日本原子力学会HMS研究部会2015年度夏期セミナー

原子力施設の廃炉・廃止とヒューマン・マシン・システム

主催:日本原子力学会ヒューマン・マシン・システム研究部会
共催:岡山大学 耐災安全・安心センター


 日本の原子力発電所は運転開始後数十年が経つものが多く、運転開始後40年を経過して運転する場合には延長認可が必要となることから、一部の原子力発電所は廃止することが公表されている。また、東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉措置については、溶融炉心の取り出しのための新しい技術の開発と今後数十年にわたる期間が必要であり、世間の注目するところである。このように、日本の原子力発電所も設計・建設、および運転のフェーズから廃止処置のフェーズに軸足を移しつつある。

 以上の状況から、原子力発電所や原子力施設の廃止を円滑にしかも安全に行うことに関連したヒューマン・マシン・システム(HMS)は、今後重要になると考えられる。そこで、気鋭の研究者や技術者に、廃炉や廃止に関連する技術開発やHMS関連研究、また、人材育成に関するご講演をお願いした。原子力発電所や原子力施設の廃炉・廃止に関するHMSを議論する機会となれば幸いである。

[部会長 五福 明夫(岡山大学)]

■日 時: 2015年7月24日(金)午後〜7月25日(土)午前
■場 所: 岡山大学津島キャンパス自然科学研究科棟2階小会議室
http://www.okayama-u.ac.jp/tp/access/soumu-access_tsushima_n.html
〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1

■プログラム

7月24日(金)
13:30〜13:35 開会挨拶
13:35〜14:30

高所調査用ロボットの開発と福島第一原子力発電所での運用

阪上 知己 氏(東京電力(株) 経営技術戦略研究所)

 高所調査用ロボットは、福島第一原子力発電所の廃炉作業において原子炉建屋内の高所を調査する目的で、(株)本田技術研究所、(独)産業技術総合研究所(現:国立研究開発法人)が共同開発したロボットである。開発にあたっては、現場で必要とされる機能、運用方法、操作性等、ユーザー側の考えを設計に反映するため、当社も深く議論に参加し、安心して使用できるロボットを完成させた。現場導入後は当社が調査やメンテナンス等の運用を行なっているが、実際の調査ミッションやトラブル発生時にも円滑に対処できるよう、開発者によるバックアップが得られる体制としている。このような開発、運用体制の成果として、これまでに原子炉建屋内における3回の調査ミッションを成功させた。


14:40〜15:35

ウラン鉱山跡措置とリスク・コミュニケーション

石坂 薫 氏(廃棄物工学研究所)

 岡山県の人形峠ウラン鉱山は鉱業活動を終了し、その鉱山跡では施設の跡措置に向けた業務を進めている。鉱山活動で発生した捨石(ウラン鉱床まで地中を掘り進むまでに出てきた岩石)や鉱さい(ウラン鉱石からウランを抽出したあとに残った土砂)は現在たい積場で管理されており,今後たい積場に覆土・植栽等をする恒久的対策(以下跡措置)を行う予定である。そのため跡措置について周辺の地域社会に受け入れられるよう十分なリスクコミュニケーション(以下RC)が求められる。適切なRC手法を検討するため、講演者らは継続的にウラン鉱山跡措置の安全性に係るリスク認知構造の解析を行ってきた。また、福島第一原発事故後には、低占領放射線のリスク認知構造を解析するため、災害廃棄物の広域処理に係るアンケート調査を行った。
 ウラン鉱山跡措置の調査では、高齢者ほど事業者の信頼が高い傾向にあること、処分場問題を身近に感じている人は、跡措置の安全性について「基準以下なら安全」といった論理的な判断をする傾向にある一方、処分場問題が身近でない人は、危ない、怖い、といった直感的な忌避感で判断しがちであること、原発事故前は、知識がある人ほど放射線への忌避感が低かったが、原発事故後は、知識があればあるほど、忌避感も高まる傾向に変化したこと等が明らかになった。
 災害廃棄物に係る調査では、原発事故後一年以内という時期は、行政の情報公開への不信感が非常に高かったこと、事故があったのだから影響がないわけがない、という各章バイアスによって「危ない」という情報が受け入れられやすい状態になったり、基準がゆるすぎるという認知につながったりしていたこと等が示された。
 今後はこれらの成果に基づき、原発事故後、ウラン鉱山跡措置のRCをどのように行うべきか、検討していく予定である。


