合格その後

亀山 雅司


【抱負のその後】

 平成19年に合格体験記を投稿しました亀山です。

 投稿からあっという間に2年が経過しました。合格当初は技術士の登録証を見るたびこれに相応しい水準に到達しなければ、と決意を新たにする一方、技術士を名乗るのに原子力故の不安がありました。現在は技術士であることを意識して仕事をすることで、不安を上回る充実感を得ることができています。まだ道半ばではあるものの、これから受験される皆様に現在の様子を少しでもお伝えできればと思い投稿させて頂きました。


【技術士と仕事】

 技術士(原子力・放射線)は業務独占資格ではありません。したがって、企業内でも技術士だからという理由で特別に変化があるわけではありません。しかし、私の場合は偶然ですが、仕事上の幸運な出来事が続きました。現地工事推進を担当する機会を得たこと、(財)発電設備技術検査協会に在籍して中立的な立場で新規技術を検討する委員会(確性試験と呼ばれています)の事務局を担当することになったことです。以下にそれぞれを例に仕事の意識がどうかかわったのかお知らせしたいと思います。


【工事推進の仕事と技術士】

 技術士は規制や顧客ニーズがコンフリクトしても、どちらも犠牲にすることなく目的を達成することが求められます(1次試験で最も印象に残った課題でした。また、この課題が取り上げられていることが、私が技術士受験を決めた理由でもあります)。

 工事は現地合わせによる再設計、施工進捗、天候など様々な理由から、目標から遅れ勝手に進捗しがちです。私は関連会社、関連部門の方々に「一生発言しなくてすむことでなければ、今発言して下さい」をキャッチフレーズに組織の事情等も含めて意見を頂くことにしました。これは工事進捗には大変効果がありましたが、聞いた以上後には引けないという不安もありました。不安を超えて行動を起こせたのは技術士の理念があってこそでした。怯みそうになった時は自分自身にそれを言い聞かせ、また皆様にも説明させて頂きました。最初はゆっくりでしたが、結果が見え始めると関係者の一体感が高まり、困難を乗り越えて進捗できる喜びを共有できたことは格別の感がありました。忙しい中にも本当に気持ち良く仕事を進めることができました。

 この体験を通じていろいろなことを学ばせて頂きました。例えば、自分の責任範囲を果たすだけでは目標を達成することは困難で、ゴールに至るには自分の責任外の事項でも全ての作業を繋げる必要があると言ったことです。また、技術士であるという信用がそれを後押ししてくれることを感じました。


【技術検討の仕事と技術士】

 現在の仕事は技術検討の委員会の先生と依頼者様の間の中立機関の事務局としての仕事です。事務局の仕事は割り切ってしまえば情報連絡をきちんとすれば事足ります。しかし、それでは期限内に満足のいく結果を得ることが難しいのが現実です。そこで、もし私が技術士事務所を開いたら・・・そう考えて積極的に情報を補足・発信することにしました。

 先生と依頼者様(製造メーカ)の技術者の方の立場・発想は相当異なっており、両者が理解し合えないことがよく起こります。相互理解の重要性は理念としては理解されていても、実務としては十分対処されていないのが実態と感じます。これに加えて、原子力では新規技術が実機適用に至るのは容易ではなく、やもすれば進捗が遅れるのは止むを得ずのような状況になりがちです(実際には規制、技術、説明性をきちんと整理すれば前例がなくても実機適用まで到達することは十分可能です)。

 この仕事で感じていることは、与えられた時間内で質の高い仕事を行うことの重要性です。それが仕事全体の期間を短縮し、改善の時間もできる好循環を呼びます。計画通りに時間を確保することはなかなか困難ですが、プロとしてみられている意識があればこそ質を保ちながら短時間に押し込める(気力が維持できる)のだと感じます。

 特に現在の業務はお客様から成果に対して相応の料金を戴く立場にあります。時には不安もあるものの、心地よい緊張がある日々を送らせて頂いています。


【その他の仕事】

 現在、大阪大学に原子力補修関係の准教授で招へいして頂き、技術士とどちらかと言えば対極にある研究の立場に立つ機会を頂いています。週末中心の活動ですが、両者が真にコラボレーションできるようお役にたてばと考えています。また、普段とは異なる仕事をすることは視点をリフレッシュしてくれる楽しい仕事です。


【総じて仕事はどう変わったか】

 私は数年前に鬱状態に陥り、一時は文章も読めない状態になりましたが、技術士の合格をきっかけに危機を脱することができました。中年になっても日々向上している自分を感じられることは何より嬉しいことです。

 また、実行する方がよいことは実行する、また、口だけ挟むコメンテイターでなく解決案を提示し実行する、理念としては単純ながら現実には困難な行動を実行する勇気を与えてくれる技術士資格は私にとってかけがえのないものになっています。

 理想にはなかなか至りませんが、これからも仕事を通じてストレートに理想を目指して行ければと考えています。


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