「原子力・放射線部門」技術士試験の受験のすすめ
(社)日本原子力学会 原子力教育・研究特別専門委員会
(社)日本技術士会 原子力・放射線部会
2006 年 4 月21 日

技術士制度は、高い職業倫理を備え、十分な知識、経験を有し、責任をもって業務を遂行できる技術者としての能力を保証する資格であり、また、優秀な技術者の育成上の重要な機能を有するものです。ここ数年、国際的に整合性のとれた制度に改善する取り組みがなされ、また平成16 年度の試験から「原子力・放射線部門」が新設されました。

原子力の分野においては、近年のトラブル、不祥事の発生と社会環境の変化に伴い、これまでの国や組織としての安全性等の担保にあわせて、技術者一人一人が組織の論理に埋没せず、常に社会や技術のあるべき姿を認識し、意識や技術を常に向上させていく仕組みが必要不可欠と認識されています。社会から信頼される個人としての技術者の存在が必要であるとの考えから、「技術士」資格の中に、「原子力・放射線」部門が新設されたものです。

日本原子力学会の倫理規程 にも示されていますように、会員の守るべき憲章はまさに原子力・放射線部門技術士制度の目指すものと符合しており、会員の皆様には、技術士試験に積極的にチャレンジし、社会から信頼される公的資格を取得されることをお勧めするものです。

技術士及び技術士試験の概要を以下に示します。詳細は、日本技術士会のホームページ や、末尾に示した参考資料を参照してください。

なお、平成18 年度技術士一次試験の日程を下記に示します。

受験申込書配布 5月12日(金)〜6月27日(火)
インターネットによる受験申込受付期間 5月12日(金)〜6月12日(月)
郵送及び窓口による受験申込受付期間 6月13日(火)〜6月27日(火)
筆記試験日 10月9日(月・祝日)
合格発表 12月下旬

技術士とは

技術士には、「原子力・放射線」のほかに、機械、電気電子、化学、建設など全部で21部門があり、1958 (昭和33 )の制度創設以来、技術士試験に合格した者は2006 年(平成18 年)3 月時点では75,597 名で、実際に技術士として登録した者は66,200 名である。米国のプロフェッショナル・エンジニア(約41 万人)や英国のチャータード・エンジニア(約20 万人)等の欧米の先進主要国に比べ、格段に少ない。経済社会のグローバリゼーションに伴う技術者資格の国際相互承認が具体化される状況下で技術士の数が増大する事は、科学技術創造立国を目指す我が国として重要である。

「原子力・放射線部門」の設立
平成14 年度から文部科学省において技術士制度の見直しが開始され、平成15 8 月に原子力・放射線部門の設立が官報で公表された。

原子力・放射線部門の設立については、平成15 6 2 日の科学技術・学術審議会答申「技術士試験における技術部門の見直しについて(答申)」において、次のように位置付けられている。

1)近年の原子力システム関連のトラブル、不祥事の発生と社会環境の変化、事業体と社会とのリスクコミュニケーション等、社会としての受容に必要な業務を推進していくためにも、社会から信頼される個人としての技術者の存在が不可欠である。この新たな仕組みとして、技術者倫理や継続的な能力開発が求められる技術士の資格を取得することが、効果的である。

2)「原子力・放射線技術士」が、社会の要求に答える位置付けを明確にするとともに、原子力システムの安全性確保に果す役割を検討した結果,安全性の向上につながることが期待される。

(ア)原子力技術分野の技術者のレベルアップ

原子力技術分野の技術者が自己研鑽を行うに当たっての具体的目標を設定することにより、個々の技術者の総合的な能力の向上、ひいては技術者が属する事業体の技術水準の向上につながり、原子力システム全般の安全性強化を図ることが可能となる。

(イ)事業体における安全管理体制の強化

現在、技術的事項についての責任は組織としてとる体制になっているが、技術的事項に関する総合的な判断を求められる立場にある者にあっては、原子力・放射線技術士の資格を取得することが望まれる。