15:45〜16:40

放射性廃棄物の処理処分技術:放射性廃棄物及び福島原発事故由来の廃棄物の処理処分に向けて

佐藤 治夫 氏(岡山大学 大学院自然科学研究科)

 2011年3月11日の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)により、福島第一原子力発電所(1F)の事故が発生し、原子炉内の放射性物質の一部が外部へ放出され、福島県を中心に広範囲に亘り環境(土壌、森林、住宅地等)を汚染した。2012年1月1日には、「放射性物質汚染対処特措法」(略称)が全面施行され、住民帰還に向けて生活圏を主とした除染活動が本格化している。除染に伴い発生した廃棄物は、除染地区毎に設置した仮置場にて保管(3年程度を目処)した後、中間貯蔵施設に搬入し、30年以内に福島県外で最終処分される計画である。これまでに、用地選定や現地調査、自治体・住民説明等が行われ、平成27年3月より搬入が開始されている。また、これと並行して、減容化と最終処分に向けた研究開発も進められている。更に、1Fの廃止措置に伴って発生する放射性廃棄物の処理処分に向けた技術開発も大きな課題となっており、それに向けた環境整備や施設整備等も進められている。このように、福島の再生に向けては、除染及び廃止措置に伴う廃棄物の処理処分に向けた研究開発や技術開発が不可欠であることは言うまでもない。
 一方、我が国では、原子力発電に伴い発生する放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発について、1976年以来、40年近くに亘り、本格的なプロジェクトとして取り組んできており、多くの技術的基盤が蓄積されている。これらの技術の一部は、事故によって環境中に逸散した放射性物質の移動に伴う再分布の将来予測にも活用される等、成果を上げている。上述の課題にも適用できると期待される。
 本講演では、放射性廃棄物の処理処分の内、特に高レベル放射性廃棄物の処理処分技術について紹介する。


7月25日(土)
9:30〜10:00

「ふげん」における廃止措置支援システムと知識マネジメント

井口 幸弘 氏(日本原子力研究開発機構 原子炉廃止措置研究開発センター)

 新型転換炉ふげん発電所(以下「ふげん」)は、2003年3月29日運転を終了し、廃止措置の準備を進めてきたが、2010年2月20日に廃止措置計画の認可を受け、廃止措置を開始した。
 これに先立って、安全かつ合理的な廃止措置計画の立案に資するため、物量評価、放射能量の調査、解体方法の検討等が必要であった。特に原子炉施設のように膨大な物量の機器や構造物の解体計画の立案については、作業工数、被ばく、廃棄物発生量等を考慮して、手順や工法等を選定し、最適化を図るシステムエンジニアリングの手法が有効である。したがって、この手法に基づき、事前の評価作業を効率的かつ精度よく行うため、 3 次元形状データ(3D-CAD)及び仮想現実(VR: Virtual Reality)、可視化技術等の最新の計算機技術を利用した、廃止措置エンジニアリング支援システム (DEXUS)を開発・整備し、廃止措置の計画策定に活用してきた。
 その後、廃止措置作業を開始し、実際の解体時の廃棄物や作業実績などのデータを収集管理するシステムを整備・運用し、作業を通して有用なデータを収集し、エンジニアリングモデルの改良・整備や廃棄物の管理等の実績をあげてきた。 さらに、「ふげん」では、長期化する原子力施設の廃止措置に対処するため、知識マネジメントの手法に基づいた支援システムの構築に着手している。
 「ふげん」には、設計、建設、運転、保守の段階から、図面や記録などの膨大なデータや情報が蓄積されている他、例えば品質マネジメントシステムのような業務の仕組みや業務支援用の計算機システム等がある。また、法令で定められ、認可を受けている廃止措置計画及びこれを作成するための情報等が蓄積されている。
 一方、今までは、建設や運転の業務に携わった経験者が過去の知識を活用しつつ廃止措置を進めてきたが、これらの職員等は高齢化し、定年退職を迎えつつあり、若年層への知識の継承が喫緊の課題となっている。
 このため、「ふげん」では、廃止措置に必要となる知識の抽出手法の確立、経験者等の知識を引き出す手法の構築を行い、これらの知識を実際の廃止措置に活用するとともに、継続的に知識を蓄積する支援システムの開発に着手したところである。


