研究会「第4回核破砕材料の科学と技術」の開催結果について
1.
開催期日及び場所期日:平成14年12月4,5日
(水、木)2日間場所:高エネルギー加速器研究機構4号館セミナー室
2.
主催等主催:高エネルギー加速器研究機構、日本原子力研究所、
後援:日本原子力学会北関東支部
3.
参加者及び発表参加者数:70名(国内65名、国外5名:米国、中国、スイス)
発表件数:口頭発表26件
主要出席者:
L. K. Mansur オークリッジ国立研究所(米国)Q. W. Yan 中国科学アカデミー教授(中国)
B. Yu 中国科学アカデミー教授(中国)
J.F. Li 清華大学教授(中国)
Y. Dai ポールシュラー研究所(スイス)
鬼柳善明(北大)、松井秀樹(東北大)、渡辺昇(原研)、
永宮正治(KEK)、石野栞(東海大)、田辺哲郎(名大)、
室賀健夫(核融合研)、三島嘉一郎(京大)、
竹中信幸(神戸大)
4.会議概要
(1)
目的原研と
KEKで共同で進めている大強度陽子加速器の統合計画J-PARCの主要施設の中性子散乱施設と核変換システム
(ADS)等に用いられる核破砕ターゲットの材料に関わる課題を材料科学の立場から捉え、国内の研究ポテンシ
ャルを汲み上げて、すばやく現在開発中の施設の設計に反映させることを目
的とする。
特に、核破砕反応の圧力波に起因するピッティングに対する材料の耐久性
評価、水環境で使用する反射体の耐食性評価、窓材の陽子・中性子照射損傷、
モデレータ容器材のアルミ合金の選定に関わる照射損傷と熱処理条件、バッ
クアップ用固体ターゲットの製作法に関する材料課題の摘出及び鉛ビスマス
中材料腐食機構等、現在問題となっている課題について内外の専門家と意見
を交換する。また、別の分野で開発された核破砕ターゲット容器用材料とし
て有望な材料(サブミクロン結晶粒ステンレス鋼等)及び長寿命ターゲット
開発に寄与できると期待される炭化珪素等の研究開発の状況を調査確認し、
これらの情報を現在開発中の施設の設計に反映させるため、内外の専門家と
意見を交換する。
(2)
進行状況川合の開会スピーチの後、
J-PARCのプロジェクトディレクターの永宮教授より歓迎挨拶があった。その後、
2日間にわたり英語による口頭発表と討論を行った。
(3)
発表内容の概略(敬称略)研究会は、全部で9つのトピックスより成っている。
#1 核破砕中性子源概要
米国の核破砕中性子源
SNS(Mansur)、JPARCのJSNS(原研 池田)のファーストビームは、各
2006年12月、2007年3月の予定である。どちらも水銀ターゲットを用いるもので、重要な技術的課題は、圧力波に起因するターゲット
容器表面のピッテングを考慮する場合のターゲット交換寿命の評価である。
そのため、国際協力の下、容器材料の抵抗性向上、圧力波の緩和を図ってい
る。中国の
CSNS(Yan)では100kW、1.6 GeV、25 Hz固体ターゲットによる中性子源開発を
2008年までに行うとしている。Ta被覆のWターゲットを使用する予定である。
#2 キャビテーとピッテング
水中における実験から、エロージョンによる損傷速度が衝撃エネルギーに
より予測可能であり、これを水銀にも拡張すれば、ターゲット寿命予測にも
使えることが指摘された(東北大 祖山)。キャビテーの動力学を理論的に
提示し、崩壊時の圧力波と局所応力が示された(原研 石倉)。陽子を用い
ないオフビームでのピッテング実験結果が示された(原研 二川)。
#3 ターゲット関連材料開発と水化学
応力腐食割れに関する水化学(東北大 内田)、メカニカルアロイングに
よる高靱性W合金開発(東北大 栗下)及びナノ技術を利用することによっ
て熱伝導率の放射線損傷による劣化を防ぎ、高性能の
SiC/SiC(fiber)が開発されたことが報告された(京大 香山)。今後、
SiC/SiC(fiber)を核破砕中性子源への応用を考慮して
PSIでの照射実験実施について議論された。
#4 核破砕ターゲット
中国におけるタングステンターゲット材の開発が報告された。その開発に
は、
KEKを中心とした日本の開発経験が参照されている。ISIS並の線源ならば、十分に使用に耐える
Ta被覆の高密度Wターゲットブロックを粉末冶金技術で製作しうることが示された(
