受験体験記

藤本 望

 私は、平成16年度の1次試験と平成17年度の2次試験に合格し、技術士(原子力・放射線部門)の資格を得ることができました。このときの経験談を簡単にまとめてみました。この一文がこれから技術士を受験される方の参考になれば幸いです。


1.発端

 技術士という資格があることは前から知っていましたし、技術士とはその技術分野での高い技術力を認められた証であると考えていました。しかし、原子力分野がないため受けてもだめだろうなと考えていました。

 そんなある日、技術士に新しく原子力・放射線部門ができるという記事を原子力学会誌で見つけたのでした。

 私は、大学で原子力工学を学び、卒業後は研究所で新型炉の設計・建設・運転に携わり、主に核熱特性評価を行ってきました。研究論文もいくつか書き、学会誌などに発表した経験もわずかながらあります。しかし、一貫して一つの炉型のみに携わってきたため、他の原子炉については余り詳しくありません。そんな自分は、技術者としてどの程度のものなのだろうかということを確かめてみたくもなりました。

 調べてみると、1次試験と2次試験を受けなければならないとのこと。1次試験はたいしたことはなさそうですが、2次試験はかなりの難関(合格率20%以下)です。原子力の世界では、原子炉主任技術者の筆記試験といい勝負です。よし、やってやろうじゃないの という気になってきました。

 そんなことで、技術士の受験に向かって進み始めたのでした。


2.1次試験の受験

 原子力学会で原子力・放射線部門の模擬試験問題が作成されていました。これを見てみると、基礎的な内容ですが、かなり幅広い分野から出題されています。また、基礎科目として原子力以外の幅広い分野をカバーしています。

 原子力分野は普段の業務の延長で何とかなるだろうと思いました。でも基礎科目は何をすればいいのかわかりません。しょうがないのでぶっつけ本番(別名、何も準備せず)で受験することになりました。

 受けてみれば、無事合格。周りの人に聞いてみると、この年(16年度)は原子炉についての出題が多かったとのこと。またレベルは原子力関連の大学卒業程度です。確かにこの年の合格率は80%を超えていました。

 原子力の分野で働いている方にとって、1次試験はそれほど難関ではないでしょう。ただ、普段から自分の専門分野以外、それに加えて原子力以外の分野についても興味を持っている必要があります。たとえば、新聞の科学技術欄に出てくるような内容、一般向けの解説書のようなものに興味を持っておくだけで、かなりいろんな知識を得ることができるのだなと感じさせられました。


3.2次試験(筆記試験)の受験

3.1 経験論文の準備

 1次試験に合格したなら当然2次試験も受けてみたくなります。幸いなことに大学を卒業後20年近く経っているので経験年数も十分です。早速17年度の2次試験を受けることにしました。

 当時の2次試験の選択科目では、午前中に「あなたがこれまで行った業務のうち、技術士としてふさわしいと考える業務についてのその内容を述べよ。」といった、業務経験についての問題(いわゆる経験論文)がありました。まず何をこの問題のテーマとするかが大切です。この問題では、どんな課題があったのか、その課題をどのように解決したのか、解決において私はどのように考え、貢献したのかを示す必要があります。

 テーマとしては、担当していた原子炉の臨界近接時に起こった問題を取り上げました。この問題の解決にあたっては、私が行った解析評価を基にしたため、ちょうどいいだろうと考えました。

 テーマの選定が終われば早速下書き開始です。試験で要求される分量は600字詰め横書きの原稿用紙で6枚とたっぷりあります。まずワープロで下書きを始めました。下書きができたら早速他の人に見てもらいました。たまたま16年度に技術士に合格した方が身近にいらっしゃいましたので、この方に見てもらい、いくつかコメントをいただきました。

 修正して下書きを完成した後はひたすら書く練習です。横書き400字詰めの原稿用紙を買ってきてひたすら書きまくりました。400字詰めで書くと9枚にもなります。これを手書きで書いていきました。普段ワープロで文章を書いている身にはこたえる作業です。

 このときは鉛筆をたくさん並べて書いていきました。シャープペンシルより鉛筆のほうが、指にかかる負担も少ないようですし、なにより線が太くて濃いので読みやすい字を書くことができます。書いた後読み返す時に便利です。試験の採点をする方には老眼の方も多いでしょうから、鉛筆で書くことがいいのではないでしょうか。