10:00〜10:30

拡張現実感を用いたプラント保守・解体作業支援

石井 裕剛 氏(京都大学 大学院エネルギー科学研究科)

 拡張現実感(Augmented Reality)は、コンピュータが保持する情報をユーザに分かりやすく提示可能にするためのインタフェース設計指針の1つである。プラントの保守・解体作業の支援に応用することにより、作業効率や安全性を向上できると期待されているが、有効に機能させるためには、支援対象を適切に選び、コンテンツを作り込む必要がある。 本講演では、日本原子力研究開発機構と京都大学の共同研究により試作してきた拡張現実感応用解体作業支援システムを紹介するとともに、拡張現実感の最近の研究動向を紹介する。

10:40〜11:35

廃止措置技術と人材育成

柳原 敏 氏(福井大学 大学院工学研究科)

 原子力施設の廃止措置とは、「安全規制の下で許可を得て実施された事業が終了した後、核燃料物質の譲渡、放射性核種による汚染の除去、放射性廃棄物の処理処分などの一連の措置を実施し、原子炉等規制法の規制を終了する」ことである。技術的には、施設から放射能を除去し、これにより建物又は土地を別の目的に有効利用するための工事であり、除去された放射性物質は放射性廃棄物として適切に処理処分されることが求められる。
 廃止措置はプラントライフサイクルの最終における後処理と取られがちであるが、廃止措置が終了した跡地は新たな事業の展開に繋がるものである。旧式の施設から最新の原子力発電所に変われば、安全性や運転効率が向上することは目に見えている。新規発電所の建設がなくても、跡地の利用には様々な可能性があり、地域全体の発展を考慮した新たな展開が可能となる。
 廃止措置プロジェクトでは多種多様の技術が用いられるが、これらは施設特性(放射能特性を含む)の評価技術、解体・除染技術、放射性廃棄物の処理技術、プロジェクト管理技術などに分類できる。廃止措置プロジェクトを着実に進めるためには、施設特性を十分に考慮した最適な作業シナリオの立案、施設条件に合った技術の選択と改良などが重要である。
 これまで、大学等における廃止措置や放射性廃棄物処理処分(バックエンド対策)に係る教育は十分でなかった。将来、福島第一原子力発電所を含む15基の原子力発電所で廃止措置が進められるに当たり、バックエンド対策に係る技術体系や原子力利用における役割を十分に理解するための大学教育や人材育成、また、バックエンド対策に係る取組を安全で合理的に進めるための研究開発が必要と思われる。


11:45〜12:15

総合ディスカッション:廃炉・廃止とヒューマン・マシン・システム

12:15〜12:20 閉会挨拶

■費用

○参加費(テキスト代込み):
 日本原子力学会正会員、協賛学協会員: 5,000円
 一般非会員: 10,000円
 日本原子力学会学生会員、協賛学協会学生会員: 2,000円
 学生非会員: 3,000円

  *日本原子力学会正会員・学生会員の参加費については不課税、その他の
   参加費は税込みとなります。

■懇親会

日時:7月24日(金)17:30〜 会費:5,000円(予定)


■申込方法

申込書(様式Wordファイル)に必要事項をご記入の上、電子メールの添付ファイルにて申込先へ提出下さい。
整理の都合上、タイトルに「HMS部会夏期セミナー参加申し込み」とだけご記入ください。
<申込先> 岡山大学大学院自然科学研究科 五福 明夫
e-mail:fukuchan@sys.okayama-u.ac.jp

申込締切:平成27年7月21日(火)

★ セミナー当日、申込書のコピーをご持参ください。

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