Yu)。ニュートリノファクトリのアイデアが始めて材料研究会に報告された。陽子を
FFAG(Fixed field alternating gradient)で加速し、グラファイトや水銀などのターゲットに入射し、生成されるミュー
オンも
FFAGで加速または減速し、崩壊タンクに注入し、ニュートリノを発生させる構想である(
KEK 吉村)。JSNSのバックアップ固体ターゲットの崩壊熱の計算結果が報告された。(北大 仁尾)
#5 加速器駆動核変換システム
京大炉は、KEKが開発しているエネルギー可変の
FFAGを使って、熱中性子を発生させ、加速駆動未臨界炉の炉物理実験を中性子エネルギーを変化させ
て行う実験計画をスタートした(京大 代谷)。一方、原研でのADS開発の
概要として、ロードマップ、長寿命核種核変換実験の意義、R&Dの鉛ビスマ
ス(核破砕・冷却材)制御技術及び580MeV陽子照射材の照射後の機械的
特性が示された。また、
PSIのSINQターゲットでの照射材の照射後試験の結果、dpa
に対する延性の低下は、従来の原子炉照射よりやや急だが、LANSCEでの実験で見られるようなドラスチックな変化は起きていないことが報告された。
(原研 菊地)。
#6 放射線損傷
疲労寿命に水銀環境の影響は見られないこと、ピッテング防止で有効な表面
処理法
Kolesterize 処理材の照射損傷データが無いことが報告された(Mansur)。SINQ
の材料照射実験STIP-IIでは全部で10 Ahの陽子電流が照射され、来年の5月以降に照射材を輸送開始できると報告された
(Dai)。SINQでのSTIP-I 実験による照射材の照射後試験として行われた引張り試験及び疲労試験の詳細が報告され
た(原研 斉藤)。東北大のダイナミトロンを用いての
W材料の軽イオン照射実験結果が報告された(東北大 長谷川)
#7 放射線損傷のシミュレーション
核融合条件下でのヘリウムバブル生成機構(京大 菅野)、及び波状転位と
照射欠陥クラスターの相互作用による生成物がアニメーションで発表され、損
傷の基礎過程の一つが明らかにされた(原研 蕪木)。核破砕ターゲットでは
ヘリウム生成が核融合炉よりも多いので、ヘリウムバブル生成機構のシミュレ
ーションは、後者のシミュレーション技術とともに、より重要と考えられる。
#8 被覆技術
固体ターゲット開発の一環として行っている
HIP接合したTa/Wの接合強度評価試験
(清華大 Li)、溶融電解法によるW表面へのTa被覆がしっかりと成長していること
(東北大 Mehmood)が報告され、今後新しい被覆法として実用化の見込みが立ったことが示された。また、中性子散乱施設における冷熱中性子源
のパルス特性を向上させるため、
B4Cに代わる長寿命のデカップラーとして、Ag-In-Cd
デカップラーの開発が報告された(原研 原田)。
#9 微細組織関連の話題
Wに打ち込まれた水素の挙動についての講演(名大 田辺)、アルミニウム
合金において、溶体化処理材の
Al-Mg(Al-5083)と時効硬化材のAl-Mg-Si (Al-6061)との選択に関わる機械的性質の報告(神戸製鋼 柳川)、200
nm粒径を持つSS304相当開発材の機械的性質が報告された(日立 石橋)。
Wは、水素による影響を減らすためにも高温での使用が望ましいことが示された。また、
Al-5083
の方が、低温での引っ張り強度、溶接加工性に優れていることが示された。但し、照射損傷については、低い照射量では
Al-5083の方が良いというデータが示されたが、
HIFR炉での非常に高い照射量での試験データからは、高中性子場での利用は
Al-6061が推奨されるというコメントがあった。
(4)サマリーと閉会
サマリートークで2日間にわたる発表と論点が整理され(
KEK 加藤)、閉会が宣言された(原研 菊地)。その際、来年度の研究会は、
11月30日から12
月5日に国際ワークショップ(IWSMT-6)との合同で開催されることが報告された。
研究会で発表されたプレゼンテーションのコピーは、各々内容梗概とともに
編纂しプロシーディングスとして
KEK及び原研から刊行される予定である。
報告者:
KEK 川合 將義原研 菊地 賢司