  北田 淳子(原子力安全システム研究所)
・特別企画「美浜事故概要速報と討論」
  夏期セミナー実行委員会
・閉会の辞
  吉川 榮和(京都大学)
・核燃料サイクル開発機構敦賀本部施設見学

 以下では、各講演とパネル討論の概要を報告する。



9月2日(水)
(1)特別講演
「原子力と学界の役割−日本学術会議会員として」
 (株)原子力安全システム研究所 技術システム研究所 所長 木村 逸郎

 日本学術会員としての活動について、第18期の「学術の在り方」常置委員会、第19期の「安全・安心な社会と世界の構築」特別委員会への参加、原子力工学代表として文部科学省科学研究費補助金の計画と実施への協力、「日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合と我が国における原子力研究体制について」(平成14年5月)と「国立大学法人における放射性同位元素・放射線発生装置・核燃料物質などの管理について」(平成15年3月)の2つの対外報告のとりまとめ、原子力学の再構築のため、「人類社会に調和した原子力学の再構築」対外報告のとりまとめなどを紹介された。また、過日の関西電力美浜3号機2次系配管事故について、なぜ当該場所の検査が抜け落ちたのか、2次系配管破損事故に対する備えは十分であったか、など疑問を上げられ、原子力発電の安全に取り組む者として、また、福井県原子力安全専門委員会の委員として、事故を受け止めていきたいとの感慨を述べられた。




(2)技術展望:「IT活用による現場作業の支援技術」
1.次世代プラントへの現場作業支援システム開発事例の紹介
(三菱電機)ウ ウェイ

 電力自由化や原子力への社会的受容低下の現況下、原子力発電に課せられる安全性と経済性の両立を図る道として、オフサイト運転保守センターの統一概念の基に、複数プラントの運転保守管理をネットワーク化して要員をオフサイト運転保守センターに集中することにより、省力化、知識集約化、を達成しよう、そのために必要な次世代のHMS技術を開拓しよう、という意図で取り組まれた、三菱グループと大学のHMS研究者による共同プロジェクト『原子力発電所運用高度化のための次世代ヒューマン・マシン・システムに関する技術開発』の研究成果の中から、配管系統隔離作業支援システムの開発、現場作業者の視線情報を活用した遠隔協調作業支援システムの開発、現場情報収集とトラブル対処支援システムの開発という、現場作業支援に関する3つのシステムの開発成果が紹介され、今後の技術実用化に向けた開発方向の展望があった。



2.フレキシブルメンテナンスシステムプロジェクトの紹介
(三菱重工)渡辺 長深

 原子力プラントでは13ヶ月に一度定期点検が義務づけられ、プラント稼働率を高めるため30日〜100日に及ぶ定期検査の信頼性を確保しながら期間を短縮することが求められている。またプラントの高経年化と熟練技術者の減少も保全技術に注目する背景である。保守高度化技術と訓練高度化技術の高度化をはかるためFMSプロジェクトが三菱重工、三菱電機、日立、東芝4社によって進められている。具体的には、保守高度化技術では、非接触・遠隔操作型のセンサーの開発、オンラインリモートメンテナンス型制御装置の開発、インテリジェント保守管理技術の開発、訓練高度化では、保守ノウハウの体得化とプラント体感技術の開発に取り組まれている。講演では三菱重工担当の技術開発であるメンテナンスフリーセンサーの開発、センサーの点検周期判断支援技術の開発、大型機器/電気設備保守作業の訓練システムの開発を中心に報告された。



3.Virtual Reality及びAugmented Reality技術を用いた解体計画支援システム
  の開発と課題
(核燃料サイクル開発機構)井口 幸弘

 新型転換炉ふげんは、26年間の運転を経て、2003年3月29日に運転終了、今後廃炉が予定されている。廃炉には10年間の準備期間があり、この間に使用済み燃料の搬出と廃止措置技術開発を行い、その後は解体撤去、廃棄物の処理処分の廃止措置を実施する。ふげんの廃止措置技術開発には、解体計画の評価技術、重水・トリチウム関連技術、原子炉本体解体技術などの項目があり、特に廃止措置を早く安く確実に実施することが重要である。このために現在、廃止措置エンジニアリング支援システム(DEXUS)を開発している。DEXUSは大別して(1)解体計画時の支援システムと(2)解体実施時の支援システムがあるが、講演では(1)に関連して「放射線環境下の解体作業シミュレーションシステム」開発と(2)に関連して「現場可視化システム」開発が紹介された。