具体的な適用例としては、

@ メーカーの作成図書の内、特に安全上重要な機能に関する設計図書・図面には、原子力・放射線技術士が署名を行うことにする。
A 電気事業者など原子炉設置者が行う検査における検査成績書に、原子力・放射線技術士が署名を行うなど、事業体の安全管理体制強化の手段として活用する。
B 事業体内において技術的事項に対する組織中立的な意見を述べる役割を果す者、例えば技術監査役のようなものとして活用されることに

より、原子力技術に携わる事業体への信頼性の向上につながることが期待される。

(ウ)原子力システムに関する安全規制への活用

検査、審査、企画立案等に携わる国等の行政機関担当者にあっては、原子力・放射線技術士の資格を取得することが望まれる。

(エ)国民とのリスクコミュニケーションの充実

原子力技術に関する高い専門能力と安全、倫理、社会との関わりについての高度な見識を持った原子力・放射線技術士が、リスクコミュニケーションにおいて重要な役割を担うことにより、国民に対する説明責任を果すことが可能となる。

3)国際的な活用
APEC域内における原子力・放射線利用の動向を踏まえると、将来的にAPECエンジニアに原子力技術分野が設置される可能性がある。我が国の原子力技術者の国際的な認知が可能となり、APEC域内において我が国の原子力技術者が活動を展開するに当たっての有力な手段となる。

第一次試験

「原子力・放射線」部門で最初の第一次試験は、全国12都市において平成16 10 月に実施された。平成17 1 月に第一次試験の合格者が発表され、受験者は559 名で合格者は472 名、合格率が84.4%であった。平成17 年度においては、受験者は304 名で合格者は226 名、合格率が74.3%であった。

第一次試験の試験科目の時間割と概要は以下の通りである。

  1. 共通科目(2時間);技術士補として必要な共通的基礎知識を問う問題
  2. 適性科目(1時間);技術士法第四章の規定の遵守に関する適性を問う問題
  3. 専門科目(2時間);技術士補として必要な当該技術部門に係る基礎知識及び専門知識を問う問題
  4. 基礎科目(1時間);科学技術全般にわたる基礎知識を問う問題

大学卒、あるいは、原子力主任技術者・放射線取扱主任者・電気主任技術者などの所定の国家資格を保有する者は共通科目を免除されるが、ほぼ1 日がかりの試験である。すべての問題が、5つの選択肢の中から正答を選ぶ方式であり、正答がすでに日本技術士会のホームページ(http://www.engineer.or.jp/)に公表されている。

文部科学省告示によれば、当該専門科目の出題範囲は「原子力、放射線、エネルギー」と規定されている。平成16 年度の「原子力・放射線」部門の専門科目の出題内容は以下のようになっている。

〔原子力関係の設問〕
問題1:中性子速度の温度依存性に関する理解を問う
問題2:核反応断面積に関する理解を問う
問題3:核分裂反応数の計算
問題4:減速材の特性に関する理解を問う
問題5:臨界に関する理解を問う
問題6:炉内中性子のエネルギースペクトルに関する理解を問う
問題7:反応度測定(ペリオド法)に関する理解を問う
問題8:制御棒反応度価値に関する計算
問題9:核燃料の燃焼に関する理解を問う
問題10:ウラン濃縮の原理に関する理解を問う
問題11:炉心燃料の冷却に用いる熱伝達に関する理解を問う
問題12:原子炉の安全設計(深層防護)に関する基礎知識を問う

〔放射線関係の設問〕
問題13:原子核の崩壊に関する理解を問う
問題14:放射線のエネルギースペクトルに関する理解を問う
問題15:荷電粒子の阻止能に関する理解を問う
問題16:放射線(崩壊)の基礎的な計算
問題17:β放射線に関する理解を問う
問題18:γ線と物質との相互関係に関する理解を問う
問題19:放射線の人体影響(確率的影響と確定的影響)に関する理解を問う
問題20:自然放射線に関する理解を問う
問題21:放射線障害防止法に定める線量限度に関する理解を問う
問題22:被ばく線量の計算
問題23:検出器の種類に関する理解を問う
問題24:放射線計測の計算

