技術士受験体験記

根目沢 重紀


はじめに

 「受験体験記を書いてみませんか」と話がありましたが,役に立つような体験を持っていなかったのでお断りしようと思っていました。しかし,私と同じように大学で原子力・放射線を専攻していなかった技術者の方々にも原子力・放射線部門の受験を薦めたいと思い,執筆を引き受けることにしました。

 技術士は,高度な技術を持っていることや技術者倫理を守る義務があることなどから,資格そのものが技術者の信用に役立つということはもちろんですが,私の場合は,受験を決めてからは,幅広い知識を得ようとする意識から,例えば日常の業務の中で得られる情報でも,それまでよりも注意深く読んだり聞いたりするようになり,中途半端だった知識を整理することができました。受験したことが自分の技術を高めることに役立ったと思っています。これが受験を薦める理由です。

 役に立つかどうかわかりませんが,受験のアドバイスを交えて私の受験体験を書いてみました。


一次試験について

 原子力・放射線部門の一次試験は合格率が8割ということもあり,気軽に受験してみることをお勧めします。

 一次試験は共通科目・適性科目・基礎科目・専門科目があります。この内,私にとっては一番の難関と思われた共通科目は,工学系の大学を卒業したということだけで免除されたので他の科目に注力して勉強することができました。適性科目と基礎科目については,オーム社からでている技術士試験の本を購入して過去の問題を解いてみたところ,適性科目については一般常識の範囲で回答すればよいことがわかり,基礎科目についても過去の問題の復習だけでなんとかなるような気持になり,それだけで済ませました。

 専門科目は,当時,参考にできるものは原子力学会が作成した模擬試験問題だけでしたので,模擬試験問題については関連内容も含めて勉強しました。これだけでは少なすぎて心配だったので,自宅にあった古い放射線取扱主任者の教科書や原子力発電関連の本を引っ張り出して読み直しました。

 これから受験するのであれば専門科目も4〜5年分の問題があるので,どの科目についても過去問を勉強するだけでも十分だと思います。


二次試験(筆記試験)について

 技術士試験は二次試験からが本番です。私は,二次試験も一次試験同様に気軽に考えて受験してみたら不合格でした。当時の試験形式は,筆記試験の中に経験論文がありました。しかし,ぎりぎりまで準備を始めなかったため,想定問題で論文を作ることと,それを覚えることに時間を使いすぎて,肝心の勉強がおろそかになってしまいました。計画的に準備をしましょうという教訓は,何も技術士試験に限った事ではありません。

 運がよいことに,この失敗の対策は不要になりました。試験形式が変わり,経験論文の提出が筆記試験の合格後になったからです。ただし,経験論文が無くなったからといっても,全て楽になったわけではありません。共通問題,選択問題ともに記述式です。なんとなく知っているだけだと数行で鉛筆が止まります。しかし,技術が幅広いため,勉強する範囲が絞り込めません。時間をかけて幅広く勉強すること,普段から知識を広めておくことが必要です。

 ところが,多くの受験者は仕事が忙しいことを理由に本格的な勉強を始めません。私もその一人でした。試験が直前まで近づいてからある程度範囲を絞り込んだ勉強をはじめました。短い期間でなにができたかというと,模擬試験問題や過去の一次・二次試験問題を参考にキーワードを選んでその内容を詳しく調べました。始めてみると,これはよい勉強になるのですが時間がかかります。もう少し早く始めればよかったと思いながら,またしても試験当日がやってきてしまいます。結局,ヤマは外れましたが,私が専門科目として選んだ「放射線防護」は,他の部門に比べれば範囲が限られていたことが幸いし,これまでの業務の中で得られた知識で運良く乗り切ることができました。受験を決めたことで,たとえ本格的に勉強していなくても,日常の業務の中で得られる情報を,注意深く取り入れるようになっていたこともよかったのかもしれません。

 実は,私の職場では技術士受験のサポートがしっかりしていて,勉強会などが行われています。本人にやる気さえあれば,ここに参加するのが技術士への一番の近道だと思います。私の場合は,仕事が忙しいことを理由に参加せず,後で苦労をすることになりました。このような勉強会がある職場でしたら,迷わず参加することを勧めます。


二次試験(経験論文提出)について

 経験論文の内容は,面接でも時間の大半を使います。経験論文が主役と考えて,受験前から内容を考えておいた方がよいと思います。

 筆記試験の合格通知が届いたら,経験論文提出の締め切りが近いことに気がつきます。合格通知を待ってから書き始めると間に合いません。といっても,この締切日は試験の申込時点で分かっているので,1度で試験をパスするつもりなら,合格発表を待たずに書き始めましょう。筆記試験が記述式なので合否の予想がつかないことが多いと思いますが,たとえ,私のように不合格だったとしても次の年に使えます。

 私の場合は,前年に作ったものがあったので,これを手直しして職場の技術士の方に見ていただきました。何が売りか分かりやすく・・などの具体的なアドバイスをいただきました。この年の論文の課題は2件の経験を書くものでした。論文にしやすい成果の経験が少ない私は,少し古めのネタを使いましたが,それでも合格できたので,経験した時期に関しては関係ないようです。


二次試験(面接試験)について

 面接試験では,経験論文に関する説明と質疑応答がほとんどですが,これ以外にも,技術的な質問や,技術者倫理に関して意見を述べるような質問がありました。

私の職場は技術士受験のサポート体制がありましたので,経験論文のレビューに引き続いて,ここでも職場の方々にお世話になりました。過去の面接試験の経験から,技術士の義務や責務を把握しておくことなどの具体的なアドバイスをいただきました。

 私の面接では,最初は経験論文の説明でした。「○分ぐらいで説明してください」と言われましたが,普段時計を持ち歩かない私はこのときも時計を持っておらず,時間どおりの説明ができていなっかたと思います。時計は忘れずに持って行きましょう。経験論文に関する質疑応答は,質問者の意図にあっていたかどうかわかりませんが,自分の意見も含めてなんとか回答できました。

 次に技術的な質問(筆記試験のような内容)がありました。あまり詳しく説明できない内容の質問でしたが,筆記試験のように選択できないので,中途半端な回答をしてしまいました。筆記試験が終わったからといって安心しないで,技術的な試験の準備,少なくとも筆記試験問題の復習などもしておいた方がよいでしょう。

おわりに

 受験にあたっては職場の方々に大変お世話になりました。これからは,技術士としての義務・責務を果たすのはもちろんですが,若手技術者の受験のバックアップに協力して,高度な技術を持つ信用される技術者の育成に少しでも協力したと思っています。


戻る