(3)パネル討論
「原子力リスクコミュニケーションの取組み−地元女性と現場ワーカーの対話」
         司会:(旭リサーチセンター)秋元 真理子
         パネリスト:現地から女性3名、現場ワーカ2名が参加
         コメンテータ:八木 絵香(社会安全研究所)、
                杉万 俊夫(京大人間・環境学研究科)

 原子力と共生する地域の女性3名と原子力の現場で働く男性2名がパネリストとして参加し、原子力に対するイメージ、原子力への要望、マスコミや一般社会と地元とのギャップ、地元と発電所とのコミュニケーションのあり方などの議論の後に、2名のコメンテータによる講評と司会者による全体の纏めがあった。今回のパネル討論から、現場や地元の人々にとっては、原子力を特別なものではなく、あくまで日常の一部としてとらえていること、したがって、現実に即した情報やコミュニケーションが望まれていることが示唆された。公的な場に限定されない交流ネットワークを支援する仕組みを設けていくことが重要と思われる。







9月3日(木)
(4)講演
1.最近の事例に見る保安活動におけるヒューマンファクターの課題と取組み
(原子力安全基盤機構)牧野 真臣

 国に報告された事象あるいは原子力発電情報公開ライブラリーNUCIAに掲載されている事象で、人的要因による最近の事象の傾向として、反応度監視操作/燃料・制御棒取扱作業時等原子力特有の監視操作あるいは作業でヒューマンエラーが続発している。これはOECD/NEAが安全実績低下の兆しとして提示している項目にあてはまるもので、原子力発電所の安全文化が脆弱になっていることを暗示している。JNESでは、原子力安全文化の組織内醸成と定着化の基盤整備のために、安全文化の総合的な評価システムの開発を進めている。また原子力発電所中央制御室の技術基準について国内外の現状を調査し世界の潮流を把握し、ヒューマンファクターの観点から中央制御室の備えるべき技術要件についての評価の考え方を体系的に整理し、人間工学的設計に関する評価基準案を策定している。




2.原子力の世論 ―10年間の調査から―
(原子力安全システム研究所)北田 淳子

 原子力安全システム研究所による1993年から2003年9月までの10年間に渡る原子力発電に関する継続的な世論調査の結果を纏めたもので個人の回答に揺らぎがあっても世論全体としては安定性が見られ、統計的に信頼できる調査である。原子力への連想では過去の軍事利用のイメージから発電などへの利用のイメージが高くなってきた。原子力施設への不安感は事故に影響されやすく、交通事故や環境破壊への不安感よりは低い。原子力発電の利用は消極的に支持され不安感よりは変動は少ない。その支持理由として発電方法の多様化に対処するために原子力の存在の必要性を上げている。女性層は事故の影響を受けやすく、概して知識度が低く意識のふれが大きい。




特別企画:
「美浜事故概要速報と討論」
                    司会:吉川 榮和(京都大学)
                    報告:久郷 明秀(関西電力)

 実行委員会報告として美浜発電所3号機の2次系配管破損事故の速報が報告され、その後会場の参加者により以下のような意見交換が行われた。 1. 事故発生後の情報公開活動のあり方について意見交換があった。今回は人身事故になったこと、また、過去の検査に複数の会社が関与していることもあり、難しい面があることも指摘された。 2. 事故発生後の中央制御室の運転操作の適切さにHMS専門家の観点からの質問があった。 3. 検査管理会社変更の経緯と理由について質疑応答があった。 4. 昨年10月に改正された定期検査の規制や監査と今回の事故との関わりについて意見が交換され、亀裂検査だけでなく減肉検査についても民間基準の整備が必要との意見がだされた。 5. 保守検査技術や検査員の技術能力の向上、材料健全性の評価法の向上などへのHMS部会のこれからの取り組みの必要性について意見交換があった。





核燃料サイクル開発機構敦賀本部施設見学

 約40名の参加者が、核燃料サイクル開発機構敦賀本部を訪問し、エムシースクエアでは概要説明に続く3次元シネマによる高速炉開発の意義の紹介やナトリウム漏洩事故当時のビデオ上映ののち、国際技術センターではナトリウムの振る舞いを実見し、またその取り扱いを実体験できるデモやもんじゅ制御室の模擬シミュレータを見学して、高速増殖炉もんじゅ建設所では実際の制御室を窓から見学して9年前のナトリウム漏洩事故の二次系配管室を見学した後に、もんじゅサイトを見下ろす山並に隠れた新たな施設であるプラント機器構造のISI実験施設を見学した。事故後安全性強化対策を立案し、安全審査も終えて現在立地県の工事許可を待っている状況とのことであるが、あいにく美浜事故が起こりそのためにまた長引くことを案内に当たった方が懸念されていることが印象的であった。もんじゅ運転再開をめざし関係各位の一層の奮闘を祈念する。