〔エネルギー関係の設問〕
問題25:ウラン含むエネルギー資源の埋蔵分布に関する計算
問題26:エネルギー資源の輸入価格の変動に関する計算(ポートフォリオ分析)
問題27:原子力のCO2 抑制効果を含むエネルギー政策に関する理解を問う
問題28:設備利用率に応じたトータル発電原価(円/Wh)の計算
問題30:原子力を含む燃料費単価(円/Wh)の計算

 まとめると、原子力12 問、放射線12 問、エネルギー6 問であった。平成17 年度においては、35 問のうち25 問を選択するよう選択の幅が若干広げられたが、出題内容は原子力14 問、放射線14 問、エネルギー7 問であり、平成16 年度と同様の比率となっている。したがって、広く原子力・放射線部門の知識が必要である。

計算問題もあるが、簡易な電卓の持ち込みが許されている。

また、基礎科目については科学技術全般にわたる基礎知識として、設計・計画に関するもの、情報・論理に関するもの、解析に関するもの、材料・化学・バイオに関するもの、技術連関に関するものという5つのカテゴリについて、幅広く出題される。

第二次試験

第二次試験は、第一次試験合格後に所定期間の実務経験があれば受験することができる。第二次試験は、筆記試験と口述試験から構成される。なお、口述試験は筆記試験の合格者に対してのみ行われる。

「原子力・放射線」部門で最初の第二次試験は、平成16 8 月に実施された。平成17 3 月に第二次試験の合格者が発表され、初代の「原子力・放射線部門」技術士21 名が誕生した。受験者は53 名で合格者は21 名、合格率が39.6%であった。平成17 年度においては、受験者は232 名で合格者は75 名、合格率が32.3%であった。

筆記試験は、当該技術部門の技術士となるのに必要な専門的学識及び高等の専門的応用能力を有するか否かを判定し得るよう、第1 表に示す3 区分の試験が行われる。

必須科目については当該技術部門の技術士として必要な当該「技術部門」全般にわたる一般的専門知識についての設問、選択科目については当該「選択科目」に関する一般的専門知識に関する「選択科目2」、並びに「専門とする事項」に関する専門知識の深さ、技術的体験及び応用能力に関する「選択科目1」の設問が課される。選択科目については記述式、必須科目については記述式および択一式により行われる。

選択科目は、第2 表に示す5つの中から自分の専門とするいずれか1科目を受験申し込みの際に選んで申請し、受験することになる。

第1表  第2次試験の問題の種類

問題の種類 内容  解答方式 文字数 解答時間
選択科目1 「専門とする事項」に関  記述式 600×6 枚×1 3 時間
する専門知識の深さ、技
術的体験および応用能力
選択科目2 「選択科目」に関する一  記述式 600×3 枚×2
必須科目 般的専門知識
「技術部門」全般にわた
 記述式およ 600×1 枚×3 } 4 時間
る一般的専門知識  び択一式 (除く択一式)

第2表 原子力・放射線部門の第2 次試験選択科目およびその内容


選択科目      選択科目の内容

原子炉システムの 原子炉の理論、原子炉および原子力発電プラントの設計、製
設計および建設 造、建設および品質保証、安全性の確保、核融合炉その他の
原子炉システムの設計および建設に関する事項
原子炉システムの 原子炉の理論、原子炉および原子力発電プラントの運転管理
運転および保守 および保守検査、安全性の確保、原子力防災、廃止措置その
他の原子炉システムの運転および保守に関する事項
核燃料サイクルの 核燃料の濃縮および加工、使用済燃料の再処理、輸送および
技術 貯蔵、放射性廃棄物の処理および処分、安全性の確保、保障
措置その他の核燃料サイクルの技術に関する事項
放射線利用 放射線の物理、化学および生物影響、工業利用、農業利用、
医療利用、加速器その他の放射線利用に関する事項
放射線防護 放射線の物理、化学および生物影響、計測、遮蔽、線量評
価、放射性物質の取扱い、放射線の健康障害防止その他の放
射線防護に関する事項