 この年の、春頃から試験を受けるまでの日曜日の午前中はほとんどこの作業に費やしました。数回は書いたと思います。何度も書くことによって、構成を見直したり、強調すべき項目に気がついたりと、いろいろ得ることがありました。


3.2 午後の必須科目と選択科目の準備

 経験論文の準備と平行して、当日午後に行われる必須科目と選択科目の準備を始めました。午後に行われる選択科目は、専門分野についての一般的知識を問う記述問題です。これは何が出るかわかりません。とにかく知識を増やそうと、情報収集にまず努めました。情報源で役に立ったのはATOMICAです。この中から関連する項目を集めてファイルを作り、これを印刷して読んでいきました。これで原子力のかなりの部分をカバーできました。原子炉から燃料サイクル、放射線利用、地球環境問題、エネルギー問題までたくさん集めました。

 今になってみると、技術士試験には余り役に立たなかったかもしれませんが、知識を広めるにはとても役に立ったと思います。このほかは、指針集を読んだでしょうか。インターネットでの情報収集もしてみました。でもインターネット上の情報は玉石混淆で、選別するのが大変です。

 情報を集めたなら、自分で想定問題を作って回答を書いてみました。想定問題なんか作ってもあたるはずはありませんが、ある特定の事項について、自分の考えをまとめ、記述するという訓練のつもりでした。考えをまとめ、発表することを限られた時間内でやるということは普段余りありません。とてもいい経験になったと思います。

 そんなこんなで、春から夏にかけて、経験論文と併せて400字詰め原稿用紙で100枚以上は書いたと思います。


3.3 2次試験当日

 試験当日は、Bや2Bの鉛筆をたっぷり準備して会場入り。

 会場で経験論文の問題が配られました。試験問題を見てみると、予想と少し違い、内容を原稿用紙4枚で書き、2枚でいくつかの観点からその内容を評価しなさいと言う内容でした。

 早速、構成をどうするかを10分程度で考え、短くした内容で4枚書き、残りの2枚で内容の評価を自分なりに書きました。手書きで練習をしていたことで頭の中に刻み込まれていたことと、苦労した内容だったためたいして困ることもなく、無事書き終えました。

 午後の選択科目と必須科目はとにかく書きまくったという印象です。○○について書け、という問題ですので、少しでも自分に関連する内容に結びつけて書きました。かなりマニアックな内容を書いたりしたので、採点する方は困るかな?と思ったりもしました。少し書くに困る内容もありましたが、何とか無事こなして終えることができました。

 思ったより鉛筆の消費量も少なく、手の疲れもさほどありませんでした。たくさん書いていた成果でしょうか?


4.2次試験(口頭試験)の受験

 筆記試験は無事合格しました。あれだけ書いて合格しましたので、なかなかの達成感です。こうなれば後は口頭試験のみ。

 口頭試験では、経験論文の内容について聞かれますので、改めて経験論文の概要を読み返しました。これは、試験後、記憶がまだ鮮明なうちにその概要を書いておいたものです。これをもとに何を聞かれるだろうかと考えながら想定問答を作っていきました。

 口頭試験については、インターネット上に受験体験記が数多くあります。これを読んで試験のイメージを想像しながら準備をしていきました。

 口頭試験当日は、特にあがることもなく、試験を受けることができました。口頭試験ではいろいろ聞かれましたが、多くは経験論文についてでした。自分がやったことについては自信を持って答えられます。経験論文以外では、技術士となったらどうするか、技術士の試験は他の資格試験と比べてどう違うか、といった質問がありました。特に困ることもなく、無事終了し、合格することができました。


5.受験を振り返って

 技術士の試験は、他の国家試験と違って知識を問うだけでなく、どのように考えたのか、どのように行動したのかを問われる試験であるように感じました。

 口頭試験では、なぜその業務が技術士としてふさわしいと考えたのか、と問われました。このようなことは他の資格試験ではほとんど問われることはないでしょう。技術者としてどのように判断するのか、それが技術士に求められていることだと思いました。

 技術士になったということは、技術者としてのゴールではなく、新たな出発点のようなものです。これから原子力の世界で生きていくためには、自分の専門分野だけでなく幅広い分野の知識が必要となることでしょう。また、技術だけでなく、技術者倫理や技術と人々の関わりといったことに注目していくべきだとも感じました。

 これからは、原子力のみならず、科学技術が本当に人類や自然界のために役立てるよう、微力ながらも努力して行きたいと思っています。


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