日本原子力学会の支援活動

日本原子力学会では、平成13 年度に技術士制度に原子力部門を設立するよう文部科学省に要望し、原子力教育・研究特別専門委員会に設けられたCPDワーキンググループが中心となり部門設立の支援活動を行ってきた。

設立決定後は、ホームページやパンフレットでの受験の勧誘、模擬試験問題の作成と採点・評価、一次・二次試験問題の解説記事の寄稿、年会での技術士特別セッションの開催等、原子力・放射線部門の普及、拡大に向けた支援活動を継続している。

日本技術士会「原子力・放射線部門」

平成16 年度に合格した技術士を中心にして、平成17 4 20 日に発足準備会合を行い、()日本技術士会に原子力・放射線部会を設置することになり、6 24 日に設立総会を開催した。

原子力・放射線部会では、大きく次の3つの重点項目を中心に活動を進めることが決定された。

  1. 技術士制度活用策の具体化
  2. 必要な技術士数の確保
  3. 活用策に応じた継続研鑚

これらの項目に対し、制度活用の検討会・講演会や、一次・二次試験問題の解説記事の寄稿、講演会・研修会の開催等を原子力学会他の関係機関と協力・連携しながら推進している。

「原子力・放射線部門」技術士試験の参考資料

T. 第二次試験問題と解説
1 平成16年度初の第二次試験ーそのポイントを探る 原子力eye  2004年11月号
2 平成16年度二次試験必須科目(択一式)の解説(上) 原子力eye  2005年3月号
3 平成16年度二次試験必須科目(択一式)の解説(下) 原子力eye  2005年4月号
4 平成17年度二次試験−そのポイントを探る 原子力eye  2005年12月号
5 平成17年度二次試験必須科目(択一式)の解説(上) 原子力eye  2006年1月号
6 平成17年度二次試験必須科目(択一式)の解説(下) 原子力eye  2006年2月号
U.第一次試験問題と解説
1 平成16年度初の第一次試験ーそのポイントを探る 原子力eye  2005年1月号
2 平成17年度一次試験−そのポイントを探る 原子力eye  2006年3月号
3 平成17年度一次試験専門科目の解説(上) 原子力eye  2006年4月号
4 平成17年度一次試験専門科目の解説(中) 原子力eye  2006年5月号
5 平成17年度一次試験専門科目の解説(下) 原子力eye  2006年6月号
6 技術士一次試験の傾向と対策ー電気電子、情報工学、原子力・放射線部門 オーム社  2005年7月発行
V.資格講座 技術士(原子力・放射線部門)
1 【第1回】技術士とは?なぜ、今「原子力・放射線部門」なのか? 火力原子力発電  2005年11月号
2 【第2回】技術士試験の流れ 火力原子力発電  2005年12月号
3 【第3回】試験の実際と対策(1) 火力原子力発電  2006年1月号
4 【第4回】試験の実際と対策(2) 火力原子力発電  2006年2月号
W.技術士全般
1 原子力教育の新展開ー技術士(原子力・放射線部門)の新設とCPD,JABEEについて 原子力学会誌  2003年11月号
2 技術士「原子力・放射線」部門の創設について  原子力eye  2004年3月号
3 技術士制度に新設された「原子力・放射線」部門受験のす  原子力eye  2004年4月号
4 「原子力・放射線」部門技術士試験 初めての実施  原子力学会誌  2005年2月号
5 日本技術士会「原子力・放射線部会」の設立と活動  原子力eye  2005年10月号
X.模擬試験問題

1 原子力学会HPに公開(一次及び二次試験の問題と解説